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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
5章 藤森イチカの進級試験
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勝利を賭けて

 華隠と理乃は、両手を虚脱させた『忍(しの)び駆(が)け』で昇降口を抜けて、校庭へと躍り出る。

 手回しの良いことに、グラウンドでは対決の準備が整えられていた。

 運動場には松明(たいまつ)籠(かご)が等間隔に並び、屋上のサーチライトが、左右にゆっくりと首を振る。

 要所を照らす篝火(かがりび)がパチリと爆(は)ぜて、熱く焦がれた脂(やに)が周囲に飛び散った。

 二人は校庭中央で背中合わせに武器を構えて、敵が来るのを待ち構える。

 視線を上に向けると、体育館の屋根や屋上(おくじょう)などの見晴らしの良い位置で、参加教師がこちらをジッと見下ろしていた。

 隠れた敵を誘(おび)き出(だ)す積もりで、華隠は聞こえよがしに言葉を交わす。


「学園長(オババ)に臥龍仁斎(オジジ)……。それに、1年担任と科目担当が揃(そろ)い踏(ぶ)みだわさ」


 華隠の意図を汲(く)んで、理乃も挑発的に言い放った。


「残るペアはたった二組。隠れていたって、もう、なんの意味もないからね」


 理乃の言葉に反応するかのように西風が生じ、烽(ほう)火(か)が一斉にはためく。

 炎の標(しるべ)を視線で追うと、校庭南東、チェーンネット横の第2倉庫より、火(ほ)影(かげ)を揺らして希更が歩み出る。

 病弱の翳(かげ)りを散らす堂々たる挙措。

 指先はピンと張りつめ、熱風に煽(あお)られてなお、冷たく澄(す)んだ美貌は衰えを知らない。


「希更、ようやく見付けただわさ……。予想に反して、水の近くに潜(ひそ)んでなかったとは……。腕に相当の自信があると見たっ!」


 氣術鳴動(きじゅつめいどう)!

 華隠は体内の氣(き)を前方へ拡散して、小手調べに希更を挑発する。

 希更は避(さ)けず真っ直ぐに進み、剛(ごう)の波動を正面から受け止める。

 白銀の闘気が二つに割れて、希更の背後に、揺らめく炎の大(たい)河(が)が生じた。

 氣術の奔流を、希更がまとう霊術が受け流し、彼女自身は押し寄せる重圧(プレッシャー)の中、水中を泳ぐかのように悠然と渡り歩く。

 互いの声が聞こえる距離まで接近すると、希更は立ち止まり、胸に秘めた闘志を語る。


「金剛(こんごう)先生のもとで基礎体力を高め、臥龍(がりゅう)先生に特訓を付けて頂いたもの。もう、以前の私ではありません!」


 今度はその対極、理乃の正面で、炎が高く延(の)び上がった。

 臨組(りんぐみ)横の第一倉庫からバスケットコートを横切り、藤森イチカが現れる。


「確かに私達は、落(お)ち零(こぼ)れとか、不安要素とか、色々と問題があるかも知れません。でも、だからと言って、なりたい自分になる道を、諦(あきら)める理由にはなりません!!」


 イチカが逆(さか)手(て)で抜刀するのに合わせて、希更も片(かた)手(て)で小太刀を抜き、空いた手で手裏剣を一枚、肩の上に構える。

 気迫だけなら互いに拮抗。

 陣形で言えば、挟み撃ちに遭(あ)っている華隠たちが不利な状況だ。

 華隠が背中越しにパートナーへ囁(ささや)く。


「集中攻撃だと、忍具で背中を狙われるだけ。イチカの方、行けるかだわさ?」


「そんなの当たり前だよ。どっちかが終われば、残りを二人で片付ける。それで

良いよね」


「合っ点(がってん)……。しからば希更の方、あちしが任されただわさ!」


 言いざま、華隠が正面に飛び出す。

 剣技は勿論、一対一では、決して華隠には敵(かな)わない。

 足留め目的の希(き)更(さら)は打ち合わずに後退し、華(か)隠(のん)と理乃(りの)の最強ペアを引き離す。

 揺炎(ようえん)の彼方に消える二人の姿に、イチカは無言の祈りを捧げた。

(希更ちゃん、ほんの少しの辛抱です。頑張って下さい……)

 イチカの黙祷(もくとう)を、チャリチャリと金属の擦(こす)れる音が遮る。

 革筒から黒色金属(ブラックメタル)の戒めを解き、理乃が完全に鎖を延長する。

 その全長、およそ15メートル。

 まともな方法では、これを制御するのは不可能だ。

 理乃の表情から、強烈な敵意と残虐性が漂う。


「イチカァ……。さっきは、まんまと翻弄されちゃったよ。あれだけ忍びを辞めるとか言ってたのに、真剣(マジ)になっちゃってどうしたのさ」


 敵はすでに、戦闘態勢を整えている。

 無言のイチカは、油断なくジリジリと距離を詰めた。

 言葉を返さぬ相手に、理乃が声を荒げる。


「なんとか言えよ!」


 激昂の隙間から、剣戟の音が聞こえる。

(この人は……!!)

 イチカは理乃の目的を見破ると、義憤に駆られて表情を歪めた。


「この期に及んで、時間稼ぎの小細工とは……。臆(おく)しましたか、理乃さん!」


 瞬間、暗い過去と忍具調整室(にんぐちょうせいしつ)での失態が蘇り、押し込めていた感情が爆発する。


「生意気なぁぁぁ、殺(や)ってやるよぉぉお!!」


 理乃の全身から、白銀の闘気が膨れあがる!


