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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
5章 藤森イチカの進級試験
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さよならをもう一度

作品完成後、筆者もようやく気付きましたが、最後まで残った3人は全員、

忍ヶ丘の外部出身者です。

物語には、それに相応しい形が必ずあるように、彼女たちが親友と宿敵に分かれて戦うのも、必然だったように思えます。

 プール横(よこ)の校庭南東。

 防戦に徹する希更は、肩を上下に揺らして息を整える。

(つ、強い……。さすがは、学年主席の呼び声が高い焰薙(ほむらぎ)さんね)

 水場の近くに移動したのは正解だった。

 おかげで緊急回避の霊術負担は軽減されて、忍具によって敵の接近を阻(はば)み、なんとか此処(ここ)まで持ち堪えられた。

 希更が思案していると、校庭中央で、謎の気圧変動が生じる。

 遅れて響(ひび)く理乃の撃破報告に、希更の疲労がいくらか和(やわ)らいだ。


「どうやら、柳沼(やぎぬま)さんはやられてしまったみたいね。これで、私と藤森さんによる二対一。いくら焰薙(ほむらぎ)さんでも、私たち二人に勝てるかしら?」


 これには少し計算外だったのか、後(うし)ろを振り返り、意外そうな表情で固まる

華隠。

 しかし、その場合の対策も考えてあるのか、口端を吊り上げて、凶悪な笑みへと戻る。


「なぁ~に……。だったら今すぐ、一人(ひとり)にしてやれば良いだけだわさ!」


 華隠が前へと駆け出し、剣先(けんさき)を後方から頭上に回して弧(こ)を描く、『半月(はんげつ)斬(ぎ)り』を見舞う。

 するとその時、両者の間(あいだ)を、黒き疾風(はやて)が回り込む。


「いいえ、そうはさせません!」


 闇風(やみかぜ)の正体を瞬時に見極めて、華隠の剣筋(けんすじ)がわずかにブレた。

 華隠は強引に、太刀の行方を斜(なな)めに横へ。

 闖入者の横撃(おうげき)を袈裟懸(けさが)けに合わせて防ぐと、希更からの追撃を後(うし)ろに跳んで回避する。

 刹那の静寂、対峙する三つの影を灯火(ともしび)が舐めた。

 並び立つ影(かげ)の一つ、陽忍(ようにん)として覚醒したイチカの横顔が、夜の闇(やみ)に照らされる。


「遅くなりました、希更ちゃん。…………大丈夫ですか? だいぶ呼吸が荒いみたいですけど」


 希更は一瞬、安堵に顔を弛めるが、迫り上がる倦怠感から、すぐに具合悪(わる)く硬直させる。


「ごめんなさい……。持ち堪(こた)えるだけで精一杯で、すっかり消耗してしまったみたいなの」


「でしたら希更ちゃんは、後(うし)ろで援護をお願いします」


 イチカは仲間を庇(かば)って前に出ると、斬空刀を順手から逆手へと握り直す。


「華隠さん、ここから先(さき)は私が相手です。希更ちゃんには、指一本触(ふ)れさせません!」


 威勢のいい啖(たん)呵(か)に、華隠が鋭(えい)利(り)な哄笑を撒き散らした。


「ヒァ~ッハッハッハァ~! あの理乃を倒すとは、ナイス根性! とはいえ、こんな事もあろうかと、ちゃ~んと隠し球を用意しといただわさ」


 華隠は、氣術を使って大きく後(うし)ろへ跳躍すると、校庭中央で、背中の手(て)筒(づつ)を腰溜めに構えた。


「あれは手(て)筒(づつ)!? まさかその一撃で、私達を一(いっ)気(き)に片付ける積もりだったんですか!」


「いまごろ気付いても遅いだわさ。あちしのヴォルカノンの威力、とくと見さらせ~!!」


 華隠が手筒の引き金(トリガー)を引いて、二人に爆裂砲弾を撃ち込む。

 高速の火炎弾が命中するより早く、希更がイチカの前に出た。


「やらせない……。泫潦(げんろう)・撥塞(ばっさい)!!」


 有(あ)りっ丈(たけ)の術力で正面に水盾を展開して、ヴォルカノンの砲弾を、空中高くへと弾き返す。

 火球(かきゅう)は限界高度まで達すると、四方八方に爆散して、校庭各所を炎(ほのお)で包んだ。

 華隠の砲撃は、一発だけでは終わらない。

 希更の霊術を察知して、三発(さんぱつ)続けて撃ち尽くす。

 頭上から降り注ぐ燃焼剤(ねんしょうざい)の塊(かたまり)が、燃えたぎる隕石のように、運動場へ落下して爆(は)ぜる。

 今や視界は、校庭各所の照明(しょうめい)を必要とせず、周囲の暗がりを熱(あつ)き炎で彩った。

 攻撃の余波が、水盾の端から回り込む。

 イチカは、障壁の裏へと伝わる衝撃(しょうげき)と轟音に目を瞑(つむ)り、身を強(こわ)張(ば)らせてジッと耐えた。

 やがて、華隠の砲撃が完全に止(や)むと、火の海と化(か)した校庭を見て、呆然と呟いた。


「酷(ひど)い。これじゃあ、試験どころじゃ……」


 言葉の途中、希更が地面に崩れて、激しく咳(せ)き込む。

 霊術の過剰使用で衰弱した所に、校庭に広がる燃焼剤で、気管支喘息(ぜんそく)を起こしたのだ。


「希更ちゃん!!」


 グッタリと力を失った希更の身体を、イチカがすぐさま抱き起こす。


「希更ちゃん、大丈夫ですか?」


