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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
5章 藤森イチカの進級試験
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熱風

 イチカは出現直後で待機中の一体を放置して、前部ポケットから癇癪玉(かんしゃくだま)を取りだし、2体に直接(とう)じて横に伸身跳躍(ダイブ)

 予備着火の必要もなく、炎熱体の炎に反応して癇癪玉(かんしゃくだま)が弾けた。

 木片が周囲に散乱し、幻影を吹き消して爆風をまき散らす。

 イチカは横転から身を起こすと、残る一体を片付けようとして動きが止まった。


『◎Π☆§⊥……』


 炎熱体は痙攣(けいれん)を起こし、電子ノイズ状の雑音を(わめ)いて我を失っている。

――棒立ちは危険だ。

 イチカは炎熱体を両断し、『(はん)()』の蔭に身を隠した。

 攻防こうぼう継ぎ目のない展開に、乱れた呼吸と気配を整えながら、直前の異変を考察する。


(よく分からないけど、さっきの幻影、混乱してたのかな?)


 少なくとも、制御不能だったのは間違いない。

 もしも、新たな炎熱体が出現と同時に接近していたら、癇癪玉(かんしゃくだま)と斬空刀の順番は逆だった。

――どうしてあの炎熱体は、すぐに動かなかったのだろう……。

 答えの出ない問題が、頭をグルグルと回る。

 視線は意味もなく樹上へと流れた。


(あっ、天狗どのが上にいる……)


 腕組みのまま佇立(ちょりつ)し、全身に金色(こんじき)の光を浴びている。

 わりと月が好きなのかも知れない。

 しばしの(あいだ)、戦場に静かな時が流れる。

 ややあって、イチカは木立を抜ける(ゆる)やかな風から、人工的な清涼感を()ぎとった。


(アレ!? この匂いって、まさか……)


 イチカは意識を切り替えて、『(はん)()』の向こう側を注視する。

 いつの間にか、段々畑には三つの炎熱体が再構成されて、今まさに(しらみ)(つぶ)しの探索を始めようとしていた。

 その瞬間、イチカの中で全ての要素が(つな)がった。

 陽忍術では、(さん)()は氣術、(あま)()は霊術、(ハッ)()などの澄んだ香りは神通力に当たる。

 イチカは再び頭上を見上げる。

 天狗どのが術を使った様子はない。


(間違いない……。さっきの風は、獅堂さんの神通力なんだ。炎熱体は符術でも、制御の方は神通力……。風を乱せば、術は暴走する!)


 炎熱体は、平面農園の探索に移っている。

 炎を操る所までは見事だったが、相手が悪かった。

 自分は、そんな火遊び(ごと)きでは負けない。

 なんと言っても自分は、爆弾魔の称号を手にした魔女なのだから。

 イチカは前部ポケットから癇癪玉かんしゃくだまを二つ取り出し、斬空刀で外部包装だけを()ぎ取る。

 癇癪玉(かんしゃくだま)の表面に亀裂を作り、内部の火薬だけを前部ポーチ内へと戻した。

 そこへさらに脹ら脛(ふくらはぎ)爽風薬(そうふうやく)を混ぜて、即席の発火剤が完成する。


(あとは、獅堂さんの隠れる場所を探さないと……)


 意識を集中させて、特訓で(みが)いた隠行能力を発揮する。

 この森以外で隠れられるエリアは三箇所。

 一つは、北の段々畑(だんだんばたけ)最上部。

 次に、中央の平面農園(へいめんのうえん)茶畑。

 残る一つは、最初にこのえが隠れていた緑地帯の南西部。つまり、イチカの現在地に最も近い、見通しの森と平面農園の境界にある西の木蔭だ。

 二つ目以外は、これと言ったポイントは絞れない。

 せいぜい人間心理を読んで、東から(つつ)くと、反対側の西へと逃げ込むのを狙うしかない。


(とにかく意表いひょうを突いて制御不能にさせれば、あとは順手の連撃で喰らいつける!)


 炎熱体が、見通しの森に侵入した。

 イチカは息を殺して東から回り込み、接近してくる敵を待ち伏せる。


(まずは一つ!)


