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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
5章 藤森イチカの進級試験
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大気の翼

 眼下では、イチカが放つ生命力の赤を()びたシルバーレッドの闘気と、理乃から伝わる白銀の氣術が、鎖をつうじて激しく衝突する。

 その光は時を()るごとに強く大きく、光の(おび)を増大させる。

 氣術の力が高まってゆく光景を見下ろして、科目担当の石川(いしかわ)残月(ざんげつ)が危機感を(つの)らせた。


「あれは不味(まず)い……。このままでは最悪、負けた方が『念動爆散(ねんどうばくさん)』を喰らうぞ!!」


 念動(ねんどう)爆散(ばくさん)とは、膨大に(たくわ)えられた電気的な力が一気に解放され、爆発的な衝撃へと転換される現象のことである。

 術力制御に劣る(にん)生徒には、これに耐えるだけの力はない。

 間を置かず、五部(いつつべ)学長が、周囲の教師へと対策を命じる。


「我々もしたに降りるとしましょう。石川先生、臥龍(がりゅう)先生。もしもの時に備え、鎖を断ち切る準備をして下さい」


「ハッ!」 & 「心得た!」


 2人が学園長の指示で地上に降り立つ頃、イチカと理乃のたけびが高まる。


「ああぁぁぁ!!」 

「負けるかぁぁぁ!」


 非常ベルのような音を立ててくさりが振動。

 (くれない)(ぎん)の闘気が激しい閃光を放つ。

 2階職員室の(なな)(した)、残月の左手が宙を閃き、(てのひら)サイズの短刀暗器・()(がら)が撃ち出される。

 小柄の薄い(やいば)が鎖に接触した瞬間、両者の圧力に(くさり)が耐え切れず、中間地点で弾け飛んだ!

 イチカと理乃は止まらない。

 むしろ、それを合図に同時に動く。

 斬空刀を逆手に抜いて、大きく前へと踏み込むイチカ。

 対する理乃は、飛行翼の(じく)()(すそ)から引き抜き、両折棍(りょうせつこん)として迎え撃つ。


「ボクの武器は、かまだけじゃないんだからねっ。うららららららぁ!!」


 肩から胴へとヌンチャク状に往復(おうふく)加速させて、理乃が木製棍(もくせいこん)を振り下ろす。

 頭上から叩き付けられる両折棍(りょうせつこん)を、イチカが斬空刀で斬り防いだ。

 たった一合(いちごう)(じく)()は叩き折れるが、その程度の結果は想定済みである。

 なにせ飛行翼は、左右で一対(いっつい)なのだ。

 空いた片手で反対の(すそ)から棒芯(ロッド)を引き抜き、理乃が水平に()ぐ。

 今度の使い方は、二本の棒が鎖で繋がれた連接鞭(れんせつべん)だ。

 横向きに振り回される()(けい)(むち)に対して、イチカが気合いを込めた手刀(しゅとう)を放つ。


「ハッ!」


 氣術の力で硬化された(てのひら)が、理乃の暗器を断ち切った!

 手刀(しゅとう)にした片手を握り込む同時に、前方へ向けて氣術を一斉解放。

 氣術鳴動の波紋が、相手が()びる同質の氣を衝圧し、理乃の体勢が大きく()()った。


「ぐうっ……!」


――今なら行ける!

 気功を放った左手で、太腿(ふともも)側部の()(びし)グミを一握りつかみ、理乃の腹部に掌底(しょうてい)を放つ。


「行っけえぇぇぇぇぇ!!」


 左脚で前へと踏み込み、下から突き上げるようにてのひらを叩き込んで、衝撃インパクトに合わせて氣術を解放。

 掌中のびしグミを、電気的な瞬発力で射出する。

 理乃の身体が氣術きじゅつ掌底で一瞬いっしゅん浮き上がり、空中浮遊の短いあいだ、びしグミに蒼白い閃光が宿った。

 背筋を丸めて滞空する理乃の鳩尾みぞおち下、硬質ゴムの弾丸だんがん5つが忍者服の耐刃たいじん繊維を噛み、げ、撃ち飛ばす。

 イチカの『掌弾(しょうだん)』を喰らった理乃は、掌打の威力と術力ダメージをあいいで浴びて吹き飛び、低空で大きく()()()()()()()

 小さな身体が地面に落下した直後、金剛(こんごう)先生の判定が、夜の校庭にハッキリと響いた。


「技あり、藤森イチカ!」


 戦闘不能の『一本(いっぽん)』までには至らない。

 よろけながらも、理乃がゆっくりと立ち上がった。


「グッ、ヴエェェェ……!」


 喉の奥から()がる虫酸を地面に吐き捨て、破れかけの忍者服へと手を()わせる。


「イチカなんかに…………()られて(たま)るかぁ!!」


 両手による手裏剣投擲(とうてき)

 武装を失った無手(むて)の軽快さから、いきもつかせぬ連続投射に専念する。

 初めはイチカも、後退しながら斬空刀で弾き落とすが、理乃の投擲とうてき速度が時間とともに異常加速して、ついには対応し切れなくなる。

 掌弾(しょうだん)による氣術ダメージで、術力が過剰発動(オーバードライブ)してるのだ。

 イチカは腰裏(こしうら)の脇差しを抜き、()(とう)()(しん)(けん)の構えで防備の手を増やす。

(これじゃあ前に出られない……。どうにかして、理乃さんの手裏剣を止めないと……)