『氣(き)道殺(どうさつ)・廻燕(かいえん)鎖(さ)!』


 氣術を伴(ともな)って放たれた鎌を、イチカが斬空刀を振り切って左へ跳ね返す。

 続けて一気に接近しようと身を倒すが、ダッシュの直前、不可解な現象に飛(と)び退(の)いた。

 弾かれた鎌(かま)はいったん地面をバウンドし、地上に落ちた鎖が、自立稼働でのたうち始める。


「鎖が勝手に動いてる。…………まさか!!」


 鎖の蠕動(ぜんどう)が先端に伝播すると、刃(やいば)は急に向きを変えてイチカに襲い掛かる。

 肩を軽く仰(の)け反(ぞ)らせたままのイチカが、敵の攻撃を頭上に打ち返した。

 刃(やいば)の噛み合う衝撃に、鎖を走る不可知の力が擾乱(じょうらん)される。

 鎌はしばし虚空を揺曳(ようえい)するが、すぐに力を取り戻して、イチカの頭上を急襲する。

 イチカは再びその場を飛びのいて躱(かわ)し、敵の攻撃方法を確信した。


「やっぱり……。まるで蛇のように、自由自在に攻撃してくるっ!!」


 氣(き)道殺(どうさつ)とは、氣術を使った攻撃方法の一つ。

 肉体の運動力を高め、武具の硬度や鋭(するど)さを増す氣術だが、鎖鎌(くさりがま)のような特殊武装では、硬さや鋭(するど)さは、鎖の遠隔(えんかく)操(そう)作(さ)機能へと転化されるのだ。

 防戦一方のイチカに対して、理乃は、安全距離から廻燕(かいえん)鎖(さ)を何度も仕掛ける。


「アッハッハ!! どうだい、イチカ。ボクの攻撃を受けて、ぜんぜん前に出れないだろう」


 後退・横跳び・斬(き)り弾(はじ)きと応戦するうちに、イチカは体育館前(まえ)へと追いやられた。

 バスケコート南の枝垂(しだ)れ柳(やなぎ)が理乃には邪魔だ。

 いったん鎖を引っこめてから、右から抉(えぐ)るような角度で鎌を放つ。

 イチカは身体を捻(ひね)って斬空刀を振り抜き、サイドスローで迫(せま)りくる鎌を、後方

高くへとか(・)っ(・)飛(・)ば(・)し(・)た(・)。

 崩れた姿勢を一気に戻して、鎖の横を疾走する。

 イチカと理乃。

 両者の距離は、わずか6メートル。

 今から鎖を戻した所で間に合わない。

 だが次の瞬間、理乃の相貌(そうぼう)に会心の笑みが生まれた。


「掛かったな、イチカぁ!!」


 動かせるのは、先端の鎌だけではない。

 理乃と鎖が同時に動き、イチカを囲む輪(わ)を描く。

 互いが交差する瞬間、理乃は上体を後(うし)ろに反らし、両膝を曲げたスライディングで、鎖のう(・)ね(・)り(・)を顔の上に躱(かわ)した。

 ズザッ……と、膝下(ひざした)と腿(もも)が地面をこする濁った音。

 次いで、新体操を思わせる理乃の滑(なめ)らかな動き。

 上半身をしならせたままの彼女は、胸部で空中を撫(な)でるようにして立ち上がり、大きくカーブを描いて、イチカの横を走り去る。

 輪状(わじょう)の鎖が全身に絡(から)みつき、イチカの自由が完全に奪われた。


「しまった、鎖が……!」


 吐く息(いき)と同時に、軽金属の輪(わ)が引き絞られる。

 肩は軋(きし)み、肘が伸び上がる。

 強烈な締め付けに、斬空刀が右手から離れた。

 イチカは手足を揺らして必死に藻掻(もが)くが、鎖をギシギシと擦(す)り鳴(な)らすだけで、

抜け出すだけの隙間を作りだせない。


「暴れても無駄(ムダ)だよ。氣術が乗った鎖を、生身のイチカが破れる訳ないじゃないか」


「グッ……。これが、理乃さんの陽忍術……」


「そ~だよ。ソレじゃ早速だけど、パクッと殺(や)られてもらうからね~♪」


 大蛇が獲(え)物(もの)を飲み込むような構図で、頭上の鎌が、首を擡(もた)げて狙いを定める。

 これが、持つ者と持たざる者の違い。忍術(にんじゅつ)有無の絶対的な差なのか。


――負けたくない……。諦(あきら)めたくない……。


 せめて、こんな形で終わるなんて嫌(イヤ)だ。 

(やっぱり陽忍術(ようにんじゅつ)なんてメチャクチャだよ!!)

・忍者階級

4階5級とされているが、俗称全てを合わせれば、実際には4階6級となり、実力によって明確に分けられている。


忍術皆伝:5つ全ての要素を同時に行使できる者。陽忍の最高位

皆伝級 :特定の条件下において忍術皆伝と同等、あるいは、

     それ以上の戦闘力を持つ上忍

上忍  :1度に3つ以上の要素を行使できる陽忍

中忍  :1度に2つ以上の要素を行使できる忍び。

     攻・防もしくは、防・逃を同時に可能なため、集団戦に参加できる


(術持ち)下忍:1度に1つの要素を行使できる忍び。

        正式に陽忍を名乗れるが、集団戦に関わるのを禁じられている。

        ただし、人手不足の際は志願者のみ、後方支援に従事できる

(術なし)下忍:陽忍術を全く使えない忍術訓練生。練(れん)士(し)とも呼ばれる

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