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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
5章 藤森イチカの進級試験
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藤森イチカの進級試験!

 急迫する二つの影が、火花を散らしてやいばを交わす。

 胴薙ぎに華隠が振るう一撃を、長短ちょうたん二つの刀身でイチカが防いだ。

 氣術強化で()んばり耐えるが、巨象の(ごと)き重い一閃に、筋繊維が悲鳴を上げる。

 剣は離れず、体重をぶつけあう『(つば)()()い』に変化した。

 少しでも気を抜けば、腕を支える電気信号が()(ぜつ)して、力が抜けてしまいそうだ。

 二振りの金属塊(きんぞくかい)を通じて感じる外部圧力が、前後の向きから、上下方向へと勢いを変える。

(力がしたに流される……。狙いは『押し崩し』たあとの左太腿(ひだりふともも)と、すばやい切り返しか!)

 イチカは相手の剣筋けんすじを読んで、右足を軸に一歩退()がり、切っ先を(かす)めてやり過ごす。

 華隠の剣が左に()れたことで、右前方にすきを見付けた。

 上体を前のめりにしたイチカの反撃。

 右足がじくのせいで大きく前に出れず、刀身の短さが(あだ)となって、間合いが狭くなった。

 それでも攻撃直後の反撃(カウンター)だけに、常識的には(かわ)すことが出来ない。

 イチカの剣閃が届く前に、華隠の体表面が黄金に輝く。

「おおっと、危ない!」

 華隠は、周囲で(くすぶ)る燃焼薬から薬効成分を()ぎ取り、練丹術で反応速度を(ばい)()させる。

 それと同時に、氣術を使って素早く(うし)ろに跳び、縮地(しゅくち)()(ほう)で致命の一撃を俊足回避(しゅんそくかいひ)した。

 後退の運動(うんどう)余波が、太刀を(うし)ろに回した『脇構わきがまえ』の体勢を作る。

 華隠がうでを頭上に回した、大上段からの兜割りを放った。

 防御を許さぬ大振りの一撃を、イチカは再びカウンター狙いで左に()(さば)く。

 その瞬間、地上の篝火(かがりび)が小さく揺らめき、遅れて、風の流れを肌で感じた。

 華隠の重斬撃が気流に(あお)られて角度を変え、さらには大きく()を描いて、斜めに空間を切り取る。

(ダメ……。回避が()()わない!)

 その場を浅く跳び、斬空刀と(わき)()しを身体の前に立てて、剣打の勢いを(うし)ろに流す。

 イチカは(かろ)うじて華隠の強引な袈裟斬(けさぎ)りを防いだが、剣圧に飲まれて、後方こうほう高くへと()ぎ飛ばされた。

 横向きに半回転して左肩ひだりかたから着地し、横転を二度()て立ち上がる。

 肩は痛むが、受け身の()(かげ)で問題なく動いた。

 無理があったのは、身体ではなく武装の方だ。

 刀身硬度の限界を()えた衝撃で、(わき)()しの軸が見事に(ゆが)んでいる。

 イチカは、役目を終えた短剣をその場に放り捨てると、(ガラ)にもなく皮肉をぶつけた。

太刀(たち)(すじ)を曲げるだなんて……。剣士というより曲芸師(きょくげいし)ですね」

 地上の炎が、赤く燃える舌をチロチロと宙に延ばす。

――今の攻撃は、剣の軌道を見破らなければ()けられなかった。

 敬意を(はら)んだ華隠の横顔を、ねつの光が怪しく差した。

「あちしの剣技は、臥龍仁斎(オジジ)石川(いしかわ)先生のソレとは違って、剣に神通力(じんつうりき)を乗せた

変幻自在の柔撃剣(じゅうげきけん)。その名も『()燕剣(えんけん)』だわさ。初速しょそくに神通力の風を呼び込んで剣閃軌道を曲げ、氣術と筋力で()を描くように曲げ穿(うが)つ。さながら、空を舞う(ツバメ)(ごと)し。それゆえの()(えん)!」

 殺気とともに風が膨らみ、燃焼剤の()()が一斉に飛んで、偶然にも、一羽の蝶を(かたど)った。

 ()(かげ)(ちょう)が闇夜を渡り、宙に紅蓮の鱗粉(りんぷん)を舞い散らす。

 華隠はゆっくりとした動きで、大太刀を中段へと構え直した。

「イチカ……。あちしに剣で()(こう)勝負しようとは、十年……。いや百年ひゃくねん早いだわさ!」

 舞い(なび)(ちょう)の羽は、今度は南の空へと向かう。

 反射的にそれを目で追ったイチカは、視界の隅に回旋塔(かいせんとう)を捉えた。

「確かにけんでの戦いでは、華隠さんとは勝負になりません。ですが、けん以外での戦いだったら、私にだって勝ち目はあります!」

 赤熱(せきねつ)(ちょう)が闇夜に散った!

