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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
4章 選ばれし者
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反撃

 聞き覚えのある声に、イチカと希更は無言で首を旋回させる。

 その正体を、同世代の朧月(ろうげつ)が誰よりも早く見破った。


「おっ、五部(いつつべ)学長。アンタがこんな所に来るなんて、珍しいじゃねえか」


 滝の上部に注目すると、白髪(はくはつ)眼鏡の上品な老婆、五部(いつつべ)(さい)が優雅に緑茶を啜っていた。

 まるで、カラクリ仕掛けを思わせる動作で湯呑みを口から離し、落ち着いた口調で答える。


「なに、試験を間近に控えたこの時期、あの臥龍(がりゅう)先生が奥義をもって訓練に当たると聞いて、気になって来てみたまでです」


「へえぇ、そいつは御苦労なこった。でも、それだけじゃねぇんだろ?」


「勿論です。なにせその訓練相手が、試験不合格で今後の進退を左右する二人となれば、少々、荷が勝ち過ぎるというもの。いくらか教えを施すつもりです」


 助太刀してくれるのは()(がた)いが、相手は忍ヶ丘(しのびがおか)最強の剣士である。

 難易度なんかお構いなしに助勢を口にする学園長へ、希更が苦しげな声を絞りだす。


「ですが学園長。私達の腕では、臥龍(がりゅう)先生の守りを打ち破るのは困難です」


 希更は辛うじて、()()()の弱音だけは飲み込んだ。

 五部学長は、生徒の重圧を読み取って無表情に返す。


「それは貴方あなたたちの動きが、一対一の切り替えに終わっているからです。己の実力が足りないならば、単純計算で戦力の増強を図る。すなわち、二人同時の『捨て身戦法』です」


 イチカは朧月(ろうげつ)の動きを警戒したまま、言葉通りの戦況をのうに描く。


「でも、それだと互いの剣がぶつかって、同士討ちになってしまいますよ?」


「仲間同士が邪魔になるのは、横並びが原因でしょう。忍具を控えて前後に挟むか、横並びでも、敵の手足や頭部を狙った末端部の攻撃なら、それも防げるはずです。いかに臥龍(がりゅう)先生といえど、腕は二本で脚は二つ。一度に(さば)ける攻撃量には、おのずと限度があります……。二人とも、()()()()()()()()


