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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
1章 忍びの里の忍ヶ丘
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芹沢立花

 副委員長・()(どう)このえを先頭に、藤森イチカと水野希更が両翼りょうよくを務める『(ほう)()(じん)』で、坂本愛里の本陣ほんじん(注:立ち位置)側面に奇襲を掛ける。

 周囲の客に聞こえぬ程度の()(ぜん)とした声で、このえが愛里に警告する。


「坂本さん、今すぐその顔をこちらに向けて、神妙にして頂きますわ」


 愛里は声を掛けられた瞬間、悪事が見付かったように『ビクゥ!』とするどく

身震いする。

 その拍子に、眼鏡のレンズが店内照明をしろに偏光して、着用者の動揺を雄弁に示唆(しさ)した。


「へっ? なにっ!? って言うか、()(どう)さんに水野さん? それに藤森さんまで! 一体(いったい)どうしてこんな所に……。あと、なんで私が罪人っぽい扱いをされてるの?」


 普段は大人びた印象だが、パニックから、思っていることを全てぶちまける

愛里。

 希更は、本来の彼女らしからぬ挙動に確信を強めて、罪状を言い渡す。


「残念ですけど、委員長さんは今、存在してるだけで公序良俗こうじょりょうぞくに反する疑いがあります」


 愛里はとき()つに連れて平常心を取り戻してゆくが、いきなりワケの判らない尋問をされて、形勢不利に腰が退()けたままだ。


「ちょ、ちょっと……。なんで私が、()(わい)な物みたく言われなくちゃ行けないのよ。誰か、ちゃんと私に説明して!」


 律儀にも、イチカが()()()()()()でその要請に応える。


「たしか学園(なな)不思議の一つで、委員長さんが普段からエッチな下着を……、『ゴモハァッ!?』」


 言葉の途中、愛里が『ガッ!!』とするどく踏み込んで、イチカの口を片手でふさぐ。

 彼我(ひが)の距離はほとんど(ゼロ)へ。

 愛里は怒りに唇を戦慄(わなな)かせ、細い銀縁(ぎんぶち)フレームの深淵なる向こう側から、イチカの瞳を凝視する。


「ふっ、ふっ、ふっ、藤森さん! 誰があたりかまわずアナウンスしろと言ったの! あなた、転校生でしょ? 転入初日で、そんなに(むくろ)(さら)したいのかしら!!」


 恐るべき早技に、希更とこのえが二人して、『委員長さん、またしても腕を上げましたね』とか、『迷いのない動きですわ』とか、どうでも好い賞賛を口にする。

 刹那の沈黙、イチカのひたいに冷や汗が流れる。

 ややあって、おもむろに『カポッ……』と口から手が外された。

 イチカは戦意喪失の(うつ)ろな瞳で、(まばた)きもせず服従する。


「ハイ、ナンデモナイデス……」


 愚かな級友を目で射殺して、愛里は殺伐とした空気を漂わせる。


「そう、それで好いのよ……。私だって、素性をよく知らない相手を、手に掛けたくないもの」


 忍びとして、それで暗殺任務が務まるのか。

 その場の誰もが危惧(きぐ)したが、制裁を恐れて口にはしなかった。

 代わりに第三者の呼び掛けが、四人の注意を引き付ける。


「コラコラ……。店の中で、何をそんなに殺気立っている」


 衣料品コーナー横のバックヤードから、よろい(かぶと)に具足を身に着けた、物々しい

出で立ちの女性が姿を現す。

 装いだけなら異常者だが、その容貌は(りん)と整っていて、眉や目のほそく切れ上がった印象が、(ぼう)・女性劇団の出身を思わせる。

 (かぶと)に関しては本物ではなく、本体から左右上方へ(ふち)が丸く突き出た礼用れいようのものだ。

 顔面のほぼ全てが露出し、栗色のショートヘアーが、顔の動きに合わせて小さく揺れる。

 殺気の発信源であるあいが、彼女へ向けて(かしこ)まった様子で頭を下げた。


「あっ、芹沢(せりざわ)先輩。すみません……。クラスメイトがあらぬ噂を広めようとしたものだから、ついカッとなって……」


「先輩とな?」


