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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
5章 藤森イチカの進級試験
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手負いの狩人

 所変わって、校舎一階。

 あきえを追う華隠と理乃は、敵の奇襲を警戒しながら、特別教室(とう)の廊下を慎重に歩く。

 西向きYの()校舎の北側通路、その中間地点に二人がきた瞬間、敵意の()もった残響音が廊下を駆け抜けた。

 続いて感じる、氣術鳴動の余波。

 試験中にしては強烈な殺意の波動に、華隠が肩を(そび)やかせる。


「ぬあっ!? 今のは叫び声? とすると、誰かが近くで戦ってるだわさ」


「たぶん、あきえの声だと思う。上から聞こえたよ!」


――敵の気配が急に消えた……。

 二人は同時に頷き、隠行おんぎょう状態を解いて軽快に走る。

 廊下を北へ進み、右手の階段を一段いちだんばしで駆け上がり、声の発信源である職員室(まえ)へと南下する。

 すると其処(そこ)にいたのは、あきえと対戦者ではなく、無警戒に言葉を交わす坂本愛里と判定員のカラクリ伝造(でんぞう)であった。

 二人の打ち解けた雰囲気に、華隠と理乃はうま根性を全開にして冷やかす。


「ヌヌッ……。試験中にも関わらず、生徒と教師が密会とは。これはなんとも面妖だわさ」


「ホントだ……。もしかして、不正取引ってヤツだったりしてね♪」


 愛里と伝造の眼鏡(メガネ)コンビが、隠れる素振りのない二人に気が付いた。

 伝造先生はわざとらしく丸眼鏡の位置を調節して、言葉だけは大げさに反応する。


「おんややややや? 焰薙(ほむらぎ)さんに柳沼さんじゃありやせんか。これまた、じつに好い所に……。試験もそろそろ大詰めなので、お二人にも、お伝えしたい事があったんでやんすよ」


 それに引き替え、皆伝者と違って精神修養の足りないあいは、ムスッ……と不機嫌そうに反論する。


「そういうことよ。第一、不正取引なんてしようがないわ。私はすでに死亡判定だもの」


 自分ほどではないにしても、彼女もクラス内では、言わずと知れた筆頭実力者の一人。

 倒せる者は、自分か理乃しか居ないと考えていた華隠は、意外な事実にたじろいだ。


「委員長が死亡判定!? で、いったい誰に()られたんだわさ?」


 これは、ヒントになりはしないか。

 返事に詰まる愛里に代わって、伝造先生が(たく)みにあしらう。


「その辺りの話は、これから五部(いつつべ)学長の放送が流れやす(ゆえ)、よーく聞いてておくんなさい」


 すると、狙い澄ましたようにスピーカーからノイズが走り、五部(いつつべ)学長の上品な声が流れる。


『試験中の皆さんにお伝えします。初めは15組も居たこの戦いも、残るはたったの5人となりました。これより先は、戦闘の長期化を()けるため、隠行の(たぐい)は極力(ひか)えるように。また、訳あって死体役に徹する生徒は、速やかに体育館へと戻り、単位認定を受けるようお願いします』


