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あたしは女の子にしかモテない!  作者: 美浜忠吉
第1章 秋月二実の日常
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9/52

第8話 あたし、生まれ変わる

○


 この一週間、夏から夜間にみっちりみちみちテニスの練習地獄を

味わったあたしは、ウソの様に強くなってた。

 そりゃまあ、1万本ノックだの土手でタイヤ引き10キロだの

素振り1万回だのサーブ打ち返し1千本だのやってりゃ、

バカでも体力と根性付くだろね。


 その代わり体はあちこちボロボロだし、

ゲームできなくて泣きながら練習してたんだけどな!


 まあ一応昨日だって強豪の先輩方を相手に模擬試合しても、

いつもは1セットで2ゲーム取れればいい方なのに

5ゲーム取れるまでに腕が上がってた。

 しかも1セットを何とか取れるまでになってたんだから、

こりゃ努力の賜物だろうね。


 結果的にはまだ負けるけど、それでも先輩は驚いてたよ。

 へへ、いつもからかわれてるからちょっとスッキリしたぜ。


 そんで今日はテニス部定休日である水曜日、

ミラージュ先輩と試合をするため、

あたしは入り口から見て奥側コートに立って待ってたのさ。


 そんでコート全てを見渡せる高めの審判席に夏が座った。


 こう見えても夏はテニスのルールに地味に詳しく、

そして地味にうまいんだよなあ。


 ふと夏がコートの入り口に目を向ける。


「二実、どうやら来たみたいね。ミラージュ先輩が」

「へへっ、分かってるさ夏」


 だってミラージュ先輩の闘志はやたらと強く

こっちまでその威圧を感じるぐらいだったんだもんよ。


 そんな先輩が入り口から近い手前側コートの中心後ろで

立ち止まった。


「お待たせしましたわね?