 じらい店長は、一瞬、相手の受け答えに戸惑うが、言葉の意味とこのえの目立つ忍者服から、四人の正体に推測(あたり)を付ける。


「おお! どこかで見た格好と思ったら、忍術学園の後輩たちではないか」


 などと得心とくしんして置きながら、イチカの姿を見付けるなり、すぐに言い(よど)んでしまう。


「あっ、(いや)……。見ない顔が一つあるな」


 凛々(りり)しい目鼻立ちがまっすぐ射貫き、イチカは緊張と恥じらいに(ほほ)を上気させる。


「あの、初めまして……。私、今日からこの街に住む事になりました、藤森イチカと言います」


「私は、この店の店長を務める芹沢せりざわ(りっ)()だ。私も以前は、忍術学園で修業に打ち込み、忍大学(しのびだいがく)に進学したものだ。もっとも、忍びとしての腕に(さい)はなく、剣術一本だったがな」


 剣術重視となれば、忍びではなく剣士に当たる。

 授業の説明を簡単に受けたものの、いまだに忍ヶ丘の風習に馴染みのないイチカには、忍術学園と剣士の関係がしっくり()ない。


「剣術一本って、芹沢さんみたいな人も、あの学園には多いんですか?」


「うむ……。すべての忍術を万遍(まんへん)なく鍛えた者こそが、世にいう忍びの姿であり、学園では座学や担任を務めている。いっぽう、一部の技に秀でた専忍(せんにん)が、曜日ごとの科目を受け持つのだ。私の場合、剣術を(みが)いた剣豪タイプの専忍と言えよう。剣豪といっても、太刀を振るうだけでなく、時には忍具や術を用いる特殊な剣士だがな」


「へえぇ……。剣士なのにほかの事も出来るなんて、なんだか強そうですね」


 芹沢は同意するついでに、店の宣伝も()()()()()とこなす。


「だがそれも、日頃の用心が()ったればこそだ。其方そなたも、これから()()()()として生活するのであれば、ウチの店で万全の備えを整えるといい。もちろん、忍び以外で()(よう)の物もな」


「ハイ!」


 芹沢は、イチカの心地良い返事を聞くと、フッ……と高貴な笑みを浮かべて(きびす)を返す。


「では、忙しいゆえ、私はこれにて失礼する。ゆっくりして行くと良い」


 相手の返事を待たず、鷹揚(おうよう)にその場を離れる芹沢せりざわ店長。

 客に対して尊大な言動の数々だが、イチカ達の印象は逆であった。


「なんて言うか、本当に『出来る人』って感じですよね。歩き方とかも洗練されてるし……」


 普段から芹沢せりざわの挙措を手本とする愛里が、イチカの感想に同意する。


「そうね……。もし他の人だったら、店長がアレだと傲岸(ごうがん)()(そん)で嫌みったらしいけど、逆にそれが許されてスッキリするのが、芹沢(せりざわ)先輩の特徴というか、魅力の一つだわ。できる人ってところも当たってるわね。あれだけの(いつ)()を持ってるくらいだもの」


(いつ)()?」


 愛里はイチカの疑問に答えず、芹沢(せりざわ)店長の退場に興味を失い、一方的に別れを

切り出す。


「さてと……。芹沢(せりざわ)先輩も行ってしまった事だし、私もこれで失礼するわ」


 方向転換の途中、()()、その動きを止める愛里。


「言っておくけど、妙な噂はくれぐれも立てないでね」


 去り際に自分達を恫喝どうかつする愛里に、このえと希更も挑発的に言い返す。


「あら? でしたら坂本さんも、今後は他人の()くような行いは慎むべきですわ」


「もしくは、下着の方を控えるべき……」


 言葉の途中、希更は別の意味にも解釈できると気付いて、(ただ)ちに訂正する。


「あっ! 今のは『穿くな』って意味じゃなくて、デザインを(ひか)()にって意味なんだけど……」


「そんな事くらい分かってるし、あらぬ誤解で話を進めないでよ。まったく、もうっ……」


 (がん)として自説を譲らない愛里。

 彼女が店の外に出て行くと、三人も途端にやることを失い、じらい屋をあとにした。

愛里に関する怪しげな噂は、そのほとんどが、あきえによって流されたものです。

ゴモハァッ!?

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