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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
5章 藤森イチカの進級試験
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嘲笑と啖呵

 イチカがクラスメイトを撃破した。

 その事実は多くの級友たちを動揺させ、戦局に大きな変化を与えた。

 各地で立て続けに、あきえ、華隠、理乃による撃破報告が飛び交う中、ただ

一人、水野希更の名前だけが挙がらない。

(特訓では水を操ってたし、やっぱり希更ちゃん、プールに隠れてるのかな?)

 だとしたら、自分を追跡する委員長を早く()いておきたい。


 愛里と理乃がたいする2分ほど前、イチカは購買裏の搬入口に沿って直進し、

焼却炉の前を横切って、校舎西、裏庭と緑地帯の(あいだ)へとやってきた。

 すでに陽は沈み、照明のない裏庭周辺は、天空の月影に()()()()と金色に輝いている。

 正面では、丸太(づく)りの高い柵が長方形の口をポッカリと開けて、イチカの侵入を待ち構えていた。

 緑地帯(りょくちたい)と呼ばれるこの場所は、人の手が加わった森林しんりんたいでの修練を目的に造られており、北から段々畑(だんだんばたけ)平面農園(へいめんのうえん)()(とお)しの(もり)の三区画に分かれている。

 イチカはその足下、緑地帯の入り口下部(かぶ)に、茶色い円筒物えんとうぶつが仕掛けられているのを発見した。


「あれは地雷? あんなにこれ見よがしで、いったい誰が引っ掛かるんだろう」


 イチカは助走を付けて跳躍し、伸身しんしん飛び込みで地雷を大きく飛び越える。

 着地の寸前、前回り受け身をきめて(ねん)()を防いだ。

 すると次の瞬間、二枚の()(がら)が宙を切り裂き、『カカッ!』と小気味よい音を

立てる。

 間を置かず、入り口の()とし(もん)が落下して、杭の先端が地面に突き刺さった。


「しまった、閉じ込められた!」


 イチカはすぐさま振り返り、入り口の仕掛けに注目する。

 ()(ぐち)上部に突き立つ(やいば)がロープの端を斬りほどき、落とし扉の質量によって、

門を支えるふとい吊り縄が断裂している。

 地雷の目的は、侵入者が戦闘領域(バトルフィールド)を離脱しないための時間稼ぎであった。

 フェンスの高さは6メートル。

 柵の上部には、(けい)()用の歩行スペースと梯子はしごが設置されている。

 段々畑の頂上部からジャンプをすれば乗り移れる高さだが、ハシゴをつたって降りる時には、背中が完全に無防備となる。


「いったい誰が、こんなことを……」


 イチカの問いかけに、背後の(やみ)から挑戦的な声が返す。


「お待ちしてましたわよ、藤森さん」


「その声は、獅堂さん!!」


 斬空刀を逆手に抜き、胸の前へと水平に構えて、声の方向へと注意を向ける。

 茫洋とした遠くの闇から、スラリと長い手足が生えて、イチカの正面、程よくたがやされた柔らかい土の前に、獅堂このえの全身像を形作る。

 ピンと真っ直ぐに伸びた指先と、揺らぎの少ない脚捌(あしさば)き。

 キレのある歩みに白刃はくじん(するど)さを連想させて、イチカの相貌が緊張に引き締まった。

(まさか、希更ちゃんと合流する前に当たるだなんて……)

 月光の下、女帝の美貌が酷薄に歪んだ。


「まったく貴方(あなた)には、()く驚かされますわ……。最悪、ここに来る前にやられてしまう可能性も考えてましたのに、むしろ一人、撃破してくるんですもの」


 緑地帯の出入り口は、東側の南北に一箇所ずつ。

 どちらも落とし扉で封鎖してあるのか、このえがすぐに仕掛けてくる様子はない。

 視線を素早く周囲に走らせたイチカは、前傾姿勢を維持して決意を語る。


「それは前にも言った通りです。私はこの試験に全力でぶつかり、絶対に最後まで生き残ってみせますと!」


 このえはイチカへの期待に軽く鼻を鳴らし、(あご)を小さく跳ね上げる。

 その顔には、涼しくも()惑的(わくてき)な笑みが広がっていた。


「あら、そう……。でも、それは無理というものです。なぜならこの私を倒さない限り、この訓練場からは逃げられないんですもの」


「でも、私たち二人で、どうやって勝敗を示すつもりですか」


 このえに向けて放った問いを、頭上の()()()が答えた。


「それについては心配無用だ、藤森殿()