少し準備に手間取りましたわ」

「いいえミラージュ先輩、

あたしらもそこまで待ってないんでお気になさらず」


 それにしてもミラージュ先輩の恰好は気合入ってたね。


 上は純白のテニスウェア……の背中にユニオンジャック付、

下は白と青を縦縞模様にしたエレガントな短めのスカート、

足には黒のニーソっぽいのを履いてスカートとの小さな

絶対領域を造り出し、

そんで足には純白のテニスシューズ。


 どれも高そうなんだよなあ。


 あと手に持ってた白と黒を真ん中で縦に分けた色の

テニスラケットは見た事ないメーカーだったから、

もしかしたらオーダーメイドかもしれない。


 そういやアイラちゃんから金持ちって聞いてたし。


「そう、それならいいんですの。それよりも二実さん?」

「あ、はい何でしょうか?」


 ミラージュ先輩は夏の方に不安そうな顔を向けてた。


「あの方に審判が務まるのでしょうか?」

「先輩大丈夫です、私こう見えてもスポーツ万能ですから!」


 そう答えたのは夏。かなり自信満々であり

適当な受け答えである。


 それでミラージュ先輩も納得して満足そうな顔してた。

 どういうことなの。


「それなら心配ありませんわね」

「ちょ、あの受け答えで納得するんですか先輩!?」

「ええ、本人も自信満々ですし問題ありませんわ」

「あはは、まあいいけど別に……」

「それよりも二実さん?」


 ミラージュ先輩はとつぜん照れ臭そうな顔をあたしに向ける。


「はい、なんでしょうか?」

「その、先週はわたくしの誕生日を

祝ってくださいまして……ありがとう……。

それと、突き放すような態度をとってごめん遊ばせ……」


 そんで下を向いてどんどん声が小さくなってくし。

 けどなんとか聞き取れたからいいけど。


「ああ、気にしなくていいですよ先輩。

別にあたしは怒ってませんから」


 あたしが気にしてない事を知ったら、

ミラージュ先輩の顔がパッと明るくなった。


 と思ったらすぐにムスッとしたし。


「コホン……まあ別にわたくし、あなたを怒鳴ったことは

気にしていませんし」


 うーん、よく分からない人だけど

やっぱり照れくさいのかねぇ。


「こらそこの妖怪女落とし。

いいからとっとと試合を始める」


 そんで夏があたしに向かってなぜか怒ってた。

 よく分かんないあだ名も付けられるしな。


「な、なんだよ妖怪女落としって……

別にあたしそんなことしてないから!」

「しかも無意識なのね……尚更達が悪い!」

「ああもう分かったよ夏、ちゃんと試合するから

公平な審判頼むぜ?」

「大丈夫、私は不正を許さないタイプだから」


 確かに白黒ハッキリつける性格だもんなあ。


「さて、無駄話も終わりましたし

試合の方を始めましょうか、二実さん?」


 ミラージュ先輩は優雅にグリップを左手で握り締めた。


「へえ、サウスポーなんですね先輩」

「ふふ、かっこよくて?」

「ええ、とてもかっこいいです」


 あたしは言いながら右手でグリップを強く握る。


「うふふ、どんなもんだいですわ」


 そしてミラージュ先輩は拙い言葉づかいで

嬉しそうなドヤ顔をあたしに向ける。


 なんかとても愛くるしいわ、先輩。


「では表ならミラージュ先輩がサーブ、

裏なら二実がサーブでコイントスしますね」

「ああっ!?」


 あたしは驚いた。


 なんでかと言うと夏がポッケから、

あたしが中等部1年の頃に泣きながら探してた

メタリックブルーのプラコインを取り出して

くれやがったからなのさ。


「それあたしのカードゲーム用の

コインじゃないか!」


 裏に小さくFって書いてあるから間違いない!


「あ、これ二実のだったのね。何故か私の部屋に

これ一枚だけ落ちてたのがよく分からないけど

綺麗だから貰っちゃったの。

なんか絵も可愛いらしいキャラだったしね」


 うわあああ、無くなってたと思ったら夏の部屋に

一式持ってって忘れてたのか、あたしのバカ野郎!


「……でもま、今じゃもうカードゲームは卒業してるから

どうでもいいし、いっそ夏にあげるわ」


 いちおう夏の奴も大切に持っててくれたみたいだしな。


「そう、それじゃあお言葉に甘えて貰っちゃうね。

これで遠慮なく私の大切な宝物にできるわ」

「おう、いつまでも大切にしてくれよなー」


 そんなこんなで試合前にあたし達は懐かしい記憶を

思い出してはしゃいでたもんだから、ミラージュ先輩の事を

すっかり忘れてた。


「あ、し、しまった先輩……あーあ……」

「ひう……ぐすん……」


 だから案の定、悔しそうな顔して震えながら

涙ぐんでいるわけで。


 これじゃあなんか、あたし達二人でミラージュ先輩を

虐めてるみたいじゃないか。


「ご、ごめん先輩! 悪気があったわけじゃ……」

「ゆ、許しません……」

「へっ?」


 なんか、ミラージュ先輩の様子がおかしい……?

 黒いオーラを発してるような気さえするし。


 あ、これってもしかして暗黒面に落ちたアレかい?


 とかアホな事考えてたら、ものすごい形相であたしを睨んできた!

 これはやばい、凄まじい怨念がおんねん……寒いよあたし!


「わたくし……絶対にあなたを下僕にしてさしあげますから!」


 先輩はラケットのヘッドをあたしに向けてビシッと指してるし。


「あ、すいません先輩! ですがあたしも負けるわけには

いきませんのでね」

「ふふふっ……このわたくしを怒らせてしまったこと、

あなたが島百合団に入団した後に

いくらでもお教えして差し上げますわ!」


「はい、コイントスしまーす」


 盛り上がってるあたしらを無視して、

空気を読まずに夏はマイペースでコイントスした。


 コインが夏の拳の上に乗っかる。


「……表ね。ミラージュ先輩の先攻です」


 そんで夏はボールを1球ミラージュ先輩に下投げして渡した。

 それを慣れた手付きで右手にキャッチする先輩。


「うふふ、素人相手に本気を出すのは

わたくしの性ではありませんが今回は……」


 先輩はボールをトス|(上に投げる事)した。


 そんで落ちてくる球がもうすぐ先輩の頭上にやってくる。


「特別ですわ!」


 その途端先輩が左手のラケットのガット|(網っぽい奴ね)に

ボールを叩き付けた。

 ガットに当たったボールは瞬間、グラス|(芝生)コートの

サービスエリア右隅ライン内ギリギリに強打されてた。


 それに反応できず、あたしはその場で固まってた。


「サービスエース、ミラージュ、フィフティ・ラブ|(15-0)」


 夏の無情なコールを聞いてあたしは目が覚める。


「はっ!?」


 あまりにも速いサーブは、

もしかしたらプロ並みだったかもしれない。


「……今のサーブの速度はざっと150キロって

ところね」


 なんで分かるの夏! ってツッコみはおいといて、

その速度はマジで半端ない。


 何せ、女子世界一のサーブの時速は

たしか200キロぐらいだった筈だからさ。


「そんなもん打ち返せるわけ……」

「ふふっ、たかがこの程度で根をあげますの?」


 先輩は余裕の表情で夏から貰った2球目のボールを、

ラケットを使って何度も地面に跳ね返らせる。


 しまいに跳ね返ったボールを右手に取り、

再度トスした。

 そんで再びあの強いサーブ。


「速っ!」


 次はあたしでも何とか反応できたが、ガットに当たる事無く

サービスエリア左下ライン内ギリギリに打ち付けられる。


「サービスエース、ミラージュ、サーティ・ラブ|(30-0)」


ばんなそかな、って言いたいぐらいあり得ない強さ。

まるで先輩達がお遊戯に見えるレベル。

 じゃあ、あたしはお遊戯以下って事だが……。


 そんで次のボールがやってきそう。

 右か左か分かんないけど。


「ふふ、驚きまして?」

「ああ……ちょっとレベルが違いすぎんすね先輩」

「そんなものは……当り前ですわ!」


 容赦なく打ち込まれたところは、まさかの真正面!


