28. 薬師見習いたち
晴樹の話を聞いた少女は、考え込むように口元にこぶしを当てた。
「とりあえずゆっくり話ができるようにパーティに誘いたいんだけど、大丈夫かな?」
「そうですね。他の人に聞かれないほうがいいと思いますので、招待してください」
「ありがとうございます」
そして3人はパーティチャットで会話を続ける。
「俺はハル。友人はヒロ。突然ですまない」
「私はリータです。とりあえずポーション屋まで来てもらってもいいですか? 詳しくはそこで」
「わかった」
そういうことで晴樹たちはポーション屋へ向かうことになった。
ポーション屋には数人の客が出入りしていた。
あまり目立ちたくない晴樹たちは、静かに裏へと回る。
「裏口からですみません」
「そういうのは気にしなくていいよ、無理言ってるのはこっちなんだから」
「そうだよ。ここまで来ておいてなんだけど、リータさんは怒られたりしない?」
「それは大丈夫です。ありがとうございます」
三人は従業員用の休憩室へと入るとテーブルを囲んだ。
リータが飲み物を配ってから自身も席に着いた。
「これは?」
「薬草茶です。異邦人の方は飲みませんか?」
「うん。初めて見た」
「これもなにか効果があるのか?」
「ポーションを作る際に薬草を調合スキルで洗浄乾燥粉砕することはご存じですか?」
「一応初級ポーションと初級魔力ポーションは二人とも作れる」
今までポーションだとか魔力ポーションだとか言っていたものは、いずれも『初級』のアイテムだった。ほとんどの住人にはその初級の品でも効果は十分だったため、わざわざ初級とは書いていないだけで。
初級と書いてるのは、リリース記念で配られた30個の初級ポーションだけだった。これは広樹がリーシャに譲渡できたことからわかるように手渡しでの譲渡は可能だが、店売りや販売システムへの登録はできないタイプのアイテムで、だからこそあえて『初級』と付け加えていたのではないかと思われる。
「それならどんなものかわかりますね。その粉砕済みの薬草を熱湯で煮出したものが薬草茶です。ポーションのように傷を治したりHPを回復させたりはできませんが、精神を落ち着かせる効果があります」
「へえ、そうなんだ」
晴樹たちはお礼を言って薬草茶を飲んでみた。
何茶に近い味とかそういうのはわからないが、お茶としておいしいく飲むことができた。
「おいしいね」
広樹も同じような感想だった。
ひとときゆっくりお茶をすする音が小さく響く。
リータは飲み終えたカップをゆっくりとテーブルに戻した。
「HP全回復ポーションの作り方でしたね」
「はい」
「私自身まだ試作段階で、お教えできるほどではないのですが……」
そう言いながらリータは例の黒い石をテーブルに置いた。
「これはオーガの角を結晶化したものです。今は、これと高級薬草、そして緑色のスライムゼリーと水色のスライムの魔石を使って試しています」
まだなにかが足りないのか、100%には届いたことはないそうだ。
「この作成方法はどこで?」
いったいそうした材料を使うことをどこで知ったのか?
「領主の館で古い日記が見つかって……。どうやら昔の領主が抱えていた薬師が書いていたものらしいのですが、そこに試作を重ねていた記述があったんです。完成したという記述はなかったため、きっと未完のまま諦めたか生を終えてしまったのだろうといわれて上の人たちはそこで終わったんですが、私たち見習いが仕事の合間を見て試作を続けているんです。だから完成品の作り方を教えることはできないんです。すみません」
「でも70%の成功率のところまではできているんだからすごいです」
謝るリータに広樹が言う。
「そーだよな、今だって十分使える回復ポーションになってるもんな」
「ありがとうございます」
リータは照れたように軽く頭を下げながらお礼を言った。
「ちなみにだけど、この成功率70%の回復ポーションの作り方なら教わることはできるかな? 俺たちも時間があるときに試してみたいし」
「素材の結晶化はできますか?」
「いや、できない。どうやるんだ?」
「魔法屋で買えますよ」
「オーガの角を結晶化した後は?」
「粉砕ですね。薬草と同じです。スキルで粉砕したものを薬研を使ってさらに細かく粉にします。緑色のスライムゼリーの重さの半分の量の結晶粉と、粉薬草は4分の1なのは変わらず。水色のスライムの魔石2個で材料を挟んで調合するところは同じです」