 後退を続けるイチカの視界に、野球のバックネットが映った。

 イチカはネット裏へと()を描くように回り込んで、敵の攻撃を遮断する。

 飛来する十字じゅうじ手裏剣の一部が金網かなあみに突き刺さり、残りは(すべ)て跳ね返されて地面に落ちた。

 攻撃手段を封じられた理乃が、遠距離射撃(しゃげき)の手を止めて舌打ちを鳴らす。


「チッ、ネットを盾にしたのか……。でもそれなら、イチカだって条件は同じはず!」


 予想とは異なり、耳元スレスレを通過した金属塊(きんぞくかい)が、理乃の短髪を勢いよく(あお)り乱した。


「バカな、『(ぼう)(しゅ)()(けん)』だって!?」


 (ぼう)(しゅ)()(けん)とは、携帯性と殺傷力に重きを置いた、直線形の手裏剣のこと。

 イチカは(この)みのスティックチョコを忍具化し、手裏剣として利用したのである。

 しかも陽忍術では、(あま)みは霊術に該当する。

 内なる(ちから)を運動力に変える霊術により、ほんのわずかなネットの隙間を、(ぼう)手裏剣は(かす)りもせずにまっすぐ貫く。

 さらには回避にまわった理乃が、だいに視界の異常を感じ始めた。

(な、なんだ、コレ……。目の前の景色が、どんどん(かす)んでゆく……)

 理乃の視界は、氣術の補助によって成り立っている。

 掌弾(しょうだん)によって暴走した(ちから)が制御を離れ、さらには枯渇しつつあるのだ。


「くそっ……。こうなったら、せめて華隠と合流しなきゃ……」


 進退(きわ)まった理乃が、(きびす)を返して逃走を図る。

 それをイチカが、バックネットを回り込んで追いかけ、前後一列の縦並(たてなら)びとなった。

 すると理乃は、追跡してくるイチカの気配を背中で感じながら、本体付属のマッチで導火線に着火し、癇癪玉(かんしゃくだま)を足下に落として走り去る。

(アレは、火に(まぎ)れて姿を(くら)ます()(とん)の術!)

 イチカは両腕を交叉して速度を(ゆる)める。

 両者のあいだで爆風が弾け、闇夜を照らす(きょ)()の紅蓮をゾワリと()いだ。

 煙の中を突っ切ると、前方では、理乃が再び癇癪玉(かんしゃくだま)に手を伸ばして、イチカの

追撃を逃れようとしていた。


「またしても癇癪玉(かんしゃくだま)……? それなら此方(こっち)だって!」


 背部ポーチから真空玉(しんくうだま)を取り出して疾走。

 理乃の手から爆発物が離れるのと同時に、手持ち最後の球形忍具(きゅうけいにんぐ)を投げ込んで、今度は減速せずに猛ダッシュをかける。

 理乃の視界は依然として()()()()ままだが、細かい忍具や距離感がハッキリしないだけで、相手の顔や動きくらいは判別できる。

 念のため、(うし)ろの様子を確認した彼女は、イチカの無謀な行動を見て、軽口を叩いた。


「へっへ~ん。そのまま()らっちゃいなよ、イチカ~♪」


 通常ならば、誘爆分の威力も考慮されて、即座に勝利判定が(くだ)る。

 しかし、教師からの判定はゼロだ。

 判定員の金剛(こんごう)先生は首を横に振り、戦闘継続の意志を示す。


「そんな! いくら試験用でも、二つも同時に受けたりしたら死んじゃうよ!」


「いいえ、私は死にません。理乃さん、この勝負、私がいただきます!」


 勇ましい答えに、理乃がふたたび振り返る。

 両者のあいだで癇癪玉(かんしゃくだま)が爆ぜると同時に、イチカの真空玉(しんくうだま)が爆風を吸引し、空気中に真空状態を生み出して、周囲の大気を猛然もうぜんと吸い上げる。

 理乃の服装は、風の影響を受けやすい、飛行翼の布が広がった()(にん)仕様の忍者服だ。

 着用者の意志に逆らって、小柄な(たい)()を真空地帯へと強引に引き戻す。


「うわっ、吸い込まれる……。くっそぉぉぉぉぉう!!」


 気流に(あお)られて、校庭中の灯火が一ヶ所(いっかしょ)に収束する。

 理乃の身体がグラウンドから離れた!

 イチカは爪先つまさきに力を込めて飛翔。

 ()()に生じた猛火の壁をたいの翼で()じ開け、紅蓮の渦を後方こうほうに描いて突き進む。

 イチカと理乃の身体が空中で交錯(こうさく)し、革筒もろとも、斬空刀が相手の背中を()一文(いちもん)()に払い抜けた。

 金剛(こんごう)先生の口から、今度こそ明確な勝利判定が下される。


「藤森イチカ、一本!」


 (たい)(ひら)いて空気抵抗を高めたイチカは、空中を横回転(ロール)する身体を、砂塵を巻き上げながら着地させ、横目でチラリと振り返る。

 激しい消耗と斬撃のショックで、理乃はグラウンドに身を横たえていた。

――勝利の()(いん)(ひた)っている時間などない。

 イチカはプールわきから聞こえる戦闘音を頼りに、希更のもとへと急行した。

・盗掘者

忍ヶ丘の財宝や、霊場などの忍術媒体および情報を求めて、里の外から侵入してくる所属不明の荒くれ者。

そのほとんどが独自の機械武装を所持しており、人によっては未熟ながらも、氣術もしくは練丹術によって基本能力の底上げを行う者もいる。

戦闘力と生存技術サバイバビリティに劣るが、陽忍術と同じ性質の攻撃手段を使うため、陰忍相手のように、一定範囲に近付いただけで自動感知することは出来ず、霊場への侵入と集団化を防ぐことは不可能である。

明らかに、忍ヶ丘周辺の養成機関が戦力の出処でどころなのだが、中央政府による情報秘匿のため、突っ込んだ調査が出来ないでいる。

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