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第3話 4

銀鮭定食太郎目線です。

4

【銀鮭定食太郎のお嬢様観察日記】

「いくらなんでも盗聴はいけませんよ、お嬢様」

「これはマキちゃんの護衛ですわ!南部様の魔の手からマキちゃんをお守りするという!」

 今日はJIMにて今年の新入社員の歓迎会なので、俺はゆっくりと羽根を伸ばしていいと許可をされていた。しかし、なぜか俺は現在、野鳥観察小屋の裏でお嬢様と小屋の中の鉄火様と南部の会話に聞き耳をたてているという、あまり褒められないことをしている。

 

 昨日、お嬢様はJIM関連の観光ガイド誌を十二冊も買い込んで来られた。るるぶ城ケ島2043年版、まっぷる城ヶ島2043年版、JIMウォーカー、旅行読売先月号、じゃらんJIM特集、ことりっぷ城ヶ島2043、地球の歩き方城ヶ島、たびまる城ヶ島などなど。歓迎会で廻るプランを考える為だという。

「プランAは最初にマキちゃんと、アミューズメントパークエリアの大森屋で『のり味ジェラートアイス』を食べてー、次に井村屋で『あんまん味の牛丼』を食べてー・・・」

「プランBは最初に劇場エリアの赤城屋で『ガリガリ君ソーダ味の醤油ラーメン』を食べてー、次におかめ屋で『納豆味のカフェラッテ』を飲んで-・・・」

「プランCは最初に・・・」

 (中略)

「プランNは、はあはあ・・・、えーとJIM中の食べ物屋さんは網羅しちゃったから、もしも緊急事態が起きたら、マキちゃんをお守りするために定食太郎、あなたわたくしと行動しなさい!」


 俺は銀鮭定食太郎(ぎんじゃけていしょくたろう)。小さい頃からメルお嬢様の執事見習いをしている。我が銀鮭家は代々衣奈家にお仕えしてきて、俺はメルお嬢様付きとして教育を受けてきた。

 俺はお優しいお嬢様のお気遣いのおかげで、小学校から高校まで普通の学校に通うことができ、将来的にお嬢様のお役に立てるように一般常識を身につけるべく、衣奈家傘下の衣ケミカルへ入社をさせていただいた。

 そこへお嬢様がご入社されたのはつい先日。まさかお嬢様が同じ工場で働かれるとは夢にも思ってもみなかった。

 小さい頃から、お嬢様は将来衣カンパニーを背負っていかれるために、厳しい英才教育をお受けになってこられた。あまりの厳しさにお嬢様が隠れて涙をお流しになられていたことも何度もあった。

 そのかいあってか、お嬢様はお若いのに経営者としてじゅうぶんな知識を身につけておいでだ。

しかし、二年前のあの事件の後からか、お嬢様はいつも気を張られて、周りの者には厳しく、時には冷たいと思えるようなお言葉を放たれるようになってしまわれた。でも、そんなお嬢様の立派なお姿も俺たち使用人には誇りにさえ感じていた。


 そんなお嬢様に異変が生じたのは、お嬢様が新入社員研修に行かれてからだ。

お嬢様のご様子がおかしい、と新入社員研修中のお嬢様に、諏訪湖まで呼ばれたサバイバルゲーム好きの使用人10名から異変の兆しを聞いた。お嬢様が時々独り言を言われるようになられた、と。さらに給料を減らされたと。

 それだけではまだよかったのだが、入社同期のある方のお名前を何度もお呼びになられて浮かれる。あまつさえ、その方のことを「ちゃん」付けされるなんて、いままでのお嬢様を知っている使用人からすると驚天動地のことだった。

 いったいお嬢様になにが起きたのかと心配していたのだが、どうやら鉄火様というご友人が出来たようだ。今までお嬢様には心を許せる友人と呼べる者は一人としていなかったため、きっと寂しい思いをされていたのだろう。初めてのご友人ができたということで、使用人一同、涙を流しながら大喜びをしていた。


 新入社員研修からお戻りになられてからは、毎日横浜の衣カンパニー系列の病院に鉄火様のお見舞いに出かけられ、屋敷に戻られてからは、「今日はマキちゃんが文明堂の三笠山を三個も食べて下さったのですよ」「それでね、マキちゃんが今度は宇治抹茶味のおでんを食べてみたいって言っていましたわ」と、楽しそうにお話して下さるお姿をみて、お嬢様にも本当に良いお友達ができたと安心していた。

 そんな中、お嬢様が突然鎌倉の弟君の御心(みこころ)様のお屋敷にお引っ越しをすると宣言された。ご友人の鉄火様と一緒に通勤をするために、同じ駅の近くへ住みたいとのことだ。

 俺たち使用人もご一緒できると聞き、皆大喜びでお引っ越しの準備をしていたのだが、使用人の一人の万歳梨奈乃(まんざいなしなの)だけが不満顔をしていた。万歳は私の一歳下の同僚だが、お嬢様と同性ということで幼い頃からお嬢様をお風呂にいれたりと、より親密なお世話をしてきた者だ。それだけにお嬢様への愛情が深いのだろう。ご友人の鉄火様へ対抗心を燃やしているようにみえた。


 話を現在に戻そう。

お嬢様は折角JIMでの散策プランを十四個もお考えになっていたが、劇場前の広場に竜田揚紅茶(たつたあげこうちゃ)というくせ者が出没したために、緊急事態対応のプランNへの移行を余儀なくされてしまった。


