銀行強盗やりましょう(2)
銀行強盗編の続きです。
更新のペースが大分不定期ですが、月に2回は維持したいなと思っております。
銀行強盗。
もう説明は不要だろう。
郵便局や銀行などの金融機関を襲い、金品をせしめる行為。
当然犯罪行為である。
その一番の特徴は、普通の強盗と比べて、圧倒的に検挙率が高いことだ。
「……日本の警察は優秀ですね」
「そうですね。世界で一つの国を作るなら、警官はドイツ人か日本人がよいと言われる位ですし」
ハルの呟きに、柚子がやたらマニアックな事を返す。
その言葉に、ふぅ〜と大きく息を吐く。
アパート地下にある、ハピネス地下作戦司令室。
その部屋には、紫音をはじめハピネス幹部一同が集まっていた。
「さて、全員集まったようだな」
ハルたちに視線を向けて、紫音が言った。
「もうすでに聞いていると思うが、今回我らが行うのは、銀行強盗だ」
ずいぶんとあっさり言ってくれるものだ。
みんなも呆れているだろう、とハルは周りの幹部を見てみるが……、
「銀行強盗か……もうずいぶんやってないわね」
をいをい、奈美さんやい。
「私はぁ捕まえる側だったけどねぇ」
ローズさん、意外な過去です。
「我輩も資金難でよくやったものだ」
蒼井よ、そんな気軽に出来るのか。
「最後にやったのは何年前かしら……。鈍ってなければいいけれど」
千景さん、指をポキポキと鳴らさないで下さい。
……どうやら、まともな人間はこの組織にはいないようだ。
いや、そもそも悪の組織なのだから、俺がまともじゃないのだろうか……。
そんな思考の渦にいたハルに、ハピネス唯一の良心が声をかける。
「あの……私もやったことないですから……その、強盗」
優しい言葉が、ハルの心を暖かく包んでくれた。
「そうだよな。やっぱりまともな人間は、銀行強盗なんかやらないよな」
「ほう。ハルは銀行強盗をやったことがないのか?」
紫音が驚いたような声を上げる。
こうなってくると、自分の常識がおかしい気がしてくるから怖い。
「ふむ……全員経験者かと思っていたが……これは予想外だ」
こっちが予想外です。
「いかがいたしましょう。予定通り、あの方をお呼びしてますが……」
「……そうだな。折角来てもらったのだ。先生にハルを鍛えてもらおう」
何だか、本当に予想外の展開になってきた。
いやな予感しかしないのだが……。
そんなハルの不安を感じ取ったのか、紫音はにやりと笑い、
「そんなに心配するな。ちゃんとお前が銀行強盗できるよう、先生を呼んでいるのだ」
どんな先生だ!!
「先生は戦後から活躍している大ベテランでな。その道では知らぬものはいない有名人だ」
一生通りたくない道だ。
「生涯戦績は、256戦250勝3敗3分け(176KO)と伝説級の好成績だ」
いや、ちょっと待て。
銀行強盗の戦績って、おかしいだろう。
「引き分けって、どういう状態だよ」
「盗みには入ったが、金銭を盗み出すことが出来ず、かつ警察に捕まることもなかったという痛み分けだ」
それって、単なる未遂じゃないのか……。
「じゃあ、KOって?」
「完璧に・おさらばできたの略でな。警察が来る前に完全に逃走に成功したケースだ」
紛らわしいことこの上ないな。
「戦績に負けがあるってことは……」
「うむ。人生は良いことばかりではないからな。先生は逮捕されるという屈辱も味わっている。まさに銀行強盗の酸いも甘いも知り尽くした達人だ」
確かに失敗談は役に立つが……。
というか、その人はめちゃくちゃ重犯罪者なんじゃ……。
「本来なら一生牢屋暮らしですが、もういい年ですし、最近はおとなしくしてるので、警察も黙認してますね」
いいのか……それでいいのか日本の警察。
「まあ、銀行強盗の先生としてはこれ以上の人材はいません。それは確かです」
「そりゃそうでしょうが……」
「細かいことを言うな。お前と柚子は先生にびしっと鍛えて貰え。これは命令だ」
「そんな無茶な」
情けない声を上げるハル。
「とりあえず、ハル君達が仕上がるまでこちらは情報収集を行ってますから」
「頑張ってよね。……別に、あんたと強盗したいなんて思ってないんだからね」
「期待してるわよぉん」
「我輩のライバルとして、恥ずかしくないようにたのむぞ」
そんな声援を受け、ハルと柚子は過酷な訓練へと挑むのであった。
と言うわけで続きます。
展開上、ハルと柚子の特訓は省略しますので、次回は特訓終了後となっております。
久しぶりの長編、最後までお付き合い下さい。