19. 準備
「おはようございます」
二人は挨拶しながら、いつものように奥のカウンターにいるアデーレのもとへ向かう。
「アデーレさん、また教えてもらいたいものがあって……、ワープスクロールって僕たちでも作れますか?」
「たしかヒロとハルだったな。いらっしゃい」
アデーレは少し考え込むようにしてから口を開く。
「全属性持ちの二人なら、錬金術を使えば作れなくはない」
どこか歯切れの悪い言い方だ。
「なんか材料が特殊だとか? でもワープスクロールって300Gで売ってるくらいだからそこまで珍しい素材は必要なさそうなんだけど……?」
晴樹も困惑した感じだ。
広樹もどうしたものかと考える。
「具体的に何が必要なんですか?」
「材料は角ウサギの角だけあればいい」
それならば特に今は異邦人が狩りまくっているからむしろ在庫過多になっているほどだろう。
「――あとは光と闇と時空の魔法と転移のスキルを持ったものが、中級錬成陣を使って錬成すれば簡単にできる」
広樹と晴樹は揃って「ああ……」と小さく声をもらした。
中級錬成陣は持っていない。
「中級錬成陣っていくらですか?」
「ファーストの町では売っていないな。あれは次の町へ行かないと手に入らない」
二人はようやくなるほどとうなずいた。
「転移スキルは手に入れてますので、次の町に行けたときに買うことにします。ちなみにいくらですか?」
「15000Gね」
「次の町に着いても金策金策ですね……」
「いつになったら余裕ができるのやら」
晴樹がやや投げやりになっているが、これがMMORPGだと言い聞かせてなんとか気力を振り絞る。
「そういえば、アデーレさん。エリアボスを倒すには、どんな魔法スキルを追加すればいいですか?」
転移スキルを手に入れた今、ワープスクロールはそれほど重要ではない。どちらにしろ次の町へ行かなければどうにもならないのなら、行く手段を手に入れるほうが先決だ。
「スライムは大きさにかかわらず核の動きを止めてとどめを刺すのが基本だから、氷魔法が一番相性がいいだろう。ハルなら、そろそろアイススピアを覚えるころじゃないか?」
「生えたスキルを使うときって、この杖で大丈夫ですか? この杖にはアイスニードルしかついてませんけど」
「派生したスキルを覚えた場合、もとのスキルも同時に覚える。だから別の付与のついた杖に変えても、アイスニードルとアイススピアは使えるから安心なさい」
「それなら大丈夫ですね。なら俺はアイススピアを覚えるまでもう少しここで頑張って、スキルが無事生えたら攻撃力の高くなる杖に買い換えたらいい感じかな?」
「それが一番確実だろう」
晴樹のほうは一応そういうことで目途が立った。
次は広樹だ。
「僕も魔物の動きを止められる魔法スキルが欲しいんですけど、発動が早くて使いやすいものって、何になりますか?」
「毛皮などの素材を必要としないのであれば雷魔法あたりか。ライトニングストライクとかを覚えておくと大型の魔物にも使えるな。後はハルと同じように氷魔法を覚えるか、土魔法を覚えて拘束するか……といったろころではないか?」
広樹は片手剣を使っているのだから、剣用のスキルもそろそろ覚えておいたほうがいいだろう。アデーレはそうも付け加えた。
「そうですねー……。例えばですが、ライトニングストライクとアイススピアとアーススピアを買うとしたらいくらになりますか?」
「それぞれ2000Gだね」
「じゃあ6000Gってことですね」
広樹は保険として持っていてもいいのではないかと考えて、この3つを購入することにした。剣のほうはスラッシュがあればしばらくはいいだろう。
広樹は急いで商業ギルドへお金をおろしに行き、その間晴樹は魔力ポーションを製作しながら待っていた。
スキル屋はちょうど魔法屋の向かいにあったため、ささっとスラッシュだけ購入して、広樹と晴樹はいつものように東門から出て奥の白い花が咲くセーフティエリアの周囲でスライム狩りを始めた。
今回はマップピンを覚えたので、最初にこの場所を登録した。
まだしばらくはこの場所のお世話になるだろうと思ったからだ。
エリアボス討伐に向けて、広樹と晴樹はそれぞれ一人でスライムを倒す練習をした。
晴樹はすぐにアイススピアを覚えたので、今は覚えたてのスキルを使う練習もしている。
同様に広樹もスラッシュやライトニングストライク・アイススピア・アーススピアをそれぞれ試してみながらスライムを倒していく。
今は数を倒すことより、スキルに慣れることを優先した。
「ヒロー、そろそろ昼だぞー、いったん落ちようぜー」
「あ、もうそんな時間だったんだ。それじゃあまた1時間後にインして、それからエリアボスに挑戦してみる?」
「いいね。死に戻り覚悟で1度挑戦してみるか」
そろそろここのスライム以外とも戦ってみたい。二人はワクワクしながらログアウトしていった。