 イチカは斬空刀を納めて逃走し、背後から(せま)る手裏剣をジグザグに走って(かわ)す。

 校庭南東のすな横に到着すると、回旋塔かいせんとうを引っこ抜き、全身を(ひね)って華隠へ投げ飛ばす。

「ハン……。あちしも一応、豪剣(ごうけん)くらい使えるだわさ。そんな(モン)、真っ二つにしてくれる!」

 太刀を(かま)えて両断しようと待ち受けるが、回旋塔(かいせんとう)の側面から、不意に(やいば)が飛び出した。

 少しでも接触したら、戦闘不能の(ふか)()を負ったと見なされる。

「なんとぉう!」

 華隠はすぐさまあしに氣術を集中させて、空中高くへと緊急回避する。

 イチカはその隙に、氣術きじゅつ強化で第二倉庫の隣りへと疾走。

 チェーンネットの端を(つか)み、跳躍と(とも)に両手を高く()げると、鎖の()()が固定用のフックから一挙に外れた。

「お次はコレです!」

 イチカは大きく身を(ひね)って、落下中の華隠へと、チェーンネットを放り投げる。

 華隠は(てっ)()(あみ)を頭上から被って、着地後の動きを停止させた。

「ぬおおおおおおっ。イチカのくせに小賢しい。あちしを生け捕りにしようとは!!」

「まだまだぁ!!」

 相次ぐ氣術(きじゅつ)行使で、金属性の術力が完全に切れていた。

 イチカは、残り少ない()(びし)グミを取り出し、歯を()(しば)って握り締める。

――鈍痛(どんつう)と酸味。

 それに続いて、全身を駆け巡る(あら)ぶる闘気。

 血が沸き、肉が(おど)り、魂が()ぜる!

 イチカは(ちか)()の鉄棒を取り外すと、氣術を込めて校庭上空へと投擲(とうてき)した。

「甘いっ。そんなデタラメ技で仕留められるほど、この華隠(サマ)はヤワじゃないだわさ!!」

 華隠はネットを(つか)んで高速回転。

 鎖の()(とう)で鉄棒の侵入角度をずらし、落下するすべての棒から身を守る。

 直撃していれば、まず命は無かっただろう。

 しかし、判定員からの反則宣言がなかった事から分かる通り、イチカの狙いは、最初からネット本体と地面にある。

 地面に突き刺さった鉄棒がチェーンネットの()()を縫って、華隠の動きをきつく封じる。

「ぬおおお……。このあちしが、まんまと(つな)がれるとは!」

 このままでは、手裏剣の()(じき)となる。

 華隠は(そで)の内から煙玉(けむりだま)を取り出して、足下に叩き付ける。

 白煙(はくえん)が瞬時に辺りへめ、正確な位置を(くら)ませた。

 続いて、煙の雲に(ふく)らむ黄金の閃光。

 練丹術で呼吸を維持しつつ、氣術を込めた大太刀で、くさり(あみ)を断ち切るつもりなのだ。

――下手(へた)に近付けば、チェーンネットごと寸断される。

 イチカはその場で動きを止めると、次の一手をさくした。

 互角の勝負へ持ち込むには、相手の間合まあいを崩すのが一番だ。

(考えろ、考えろ……)

 ささくれ立った心で乱暴らんぼうに頭をかき回すと、指先に固い円盤(プレート)が当たった。

「そうだ、この髪留めがある!!」

 髪飾りの宝石をいつつ同時にぶつければ、さしもの華隠も、再起不能に(おちい)るはず。

 イチカは正門前に駆け寄ると、すばやく(なる)()を引き抜いて、縄の(はし)に斬空刀を()わえる。

 さらには、手元へ向けてぼう手裏剣を等間隔に結び、斬空刀と反対側、手元に残るなわの末尾に、刀の(つば)(かたど)った結晶器具を結び付けた。

 いっぽう校庭中央、チェーンネットしたの華隠が闘気を練り終える。

「イチカの(ヤツ)め。このあちしに、なんて()(らち)な真似を……。ちぇぇぇえい!!」

 氣術を()びた剣で金属ネットをバラバラに断ち、敵を求めて周囲を(うかが)う。


――お互い、()(ざい)()勝負にはウンザリだ。


 闘争心のこもった二つの視線が、()()が舞う空で激しく衝突する。

 イチカは輪状(わじょう)に束ねた縄を肩へと通し、斬空刀の(つか)を口に(くわ)える。

(あとは理乃さんの時と同じように、質量兵器で()ったたく!)

