表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
5章 藤森イチカの進級試験
77/83

不滅の誓い

 嘆くごとに、祈るほどに、イチカの胸に、苦境に(あらが)う反骨心が燃え上がる。

 見苦しく、力の限りに抵抗して(うし)ろに飛ぶが、着地に失敗して()(ざま)に倒れ込んだ。

 転倒に遅れて、大腿(だいたい)()に強い抵抗を感じる。

 (うず)く痛みと()()()()()()を同時に感じて、イチカは、世界が(ヒビ)()れたようにすら錯覚する。


「うわっ、()っぱ! なにコレ!? なんで()(びし)ぃ~!?」


 忍具携帯、基礎中の基礎きそ

 ()(びし)は、必ず専用の外装ポーチに入れること。

 それを守らなかったばかりに、転倒のショックで()(びし)グミを太腿で圧迫して、忍術ダメージを(みずか)ら喰らったのだ。

 しかし、この危機に降り掛かったのは、鎖鎌の模造刃(もぞうやいば)ではなく、理乃の苦悶であった。


「ふグゥ!! いったいなんだ、いまの……」


 とつぜん理乃が(ひざ)から崩れ落ち、氣術維持(いじ)の集中力が途切れる。

(鎖がゆるんだ? よし、今なら出られる!!)

 イチカは鎖の()から滑り出し、斬空刀を拾い上げて距離を取った。

 絶好の機会を(のが)した理乃は、仕切り直しの態勢を整える。


「イチカの(ヤツ)、なにをしたのか知らないけれど、次は同じようには行かないよ!」


 絡まった鎖を()道殺(どうさつ)()き戻し、距離を保って、イチカの隙を用心ぶかく(うかが)

理乃。

 対するイチカも、相手の動きを警戒しながら、脱出直前の異変を振り返る。

(いったい、どうして鎖がゆるんだんだろう……。アレは単なる鎖じゃない。理乃さんの氣術が乗った、言ってみれば、理乃さんの身体からだいち。それに、私とまったく同じ反応(リアクシヨン)……)

 と、イチカは其処(そこ)まで考えて、彼女の(のう)()に、特殊忍具の開発者である、でん()の言葉が反芻(はんすう)される。


『その上このびしは、相手忍者の()()()を一時的に暴走させて、強制使用の状態にするんだ』


(私の身体を通して、陽忍術の力が鎖に伝わる……。そしてさっきの、理乃さんのわざ……)

 自分の正面、鎖鎌を旋回させて()()る理乃に注目しながら、彼女の漏らした

言葉を回想する。


『氣術が乗った鎖を、()()()()()()が破れる訳ないじゃないか……』


 二つの出来事は、決して偶然などではない。

 イチカは自分の(てのひら)を呆然と見つめて、思い掛けない可能性に打ち震える。


(まさか私にも……、その()()()使()()()の!?)


 そもそも木製とはいえ、雲梯うんていほどの重量物を、生身の力で運搬するのは無理がある。

 そう考えてみると、校舎内へと逃げ込む直前、兵糧丸ひょうろうがん代わりの麩菓子ふがしを口にした時から、陽忍術の覚醒めざめは始まっていた。

 注意を()らしたイチカの隙を、理乃の(するど)い声が打つ。


「余所見してるなんて、余裕(ヨユ~)だねっ!!」


 反射的に右へ跳んで鎖鎌を(かわ)すと、足下では、あきえ対策に使用した()(びし)グミが、自分を使えと()わん(ばか)りに、(おの)が姿を誇示していた。

(たとえ忍具(ひと)つ取っても、この一ヶ月間、私と出会った何もかもが、無駄な事じゃなかったんだ……)

 苦しくも充実した日々を思い出して、不図、笑みが(こぼ)れた。

 イチカは視線を正面に戻して、奥歯を強く()み締める。

 胸に込み上げる強い決意が、忍術修業を志した一ヶ月(ひとつき)(まえ)、希更が叫んだ言葉と

重なった。


「苦しくても良い。(つら)くたって構わない! たとえ見苦しく足掻(あが)いてでも、私は、この試練を乗り越えてみせる!!」


 イチカは足下に()(びし)グミをバラ()くと、(みずか)らそれを踏み付けた!

