27. GMコール
ファーストの町の薬草採取地は荒らされている確率が高いので、改めてネクストタウンの周辺で探すことにした。
とはいえやみくもに探しても見つかるものではないので、いったん冒険者ギルドへ戻ってクラウスに尋ねることにした。
転移スキルを使って噴水広場まで戻ってから冒険者ギルドを目指す。冒険者ギルドと商業ギルドへ行くにはこれが一番早い。
広樹と晴樹が冒険者ギルドへ向かっていると、後ろからガチャガシャと音を立てて走ってきた大柄の男性が二人の前に立ち塞がった。
「ヒロとハルだな! お前らのせいで俺は恥をかかされたじゃないか!」
男は怒鳴りつけながら背負っていた大剣を抜いて、二人に切りかかってきた。
一般サーバーはPKができない仕様になっている。しかもセーフティエリアの町中だ。殺されることはない。
とはいえ大剣で切りかかってこられるとやはり怖い。思わず広樹たちは後ろに飛び下がるようにして逃げた。
振り下ろされた大剣は、見えないバリアのようなものが広樹たちの前に現れて受け止められた。
そのすきに男を鑑定する。
その男はクラン『ストラテジー』で広樹たちに絡んできたごっずだった。
「お前らみたいなガキに――」
再び大剣を振り上げたごっずを見て、広樹はすかさず叫んだ。
「GMコール!」
次の瞬間、ごっずの姿が消えた。
「あれ? GMが現れる前に消えちゃったよ?」
呆然とする広樹たちへシステムメッセージが届く。
システムメッセージ(GM AI):プレイヤー名『ごっず』は規約違反のためアカウント凍結処理をおこないました。
「さすがAI。GM呼んだ瞬間、過去ログ調べて対応してくれたっぽいな」
「まあどう見ても逆恨みっぽかったよねー。事情はわからないけど」
「俺らのことさんざん情弱って言ってたのに、あいつの知らないことを俺らが知ってたってところじゃないの? 恥かかされたって言ってたし」
「そうかもね」
「それにしてもつくづく一般サーバーでよかったって思ったわ。VRであれはまじで怖かった」
「僕も。いきなりだったから余計ね。PvPだって最初からわかってたらそれなりの対応はできたかもだけど、攻撃されると思っていないところであんな大きな剣で向かってこられたら怖すぎるよ。あれは無理」
「どうする? いったん落ちて休憩入れるか?」
「そうだね。無自覚になにかストレス感じてたかもしれないし。ついでに散歩の日課を済ませてくるよ。いい感じに気分転換になるでしょ」
「俺も今日の散歩済ませてくるわ。それじゃ2時間後くらいでどうだ?」
「うん、それでいいよ。じゃあまたあとで」
「おぅ。またな」
日の光を浴びてリフレッシュした広樹と晴樹は、ログインすると、今度こそ冒険者ギルドにいるクラウスを訪ねた。
「こんにちは、クラウスさん。薬草の群生地について聞きたいんですが、今大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。地図をお持ちしますので少々お待ちくださいね」
席を立ったクラウスは、カウンター横の樽の中から一つの丸められた地図を取り出した。
その地図を近くのテーブルの上に広げると、広樹たちを呼んだ。
「これはネクストタウンの周囲の地図です。東門を抜けた先にいるのはプレインウルフだというのはすでにおわかりでしょう。プレインウルフの出現エリアよりやや北に向かったところ、フォレストウルフが出始めるあたり。それから南門を抜けて南西方向に進むとオークが出始めますが、その手前あたりでしょうか」
クラウスが地図を手で示しながら場所を説明する。
それ以外でも薬草が採取できないわけではないが、群生地と呼べるほどの量を採取できる場所はこの2か所しか見つかっていないそうだ。
「んー、俺たちだと北西方面が都合がいいのかなー?」
「でもハル。オークとかも試しに狩ってみたくない?」
「まあウルフはさんざん狩ったからな……」
「あの、クラウスさん、オークはなにをドロップするかわかりますか?」
「オークは肉ですね。薬草採取のついでにオークを狩ってその肉を売ってもらえるなら、町の住人は喜ぶでしょうねぇ。いえ、これは私たちの都合ですが……」
「そういう理由でも十分です。売れるものがドロップしてくれるのは僕たちも助かりますから」
「なら南西方面で採取、ついでにオーク狩りで決まりだな。クラウスさん、わかりやすい説明ありがとうございました」
「お役に立てたならなによりです。またなにかありましたら、お気軽に声をおかけください」
「はい、ありがとうございます」
「それでは失礼します」
広樹と晴樹が冒険者ギルドから外に出ると、小さく「きゃっ」という悲鳴と「邪魔だ!」という怒声が聞こえてきた。
反射的にそちらを見ると、噴水の前で少女が一人座り込んでいた。その少女の目の前にはプレイヤーらしき男性が立っており、なにかを蹴り飛ばしたところだった。少女がそれを追うように届かない手を伸ばす。
「おっと……」
こちらへ飛んできたなにかを晴樹が受け止めた。手を開くとそれは黒い石のようなものだった。
「あの、それ……」
立ち上がった少女はその黒い石を追って走ってこちらへ来ていた。不安そうな瞳がこちらを見つめている。
「ああ、これ君の? はい、どうぞ」
晴樹は手のひらに載せたままの黒い石をすっと差し出した。
「ありがとうございます」
少女は安堵の表情を浮かべてその黒い石を受け取った。
「お礼にこれを……」
そう言って少女はスカートのポケットから小瓶を取り出して晴樹に渡した。
「別にお礼とかよかったのに」
「いえそういうわけには。それにこれは私が作った試作品ですので、あまりお礼にはならないかもしれませんが、他になにも持っていなくてごめんなさい」
「それじゃ、ありがたくいただくよ」
あまり拒み続けるのもなんだしと考えて、晴樹はその小瓶を受け取り、ちらっと見て鑑定した。
「え……?」
晴樹は小さく声をもらすと、慌てて少女を見返した。そして小声で少女に話しかける。
「あのさ、ちょっと聞きたいんだけど、これどうやって作ったの? 作り方を教わることってできるかな?」
「ハル?」
どうしたのかと隣で様子を見ていた広樹は、「ほら」と晴樹に見せられた小瓶を鑑定して、同じように少女へと視線を向けた。
アイテム名:HP全回復ポーション
効果:成功率70%でHPを全回復する。失敗してもHP70%回復。
製作者:リータ




