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   ***




 ――――きろ。


「……………?」


 ――――起きろ。


「誰だよ、ぼくはとても落ち込んでいる。それにとても眠いんだ」


 おれはお前に作られたチョコレートでできたライオンだ。


 ふと気がつくとテオブロマの枕元には、表にいるはずのチョコレートでできたライオンがいました。


「――――なんだ夢か。夢だからチョコレートのライオンが、ぼくに話しかけてくるんだ。

 どっちにせよこんな夜中に何の用だよ」


 お前は思い違いをしている。なんのためにおれを作った?


「それは……ぼくは父さんから『ライオンは誇り高い生き物だ』、そう言われて育ったんだ。だから……」


 それこそが思い違いだ。お前はその誇りとやらを表に置いて、ガラスケースの中に飾っていないと自分を保てないのか?


「…………」


 ましてやこの身体はチョコレートだ。今はまだ寒いからいいが、夏になったら溶けてしまう。

 それに白く粉がふいて食べられたもんじゃない。


「どうせ、ぼくは……」


 まあいい、状況はそう遠くなく変わる。

 問題はそのとき自分自身とおれをどうするかだ。

 じゃあな。


「じょうきょうが変わるってなんだよ――――」




   ***




 テオブロマは不意に目が覚めました。


「なんだ? この匂い、こげくさい」


 飛び起きて表に出ました。表には雪が降っています。チョコレートでできたライオンはガラスケースに入ったままです。

 テオブロマは街の異変に気づきます。夜空の雲が赤く染まっているのです。


「火事だーーーー!!」


 すぐさま毛布とバケツを何個も抱え火が出ている場所にかけつけます。

 木でできている家からもくもくとけむりがふき上げていました。

 テオブロマはドアをけやぶり、中にいた猫の家族を助け出しました。

 近くの井戸から水を汲んで燃えている家にかけます。

 近所から出てきた住人たちも協力しに来てくれました。

 一時間もすると火は消し止められました。みんなほっとします。


「うう、さむい。おなかがすいた」


 助け出されて毛布にくるまれていた子猫たちがみいみいと泣いています。

 何か食べ物があればいいのですが、真夜中なのでお店は開いていません。


「どうしよう……そうだ! ちょっと待っていてくれ」


 テオブロマは走ってお店に戻りました。

 南京錠の鍵を開け鎖をほどき、ガラスケースを外します。

 それから、店の奥からハンマーとのこぎり、おのを取り出しました。

 そして――――




   ***




「うん? なんだかいい香りがするぞ」バクの大工さんが鼻をひくひくさせます。

「ほんとだ、甘くて香ばしい香りだ」シマウマの花屋さんも匂いのもとを探します。

「あっちからしてくるぞ」サイの鍛冶屋が指さした方向からテオブロマがやってきました。

 手には大きな鍋を抱えています。


「さあ、これを飲んで」


 毛布にくるまれた子猫は差し出されたカップに口をつけます。


「あったかい、それにすごく甘い。

 ライオンさん、これホットチョコレート?」


「そうだよ、まずはこれであったまって。

 みなさんもどうぞ、量はたくさんあります、良かったらのんでください」


 街のみんながテオブロマの店に行くと、台座の上にあったチョコレートでできたライオンはハンマーで粉々に壊されていました。

 その隣にはコンロがすえられていて、チョコレートと牛乳と生クリーム、それらがたっぷり入った大きな鍋がくつくつと煮立っていました。


「みなさん、お代わりはたくさんあります。えんりょなくめしあがってください」


 それを聞いた住人たちは大喜び。

 長い行列を作ってホットチョコレートを飲んで温まってからそれぞれの家に帰りました。


 あくる朝、テオブロマはチョコレートでできたライオンの残り部分を、湯せんで溶かしなおしました。

 溶けたチョコレートを子猫の形にくぼんだ金型に流し込みます。

 冷えたら型から出して子猫型チョコレートをたくさん作って包み紙にくるみました。


 そして、たくさん積まれた子猫チョコレートをお店の外の台座で売り始めます。


「お客さん、来てくれるかな」


 テオブロマの心配をよそに、今までとは比べものにならないくらいのお客さんが来てくれました。

 みんなうれしそうにチョコレートを買っていきます。


「いや、あんたはもっとこわいのかと思ってたぜ。ゆうかんな上に優しい。それに気前がいいな」

「もっと早く来ればよかったわ」

「このチョコレートもおいしそうだが、他のお菓子も買いに来るよ」


 みんな口々に言ってチョコレートを買ってくれます。


「あっ、ライオンさん、きのうはありがとう」


 助け出された子猫たちがお母さんと一緒にテオブロマのところに来ました。

 子猫はポケットから小さな銀貨を出してテオブロマに渡します。

 テオブロマは子猫チョコレートをだいぶおまけして子猫にわたします。

 チョコレートを受け取った子猫たちはとてもうれしそうです。




   ***




 テオブロマは不意に店の奥、砕いたチョコレートのかたまりを見ました。


 ――――これでいいんだよね。ありがとう、チョコレートでできたライオン。


 テオブロマは嬉しくなって笑顔になりました。


 その様子は、彼の顔は鼻筋にしわが寄り、口の端がめくれ上がって牙がむきだしです。




 テオブロマは――――やっぱり笑顔になるのが下手でした。




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