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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
5章 藤森イチカの進級試験
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狐面の少女

 いつでも倒せるイチカよりも、味方との合流が優先だ。

 モモンガ風の飛行翼を展開する理乃(りの)を見上げながら、東側の昇降口(しょうこうぐち)前で、華隠が小躍りする。


「よっしゃ。ようやく理乃との合流だわさ。二人揃えば、どんな強敵も恐(おそ)るる足(た)らず。これであちし等の優勝は、間違い無しっしょ!」


 地上付近で翼の軸(じく)柄(え)を離し、バランスを保って理乃が着地する。


「お待たせ……。で、これからどうする? さっきイチカと戦ってみたけど、結構(けっこう)侮れないよ」


 理乃が軽い用心のつもりで警告すると、華隠はすぐさま首を横に振った。

 その動きに、余裕の色は微塵も感じられない。


「いんや……。確かにイチカは要注意でも、ソレよりヤバイのはあきえの方。いつの間(ま)に腕を上げたかは知らないけれど、今までとは違って、とんでもない氣術の力だわさ」


 華隠は背面(はいめん)差(ざ)しの二本のうち、片方の太刀を引き抜く。

 だがその銀刃(ぎんじん)は、途中から闇色(やみいろ)の刀身に姿を変えていた。


「見ての通り、白刃取りから峰(みね)を掴(つか)まれ、強引にブチ折られただわさ……」


 その力がイチカの忍具による暴走とも知らず、理乃が声を霞(かす)ませる。


「ソレ、人間(にんげん)業(わざ)じゃないよね……」


「腕力だけなら皆伝級。人(ひと)並(な)み程度のイチカと違って、放っておくと厄介だわさ」


 短く逡巡し、硬い表情で理乃が頷く。


「…………分かった。あきえが委員ちょ(いいんちょ)と合流する前に、早く仕留めよう!」


 華隠と理乃は、あきえを取り逃がした校庭西側、体育館前(まえ)を目指す。




 程なく、正門付近の校舎の角から、坂本愛里が身を乗りだした。


「ふう……。どうやら二人は行ったみたいね」


 イチカを追跡中、柳沼理乃から奇襲を受けた彼女は、煙玉を駆使して遁走(とんそう)し、焼却炉内(ない)部(ぶ)、焼却灰の下へと身を隠していた。

 陽忍術を用(もち)いて地面に穴を掘った、土(ど)遁(とん)の術である。


「いくら柳沼さんでも、まさか、焼却炉の下までは探さないものね……」


 全ては、こうした時のためのマント装備だ。

 唯一、隠せなかった脚裏(あしうら)の灰と泥を手で払い、パートナーの動向にすばやく想像を巡らせる。

(焰薙(ほむらぎ)さんとの戦闘中に逃げたとすると、あきえの行き先は十中八九(じゅっちゅうはっく)、校舎の中。敵の大太刀にとっては空間が狭いし、反対に、あきえの武器には最適だもの)

 だとすると、校舎に入って、イチカを挟撃する形の合流が望ましい。


「とにかく、藤森さんを野放しにするのは危険だわ。あの不確定要素に、何時(いつ)、足を掬(すく)われるか分かったものじゃない」


 敵意をこめて低く呟くと、愛里は右手の壁に沿って校舎前へと回り込む。

 2階窓下、コンクリートの縁(へり)へと斜めに引っ掛かった雲梯に手を這(は)わせた。

 イチカの侵入経路をなぞり、開(あ)けっ放(ぱな)しの窓から二年陣組(じんぐみ)の教室へと滑り込んで、暗がりに目(め)を凝(こ)らす。

(やっぱり中は薄暗いわね……。でも、目を慣らしてる時間が惜(お)しいわ)