 五部(いつつべ)学長が言外のプレッシャーを放って、イチカ達を急き立てる。

 半信半疑の二人は、朧月(ろうげつ)の前方左右へ展開すると、精彩を欠いた動きのまま、

手裏剣での牽制(けんせい)射撃を試みる。

 これを朧月ろうげつが難なく弾くが、直角方向からの攻撃に動きを封じられて、左右からの挟み撃ちを容易に許してしまう。

 意外にも()()()()と攻勢に移れたことで、二人の表情から焦りが消えた。


「へっ、忍具抜きの接近戦なら望む所だ!」


 朧月は、左前方に()(ひるがえ)してイチカへと駆け寄る。

 剣術勝負は、剣士の独壇場(どくだんじょう)だ。

 両者の接近が済む前に、学園長の指示が飛ぶ。


「藤森さんは後退しつつ、足下めがけて牽制(けんせい)射撃。水野さんは前進です」


 直線軌道が足下ならば、味方への誤射は心配ない。

 詰めると空けられ、時折ときおり、狙い澄ましたように手裏剣がふくはぎすねをかすめる。

 これには若き仁斎(じんさい)も、前後の対応に苦慮して舌を鳴らした。


「チッ……。(ばあ)さんめ、どうにも人使いがうまい」


(ばあ)さんではありません、学園長です」


 八つ当たりの愚痴に()()()()対応する片手間、優勢に立つ二人へ、更なる采配を(ふる)う。


「二人は臥龍(がりゅう)先生に、絶対に攻めの選択権を与えてはなりません。動きを止めず、最大範囲から一気に距離を詰めて、同時に仕掛けて下さい」


「ハイ!」 & 「承知しょうち!」


 今度は二人の口から、ハッキリとした応答が返ってきた。

 朧月が脇差しを抜き、順手の太刀と(さか)()の脇差しという、変則型の二刀流で迎え撃つ。

 二刀流では豪剣(ごうけん)を使えない。

 好機とばかりにイチカが斬り込み、それに合わせて希更も跳ぶ。

 筋力だけでは、長刀身(ちょうとうしん)の片手制御は困難だ。

 朧月が体内で()を練ると、全身から白銀の闘気が立ち昇り、宙に揺らめく。

 氣術(きじゅつ)解放の兆候である。

 運動強化を施した朧月(ろうげつ)は、左右両面から襲い来る弟子でしに直角方向へと後退し、二人の攻撃を前方(ぜんぽう)視界内へと封じる。


「ぬおりゃあぁぁぁぁ!!」


 朧月が豪快な雄叫びを上げて、三本の剣閃を流れるように跳ね返す。

 激しい連打への対応で手一杯なのか、剣圧はどれも『()(なが)し』の軽い手応えばかりだ。

 対する二人も、連撃に夢中で互いの距離が(せば)まり、剣閃けんせん範囲の重なりで攻撃パターンが単調になる。

 これなら返せる……、と密かに緊張を緩める朧月(ろうげつ)に対して、五部(いつつべ)学長が意地悪く立ち回る。


「水野さんは手数を減らして回り込み、藤森さんは(しゃ)()無二(むに)攻め立てる連撃へ。二人一組ふたりひとくみでは、しばしば本来の役割が逆転するものです」


 それを機に、急所狙いのさらの攻撃が弱まり、イチカの斬撃に重みが増す。

 両手持ちなら簡単に()(かえ)せたが、希更の一撃必殺を警戒して、無闇に脇差しを手放せない。


「くっそ。こいつはマズイ……」


 朧月は本心からどくくが、相対するイチカはもっと必死である。

 全身の力で斬空刀ざんくうとうを打つが、力を込め、腕を速く振るほどに疲労は(たた)る。

 イチカの斬撃によって、朧月(ろうげつ)の注意が少しずつ、胴から上へと集中してゆく。

(罠かも知れない……。でもっ!!)

 イチカは意を決して、朧月の膝裏(ひざうら)を引っ掛けるように足払いをりだした。

 斬撃集中とあしの疲労から勢いは(まった)くないが、それだけで充分だった。

 希更対策に()()り気味の身体が、ガクッと崩れて横に流れる。

 正面から頭上へと移り変わる視界に、朧月(ろうげつ)が短く叫んだ。


体術(たいじゅつ)!?」


 瞬間、イチカののどから気合の声が漏れた。


「ううぅぅああぁ!」


 順手(じゅんて)の刀を斜めに倒し、自身も倒れ込んで、重力頼みの突きを打ち込む。

 肩を走る転倒てんとうの痛打に合わせて、左手にかたく乾いた手応えを感じた。

 すると次の瞬間、白い煙幕(えんまく)が周囲に立ちこめ、相手の姿が()き消えた。

 イチカは煙に()せながら目を()らすと、そこには戦人形(いくさにんぎょう)が転がっており、木製の寸胴ボディで模造刀を跳ね返していた。


「コレはまさか、変わり身の術! それじゃあ、師匠の本体はいったい何処に……」


 平面上を見回すが、周囲に自分以外の姿は見当たらない。


「まさか、上……?」


 (あお)ぎ見ると、いつかの()(づな)()としのように、頭上に敵の姿を発見した。

 敵の攻撃から(はる)か上空へと逃れた朧月(ろうげつ)は、掌をひたい(かざ)して地面を見下ろす。


「ひいいぃぃ、危ねえ危ねえ……。あんなん()らったら、模造刀とはいえ、()てぇからな」


 上昇も終わり、観察には()って()いの静止地点で下方を窺う。


「ったくよ……。こっちは忍術抜きの積もりだったってのに。あの二人と来たら、学園長の助言にキッチリ従いやがって。まったく飛んでもねぇ……」


 言葉の途中、朧月(ろうげつ)は視界の異常に気が付いた。


「違う、一人ひとり足りない! 水野希更が何処にも居やがらねぇ!!」


 朧月は、すばやく下方全域を見回してから正解を導きだす。


「まさか、俺より上かっ!」


 見上げると、希更は霊術れいじゅつによる水柱の噴出で跳躍距離を延ばし、頭上に先回りしていた。


「上下に挟むのも、同時攻撃の一つです!」


 希更は小太刀(こだち)を納めた状態で腕を伸ばし、水の壁を頭上に形成。

 凝結水分の支えを両手で押し返して、落下の初速度を上乗せする。


「くそっ、陽光(ひかり)で目がっ!!」


 逆光で視界を奪われた朧月(ろうげつ)は、腕を交差してダメージを最小限に抑える。

 地上を目指して斜めに落ちる朧月(ろうげつ)の身体が、神通力の作用で減速を始めた。

・五部紫彩(彩)[1]

徳川家に仕えていた戦闘忍者。捨て子であったためハッキリとした名字はなく、

衣服に刺繍ししゅうされていた『あや』をもじってさいと名付けられた。

陽忍集団『五部』の代表者になってからは、何かと無茶をする朧月ろうげつの尻ぬぐいや

敵中突破など損な役回りが多く、かつ最も雪風と行動を共にする時間が多かった。

天空決戦では、朧月と共に最後まで雪風に付き従って戦い、彼女の投げた苦無によって、天空を封じ込める隙を作りだした。

五部の双璧、竜虎のうちの虎の方。苛烈な攻めと手数により『猛虎』と恐れられたが、何処をどうげられたかは知らないが、女性たちの間では『男性であった』と間違って伝わり、『竜虎の交わり』なる耽美あふれる書物が里でひそかに出回っている。

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