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第3話 1

第三話 JIMで奴らに巻き込まれる

1 

 現在、野鳥公園の観察小屋付近。コノ声ガ聞コエタラ誰カタスケテクダサイ。オトコクサイ。オトコクサイ。アタシモウムリ・・・。

「マキちゃん、マキちゃん、気をたしかに!」

ユキチャンノコエガキコエル・・・・。

はっ、あたしどうしたんだろ?溺れた?陸で溺れてた?


 十畳程度の広さの野鳥観察小屋の中はアイドル好きと思われる男達でいっぱいになっていた。もはや満員電車状態。

なんで?ついさっきまであたしと月平の二人きりだったのに、たった五分もしないうちに男だらけだ。あまりにも人が多くて恐いので、恥ずかしいけどあたしは月平の腕にしがみついていた。そうしないとはぐれてしまいそうで。

月平はあたしを守ってしっかりと肩を抱いていてくれている。なんか安心する。


 先ほど15時の鐘が鳴った。これは月一回のJIM148の特別イベント、「スタンプゲーム」スタートの合図だ。

 「スタンプゲーム」はJIM148というアイドルグループのメンバー全員が城ヶ島の南側全体にまたがるテーマパーク「JIM」の隅から隅までに散らばって、それを参加者が探しだすというゲームだ。

 アイドル達はQRコードが印刷されたそれぞれ違ったカードを持っていて、参加者があらかじめスマホにダウンロードしたアプリからカードのQRコードを読み取ると、一人ゲット。

できるだけ沢山のコードを読み取って数を競う。上位者には景品と劇場前の景品ショップに一ヶ月間名前が掲示される。

さらにQRコードからは毎月違ったアイドルの写真もダウンロードできるので、コレクター性もあってマニアにはたまらない仕様になっている。


 アイドルはできるだけ見つからないように様々な場所にいて、コスプレをしたりしている。

過去の例をみると、「くまわんジム」の観覧車の中、喫茶店でウエイトレス、駅の駅員、ホテルのボーイ、ヨットに乗っている、劇場のチケット売り係、観光客のふり、水族館のシロクマの調教師、水族館の水槽のなかで魚にエサやり、「うり坊君」の着ぐるみの中など毎回多彩だ。


 各アイドルには毎回ランダムで「レア度」が設定される。★1~★5までで、★5のSSRになるとスタンプが5個分もらえる。もちろん★5のカードの写真はレアすぎてマニア垂涎の的だ。写真はブロックがかかっているのでコピーも転送も出来ないからなおさらだ。


 イベントが一時間だけなのと、アイドル達も見つからないように工夫をこらすので、未だに148人全員をコンプリート出来た人はいない。さらに言うとトップアイドルの八つ橋ちまきちゃんのカードをゲットした者は未だにいない。と、先月号の旅行読売のJIM特集に書いてあった。


 でも、なんで野鳥公園にこんなに男どもが集まってきているの?

 周りの男どもが口々に言っていることから推測すると、JIM148のトップアイドルの一人、八つ橋ちまき(はつはしちまき)ちゃんが★5のカードを持って野鳥公園の観察小屋付近に現れた、とSNSで誰かが情報を拡散したみたいだ。


「ちまきちゃん隠れてないで出ておいでー!」「ちまきちゃん愛してるー!」「ちまきちゃん、ちまき買ってきたよ-!」「ちまきちゃん、ラブリー、うふふ」「ふごーっ、ちまきちゃんはどこだーっ!」などなど。

もしもちまきちゃんが本当にここにいても、絶対に出てこないよ。


 早くちまきちゃんでもなんでも出てきてもらって、この満員電車状態を解消してほしい。じゃないと、あたしずっと月平に抱かれてておかしくなっちゃう。


 身動きのできないアタシのパーカーのお腹のポケットに誰かの手が入ってきた!入ってきてもぞもぞ動いている!!

月平どさくさにまぎれてあたしを触ってるの?なにしてんのよ。・・・・そんなに触りたかったら、ちゃんと言ってくれたら、少しだったら許してあげるかもしれないのに、もう。でもここじゃ嫌だよ?


 なんて思うかー!このスケベ!

 あたしは月平を殴ろうと見上げた!あれ?月平の両手、あたしの肩を抱いてるよ?

じゃあこれは・・・・?


「きゃー!ちかんよー!ヘンタイよー!」

 月平はもちろん、周りに聞こえるように大声で助けを呼んだ!

 月平が気がついて、あたしの真後ろにいる小柄なヘンタイを捕まえた!

「あんた黙って、おとなしく第三世代をわたしなさいよ!」

 月平に腕を捕まれたヘンタイから聞き覚えのある女の子の声が聞こえる。真っ赤なトレーナーを着て、帽子をかぶって、サングラスをしているが間違いようがない。


「あ、あんたは吹雪!」こいつはあたし達の新入社員研修で雪ちゃんを奪おうと襲ってきた一味の黒糖吹雪(こくとうふぶき)だ。こんなことするのは吹雪に違いない。

 

 すると、周りの男どもがざわめきだした。

「吹雪って、あの黒糖吹雪ちゃんか?」「吹雪ちゃん愛してるー!」「吹雪ちゃん、こしあんのおまんじゅう買ってきたよ-!」「吹雪ちゃん、ラブリー、うふふ」「ふごーっ、吹雪ちゃんはどこだーっ!」

 なんで、男どもが吹雪を知っているの?


 あ!あたしは思い出した。

 先週読んだ、じゃらんの「JIMを100倍楽しむ方法」にJIM148メンバーの名前と写真が載っていたけど、そこに黒糖吹雪の顔と名前も載ってたわー!あたし絶対同姓同名のそっくりさんだと思っていたけど、本人だったわー!てへへ。


 「黒糖吹雪の今日のレア度は★5個だよ!みんな集まれー!!」

 あたしはでたらめを言って、吹雪に注目を集めようとした。そのとたん、

「フ、ブ、キ!フ、ブ、キ!フ、ブ、キ!」と地鳴りのような野太い声で周りの男が一斉にこっちに殺到してきた!

「ひいいっ!」吹雪は無理矢理男達をかき分けて、野鳥観察小屋から逃げていった。それを男どもが追いかける。まるで津波のように。


「おぼえてなさいよー!きゃーさわんないでよ!」吹雪が去っていった。周りの男ども全員を引き連れて。


 「危なかったー、雪ちゃんを鞄に避難させておいて正解だったよー」

 吹雪と男どもが去ったあと、野鳥観察小屋にはあたしと月平だけがぽつんと残されていた。八つ橋ちまきちゃん出没情報は吹雪の計略で、どさくさにあたしから雪ちゃんを奪うつもりだったんだね。危ない、危ない。

でも、吹雪ばかだよね。悪の組織(?)なのにアイドルって。

 

 ほっとしたあたし達の上から誰か降ってきた。誰?忍者?忍びの者なの?

「あー、きつかったー」

 あれれ?本物の八つ橋ちまきちゃん?アイドルの?ずっと天井にいたの?忍者の格好で?

「はい。スマホ出して!」


 あたしは言われるままスマホをちまきちゃんへ渡した。するとちまきちゃんはあたしのスマホのパスワードロックをいとも簡単に解除して、「スタンプゲーム」のアプリを起動して、自分で持っているカードのQRコードを読み込ませた。

「じゃーねー。お二人さんお幸せにねー」風のように去っていった。呆然としているあたし達を残して。


「あたしたち付き合ってないもん。・・・まだ・・・」

 あたしのスマホには★5の表示が残されていた。

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