第3話 3
今回、MoNStErの名前の由来と、0話で出ていたあの人が登場します。
誤字訂正しました。
3
どん!どん!どん!どん!センター正面エントランスのガラスドアが、何者かに強く叩かれたのである。
エントランスを警備していた男子から報告が入り、あたしや乱ちゃん、月平は数名の男子達と一緒にエントランスへ急行した。
ドアの向こうには、短い髪をぼさぼさにして無精ひげで眼鏡をかけて、よれよれの作業服を着た細めの若い男が無言でドアを叩いていた。
新たなヘンタイの出現か!とあたしが元来た通路を逆戻りしようとしたとき、乱ちゃんが、「なんや、本能寺やないか?」
え?ヘンタイに知り合いがいるの?
「眠い」
本能寺と呼ばれた新たなヘンタイさんは、エントランスの内側に通され、一言いうと床に寝てしまった。
いいの?こんなの入れて。縛っておいたほうがいいんじゃないの?
そこへ乱ちゃんと層君が集まってきた。
「あら、本能寺様?どうしてこんなところへ?」
「本能寺さん、レイカ先生に頼まれて来たのかな?」
え?知り合いなの?ヘンタイさんじゃなかったの?
そういえば作業服の胸の所に刺繍で『衣ケミカル』って書いてあるわ。社員さんだったのね。でも敵に襲われなかったのかな?
気持ち悪かったので、あたしは靴のつま先で腕のあたりをツンツンと押してみたりした。
その途端、急にロボットのように上半身を起こして、「腹減った。お嬢様」とメルちゃんの袖にすがりついた。やっぱり気持ち悪い。
いつ敵が襲ってくるかわからない緊張感の中に、緊張感のかけらもないおじさんが紛れ込んで来た。
ただ、あたし達にとってはセンターの周囲の状況を知りたかったので、本能寺さんというおじさんに朝食を与えながら、なぜここに来たか?ここに来るまでに敵はいなかったか?ここの周りはどうなっているか?等、矢継ぎ早に質問してみた。
なにを聞いても黙って、納豆かけご飯をお代わりして食べていたが、ようやくお腹が一杯になったと見えて、「ご馳走様」と箸を置いた。どれだけ納豆好きなんだ?あたしも納豆好きだけど!
「もういい加減教えてくれんかな?」
乱ちゃんが納豆の臭いを嫌がりながら、本能寺さんの肩に手をかけた。
「あんた京都人やろ。ようこんなん食うなー」
「ここに鉄火レイカの妹はいるか?」あたしのことだ。
「はい。あたしだけど」あたしが手を挙げた。
「よし。お前は今からオレの半径5m以内に近づくな」
なにこの人、いきなり失礼な!
「それから、妹、お前のパートナーを見せてくれ」
こんな人に雪ちゃんを渡したら変なことされるに決まってる!
「嫌です!絶対に嫌です!」
「オレはレイカに脅されてここまで来たんだ。
夕べ寝ているところにいきなりやって来て、たたき起こされて、嫌がるオレに蹴りを入れながら、ここにオレが見たがっていた、妹のパートナーの、普通とは違うMoNStErの子がいるから研修センターまで直ぐに行ってこい、と。
それはまあいい。でも、妹には絶対手を出すなと。出したらオレを再起不能にしてやると。
あいつは言ったことは必ずやる女だ。
まずはオレに近づくな。オレの命が危ない」
ガクガクブルブルと震えだした。
えーと。ウチの姉がものすごくご迷惑をおかけしたようで。とりあえずはごめんなさい!というか、お姉ちゃんと知り合いだったんだ。
お詫びに雪ちゃんをちょっとだけ見せてもいいかな?変なことしたら再起不能にしてやるけど!
ポケットの中で既に起きていた雪ちゃんをあたしのポケットから優しく、本能寺さんに嫌々差し出した。
「直ぐに返して下さいね。5秒、5秒だけですよ!それ以上はお姉ちゃんにいいつけますからね!」
さっきの話からすると、きっとお姉ちゃんの名前を出すと素直に言うこと聞くに違いない。
ところが雪ちゃんを見た途端、本能寺さんの目の色が変わった。さっきまでのやる気のないおじさんといった目から、獲物を狙う猛獣のような真剣な目だ。ものすごい迫力にあたし達は引いてしまった。
本能寺さんは最初に雪ちゃんの頭から顔にかけてなめるようにじっくりと見つめていた。
「5秒、5秒経ったから雪ちゃん返して下さい!」
あたしの催促を無視して、なんとおもむろに雪ちゃんの足の方から、スカートをめくって中を覗こうとした!
「このヘンタイ!」
あたしは無理矢理雪ちゃんを奪い取って、本能寺さんの頬に思いっきり渾身の力でびんたをくれてやった!