 イチカの急襲。

 飛び出しざまの斬空刀の一閃が、間近の炎熱体を二つに裂いた。

 二体目に向かう直前、段々畑から神通力による風が吹き下ろす。

 仲間の撃破で敵の位置を特定した炎熱体が、拳を一斉に前へと突き出した。

 そのままの勢いで炎は離れ、蒼い火球が水平にち出される。


「そんなのアリぃ!?」


 あわててイチカは、側方(そくほう)へとジャンプ。

 落ち葉の上を横転し、樹木を盾にして、敵がくり出す炎弾を(かわ)す。

 炎熱体はその場で停止し、蒼炎弾(そうえんだん)を連発してイチカを釘付けにする。

 あれでは、こちらから攻撃できない。

 焦るイチカの(そば)で蒼炎弾が地面にぶつかり、乾いた落ち葉が焦げ臭く(くすぶ)る。

(相手が火を使って攻撃するなら、コレを使うしかない!)

 後部ポーチから真空玉(しんくうだま)を取り出し、炎熱体へと投げ付ける。

 真空玉(しんくうだま)は敵に触れる直前、蒼炎弾の熱に反応して、()()()()()()()、周囲の空気を吸い上げた。


「なんと!」


「くうううっ……!!」


 天狗どのと、獅堂このえの驚愕が重なる。

 一方、樹の幹に(つか)まって異常吸引を(しの)いだイチカは、見通しの森西部へと移動。

 前部ポーチを外して、即席の発火剤を足下に少しずつ()く。


(よぅし……。あとは獅堂さんを待つだけだ。火炎分身……、使ってこい!)


 イチカの正面上方、段々畑の最上部さいじょうぶ西で、三つの炎熱体が出現する。

 おそらく其処(そこ)が、彼女が潜伏している場所だ。

 イチカは()(ふく)移動しながら片手を動かし、真横に発火剤を()いてゆく。

 同じ頃、炎熱体の掃討探索(クリアリング)が始まった。

 イチカは、段々畑の中央主道から()()()()って侵入すると、二段目の側道(そくどう)で停止する。

 そろそろ発火剤が()れそうだ。

 イチカはポケットをまさぐり、癇癪玉(かんしゃくだま)付属のマッチ棒に祈りを込める。

(これがうまく、ここまで飛べば……!)

 念じること三秒、イチカは意を決して、東側、木造フェンス沿いの炎熱体へと駆け寄る。


「えぇぇい!!」


 わざと大声を出して斬空刀を一閃、敵を火の粉へと変えた。

 このえは、イチカとは反対に西側の主道しゅどうを南下して、森の中へと潜伏する。

(風が吹いて遠距離攻撃が来る前に、ぜんぶ片付けないと!)

 自立行動で反射的に接近する炎熱体に、一閃、二閃と、イチカは立て続けに敵を斬る。

 まずは一撃、敵の頭部から股下またしためがけて大振りに斬り落とし、利き手をよこに振り上げながら左足を前へと抜いて前進を再開する。

 続いて二撃目、疾走途中に手首を返し、切先きっさきが平らなやいばを後方へ向けて、下から上へと逆風の太刀で突進しつつ幻影を切り裂く。

 神通力の風は、ついに吹かなかった……。

 すべては、次の一撃で決まる。

 イチカは戦闘体勢を()き、このえが隠れる西の木蔭に呼びかけた。


「そこに隠れているんですよね、獅堂さん」


 返事はない……。

 一瞬、二瞬と時は流れ、やがて反応があった。

 とおしのもり西部、獅堂このえが、三つの幻体を引き連れて月下に踏みだす。

 自信ありげに胸の前で腕を組み、()()足を止めた。

 発火剤はすぐ右下だ!

