第1話 4
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「マキちゃん、ここの会社は基本的に管理職以外は労働組合に入ることになっているの。それでね、組合の中に青年婦人部って若い人向けの組織があって、そこが今年の新入社員の歓迎会を開いてくれることになったそうですわよ。」
食事のあとみんなで雑談しているときに、メルちゃんが教えてくれた。
「青婦部の部長さんがマキちゃんにも連絡して欲しいって言っていましたわ」
歓迎してくれるんだー。うれしいねー。
「今月26日の日曜日10時、場所は城ヶ島アイランドマリンパークの正門に集合だそうです。マキちゃん一緒に行きましょうね」
おおー、城ヶ島アイランドマリンパーク、通称JIM。
JIMとは城ヶ島にある複合テーマパークだ。
城ヶ島は、神奈川県の南端の三浦半島のさらに南にある、東西幅1.8km、南北0.6kmと横に広い、面積が約1km2の小さな島だ。西の方に向って走っている怪獣の形に見えなくもない、かもしれない。
そこに、神奈川県と京急とその他民間企業数社が共同で計画し、城ヶ島の未だに開発がされていない南半分側に15年の歳月をかけて、ようやく数年前に完成した。津波や高波から島を守る為の総延長2km以上の防波堤も沖に建造され、総工費はうん千億円とも言われている。
JIMには五つのエリアがある。
一つ目はアミューズメントパークエリア。愛称は『くまわんジム』。
長い間浦安の有名テーマパークに観光客をとられて苦渋を強いられていた神奈川県が、負けじと関東圏一のテーマパークを企画した。
テレビや映画、ゲームなどで子供達に大人気の、『隈取りモンスターカブキと腕白忍者うり坊さん』をモチーフとした、完全追体験型の巨大遊園地だ。
アスレチックのようなアトラクションや、小山のボルダリング登山、実際の農業体験、ひたすらぐるぐる同じ所を回る超難易度のジェットコースター、半分地面に埋まっていて周りから覗かれる観覧車が大人気だ。
二つ目は水族館エリア。油壺の水族館が老朽化したこともあり、城ヶ島に日本一大きな水族館を建造した。
魚の種類も日本一で、イルカ、アザラシ、セイウチ、シロクマなどのショーを見ることも出来る。
三つ目は野鳥公園エリア。もともと城ヶ島の南側にはウミウ、ヒメウなどの繁殖地があり、県の天然記念物に指定されている。そこを守りつつ、野鳥の観察が出来るように観察小屋などが整備された。
四つ目はマリンスポーツエリア。城ヶ島南側の海は波が荒いため、それを活かしたサーフィン、ヨット。城ヶ島北側から対岸の三崎市場の間の波が穏やかなエリアではダイビングや海水浴が気軽に、安全に楽しめるように環境整備されている。
それから岩場からの投げ釣りとヨットハーバーから出港する船釣り。釣った魚はパーク内で捌いてもらって新鮮な内に食べることも出来る。
五つ目は超豪華ホテルと大劇場、温泉と屋内プールを有した劇場エリア。21世紀に入ってから各地で流行しているご当地アイドルを城ヶ島でも発掘した。その名もJIM148 (ジムひゃくよんじゅうはち)。女の子100人と男の子48人の総勢148人の混成ユニットで、年齢も下は小学生から上は78歳まで、全方向に死角なしを称している。
全員が横須賀市から三浦市の間に住んでいる人から起用されたことも話題に上った。毎週末に大劇場でコンサートが行われている。
月に一回は特別イベントとして、城ヶ島全体を使ったJIM148全員を探す「スタンプゲーム」が開催されているらしい。
また、ホテルや飲食店では三崎港から湘南近辺で捕れた魚介類が、豊洲市場以上の新鮮さで来客の舌を楽しませている。
まさに夢の国。
この冗談のような複合テーマパークが大受けした。
週末は国内外の観光客で大賑わい。
それを後押ししたのは、JIMの開園に併せて、京急が三崎口から城ヶ島まで路線を延長したからだ。在来線とは別に新規に地下に掘った京急のリニア超特急に乗れば品川駅から城ヶ島駅までノンストップでわずか15分。これは山手線で品川から上野に行くくらいの時間だ。たった15分で海に遊びに行けるんだよ?すごいねー!残念ながら全席指定席特急券のリニア超特急は少々お高いですけど。
三崎口駅から先の在来線が停車する駅は三浦中央駅、三崎市場駅、そして終点の城ヶ島駅が新たに開業した。三崎市場駅と城ヶ島駅は地下駅になっている。
なんであたしがこんなに詳しいって?
あたしの配属が三崎工場に決まってすぐに、『るるぶ城ケ島2043年版』を買って隅から隅まで読み尽くしたからだよ。
むちゃくちゃ楽しみ!しかもJIMは衣カンパニーもスポンサーの一社になっていて、社員証を見せると入場料が半額になるんだって!いまからでもすぐに行こうよ!