 校舎下に放棄された雲梯(うんてい)を両手に、イチカが校庭中央へと接敵する。

 体面(たいめん)など一切いっさい気にしない。

 髪は振り乱れ、背中と(ほほ)を、(りん)()と汗が伝い落ちる。

 イチカの鬼気(せま)る疾走に、理性の()んだ華隠は、歓喜の声をはりあげた。


()たきたキター! これぞ死闘!! さぁ、もっともっとあちしを追いつめ、

限界を見せてみろぉぉぉぉお!」

『うああああぁ!』


 魂の奥底で、イチカの獣声が轟く。

 右・左・斜めと、ガード不能の連撃(れんげき)を振るうイチカと、隙を(うかが)いつつ、跳躍して(かわ)す華隠。

 接近を(あきら)めた華隠が大太刀を(うし)ろに放り投げ、バク転の連続で距離を取った。

 敵をまっすぐ追いかけて、イチカの『突き』がくり出される。

 華隠が、地面に突き刺さった大太刀の横に着地すると、相手の直線的な追撃にひとみ(たぎ)らせた。

「もらった! ()(けん)岩斬豪裂(がんざんごうれつ)!!」

 全身に揺らめく闘気が太刀へと集まり、白銀の()(せき)が、垂直に空間を閃く。

 イチカは反射的に左手を離して()(ひら)いた。

 予感は的中し、剣から放たれる()が、雲梯(うんてい)の中心を真一文字に斬り裂く。

 もし()けていなければ、イチカの身体は、真っ二つに()かれて死んでいた。

 瀑男(バクダン)先生が、日頃の()()()()()()調()を忘れて厳重注意を飛ばす。

焰薙(ほむらぎ)ぃ。んな(モン)当たったら、相手は死んでんぞ。さっさと正気に戻りやがれ!」

 すると華隠は、激戦好敵(げきせんこうてき)を得た愉悦から、狂気の笑みで反発した。

「正気ぃ? なにを(とん)痴気(ちき)なこと言ってるだわさ。目の前で、忍術を持たなかった無名の忍びが、このあちしと互角に戦ってる……。こんな面白い戦い、今までの

忍者生活で初めてだわさ。さぁ、イチカァ~。どんどん掛かって、ズパズパ斬り合うだわさぁ~!!」

 相手に苦痛を刻む、サディスティックな笑みではない。

 これはいわゆる戦闘興奮(コンバットハイ)という奴だ。

此奴ぁ(こいつぁ)どうする? 戦闘継続は流石(さすが)にヤバイか……)

 一秒にも満たぬ逡巡。

 凍て付いた瀑男(バクダン)先生の思考を、イチカの声が()()ました。

瀑男(バクダン)先生! 私も、まだ終わる訳には行きません。さっきの私の鉄棒だって充分(じゅうぶん)危険ですし、反則退場で遂行点(すいこうてん)なしの優勝じゃ、どのみち私と希更ちゃんは退学です!」

 束ねた縄を半分ほど地面に(ほど)き、斬空刀を構えるイチカ。

 瀑男(バクダン)先生の目からしても、こちらも幾分(いくぶん)、興奮気味の表情だ。

 しかし、どこにも(われ)(わす)れた空気はない。

 ()わった(きも)に、底冷えするような強い意志。

 そのくせ、(うち)には途方もないねつを抱えている。

――(あつ)いのか? (つめ)たいのか?

 いったいこの小娘(こむすめ)たちは、どれだけ自分たち大人の想像を凌駕(りょうが)するつもりだ。

此奴(こいつ)はどえらい野郎だぜ……。女の(くせ)に、キンタマ付いてるに違いねえや!)

 二人の心意気に触発されて、瀑男(バクダン)先生が、情熱たっぷりに(おのれ)の美学を唱える。

「そんならもう、俺はなんにも言わねぇぜ。もしもの時は、俺たち教師が(ケツ)を持ってやらぁ……。戦いも芸術も、そして人生も、み~んな(まと)めて爆裂だ! 遠慮せずにぶつかって()い!!」

 瀑男(バクダン)先生の気合に呼応して、校庭中の灯火(ともしび)が、天に向かって激しく燃えあがった!