 イチカの呼吸がショックに止まり、激しい動悸が、胸の内側で凶暴に暴れ回る。

 このえの視線は足下にはない。

 イチカが立つ、段々畑の上方に固定されていた。


「戦闘中に(かま)えを()いて呼び掛けるなんて、降伏の意志と受け取っても(よろ)しいのかしら」


 尊大な口調で勝利を(ほの)めかすこのえ。

 おそらく単なる強がりだ。

 彼女は、符術を完全にコントロールしてるとは言いがたい。

 本来ならば、力の発動から自立行動に至るまで、一貫して符術で制御すべき所を、神通力で間接的に制御している。

 あるいは、まだ秘策があるのかも知れない。

 分身が炎弾を撃てるくらいだから、自爆だって出来るはずだ。

 いずれにせよ、イチカは、これ以上の猛攻に耐えられる自信はなかった。

 このえの挑発へ、イチカは無感情に首を振る。


「いいえ……。でも、これで終わりです」


 斬空刀にマッチの(りん)()り当て、着火して放り投げる。

 回転し、傾斜を(えが)いて虚空を前進するマッチ棒。

 火は消えることなく、終焉(しゅうえん)に向かって静かに揺らめいた。


――マッチ一本で何ができる?


 このえは()のない様子で、イチカの行動を眺める。

 感情が生まれたのは、マッチの先端が黒色粉末こくしょくふんまつに触れた瞬間だった。

 黄色(おうしょく)灯火(ともしび)が発火剤へと接触し、熱を加えて地面を焦がす。

 炎は止まらない。

 高速で地面を伝い、燃焼剤をひたむきに(むさぼ)り進んで終極を目指す。

 このえには、反応する暇もない。

 突然、足下の火薬()まりで小さな火柱が上がった。

 炎熱で膨張した大気が、耐刃性(たいじんせい)のバトルスカートを乱暴に巻き上げる。


「キャアアアア!!!!」


 このえの口から、夜陰を引き裂く壮絶な悲鳴が(ほとばし)った。

(今がチャンスだ!!)

 イチカは、斬空刀を順手に(かま)えて前方に飛びだす。

 すると、上空から天狗てんぐどのがイチカの正面に降り立ち、彼女の行く手を(はば)んだ。


「待たれよ、藤森(ふじもり)殿!」


「天狗どの!? せっかくの隙なのに、どうして……」


(いな)! 試験は一時中断だ。アレを見よ」


 八つ手(ヤツデ)(おうぎ)で示す先には、獅堂このえが蒼炎に包まれ、身を()く姿があった。


「そんな……。足下で火柱が上がっただけなのに!」


「上昇気流だ、藤森(ふじもり)殿。忍術媒体の力を得た気流に幻体が集まり、彼女に引火したのだ!」


 符術は、陰陽五行(いんようごぎょう)の火属性に該当する。

 同じ性質の炎熱自体が発動の鍵となり、術者の意志とは無関係に発動を続けているのだ。

 このえは自身の符術攻撃を受けて、訳も判らず狂乱している。


「天狗どの、一体どうすれば、獅堂さんを助けられるんですか」


拙僧(せっそう)に任されよ! オン・バサラ・キリク・アクア…………マリツ!」


 宙をなぞる指が(いん)を刻み、天狗どのが神通力を行使する。

 すると、空を巡る大気のうねりが地上の熱気と合流して、局地的な旋風(つむじかぜ)を生んだ。

 神通力の竜巻が蒼炎を()き消し、風の渦は四方の(やみ)へと拡散した。

 宙に浮いたこのえの身体は、地面へ無防備に叩き付けられ、衝突の余力で全身がバウンドする。

 このえは、そのままピクリとも動かない。

 どうやら気絶しているようだ。

 生徒への不安に、天狗どのはハッキリとした口調で宣言する。


判定はんてい勝ち。勝者、藤森イチカ殿!」

・忍ヶ丘南部

中央政府を撃滅すべし、という交戦意欲の高い土地柄。

住宅地のほぼ60%が忍ヶ丘の南西部に集中し、西の蓬莱山ほうらいさんと秩父山岳の南端を

利用した桑畑と養蚕ようさん、更には放牧が盛んで、忍び大学や付属の大病院もある事から、忍術媒体の研究にも熱心である。

反面、守り部や忍術学園などの対策支部がなく、過去、数度に渡って集団戦や破壊工作による大きな被害を受けたため、各地で自警団を結成し、外敵の侵入に備えている。

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