 愛里は壁際に身を寄せて、強化練薬(きょうかれんやく)の『暗(あん)視(し)操丸(そうがん)』を舌の上で転がす。

 腸で吸収されるには時間が経(か)かるが、揮発成分が早くも鼻(び)腔(こう)粘膜に浸透し、色合いが少しずつ定かになってゆく。


「うん……。これなら、追いかけるのに充分だわ」


 狭い廊下では、忍者刀よりも小太刀の方が扱いやすい。

 愛里は、マント裏から小型武器を探り当てて廊下を注視する。

 月明かりと薬(くすり)の補助でお(・)ん(・)も(・)ら(・)と闇を見透かし、危険が死角のみだと判断できた。

 物蔭に注意を固めながら、無音走行で水道前(すいどうまえ)へと移動。

 柱まわり、異常なし。

 続いて皆組(かいぐみ)掃除道具入れ、こちらも異常なし。

 さらには職員室前(まえ)へと来て、イチカと同じ地点で異常を察知した。

 闇の中、狐(こ)面(めん)の白(しろ)さが壁際に浮かび上がる。


「其処(そこ)っ!!」


 愛里の小太刀が狐(こ)面(めん)の真芯に突き立つ。

 だが、それだけだった。

 如何(いか)に模造刀とはいえ、その勢いでは、相手の大怪我は免れぬ失態。

 そこへ更に、壁に小太刀を突き刺す過(あやま)ちを犯して、坂本愛里の忍術試験は終了する。


「しまっ…………!!」


 気付いた時には遅かった。

 面(めん)より下に潜(ひそ)む忍びに胴体を払われ、愛里がその場に倒れ込む。


「居(お)らずして、己(おの)が任務(つとめ)を全(まっと)うするこそ、至上の忍び。藤森イチカに、躍らされ過ぎたか……」


 職員室壁際(かべぎわ)の掲示板、『不(ふ)居(きょ)遂(すい)任(にん)』の張り紙が、敗者に無言の訓示を垂れる。

 愛里の後悔に続き、緑地帯から爆音が鳴り響いた。

 同時に2名の勝利判定が重なったことで、誰が愛里を下(くだ)したのかは判断できない。

 ややあって、職員室前の隠密忍者は、無言で壁から小太刀を引き抜き、狐(こ)面(めん)を顔に掛け直して、無人の廊下をヒタヒタと東へ歩く。

 すると、中央階段の3階踊(おど)り場(ば)から、異常を感じたあきえが、用心ぶかく身を乗りだした。

 眼下の敗北者を視界に捉えて、我慢できずにその場を飛びだす。


「愛里! まさか、誰かに殺(や)られちまったのかい!」


 狐(こ)面(めん)の忍者がその場を飛(と)び退(の)き、職員室の扉を開けて、あきえの隙を窺(うかが)う。

 あきえは間合いを開(ひら)く敵を無視して、うつ伏せの愛里を抱き寄せる。

 死体役に徹する彼女は、無言のままだ。

(これはテストで、すべては演技(フリ)だ。そんなことくらい、ぜんぶ分かってる……)

 分かってはいるが、この怒りは抑(おさ)えられなかった。

 幼い頃、天海衆(てんかいしゅう)に攫(さら)われて以来、なにかにつけて自分を庇護(ひご)しようとする愛里。

 試験前の警告だって、根っこの部分には、そうした想(おも)いが隠れている。


(10年前のことなのに、まだ悔やんでいるのかい、愛里……)


 言いたくても、言えなかった……。

 相手の優しさを傷付けそうで、ずっと気付かないフリをしてた。

 そして、打ち明ける前に倒されてしまった。

――まるで、残酷な未来を暗示するかのように!!

(愛里の無念とこの怒り、絶対、アイツにぶつけてやる!!)

 あきえは愛里の身体を慎重に横たえると、視線の先、闇(やみ)に浮かぶ狐(こ)面(めん)の忍者を睨みつける。

 氣術鳴動(きじゅつめいどう)に大気が震え、全身から立ち昇る銀色の闘気が暗闇を退(しりぞ)けた。


「イチカァ……。今度という今度は、後悔してもらうよ!」


 校内では、あきえの戦闘スタイルの方が圧倒的に有利だ。

 狐(こ)面(めん)の忍者が、職員室の中へと逃走する。

 ゴミ箱を蹴飛ばし、椅子の配置を乱し、窓の掛(か)け金(がね)を外して、アルミ製の桟(さん)へと足を掛ける。


「逃がすか、愛里の仇(かたき)!!」


 死んではいないが、気持ちの上ではそれに準(じゅん)ずる。

 敵が室外へ跳ぶのに合わせて、自身も窓枠を蹴って跳躍。

 空中で敵の身体にしがみつき、地面に落とす飯(い)綱(づな)落(お)としの体勢を極(き)める。


「殺しはしないけど、痛い目だけは見てもらうよ!!」


 特訓内容と寸分違(たが)わぬ展開に、狐(こ)面(めん)の少女が余裕の笑みを浮かべた。

 うろたえぬ相手。

 それが和服の長髪忍者だと知って、金岡あきえが表情を失う。


「まさか、水野っち(みずのっち)!」


『秘技、溥(ふ)奔(ほん)・爆水潺(ばくすいせん)!!』


 強烈な水の奔流が狐(こ)面(めん)を真っ二つに裂き、希更の素顔を曝(さら)け出す。

 爆水潺(ばくすいせん)によって、姿勢を崩して落下するあきえは、降り注ぐ水玉の中、諦念(ていねん)を込めて呟いた。


「へへっ、負けちまったか……」


 希更は敵を振り解(ほど)くと同時に、足下へ向けて手裏剣を放つ。

 あきえの身体が、地上に出現した水の寝台(ベッド)に沈み、それを追いかけて、希更の手裏剣が命中する。

 生徒の転落死を防いだ霊術師範、河童(かっぱ)の水虎(すいこ)先生が、片手を挙げて宣言する。


「水(みず)野(の)希(き)更(さら)さん、一本です!」


 道中、パートナーと合流できたのは幸(さいわ)いだった。

 希更は、イチカから預かった狐(こ)面(めん)の残骸を目に映し、救命丹(きゅうめいたん)を口に含む。

(藤森さん。少しの間(あいだ)、時間稼ぎをお願いするわ……)

 やがて希更は、霊術使用の疲労を癒(いや)すべく、校庭東へと潜伏した。

・奥義

1つの技に4属性を組み込んだ高度な技。

上忍以上、皆伝者未満の非常に優れた陽忍なみが使える技で、高効率かつ高い威力を誇る。

ただし技の過程(プロセス)は、 発動開始 → 相生(そうじょう) → 相生 → 目標効果 と、シンプルなため、残り1つの属性で強力な相剋(そうこく)を受けると、瞬(またた)く間に技のバランスを崩して不発するという脆(もろ)さも併せ持っている。

また、技の呼び名も3種混合と同じで1通り。


(例)

 木 + 火 + 土 + 金 → 奥義・~(技名)

 ※ この場合、霊術(水)の強攻撃を受けると妨害されやすい

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