 真っ二つに割れた雲梯(うんてい)の狭間で、華隠が凶悪に()(たけ)る。

「さあ、もっともっと斬り合うだわさ! 掛かって()ぉい、イチカァ!!」


「いいえ。次の一撃で終わりにしてみせます!」


 イチカは、二つに裂かれた雲梯(うんてい)を地面に突き刺し、もう片方も別角度へと刺して(あし)()を作る。

 チェーンの(から)んだ鉄棒もそれに加えると、ちょうど、華隠の周囲をかこむ配置だ。

 イチカは雲梯うんていの上に飛び乗ると、(なわ)()(がたな)を振り回して、上方からの攻撃を仕掛ける。

 敵の振りかぶる動作に合わせて、のんが打ち返しのために、大太刀を(うし)ろに引いた。

「いざ勝負だわさ、イチカ!」

 防御に転じる直前、長い(みね)が地上に突き立つ鉄棒に接触して、甲高かんだかい金属音を奏でる。

「なっ……。(せま)くて剣が振れないとは!!」

 ()むなく回避に専念する華隠は、鉄棒のはしらを利用して、射線上を(たく)みに外れる。

 するとイチカは、さらに高く()()した棒へと飛び移り、華隠の頭上で遠距(えんきょ)()武装を振り回す。

 これを華隠が切り上げて弾くが、縄の左右サイドに結ばれた(ぼう)手裏剣が肌をかすめ、戦闘(せんとう)()を浅く引っかく。

 上方じょうほう範囲外からの攻撃を(さば)きながら、華隠が()(くう)に当たり散らした。

(はじ)いてもお釣りが来るうえに、金属棒がガチガチうるさいだわさ!」

 両者から離れた昇降口(まえ)の水道で、五部(いつつべ)学長が、イチカの戦闘スタイルに()(みは)る。

「あの戦い方、そしてあの武器の形状……。もしや、かつてこの地に天海衆(てんかいしゅう)が攻め込んで来た際、敵の首領、天空(てんくう)を封じるために使われた、五行ごぎょうれん()乱蛇帯(らんじゃたい)と同型のもの……」

 五部(いつつべ)学長の呟きをヒントに、忍具に(くわ)しいカラクリ伝造が、記憶を手繰(たぐ)り寄せる。

乱蛇帯(らんじゃたい)……。()()()も聞いた事が()りやすねぇ。なんでも、この学園の開祖に当たる、陽忍術の初代しょだい皆伝者・雪風(ゆきかぜ)様が(のこ)したとされるしんでやんすね」

 里の秘事を()(ろう)しがてら、丸眼鏡の位置を調節するカラクリ伝造でんぞう

 ところが、イチカの秘策に気付くや(いな)や、落ち着きを(はら)った雰囲気が、(にわ)かに崩れだす。

「とすると、(うし)ろに付けた結晶器具……。あれはつまり、()(こう)の忍術媒体、五行ごぎょう宝輪(ほうりん)の代替物。五部(いつつべ)学長、流石(さすが)にそれは、藤森さんが危険でやんすよ! 高純度こうじゅんど

媒体は、あまりに強い力のせいで制御が不可能。単独使用ともなれば、自爆同然

の暴発を引き起こしやす」

 するとその隣り、臥龍仁斎が森厳(しんげん)な空気で首を振り、伝造(でんぞう)先生の懸念を否定する。

伝造(でんぞう)先生、それは恐らく心配無用じゃ。あの結晶は、消滅寸前で威力も低い……。それに、柳沼(やぎぬま)さんとの戦闘でハッキリした事がある」

「ハッキリしたこと……、と(おっしゃ)いますと?」

「藤森さんは()(きん)、つまりは相剋(そうこく)する要素をものともせず、忍具の力を身体に取り込むとく体質の持ち主。すなわち藤森さんこそ、(わし)五部(いつつべ)学長が長年ながねん探し求めてきた逸材(いつざい)。彼女は、あの呪術師天空(てんくう)(たお)すために、運命選定法(うんめいせんていほう)によってこの忍ヶ丘(しのびがおか)(いざな)われたのじゃ!!」

