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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
5章 藤森イチカの進級試験
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遁走術(とんそうじゅつ)

 緑地帯を出たイチカは、丸太造りの柵と裏庭の間道(かんどう)を進んで、裏門(そば)の分岐点で停止する。

 正面の闇は、体育館(わき)を巡る学校敷地の境界。

 左側は、第1体育倉たいいくそうと校舎前を横切る遊歩道だ。

 対してすぐ右側は、戦闘領域(バトルフィールド)を完全に外れた裏門なので心配する必要はない。

 敵の待ち伏せを警戒して前後・左に注意を走らせると、用心したはずの前方から、明るく()んだ声が聞こえた。


「へっへ~。イチカ見っけ♪」


「その声は、あきえさん!」


 月光に照らされて、足甲手鉤に鉢金(はちがね)姿の格闘忍者・金岡あきえが現れる。

「あったり~♪ そう、アタシだよ」

(ぜんぜん気が付かなかった……)

 表情は強張り、こめかみに皮膚ひふが張り付く。

 相手は完全に気配を消せるみたいなのだ。

 焦るイチカとは対照的に、あきえの顔には軽妙さが(うかが)える。

 登校一番の挨拶(あいさつ)でも交わすように、あきえは気さくに(てのひら)を振ってみせた。


「……にしても、イチカもやるね~。てっきり、初めの方で()られるとばっかり思ってたのに」


 一瞬、刀を抜いて対峙しようと思ったが、相手の空気から敵意は感じられない。

 戦いを()けられるものなら、()けるべきだろう。

 イチカは肩の力を抜いて、呑気に近況を語る。


「さっき、獅堂さんにも同じようなことを言われました。やっぱり私と希更ちゃんって、皆さんに狙われてるんでしょうか?」


 普段の感覚で話しかけると、あきえの気配が急速に尖る。


「なんだって? イチカ……。アンタ、このえと会ったのかい?」


「あっ、ハイ。さっき獅堂さんと戦って、なんとか勝ちました。だからこれから、希更ちゃんと合流しようと…………って、うわあ!」


 シュカ! と足下に()(がら)が打ち込まれ、イチカは左に跳んで、渡り廊下の踏み切りに着地する。


「あきえさん、いきなり何するんですか!」


――思ったよりも、相手の息が上がってない。

 やはり威嚇ではなく、奇襲攻撃ではやめに始末しておくべきだった。

 あきえはイチカの抗議を無視して、敵意を(みなぎ)らせる。


「イチカ……。これでもアタシは、貴方(アンタ)に遠慮してたんだよ。勝手に忍ヶ丘(しのびがおか)に連れて来られて、忍術修業なんてツライだろうなって……。でも、これでハッキリしたよ。試験前、愛里がイチカをへんに警戒してるみたいだったけど、アレは思い過ごしなんかじゃ無かったんだってね」


 イチカは身を低く倒し、あきえの真意を確かめる。


「なら、どうする積もりですか」


「フッ、()れたことを……」


 わずかな沈黙を挟んで、あきえが体内のを練り高める。

 すると、全身から白銀の陽炎(かげろう)が立ち昇り、周囲の大気を鈍重に揺らす。

 左足で地面を踏み抜き、中腰(ちゅうごし)に構えて拳を前へ。

 あきえは戦闘準備を整えると、柳眉(りゅうび)を逆立てて大喝する。


『本気で戦うまでさ!!』


 今の自分では、忍術なしで格闘家に立ち向かうのは危険だ。

 イチカは周囲を軽く(うかが)った拍子に、右後方、水道手前の側道(そくどう)に、キラリと光る

人影を見た。

(アレは、華隠さんの金色刺繍(こんじきししゅう)の光!)

 その瞬間、イチカの中で名案が閃いた。

 正面を向いたまま、隠行状態でスッとうしろにひるがえす。

 体表面の外側から校庭の闇に音もなく溶けるさまは、獅堂このえが後方離脱する動きに似ていた。

――コイツ、明らかに成長している……。

 実戦経験を積むたびに、相手の技を無意識に学び取っている!

 接近戦を想定していたあきえは、意表を突かれて出遅れた。


「待て!」


 同じ逃走でも、氣術で運動力を高めた方が速い。

 イチカの隠行が、あきえの注視によってすぐさま破られた。

 8メートル程に距離が縮まると、イチカが小石のような物を地面にバラ()く。

 形状からして、どうにもソレは()(びし)には見えない。


「そんなガラクタで、アタシを止められるかぁ!!」


 あきえは、(さき)の丸まった円錐形のソレをお構いなしに踏み散らす。

 すると、数個まとめて()(つぶ)した拍子に、足裏から(うず)くような痛みが走り、予期せぬ酸味が口に広がる。

 あきえは堪らず、前へと()()し損ねた左足から地面に崩れた。


「うあぁぁぁぁ!! なんなんだ、コレっ!?」


 喋りながらも、転倒とともに相手の追撃を予想して転がるが、前方に敵の姿は見当たらない。


「この局面で逃げた!? でも、校庭にいる限り、コッチからは丸見えだよ!」


 イチカを追って正面のバスケットコートまで走り、枝垂しだやなぎを土台にして氣術跳躍。

 隠行状態を最大レベルに高めてぞらへ身を隠し、校庭全体を()(かん)する。

 校庭南、プール横の平均台に沿って東へ逃げるイチカを見付けた。


「そこか……」


 不敵な笑みで呟き、敵の位置を特定するあきえ。

 ところが反対に、校舎前にある野球用のバックネット裏から、お祭り声の戦闘狂バトルジャンキーに発見された。


「ああぁぁぁ~!! あきえを発見だわさ!」


(ホムラ)!? どうしてイチカじゃなくて、アタシの方が見付かるんだよぅ!」


 焦りと悔しさから、語尾を小さく(ひね)るあきえ。

 交戦意欲の高い華隠が、瞳を爛々(らんらん)と輝かせた。


「なにを(とん)()()なことを……。そんなに闘志を()()しにしてちゃ、決闘志願にしか見えんだわさ」


「このアタシが!? どうして……」


 華隠に指摘されて、自分が隠行不発を(きた)していることに初めて気付いた。

 氣術解放が強制されて、自分の意志で制御ができない。

 着地の瞬間、衝撃を(やわ)らげる氣術の余剰エネルギーが解放されて、全身の関節から稲妻(いなずま)状の銀光が(ほとばし)る。

 考えられる事は、たった一つ。

 能力異常の原因は、イチカの忍具に違いない。

 ()()()()()これは、異なる敵を同士討ちさせる、非常に高度な遁走術(とんそうじゅつ)だ。

 怒りに我を忘れたあきえは、目の前の()(くう)へ向けて憤怒の形相で叫ぶ。


「イチカめぇ……。やってくれたなぁぁぁぁ!!」

・合成忍術2種『〇〇一勁いっけい

木火土金水のうち、相生そうじょうする2つの要素を混ぜた陽忍術。

下忍時代では1つの要素しか使えないため、まずは五行属性を時計回りで瞬時に切り替えて、最終的には2種同時行使による中忍昇格を目指す。

例外として、下忍が練丹薬れんたんやくによるドーピングで2種同時行使を行うが、その場合は相生そうじょう関係にある『氣術+練丹術』、もしくは『法術+練丹術』の2通りに固定される。

(名称例)

  氣術 + 霊術 → すい一勁いっけい・~(技名が続く)

 神通力 + 法術 → 法神一勁ほうじんいっけい・~

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