「ひえっ!?」


 そんでバウンドしたボールが

ビビるあたしの股下をくぐり抜ける始末。

 駄目だあたし、完全に舐められてるわ。


「サービスエース、ミラージュ、フォーティ・ラブ|(40-0)、

マッチポイント」

「うふふ……まさに手も足も出ませんことね?」

「……へへ」


 なんだろうね、この圧倒的な敗北感。

 勝てる気がしないんですけど。


「あら、まだ余裕そうに笑いますのね?」

「先輩、なんかあたし楽しいんすよ。すごくね」


 とか言ってあたしゃ震えた声で強がったけど、

それは先輩には無駄だった。


 なんか先輩の顔もちょっぴり興奮してたし。

 つうかあの目は人を蔑んだ目に近いねえ。


 そんでまたまたあのサーブの構え。マジとんでもない。


「そう、それは服従しがいが……ありますことね!」


 次は左隅ギリギリにきた!


 体自体は反応していても、打ち返せる技量が

あたしには圧倒的に足んなかった。

 なにせヘッド|(ガットの外枠)にすら掠らないからね。


「サービスエース、ミラージュ、1ゲームホールド、

サーバーチェンジ」


 それにしても夏は本当に公平だな。

 あたしが親友だろうと一切私情を挟まない。


 まあそこが夏のいいところだ!

 だからこそあいつの言葉を信用できるってもんだ。


「さあ、次はあなたの出番ですよ。二実さん?」

「あわっ!」


 夏があたしに球を投げ、

あたしは左手で華麗にキャッチ……

するはずだったんだけど、

少し震えてたせいでコートに落としてしもた。


 夏の目が少しだけ憐れんでた気がする。


「あら、震えてますの?」


 そんなあたしを見たミラージュ先輩は、

家畜でも見るかのような目をあたしに向けてたし。


 あまりにもドS!