 放送の途中、伝造先生が『ほらね……』と口にして、身の潔白を証明する。


「という訳で、坂本さんには、ご退場(ねが)ってたんでやんすよ。なんの(やま)しい所もありません」


 伝造先生の小声のあと、一呼吸おいて、五部(いつつべ)学長の要点が続く。


『では最後に、現在、生き残っている5人の生徒を発表します』


 それを聞いた理乃が、無邪気にピョンと飛び跳ねて、胸の前で拳を(にぎ)る。


「来た来たぁ。ボクと華隠(カノン)は生きてるし、一人はあきえとすると、あとは何処のペアだろう♪」


 間を置かず、理乃の期待を裏切る内容が、スピーカーから放送される。


『まずは、焰薙(ほむらぎ)(のん)柳沼(やぎぬま)理乃(りの)ペア。続いて、藤森(ふじもり)イチカ・みず()(さら)ペア……』


「えっ……」


 理乃の表情が途端に固まる。

 残る一人の名を聞く前に、華隠が大声で騒ぎ立てた。


「あのイチカが!? これは一体(いったい)、なんの冗談だわさ!」


 すると愛里は、(みずか)らの敗因に声を滲ませながらも、イチカの実力を証言する。


「冗談なんかじゃないわ。私は実際に、彼女が戦ってる姿をこの目で見たもの。確かに藤森さんは、なんの術も持たない()(こぼ)れだけど、あの動きは間違いなく、忍びのソレだったわ」


 こうした愛里の説得を、カラクリ伝造は涼しい顔を(たも)ったまま、複雑な心境で聞き流した。

(それを言うなら、今の(ヤツ)こそ、二人の戦術示唆(ヒント)になってしまいやすが……。ここはまぁ、藤森さんの集中特訓とのバランスを考えて、お説教の形にまとめるのが無難でやしょう)

 気を取り直した伝造は、人差し指を()かれ気味に立てて、華隠と理乃に警告する。


「ちなみに、残る一人は()(とう)(じん)()さん。まぁ要するに、相手を甘く見ると、必ず痛い目に()うって事でやんす。では、あちきと坂本さんはこれで……」


 挨拶と同時に、二人の実像が廊下の闇におぼろと溶けて消え去った。

――甘く見ると、痛い目に()う。

 その内容に、理乃は心当たりがあった。

 隠行破りのポイントは、相手の肉体からゆうする術力を、どれだけ正確に察知するかにある。

 つまり、術力を持っていないイチカが相手では、初めから見付けようがないのだ。

 反対にイチカは、幼い頃から隠行術の真髄(しんずい)が記された『(せっ)(ぷう)()(でん)創刊号』を熟読している。

 裏を返せば、イチカは幼少期から本人の意図せぬ形で、忍びとしての下地をしっかりと積んでいた事になる。

 こちらは相手を捕捉できず、相手は自分たちを見付けられる。

 狩る者と、一方的に狩られる側の関係。

 圧倒的な立場の違いが、理乃から平常心を奪ってゆく。

(あきえが()られて、イチカがまだ残ってるなんて……)

 なんという酷い誤算だろう。

 急速に危機感を(つの)らせた理乃は、怯えた空気を必死に押し殺す。

 それでも、どうしたって言葉づかいや(のど)の震えには、普段の様子とは違う感情が表れた。


「ねえ、華隠(カノン)。ボク達、これからどうしよう……」


 狂乱気質を抱える華隠は、相棒(パートナー)の哀願めいた声に気付くことなく、嬉々とした

様子で返す。


「な~に……。こんな時のために、開始地点の3階に秘密兵器を隠してきただわさ。動きが(ノロ)くなるから置いてきたけど、今じゃ隠行おんぎょうも不要で危険も少ないし、

思う存分、戦えるチャンス!」


 気分を落ち着かせるために相談したが、不安は一向いっこうに晴れない。

 冷や汗が(ひたい)を伝い、顔面は強張る。

 恐怖にも似て、怒りに近い。

 これが、切迫せっぱくするという感情か……。

・秘技

同じ要素を2つ以上、掛け合わせた技。

もしくは、相剋属性を混ぜた3種混合忍術。

どちらのケースも使用者の得意忍術が深く関わり、制御を怠ると、術はすぐに暴走する。

最大の利点として、じゃんけんのように五行要素で単純に相殺されないため、対象に確実な効果を見込める。


(例1)

 地面へと打ち付けた風圧の反作用 + 周囲から集めた上昇気流 → 超減速

 氣術・霊術・神通力 + 神通力 → 秘剣・空裂くうれつざん(攻撃にも転用可)


(例2)

 風(木) + 木 + 木 + 木 + 木 → ふうせんの術

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