 お嬢様はそうとう残念だったと思われる。俺はお嬢様が美味しそうにお食事をされているお顔が大好きだ。なので俺もお嬢様同様、大変残念だった。自由行動ができなくなったためではない。本当だ。お嬢様第一だから。


 プランNでは俺がお嬢様に同行することになっているので、かねてからの打ち合わせ通りに、くじ引きでお嬢様と俺が組み合わされるように細工をしたのだが、南部(身長が195センチメートルもある巨漢です)にあっさりと見破られていしまった。咲の提案で直接申し込みをすることになったため、俺は他の人にお嬢様をとられないように一番にお嬢様にお声をかけた。


 鉄火さんと同期入社の南部は、南部の趣味という野鳥観察の為に野鳥エリアにやって来ていた。もちろん俺とお嬢様は隠れながら後ろをついてきた。

 お二人が野鳥観察小屋に入られたあと、お嬢様と俺は小屋の裏で聞き耳をたてていた。しかしよく聞こえないため、お嬢様のパートナーMoNStErのモナ香さまに小屋の中の音を拾ってもらって二人で聞くという、盗聴の一種をするはめになってしまった。


「いくらなんでも盗聴はいけませんよ、お嬢様」

「これはマキちゃんの護衛ですわ!南部様の魔の手からマキちゃんをお守りするという!」

 お嬢様によると、南部は鉄火様の幼なじみで、小学生の頃に鉄火様の命を救ったのだが、鉄火さんは南部のことを完璧にお忘れになっている。しかも新入社員研修のときも鉄火さんを何度か救ったほどに鉄火さんを慕っているが、未だに気持ちを伝えきれていない、とのことだ。

 お嬢様は「イエスマキちゃんノータッチ」というよくわからないキーワードをかさに掛けて、南部が鉄火さんに接近することを邪魔しているようだ。なんのこっちゃ?


 俺は南部と同性だからか、南部が不憫で不憫でたまらなくなった。南部はきっと不器用で照れ屋なのだろう。鉄火さんを何度も救っているが、自分からは告白する勇気がないのだと思われる。とてもシンパシーを感じる。

ここは会社の先輩社員として南部のサポートをしてあげよう、と思った。さしあたっては俺の小学校からの友人の桜鯛咲が面倒見がいいので、いい相談相手になってもらえるかもしれないな。

 しかし、お嬢様のお気持ちに反することをするので、このことはお嬢様には内緒にしておかなければならない。ばれたら大変だ。お嬢様の制裁が待っているからな。しかし主の奇行を止めるのも使用人の役目だしな。


 小屋のなかの二人はなかなかいいムードで話をしている。それを聞くお嬢様はとてもイライラしているようだ。

『あのさ、月平。新入社員研修のときや今日も助けてくれたじゃん?月平、ありがとね』

 お嬢様むっとしている。

『でさ、聞いてみたかったんだけど、月平、なんであたしを何度も助けてくれたの?』

お嬢様がしまった!というお顔をしている。

『あ、ああ。あれは、えーと、その・・・、そうだ衣奈に頼まれたんだ。鉄火を助けてやってくれと。』

お嬢様がほっとしたお顔をしている。

『あ、そうだもう一つだけ教えて?研修中に『忘れてる』だとか、『今度こそ守る』とか言っていたけどあれはどういう意味なの?あ、いいんだよ言いにくいことだったら、別に無理に聞こうとか思ってないからさ・・・』

今度はお嬢様の顔色が青くなっている。

『あの、鉄火。実は俺・・・』

お嬢様がたまらず、「いけませんわ!」と大声で叫んでしまった。大変だ!小屋の中のお二人に盗聴がばれてしまう!

『いやいいんだ。またいつか話できる時がきたら、その時は・・・』

どうやら露見はされなかったようだが、とても危ういところだった。


 お嬢様も反省されたのか、しょんぼりとしている。不覚にもそんなお嬢様も可愛いと思ってしまった。これに懲りて盗聴などと不作法なことは二度としないといいんだけど。

しかしすぐにお嬢様は南部に対する不満気な表情に戻っていた。困ったモノだな。


 JIMの中には衣奈家の手の者が多数潜入している。俺のようにメルお嬢様の使用人もいれば、衣奈家に直接雇われている者もいる。

 先ほど、衣奈家直雇いの忍び、そしてJIM内の衣奈家特別部隊統括をしている八つ橋ちまきと接触した。

「相変わらず緊張感のない顔と名前をしてるわね、定食太郎。

梨奈乃は元気?わたしと逢い引きしていると知ったら許嫁が心配するわよ?ふふふ」

「うるせーちまき。何の用だ?」


 なんと、俺達が気がつかないうちに、野鳥観察小屋の中で黒糖吹雪が鉄火さんを襲っていたというではないか!八つ橋が助けようとする前に南部が吹雪を撃退したとのことだが、非常に危ういところだった。狙いはやはり鉄火さんのパートナーMoNStErの雪ちゃんみたいだな。

 おそらく敵はJIM内に罠をしかけていて、二重、三重の攻撃を仕掛けてくると思われる。

 俺とお嬢様は鉄火さん達とすぐに合流し、衣奈家の者が多く潜んでいる劇場エリアへ急いで移動することにした。

 その時、海から敵が襲撃してきた!しまった、先を越されてしまった!

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