 希更はすぐに答えようとするが、声が震えて安定しない。

 代わりに彼女は、瞼(まぶた)を細めただけの薄い笑みで返した。


「平気よ、藤森さん。早く焰薙(ほむらぎ)さんを倒して、この試験、優(ゆう)しょ……ゲホッ、ゲホッ!!」


 勝利のために強がる希更。

 彼女がすでに戦えないことは、腕(うで)に掛かる体重がハッキリと証明している。

 戦いどころか、この場に留(とど)まることすらも危うい。

 意を決したイチカは、張り詰めた声で周囲に呼び掛ける。


「東雲(しののめ)先生、東雲先生はいらっしゃいますか!」


 ややあって、薄桃色(うすももいろ)の看護服にエプロンを掛けた保健医、東雲清蘭(しののめせいらん)が音もなく

現れる。


「なにかしら……と、聞くまでもありませんね。水野さんの事でしょう?」


 イチカは深刻な表情で頷き、希更の無念を想像して、短く言(い)い淀(よど)んだ。


「ハイ……。希更ちゃんを…………、リタイアさせて下さい!」


 残酷な一言に、希更の双眸(そうぼう)が見開かれる。


「なにを言ってるの、藤森さん! あなた一人では、焰薙(ほむらぎ)さんとは……」


 それ以上は言(い)い募(つの)ることも出来ず、途中から咳(せ)き込む希更。

 確かに彼女の言おうとした通り、二人(ふたり)一組(ひとくみ)でなければ敵わないだろう。

 最(さい)期(ご)の最(さい)後(ご)まで共に戦えないことにも、イチカは心残りを感じていた。

 だが、希更のことを想(おも)えばこそ、自分はこれから、一人(ひとり)で戦わなければならない。


「ダメです。希更ちゃんは、もう戦えません。それに、もし喘息(ぜんそく)が悪化して身体を壊したら、忍術伝法(にんじゅつでんぽう)の儀(ぎ)を受けても、手遅れかも知れないんですよ」


 希更はなにも言い返せなかった。

 正論はイチカの方にある。

 だが世の中には、言葉では割り切れない現実や『想い』というものが存在する。


『自分を置いて行かないで……』


 無言の慟哭(どうこく)が胸を貫く。

 イチカは無意識に、希更の身体を抱き寄せた。

 これから自分は友達を捨てるのかと想うと、苦しくて、切なくて、目頭(めがしら)が燃えるように熱くなる。

――もう此(こ)の手を、決して離したりはしない。

 あの瞬間(とき)の誓(ちか)いは嘘になってしまった……。

 イチカは希更を抱きしめたまま、豁然(かつぜん)と両目を開いた。


「…………東雲(しののめ)先生、お願いします」


 希更の反論を許さぬ早口に、東雲(しののめ)保健医も間(ま)を空(あ)けずに返した。


「分かりました。任せて下さい」


 安らぎから一転、希更が手足を暴れさせる。


「待って下さい、先生! 私は……」


 東雲(しののめ)保健医は、イチカの腕から希更を抱き上げると、患者(かんじゃ)と共に姿を消した。


『ハアッ…………』


 猛火の中、イチカの溜(た)め息(いき)がポツリと広がる。

 悲鳴の余(よ)韻(いん)を耳から追い出して、視線を周囲に走らせた。

 校庭の至る所で、燃焼剤の炎が、地獄の景色のように揺れている。

 斬空刀を逆(さか)手(て)に構え直したイチカは、校庭中央へと駆け出す。

 そこでは準備万端の華(か)隠(のん)が、抜き身の大(おお)太刀(だち)を肩にかけて、悠然と待ち構えていた。

 砲撃前のギラ付いた気配はすっかり息(いき)を潜(ひそ)め、普段の天の邪鬼(あまのじゃく)な調子で口を

開く。


「これで互いに、状況が整ったという訳だわさな。あちしはヴォルカノンを使い終え、あとは自然の成り行きに炎を任せる。対するイチカは、希更を強制的にリタイアさせた、と……」


「ハイ……。もう、心残りはありません」


 華隠は黄砂色のツインテールを片手で払い、鍔(つば)を鳴らして大太刀を構える。


「まさか、転校初日に鳴(なる)子(こ)の罠(わな)に引っ掛かった『なんちゃって忍者』が、こうして最後にあちしと当たるとは……。さても数(すう)奇(き)な運命だわさ」


 強い共感に、思わず『フフッ……』と鼻を鳴らして、顔が綻(ほころ)んだ。

 イチカは左手で脇(わき)差(ざ)しを抜くと、穏やかな笑みで過去を振り返る。


「私も初めは、何(なん)のために、そして誰(だれ)のためにこの街に呼ばれたのか、すっごく

不安に想ってました……。でも、今はもう、何(・)も(・)か(・)も(・)が不思議じゃありません」


 一拍おいて、イチカは自らの意志でつかみ取った運命を語る。


「だって私は、希(き)更(さら)ちゃんの願(ねが)いに呼ばれて、この街に来たんですから……」


 両者、言葉が尽きて静寂が流れる。

 ……………………。



「「いざっ!!」」

次回は、緊張感が切れないようにするため、非常に長い1話となりました。

イチカと華隠の壮絶な戦いは、本作の見所の1つです。

是非とも、想像力を働かせて御覧ください。


また、『見やすさ』よりも『読みやすさ(想像力を刺激する)』重視のため、

敢(あ)えて修正前の文章配置を採用しています。

イチカ作品(さくひん)本来の空気感を味わっていただければ幸いです。

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