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第3話 2

2

 すぐにあたし達に合流してきたメルちゃんが、どこからかロープを出してきたので、ヘンタイをぐるぐる巻きにして木の根元に縛りつけておいた。二度と近寄るな!

 なにか不穏な空気を感じてあたし達は一旦研修センターへ戻ることにした。ヘンタイを置いたままで。


 研修センターのエントランスでは層君があたし達を待っていた。

すっきりしましたか?じゃなくって、あなたのマキはヘンタイに汚されてしまいました。もうあなたに愛を告げることができないあたしを許して。


 層君はメルちゃんと乱ちゃんに小声で、

「僕が確認しただけでも奴らは三人入ってきていた。さっきの囮を含めても四人だ」

「Gも一匹見たら十匹おるって言うからな。もっと来てるかもな」

 奴らってさっきのヘンタイの仲間のことかな?これ以上変な人が増えたら無理。もう帰りたいよ。ちなみにGってなに?もしかしてゴ○ブリ?青森にゴキ○リはいないから見たことないよ。


 研修センターで、万歳さんにヘンタイが木に縛られている旨を話して、あたし達は「チーム三浦大根」の会議室へ戻ってきた。万歳さん一人で大丈夫なのかな?


 部屋に戻ったタイミングで、カラスの勘九郎が戻ってきた。

「ご苦労。どないやった?」

「へい姐さん。ネコを拐かした下手人は、そのままゲート近くに潜んでいた別の人間にネコを渡して、このセンターに向かって戻って来ている途中ですぜ」

「あんたが見たところ、相手は何人おるようやった?」

「木に縛られているヘンタイを含めて六人。ゲートの警備員は縛られて床に転がされておりやした」

「勘九郎、あんたいいエージェントになれるで」

エージェントってたしか代理店って意味の英語だっけ?お店でもやるのかな?


 メルちゃんが月平にこっそり言っているのが聞こえた。

「マキちゃん、予想以上ににぶいようですので、やはりわたくしたちのサポートは必要ですわよ?」

あたしは地獄耳とよく言われる。特に悪口は人の十倍聞こえる。

メルちゃんって実は口が悪いの?あたしにぶくないよっ。足速いもん。


 「ウチらだけで奴らと戦うつもりやったけど、予想外に敵の戦力が多かった。しかも有線の電話も繋がらんので応援も呼べん。奴らに電話線切られたかも知れん。

敵はさらに増えてくかも知れんので、さすがに皆を守りきれる自信はあらへん。

ホントは内緒の方がよかったんやけど、ここは研修センターのみんなに現状を知ってもらって、全員で敵と戦う必要があると思うんや」

 「乱ちゃんってナニモノなの?なんでそんなことわかるの?」

 「マキちゃん、それは内緒なんや」

 「ふーん。わかった!」

 「マキちゃん。ええ子やね・・・」

 あたしは昔からあまりこだわらない性格とよく言われる。こだわりはあるよ、あんパンはつぶあんとか! 

 

 あたし達は、乱ちゃん達が「奴ら」と呼んでいたナニモノかの襲撃に備えて、新入社員のみんなに情報を伝えるのが一番最初だと判断した。

センターの外に繋がるドアを全て施錠し、すぐに万歳さんにお願いして、場内放送にて全員を大ホールへ集めてもらった。


 五分後、全員が集まってきたのを確認して会場がしーんとしている中、あたし達のチームからメルちゃんが代表して今まで起こったことを皆に説明した。

 「ここにお集まりの新入社員の皆様に緊急でお伝えすることがございます。実は先ほど、わたくしたち三崎工場のメンバーが遭遇したのですが、尼崎工場配属の一人のパートナーが、外部から侵入したと思われるナニモノかに襲われて誘拐されました」

 誘拐されたパートナーの相棒がヘンタイで敵の一味なのは隠くすことにした。お互いに疑心暗鬼になるのを防ぐためだ。

 会場の人達が驚いてざわざわと騒がしくなった。

 「さらにわたくしたちのパートナーも同様に奪われる寸前でした。幸いにしてチーム一丸となって防衛しましたが、敵はさらに襲ってくる恐れがあります」

 もう既にセンターは囲まれているかもしれないが、パニックになるのでそれは伏せておいた。

 「これまでのことから推定するに、敵はわたくしたちの大事なパートナーをさらう目的で襲ってきていると思われます。これはとても許し難いことです!みなさん、敵からパートナーを守るためにご協力をお願いしたいのです!」

 会場の中から、『そんな危ないことになるならパートナーを渡してしまえ』とか『こんな危ない会社に入るんじゃなかった』、『そんなこと言って、おまえらがパートナーを連れ去るつもりなんじゃないか』と言った非協力的な声がちらほら聞こえた。

 「皆さん、このままでは危ないのです!どうか!」会場がざわざわと騒がしく、メルちゃんが必死でお願いしても誰も聞いてはいない。


 「こぉらあー、お前らいいかげんにしろー!!」

あたしは思わず大声で叫んでしまっていた。

「自分たちのパートナーが大事じゃないのかよ!盗られてしまったら、二度と会えなくなるんだぞ!それでもいいのか!自分がよければそれでいいのか!それでも男か!きん○ま取ってしまえ!このほんつけなす!」

 

 会場がしーんとなった。一昨日に引き続きまたやってしまった。しかもお下品なことまで言って。

層君にも聞かれちゃったよね?もう穴を掘って冬眠したい。このまま消え去りたい。さようなら。ばいばい。


 そのとき会場の端の方から女の子が、

「わたし、鉄火さんと一緒に戦います!わたしのミーちゃんが取られるのは嫌です!」

「わたしも、わたしのぽちと離れるのは嫌です!」

「俺も戦うぞ!」

「俺も!」

「俺」

「俺」

最後はオレオレ詐欺しか聞こえなくなったが、会場のかなりの人が協力してくれると言ってくれるようになった。

あたしは恥ずかしいやら、嬉しいやらで、メルちゃんと乱ちゃんの腕を握って引っ張り、思いっきり抱きしめた。

 「よかった!よかったよ!」

 すると大ホールの前の方の席に座っていた女の子達が立ち上がって、あたし達の方に駆けてきて、あたし達を取り囲んで周りから抱きしめてきた。ちょっと息苦しい。

 ポケットの中から雪ちゃんが聞いてきた。

「マキちゃん、ところで『ほんつけなす』ってなに?なすのお漬け物?それから、きん○まって?」


 その夜、施錠したドアを男子が交代で警備するなか、みんなは交代で夕食を取った。

 尼崎工場の人に、竜田揚紅茶の行方を聞かれたが、しらばっくれておいた。

そして奴らがいつ襲ってくるかわからないので警戒していたが、予測した「奴ら」の夜間の襲撃はなく、結局徹夜で警備するはめになった。徹夜で警備していた男子ご苦労さんだよ。

 翌朝七時、全員が眠い目をこすりながら、交代で朝食を摂っていた。既に大部分の人が、敵の襲撃はデマかと思い始めたとき、異変が起こった。

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