 ねつともなった電流が全身を駆け巡り、苦痛が体内を充溢(じゅういつ)する。


『ぐううぅぅぅああぁぁあ!!』


 イチカは苦しみもだえ、両手を地面について(ひざまず)く。

 怪訝に思った理乃が、イチカへ向けてまっすぐ廻燕(かいえん)()をくり出した。


「イチカめ、乱心した? なら、今すぐボクが(ラク)にしてやるよ!」


 (ゆが)む形相、震える肉体。

 イチカは()らん(かぎ)りの力を振り絞り、苦痛を跳ねのけて斬空刀を振り上げる。

 苦心の一刀が、廻燕(かいえん)()を弾いた!

 ヨロヨロとちからなく立ち上がるイチカへ、廻燕(かいえん)()は狙いを修正すべく虚空をさまよう。

 その鎌の途中、重力に逆らってまっすぐ延びる鎖に、イチカが無造作に左手をわせた。


「自分から鎖を(つか)んだ!?」


 イチカの奇行に困惑する理乃。

 それは屋上や校庭に(つど)う教師、果ては、体育館から戦局を見守る級友きゅうゆうたちも同じであった。

 しかし、その中でただ一人、イチカだけは(おのれ)を信じている。

 自分は、姉のように優雅にはなれない。

 才能もなく、厳しい現実に醜く(あらが)うだけの、一介(いっかい)の女子高生でしかない。

 それでも、泥臭(どろくさ)い日々から(つか)み取った経験と意志が、自分を特別な『(なに)か』へと駆り立てる。


――私は……、忍者になりたい!!


 覚悟の想いに、(あらが)いの呪文を繋げるイチカ。

 彼女は忍ヶ丘(しのびがおか)に来たことで、産まれて初めて、自分が何者(なにもの)であるかを知る!


何故(なぜ)なら私は、藤森(ふじもり)イチカ。たとえ道は(けわ)しくとも、一か(イチカ)ばちか、挑戦するのが私だから!!」


 藤森(ふじもり)家・誓願(せいがん)が打ち立てられた。


――この(ちか)いは、決して破られる事はない!!


 自身を()(てい)する魂の咆吼が、イチカの中に眠る『五行(ごぎょう)宝輪(ほうりん)』を激しく回転させる。

 全身から立ち昇る猛烈な闘気に(あお)られて、イチカの髪は一瞬いっしゅん逆立ち、

 天を()き、

 闇を退(しりぞ)く!!

 屋上、二人の対決を見守る五部(いつつべ)学長が、信じられない光景に金切り声を上げた。


「あれは、法術(ほうじゅつ)氣術(きじゅつ)の兆候……。藤森さんは、自力で陽忍術に目覚めようとしている!!」


 屋上の声が、校庭にまで響いた。

 攻撃姿勢の理乃は、相手に(とど)めを刺そうと鎖に()を送るが、イチカが(にぎ)った部分から先、先端の鎌が鉛直方向(えんちょくほうこう)を向いて完全に沈黙している。


「あのイチカが陽忍術ようにんじゅつを!? …………くそっ、ダメだ。鎖が言うことを聞かない!!」


 再び屋上、臥龍(がりゅう)仁斎(じんさい)が、焦燥に駆られて(まじろ)ぎもせずに呟く。


莫迦(ばか)な……。藤森さんは、陽忍術を使う素質がまったく無い(はず)じゃ!!」


 三日前、五部(いつつべ)学長が(こころ)みた触診検査法(しょくしんけんさほう)の結果とは明らかに矛盾する。

 訓練中の記憶を必死に探る仁斎(じんさい)

 やがて閃いたのは、自作忍具の特殊性と、特訓を決意した()(みん)(もり)での誓いであった。


「そうか……。確かに藤森さんには、陽忍術の元となる術力が一切ない。しかし、術力の容量が(から)っぽなだけに、忍具の力をけることは容易い。そしてあの誓願(せいがん)……。あの(ちか)いこそ、藤森さんが術を使うための呪文……。言わば、発動の鍵なんじゃ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