本能寺さんは勢いよくテーブルの向こうに吹っ飛んでいった。
「この人恐いですー」雪ちゃんが震えながら、両手あたしの指にしがみついてきた。
「雪ちゃんがヘンタイおじさんに汚されたー!雪ちゃんもうお嫁に行けない体になってしまったよー。ウチにお嫁においで」
「オレは第三世代の体を見ようと思っただけでな・・・、ぐわっ!」
あたしは渾身の蹴りをいれてやった!ん?第三世代って?
「やっぱりヘンタイおじさんじゃないですか!メルちゃん、ロープある?」
またもやメルちゃんがどこからかロープを出してきた。
「わたくしも第三世代なんて聞いておりませんわよ?どういうことでしょうか?」
ヘンタイおじさんをロープでぐるぐる巻きにして、床に転がして放置していたら、ヘンタイおじさんの方から話しかけてきた。
「お前ら、「MoNStEr」がなにか知っているか?「MoNStEr」の名前の由来をしってるか?」
え、怪物とか、お化けとかの感じだから「MoNStEr」って言うんじゃないの?
「その顔だと誰も知らないようだな。時間もあまりないようだから、あいつらがそう呼ばれる由来だけ教えてやる」
時間がないって、どういうこと?由来って?
「2020年リビアのハルジュ火山付近から発掘された鉱石に混ざっていた『宝石のような何か』は、直ぐにドイツの研究機関で分析にかけられた。
それは『ジェムストーン』と名付けられ、元素分析から多量に含まれていたのは多い順からモリブデン、窒素、ストロンチウム、エルビウム、それと微量のバナジウム、ガリウム、パラジウムなどのレアメタルとわかった。それらの化学名を並べると・・・」
「Molybdenum、Nitrogen、Strontium、Erbium。頭文字を並べてMoNStErだ。
ちなみに、元素記号だと、ストロンチウムはSrだから要注意な」
あたし化学名聞くと頭痛くなる人種。ここから先は話について行けない。ギブアップ。
「その『ジェムストーン』は、ある高分子有機化合物と混合した状態で、生物の欠片、例えば抜けたネコの毛でも犬のうんこでも、生物に由来するモノに接すると、生物のDNAを読み取って、『まるでその生物のような形をとって、その生物のように動き出す』ことが実験からわかった。
なぜそんなことができるのか、誰もわからなかった。
しかし、それが第一世代のMoNStErの始まりだった。
そして、第一世代にモノを考える心のようなモノが追加されたのが、第二世代だ」
生物の形をして動くんなら生物なんじゃないの?
「お手上げになったドイツは国際研究機関にサンプルを提出して、そこで世界中の研究者が共同で研究することになった。あまりにも今までの理論とかけ離れた性質の物体だったからだ。
地球外生物説、生物の突然変異説、人工擬生物説、さまざまな説が唱えられた」
「その中で一番説得力があり、皆が納得したのが、ドイツの研究者ドクター・ギアマンの提唱した『新たな触媒になりえる単なる無機混合物質説』だった」
えーと話が長いけどまだ続くの?もう飽きてきたんですけど?部屋に帰って寝ててもいいですか?
「生物と無生物の違いがわかるか?」
生きてるか、死んでるか、じゃなくて?
「オレは生物学者じゃないから正確な定義はよくわからん。ただし、繁殖する能力があるかどうか、且つ繁殖する気があるかどうか、さらに言うと繁殖するために栄養を摂取する努力をするかどうか。とオレは思っている。つまり生物の本能の有無だ」
えー、そーかなー。ウチのお姉ちゃんは独身だけど生き物だよ?
「こいつらにはそれがない。その気もない。単に動き回るだけでロボットと一緒だ」
「雪ちゃんをロボットと一緒にしないでよ!雪ちゃんは笑ったり泣いたり悩んだり、人間と一緒だよ!」
「お前本当にこいつが自分で考えて行動していると思っているのか?プログラミングされて、教育された行動パターンで動いているだけではないと言い切れるか?第一おかしいじゃないか、生き物じゃないのにモノを考えるなんて、しかも感情があるなんて」
「そ、それは・・・」
あたしは理論的な話が苦手だ。どのくらい苦手かというと、もおんのすごおく苦手だ。
(注:ものすごく<もおんのすごおく)
「あんたなんかヘンタイのくせに!嫌い!ばーかばーか!」
あたしは訳もわからず、雪ちゃんを連れてその場から逃げ出して、センター二階の自分の部屋へ帰ってしまった。「マキちゃん、待ってえな!」乱ちゃんと月平が追いかけてきてくれた。
「マキちゃん、あいつは昔っからあんなんなんや。許したってえや。あれは悪気はないんやで。ただ単にアホなだけや。それにあんな化学オタクのアホでも、いいとこあるんやで。あれ?あったかいな?」
どっちやねん!
「むかつく、むかつく、むかつく、むかつく、あーむかつく!あんなの土掘って埋めてしまいたい!」
あたしは、ベットで頭を枕にうずめて足をばたばたさせて転げ回った。
「ちなみにおじさん呼ばわりしてたけど、マキちゃんのお姉さんと同い年やで?」
マジですか?たった五歳違いと思えない!