 突如、両者のあいだを旋風が舞い、新緑(しんりょく)の落ち葉が()(せん)を描いて上昇する。

 万葉(まんよう)の導きにしたがって視線を上げると、満月を背に、長鼻(たか)下駄(げた)の修験者が、地面に悠然と降り立った。


「天狗どの! それじゃあ私達の決闘を、天狗どのが判定して下さるんですか?」


 天狗どのは、八つ手(ヤツデ)型の巨大な(おうぎ)をパタパタと揺らして、二人の正面から直角方向へと離れる。


()(よう)……。さきほど藤森ふじもり殿が一人(いちにん)撃破したのを()に、残る生徒は、一気に半数まで削られている。ゆえに此処(ここ)は、拙僧(せっそう)が付きっきりで判定致そう」


 天狗どのの宣言を(また)いで、騙し討ちを嫌うこのえが、律儀にも()(うち)を明かしてみせる。


「という訳で、遠慮も心配も無用です。それに貴方(あなた)が気にかけるのは、判定員だけではありませんわよ」


 このえは白く(つや)やかな指先に、三枚の呪符を走らせる。


(てん)()恒来(こうらい)、偉大なる(ばん)()の力。(つど)いて、映したる()()となせ……」


 不意に霊符が、蒼白い炎に包まれる。

 このえが(ふだ)を前方に投げ払うと、蒼炎(そうえん)の札はしばし宙を舞い、炎が(たて)に膨れ上がった。


「これはっ!」


 イチカは反射的に腕を交差して、炎の熱から顔面を(かば)う。

 両腕の隙間から(かい)()見えるのは、地面を浮遊する獅堂このえの幻体(げんたい)3つ。

 全身、服を着ておらず、流線型の裸身はあますことなく(あら)わだが、輪郭のほとんどは、蒼炎の揺らめきによって細部を見通すことができない。

 唯一、このえを象徴する(れい)()な美貌だけが、寸分(たが)わず再現されていた。

――燃え立つ氷の彫像。

 矛盾する表現を許せば、三つの炎熱体には、冷熱(れいねつ)二極(にきょく)()一つ所(ひとつところ)に存在していた。


「これってまさか、符術! やっぱり獅堂さんも、陽忍術に覚醒した者の一人だったんだ……」


 三つの炎熱体の奥、本体のどうこのえが艶然えんぜんと微笑む。


「さぁ、これで戦闘準備が整いました……。念のために言っておきますが、このおよんで、敵前逃亡なんて許しませんわよ、藤森さん!」


 イチカは斬空刀を胸の前へと構え直すと、このえの嘲笑に(たん)()をぶつけた。


「試験前に決闘けっとうを申し込まれたうえ、こうして待ち伏せされた以上、元より戦う

覚悟です」


()い返事ですわ……。いざ!!」

・忍ヶ丘東部

中央政府をけいして遠ざける現状維持派。

忍ヶ丘の南東部に位置し、敵地と接した最前線地域であることから、中央政府・陰忍・盗掘者に目を光らせやすい外交部門を担当。

幕末期から生きる忍ヶ丘の重鎮、五部いつつべさい臥龍仁斎がりゅうじんさいが所属するため、事実上、忍ヶ丘の最高機関としてのおもむきが強い。

注意点として、忍ヶ丘の防衛や捕虜の戦後処理など、対外姿勢としての外交部分に強い権限があり、内政面や貿易に関わる中央政府との実務者協議は、明治時代からの慣習で、北部の近宮ちかみや家や守り部(まもりべ)が取り仕切っている。

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