 とにかくあたしは、無我夢中でボールを拾い上げた。


「べ、別に震えてなんかいませんし……」

「ふふ、可愛くってよ?」


 ぐぬぬ、これじゃあたしが主導権を握れないではないか。


「あはは、ちょいと先輩に……あたしの超速サーブを

見せてあげるっすよ!」

「きなさい二実」


 そんであたしはグリップを力強く握り締め、

ボールを高めにトスした。


「たあ!」


 それからボールがあたしの頭上近くに落ちてきた瞬間、

あたしは全力でボールを打ち付けた。


 そんでまっすぐミラージュ先輩のサービスエリア内左隅に

向かって飛んでいく。


「甘いですわ!」

「うっそ!」


 だけども先輩はそこに来るのが分かってたっぽくて、

あっけなくあたしのいない左側コート目掛けて、

優雅にラケットを振って打ち返してくれた。


 そんで急いで戻ろうにも

先輩のストローク|(球打つ強さ)は段違いに強く、

あえなくボールは左隅ライン内側に触れて叩きつけられてた。


「リターンエース、ミラージュ、ラブ・フィフティーン|(0-15)」


 ミラージュ先輩は不敵な笑みをあたしに向けてた。


 なんという劣勢感、なんという屈辱感。

 あたしゃ悔しくて仕方が無かったよ。


「そんなお遊戯では、一生わたくしに勝てなくってよ?」

「うう、マジですか先輩……」

「ええ、マジですわ?」

「因みに二実のサーブ速度は120キロ……

言う程遅くはないのよね」


 夏はそう言うが、ミラージュ先輩の反応速度は異常だよ。


 まるで先読みするかの様に動いてるんだもんよ。


「つっても……あたしも只では負けられませんからね、先輩!」


 というわけであたしはサーブしたが……やはり

反対側に返された。しかも超正確にやなとこを突く。


「リターンエース、ミラージュ、ラブ・サーティ|(0-30)」


 これじゃまた何もできずにストレートで1ゲーム取られそう。




 それからもあたしは頑張りまくったけど、結局ダメなもんでさ。

 気付けばミラージュ先輩は

1セット取得しいの5ゲーム取られての40-0のマッチポイント。

 しかもあたしは1ゲームどころか1ポイントすら

取ってないときたもんだ。


 あたしは疲れ切って息をぜえぜえ切らしてたけど、

先輩は息一つ切らしてない。というか汗一つ掻いてない。


 そりゃそうだ。だって先輩は無駄な動きは一切せず、

全てあたしの打てない所に返してたんだからね。


 さながら機械の様な精密動作でさ。


「マジ……やばいわ」

「ふふ、もう降参してもよろしいのですよ。

これでは置物の方がまだマシなレベルですわ?」


 もうダメだ。あたしには何も返せる気力がない。


「はあ……はあ……」

「さあ、わたくしのラストフィナーレ……

とくとご覧遊ばせ!」


 そんで先輩の超速サーブ。

 つうかさっきよりも断然早い。


 そのボールは動く気すら起きないあたしを無視して

サービスエリア中心へ地面を抉る勢いで叩き付けられてた。


「……サービスエース、ミラージュ、ゲームセットアンドマッチ、

ウィナー、ミラージュ」


 夏はそれだけ言って審判席から飛び降りると、

穏やかな顔であたしの目の前にやって来てぽつんと立つ。


 でも今のあたしにはそれがキツかった。


「……さあ二実、今日はもう帰ろう?」

「ごめん夏。あたし、かなりバカだった……」


 ほんとバカ、自信満々だったのに結局相手の強さを初めから

見切れなかった大バカやろうさあたしは。


 気付けば俯いて歯を食いしばってた。


 そしたら夏は両腕いっぱい横に拡げる。

 そんな夏を上目で見てあたしは察した。


「あたし……汗臭いよ……あたし……バカ女だよ……?」

「……今は何も考えず私の胸で喚きなさい」

「……うああああああっ!」


 気付けばあたしは夏の胸に顔を埋め、

大いに泣き喚いていた。


 悔しくて、悔しくて仕方が無かったから。

 これでもあたしは自信があった。

 だからこそ辛いしきついし苦しい。


 こんな一方的な試合結果、あたしはホントに

耐えられない。


 だからあたしは泣き喚くしかなかった。

 まるで赤ちゃんみたいにがむしゃらに。


 そんなあたしの頭を、

昔のように夏はただ優しく撫でてくれていた。




「ぐす……えぐ……」


 あれから5分ぐらい夏の胸で泣き喚いてたかな。

 大分落ち着いたあたしは少し落ち着きを取り戻してた。


「……もう大丈夫ね?」


 そう言って夏は、優しくあたしを体から離す。


「うん……ありがと……」


 夏の顔は穏やかなものだったよ。

 それはもう仏様のようにね。


 だがしかし、あたしが落ち着いた時には

顔が怒りで般若の様に歪むわけだが。


「と言うわけで……この大バカちんが!」

「ふぎゃっ!」


 そんであたしに脳天唐竹割りっす。

 マジで痛いし、頭おかしくなる。


「だからずっと前から勉強もせずにゲームばっかりするのなら、

最悪でもあんたの大好きなテニスに専念しなさいって

言ってたでしょ!」

「だ……だってぇ……」

「それがさっきの二実の敗北の原因なの! 分かる!?」


 それは嫌でも分かる、マジで苦しいしマジで悔しい!


「うん……わかるよ夏! あたしはマジ悔しい!

次は絶対ミラージュ先輩を負かしたいもん!」

「それじゃあしばらくあなたは島百合団で

頭を冷やしてきなさい」

「えっ?」


 わ、忘れてた! そう言えば負けたら島百合団に

入団しないといけないんだったっけ!?


 し、しかもミラージュ先輩の下僕決定とな!


「そう言うわけですので、これから“二実”は

わたくしのモノ……という事になりますわねぇ?」

「ちょ、先輩襟首を引っ張らないで!

テニスウェア伸びちゃいますから!」


 そんで何時の間にかあたしの背中に

ミラージュ先輩が来てて、

あたしの襟首を右手で掴んでた。


「それでは夏さん、これからわたくしは二実を

団長の元へ案内しますので失礼いたしますわ」


 せ、せめて今日は帰らせて!

 まあそう口で言っても先輩は離してくれなさそうだけど。


「……ええ、後で必ず取り返しにいきますので、

今はそのバカを預かっておいてください」


 な、なんつー言い方だよ夏のやつぅ……。

 でもまあ、あたしがまいた種だからどうしようもない。


 そんであたしはそのまま首を引っ張られながら、

ミラージュ先輩に連行されたしまったよ。


 夏の怒ってるのか悲しんでるのかよく分からない顔を

あたしは見ながらね。


○

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