「へえー、じゃあ考えられるとしたら配合というか分量とかか?」
「そうですね。今はそのあたりを模索しているところです」
「全部の分量を同じにしてみるのはもうやってみました?」
たぶん誰もが思いつくことだろうからすでに実行済みだろうとは思いながら、確認の意味であえて広樹は尋ねてみた。
「はい、最初のころにやってみましたけど、回復量10%の、初級ポーション以下のものができてしまいました」
リータが苦笑いをしながら答える。
たしかにオーガの角の結晶まで使っておきながら初級ポーション以下の品だと素材の無駄でしかない。
他にもスライムの色は組み合わせを色々変えて試してみて、今のところ緑色のスライムゼリーと水色のスライムの魔石を使った時が一番成功率と回復量が多くなることまではわかっているそうだ。
「それじゃ、あとはなにか別の素材を足す感じか?」
「そうですね」
「ちなみに魔力ポーションのように錬金術で試してみたりはしました?」
「いえ。私は薬師見習いですので、錬金術は使ったことがありません」
「それじゃあ俺たちは調合と錬金術を合わせて使ったらどんなものができるか試してみるか」
広樹の思いつきに、晴樹も同意と協力を示す。
「それがいいかも。僕らはそっち方面で試していこうよ」
「リータさんありがとうございました。長い間時間を取ってもらって大丈夫だったかな? まあずっとこれにかかりっきりは無理だけど、俺らも合間に試してみるよ」
「私たちもすぐにできるとも必ずできるとも思っていませんし、仕事の時間以外の空き時間を使っていますので同じようなものです。だから気にしないでください」
そろそろお開きにしようかという空気になってきたところで、広樹は自身のインベントリに保管してある成功率50%のHP回復ポーションのことを思い出して取り出した。
「これファーストの町でもらったものなんだけど、作り方は似たようなものかな?」
リータは受け取ってから鑑定をかけたようだ。
「リーシャが作ったものですね。50%ということは、たぶん赤のスライムゼリーを使ったんだと思います」
「リーシャさんと知り合いなんですか?」
「妹なんです」
「へえー、別々の町で暮らしてるんですねー」
「え? 近くにいたほうが相談して作れるんじゃないのか?」
「そういうのもいいですが、別々の師匠に師事すればそれだけ知識が広がるかと思って……」
「なるほど。そういう考えもあるか」
「二人だけでやってるの?」
「隣の町ドリッテにはキアーラがいますし、王都ラッヘルにもフィオレッラがいますので、全部で4人ですね」
「王都はどの辺にあるの?」
「ドリッテの先ですね」
どうやらドリッテの西門を抜けてずっと先に進み、エリアボスのミノタウロスを倒せば王都ラッヘルへ入れるそうだ。
「まあ俺らはとりあえずオークを狩って肉を集めることと、薬草を採取することが先だけどな」
「まぁ。肉を集めてくださるんですか!?」
どうやらここにも楽しみにしてくれる人がいるらしい。
冒険者ギルドのクラウスは住人に売ってくれればというような言い方をしていた。
どこへもっていけばいいのだろうか?
そうした状況をリータに伝えると、冒険者ギルドへ持ち込めばそれぞれの店に分配してくれるという話だった。
「それじゃあ冒険者ギルドへ持ち込むのが一番よさそうだね」
「どこか1か所の店に持ち込むよりはそのほうが喜ぶ人は多いと思いますよ」
住人であるリータのアドバイスを受けて、二人はドロップした肉はすべて冒険者ギルドへ売ることにした。
いろいろ脱線してしまったが、有意義な話を聞けて良かった。
晴樹たちはリータに再度お礼を言ってポーション屋を後にした。
「まずは南西方面へ向かって薬草の群生地探しからだな」
「そうだね。そこにマップピンを立てて採取が終わったら、セーフティエリアを探して、今日はそこで終了、ログアウトかな?」
「そのくらいでちょうど入浴の時間になりそうだよな。それでいこうぜ」
二人は進路上にまばらに現れた鹿の角を持つウサギ――アルミラージを氷魔法でさくさくと狩りながら平原をずんずんと進んでいった。
晴樹と広樹の二人がポーション屋を出ていき周囲から人がいなくなると、リータは椅子に座りなおした。
小さく「ログアウト」とつぶやく。
一瞬動きを止めたリータは、数度瞬きを繰り返すと、立ち上がって薬草茶を入れたカップを片づけ始めた。