 校庭中央、華隠が大太刀に()を集中させて、前方横一列に()(けん)を放つ。

小癪(こしゃく)な棒切れめ、このあちしが成敗してくれるぅぅぅ!!」

 岩斬豪裂(がんざんごうれつ)の波動が、鉄棒をこしの高さへと切り揃える。

 大幅(おおはば)な高低差を失ったイチカは、地面へと着地してから、乱蛇帯(らんじゃたい)を大きく(よこ)に振り回した。

「当たれ~!!」

 言葉とはまったく違い、イチカは先端せんたん部分の斬空刀を、見当(けんとう)外れの方向へと旋回させる。

 (ロープ)の長さが(あだ)となり、これっぽっちも制御できていない。

 華隠が失笑に鼻を鳴らした。

「ハン……。なにかと思えば、信じられないノーコンだわさ。いざ、その隙に!!」

 大太刀を(なな)(うし)ろに傾けて、勢いよく駆けだす華隠。

 イチカの乱蛇帯(らんじゃたい)は、彼女の左横(ひだりよこ)を大きく外れて旋回し、しかし、岩斬豪裂を(まぬが)れた鉄棒に触れてどうを一気に修正して、華隠の背後から大回りに忍び寄る。

 先端に付いた斬空刀ざんくうとうが風を切り、華隠の全身を(いく)()にも(から)めとった。

「これはまさか、理乃が得意にしてる技!!」

 華隠が氣術で縄を千切ちぎる直前、イチカが(ぼう)手裏剣の霊術れいじゅつ機能を、遠隔起動させる。

「突き立て、鋼鉄の(やいば)! 氣術鳴動(きじゅつめいどう)!!」

 陰陽(いんよう)五行ごぎょうを構成する五つの要素、(もっ)()()(ごん)(すい)

 そのうち、(ごん)の氣術は(すい)の霊術を相生(そうじょう)させ、術者の任意で、特定の効果を(れい)()させる作用がある。

 周囲に拡散した氣術の力が、(ぼう)手裏剣の霊術を発動させ、華隠の衣服を()()める。

 (ぼう)手裏剣は試験用に()を潰してあるが、先端部分が、皮膚(ひふ)の上から骨を強く圧迫する。

「うがあぁあぁぁぁ!!」

 燎原(りょうげん)を走る苦悶の咆吼。

 全身を縄と(ぼう)手裏剣で()い止められて、華隠はまったく身動きが取れない。

 その隙にイチカは、左手で結晶器具のかみめを握り締めて、躊躇(ちゅうちょ)なく駆けだした。


「これがわたしの…………さい一撃いちげきぃぃぃぃぃ!!」


 螺旋状(らせんじょう)掌底(しょうてい)を打ち込み、『掌弾(しょうだん)五行宝輪(ごぎょうほうりん)』が華隠に炸裂する!!

 青・赤・黄・白・黒。

 五つの光が天空を貫き、結晶内の(じゅん)エネルギーが地表を()ぎ払う。

 密着状態のイチカは、その衝撃で20メートルちかくも弾き飛ばされた。

 吹き飛びの余波だけでも、焦土(しょうど)と化した校庭で何度も宙を舞い、容赦なく地面に叩き付けられて、紙クズ同然に転げ回る。

 (あお)()けに停止して、左肩を走る激痛げきつうに悲鳴を上げた。


『ぅああああぁぁあぁ!!』


 耳元で魔獣の(うな)りが木霊する。

――自分の叫び声だ。


 反射的に肩へと回した右手が、皮膚(ひふ)の異常な伸長(しんちょうと、醜悪なくぼみを知覚する。

 左肩が完全に脱臼(だっきゅう)していた!!

 一方、イチカ渾身こんしんの一撃を喰らった華隠も、尋常ならざるダメージである。

 全属性ぜんぞくせいの陽忍術攻撃に肉体が自動的に反応し、神通((木))練丹((土))霊術((水))のダメージを

中和するが、霊術((水))法術((火))の二つを使えない華隠は、両者の相剋(そうこく)属性であるきんの合成エネルギーを受けて、シルバーレッドの残留光(ざんりゅうこう)に包まれる。

 ねつの力が肉体を()き、電撃が身体中を駆け巡る。

 光の柱から()れ出たエネルギーが縄を断ち切り、空気中でスパークを起こした。

 やがて、力の(もう)()が勢いを失うと、学内の照明が()(おう)()ちの華隠を照らし出す。

――熱と電気。

 二つの高エネルギーに(さら)された肉体は、あちこちが()(かす)で黒ずみ、(ほお)の一部はうっすらと(ただ)れ、毛先が千々(ちぢ)に乱れていた。

 白目を()いた彼女の身体が、『ガクッ……』と(ひざ)()ちに崩れる。

 流石(さすが)にこれは勝負アリか?

