18. ランキング
アデーレにワープスクロールの製作方法を確認し忘れていることを広樹が思い出したのはログアウトしてからだった。
「すっかり忘れてたよ……」
明日こそはと思いながら広樹が就寝している間、とあるオフィスではワイスシュトラーゼのリリース初日にログインした全プレイヤーのレベル・受注クエスト難易度・クエスト達成数・討伐数・生産数・称号等々をポイント化してランキングの集計がおこなわれていた。
仮眠から戻ってきた笹田は顔にかかった前髪をかきあげながらぼんやりとその様子を眺めていた。
集計をおこなうのはもちろんシステムで、人の手は必要ない。ただエラーが出ないことを内心で祈りながら結果を待つだけだ。
日本時間午前4時。リセット時間に無事集計結果を公表することができたようだ。
待機していたスタッフは全員安堵の表情を浮かべた。もちろん笹田もだ。
担当である一般サーバーの結果をざっと見た笹田は、やはりと思った。
例の子たちの名前が二人とも載っていたからだ。
初取得のポイントは高く設定されていたためこのような結果となるのは予想通りだった。もちろん翌日にはランク外になっているだろうけれど。初取得を偶然複数引き当てただけのポイントによるランキング入りは、攻略組にとっては簡単に塗り替えられる程度のものでしかないからだ。
でもこういう番狂わせのようなことがまれに見ることができるから、リリース初日やアップデート初日は楽しいと笹田は思う。
「さて、それじゃあ、無事集計が終わったことだし、もう少し休んでこようかしら」
体調を整えておかなければ別の作業に支障が出てしまう。
笹田は与えられた個室へと戻っていった。
『今からログインするね』
日課の散歩を終えた広樹は、晴樹のスマホへメッセージを送ってからワイスシュトラーゼへログインした。
昨夜ログアウトしたポーション屋の前に出現した広樹は、今日の予定を考える。
受注したクエストはすべてクリアとなっている。
昨夜ログアウト前に販売システムに登録したポーションはすべて売り切れていたので、16000Gが商業ギルドの口座に振り込まれているはずだ。
残るはアデーレにワープスクロールの製作方法について尋ねることと、防具の値段を調べることくらいだったはず。
アデーレのところへは晴樹と二人で行くことにして、とりあえずそれまでは露店で防具でも見ていることにした。
今の広樹は防具といえば胸当てとブーツだけだ。
そろそろ頭と胴体を保護する防具も購入したほうがいいだろう。
しかしここで問題なのが、胸当てとブーツを更新するかどうかだ。
つまり不足分だけを購入するか、一式新しいものを買い揃えるか、だ。
考えながら歩いているうちに露店の防具屋の前にたどり着いていた。
適当に選んだものを鑑定していく。
「あれ?」
もう一度鑑定しなおして広樹は小首をかしげた。
その様子が悩んでいる風に見えたのか、売り子の少女が声をかけてきた。
「お客様、どうされましたか?」
「あ、いえ、置いてる防具がどれも初心者用だったので……、えっとあと一つか二つ上のランクの防具は置いてないんですか?」
売り子は「ああ」と、納得したように笑った。
「こちらは見習いが作ったものを安く売っているので、すべて初心者用となっているんです」
「え? 見習いですか?」
「はい。このファーストの町の周辺はこれで十分だというのもありますが、気軽に転職できることから間に合わせ的に利用される方に重宝されております」
ですから、と売り子は続けた。
「お客様がすでに職業を決定されているのであれば、店舗のほうの防具屋に行かれるか、西門から出て森に入った先にいるエリアボスを倒して次の町へ行くことをお勧めします」
「エリアボスというのはどんなボスなんですか?」
「一言でいえば巨大なスライムですね」
「あれ? 西側もスライムなんですか?」
「西門から出て森に入るまではコボルトがまばらに出るだけなのですが、ボスだけはなぜか巨大スライムなんです。ただしこのエリアボスはおひとりで倒す必要があります。普段パーティを組まれている方は職によっては苦戦すると思われますので、スキルやポーションなどのアイテムはきちんと準備してから挑んでみてくださいね」
広樹は売り子の少女にお礼を言ってその場を離れる。
そろそろ晴樹もログインしてくるだろうと思って魔法屋へと足を向けた。
(そろそろ僕もスキルを買ってきたほうがいいかも……)
晴樹もアイスニードルだけでは苦しいだろうから、魔法屋でスキルを購入したほうがいいだろう。
そんなことを考えながら歩いていた広樹の視界に、パーティ招待のウィンドウが出現した。
招待者はハル。思った通りログインしてきたようだ。
広樹は許可を出してパーティに加入すると、さっそくパーティチャットへ切り替えた。
「おはよう、ハル」
「おう、ヒロおはようー。遅くなって悪かったな」
「僕は大丈夫だよ。おばさんの手伝いをしていたんでしょう? お疲れー」
「ははっ、今日の分は済ませてきたから、あとは思う存分遊べるぞー」
「とりあえず今は魔法屋に向かっているから、そこで会おうよ」
「そういえばワープスクロールの作り方を教わるんだったよな? 忘れてたわ」
「僕も」
「なあハル、ところでさー、おまえ、ランキング見た?」
「いや、見てないけど? そういえば昨日の分の集計が発表されてるんだっけ? でも僕らには関係ない話じゃない?」
「それがそうでもないんだよなー。見てみたほうが早いと思うぞ」
「ん? わかった。見てみる」
言われるままにランキングページを開いた広樹は、そこで足を止めた。
「ねえ、ハル」
「俺が言いたいことはわかったか?」
「わかった。わかったけど……、なんで僕らがランクインしてるの? 僕が72位で、ハルが81位? うそでしょ?」
「まあポイントの内訳見た限り、昨日1日だけ偶然が重なった結果っぽいけどな」
晴樹の笑い声を聞きながら、広樹は再び歩き出す。魔法屋はすぐそこで、晴樹の姿も見えている。
「僕が突発クエスト初取得、ワープポータル初開放。んで二人共通なのがワープスクロール初取得・初使用、変異種初討伐かな?」
自分自身が獲得した高得点のもののみ内訳として見ることができるようになっているようだ。
「そそ。俺は全属性魔法初取得な。あとはアデーレさんとかティアナさんとか、住人から直接受けたクエストのポイントも高かったんじゃないかなー?」
「なるほどね。それは書いてないけど、確かにありそう」
「まあランカーなのは今日だけで、明日からはランク外になって名前が消えてしまえばそこまで目立つこともないだろうし、今回はあきらめようぜ。楽しむこと優先だ」
「んじゃ、とりあえずワープスクロールの作り方を聞きに行こうか。ああ、あとハルも魔法スキルをもう少し買っておいたほうがいいかも」
広樹は先ほど教わったエリアボスについて晴樹に話した。
「えー、俺もソロで倒さないといけないのかー。それなら確かにアイスニードルだけじゃきついなー」
「それについてもアデーレさんに相談しようよ」
「だな」
ひとまず話がついたところで二人は魔法屋に入店した。