 瀑男(バクダン)先生が、片手を()げて宣言する。

「藤森イチカ、いっぽ……」

 勝利宣言が整う直前、焰薙(ほむらぎ)()(のん)の身体が短く跳ねた。

 気絶は一瞬のこと、地面に刺さった大太刀を(ささ)えにして立ち上がり、解放エネルギー以上の執念で(いき)を吹き返す。

「あちしは……、イチカに…………。(いや)……」

 不意に、フッ……と笑みが(こぼ)れた。

 ゆっくりとだが、身体が動く。

――自分はまだ戦える!!

 笑みの理由はそれだけではない。

 視界のさきでイチカもまた、(ゆう)()(ごと)くヨロヨロと立ち上がった。

 右手には、近くに落ちていた鉄棒の短い()(はし)

 鋭利な先端を近接槍(きんせつやり)としてぶら下げ、昏倒(こんとう)寸前の(とろ)けた瞳で前を()()える。

 見つめるは、華隠の(うし)ろ。

 勝利の先にある、忍びとしての親友(希更)との日々。

 対する華隠は、イチカという強敵のこうがわ

 怒りでも、復讐でもない。



――『あい』すればこそ、深くて強い、他者(ひと)への『(にく)しみ』!!



 無念の汚名を着せられて死んだ両親に対する思慕(しぼ)の念が、傷付き、今にも(たお)れそうな自分を()(うご)かす!

 さきに蘇ったのは、華隠の方であった。

 悲痛の嘆きに闘志を乗せて、日常の韜晦(とうかい)に隠した、狂おしいまでの情熱を叫ぶ!

「あちしは……、誰にも負ける(わけ)には行かないんだわさぁぁぁぁ!!」

 その瞬間、イチカのにも闘志が宿った!

 引かれ合うたましい咆吼(ほうこう)が、二人を()(れつ)な戦場へと駆り立てる。

 イチカと華隠は互いの武器を手に、肉体の限界を超えて(しっ)()する。


『イ~チカァァァァア!!』


『こんのぉぉぉぉぉぉお!!』


 両者の気合が錯綜(さくそう)し、大太刀と近接槍(ショートスピア)が同時に振るわれる。

 二つの(やいば)が肉体を斬り裂く直前、五部(いつつべ)()(さい)號声(ごうせい)が、場内をするどく制した。


「そこまで!! 双方(そうほう)(やいば)を納めなさい」


 気付くと、華隠の(やいば)仁斎(じんさい)の太刀が止め、イチカの槍は、石川(いしかわ)残月(ざんげつ)の手で狙いが()らされていた。

 戦いを強制的に中断させて、五部(いつつべ)学長が、威厳に満ちた声で二人に言い渡す。

「両者とも、本試験において()(こん)()(そう)の戦いぶりでした。本物の(やいば)であれば、今の一撃で完全に勝負は着いていたでしょう。よって本試験は、(しん)()による判定をもって終了とします」

 勝手に勝負を仕切られて、好戦的な華隠が、青白い顔で抗議を入れた。

「なにを()まし(がお)で、(とん)()()なことを……。実戦に、(しん)()もなにもある訳ないっしょ」

 日頃からよく耳にする悪態(あくたい)の勢いがまるでない。

 イチカに至っては、電源を失ったロボットのように無言だ。

 生徒の将来と安全を思えばこそ、仲裁に入った仁斎(じんさい)も、厳格な態度で(さと)す。

「言いたい事はよく分かる。じゃが、これだけの危険な状態じゃ。文句をうでない。これは、忍術皆伝者(かいでんしゃ)の命令じゃ。双方(そうほう)(いさぎよ)く体育館へと戻り、大人しく、(しん)()の結果を待つがよい」

 の言う事はもっともだが、希更の進退が()かってる以上、どこかスッキリしない部分がある。

 疲労に混濁(こんだく)する意識の中、それでもイチカが発せたのは、たった一言であった。

「ハイ…………」

掌弾しょうだん五行宝輪ごぎょうほうりん

高純度媒体にたくわえられた膨大な術力を、5つ全て同時に解放するという『もう一つの皆伝奥義』。

もっごんすい。その力の源泉は大地の氣、すなわち龍脈の力とされる事から、

その究極系は星々や太陽のエネルギーを意味する。

あまりに強い力のために特定の形状をもたず、放たれた力は光や熱、プラズマ状となって観測される。

実質、この技を使える者だけが、この世から呪術師・天空てんくうを消し去ることが出来る。

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