第6話 朝からあたしは
ピピピ、ピピピ、と目覚まし音が聞こえるが
あたしは起きる気なんていっさいなかったよ。
だってまだまだ寝足りないんだもん。
「くー……スー……目覚ましなんて……
まだまだ小さいぜ……」
この音は寧ろ、
今のあたしにとっては寝心地がよかったぐらいさ。
「ふみ……ん、あ……すよー」
「んあ……?」
なんか目覚まし音に混じって
三香の声も聞こえる気がする。
「もう朝……7時……よー?」
「あさ……7時……ねえ」
「早く起きないと、
ドー……スターの本気を見……よー?」
「あん……? ドトール……スター?」
眠くてぜんぜん聞き取れない。
「うん、これ……だね?
じゃあ、ふみち……コレをお見舞いしよー」
「んあ……?」
だんだん意識もハッキリしてきて
ふと横を向いたんだけど、
なんかあたしの顔の横に何かがあった……!
あたしはそれを見て血の気が引いた。
「おいこれは……」
昨日の爆発したヤバい人形じゃねえかっ!!!
「あと10びょー」
「や、やば……」
体が怠くて言う事聞かない……動けないっ!
「3、2、1……!」
「やめ……っ!」
ばくはつするー!
「0ー!」
『あさー! あさー! あさはきもちがいいー!
起きろー、ばーかーっ!』
と思ったら人形の中から耳が壊れるぐらいの
バカでかい音量で三香の声が出てきやがった。
耳がマジで痛い!
「うるせーっ!」
だからあたしは速攻で目を覚まし、
人形を思い切り壁に叩きつけてしまったのさ。
勢いで人形の首が跳ね飛んでしまったのは、
流石にあたしも驚いたけどな。
「あーっ! ふみちんがあたしの目覚ましこわしたー!」
「あっ、わ、悪い……。
ていうか、こんな寝覚めの悪い起こし方があるかー!」
「ぶーっ、でもこうしないと
ふみちん絶対に起きないじゃないのー!」
イグザクトリー……その通りで御座いますけどな!
「いや、だからと言ってなあ……」
なんだろう、
怒りたいのに素直に怒れないこのジレンマ。
とんでもなく歯痒いが、
これも普段の自分が寝ぼすけだからダメなんだろうなあ。
「ごめん三香、その目覚まし直しとくから今回は許してくれ」
「まあ替えはまだたくさんあるからいいけどねー」
そんで三香はゴスロリスカートの中から人形を3体、
ドヤ顔で取り出しやがった。
「てっ、あるんかい!」
「でも無駄に壊されるのは困るなー、勿体無いしなー?」
「いや、まあそりゃそうだ……って、
こんなにゆっくりしてる場合じゃないよ!」
「どしてー?」
「バッカやろ、学校あるだろうが!
ほら、朝飯用意すっからさっさと居間に行った行った!」
「はーい」
それにしてもそのゴスロリ衣装、
いったいいつまで着続けるつもりなのさこの子は。
◯
簡単に朝飯を済ましたあたしは制服へと着替え、
なんとかいつものように夏と共に登校をしていた。
三香も着替えて友達と先に走って
行ってしまったけどな。
「おはよう、二実」
「おっすぅ、おはよう夏ぅ……」
「どうしたの?
今日はやけに窶れているような気がするんだけど」
「ああ、これはちょっとなぁ……
悪夢見たり、三香に振り回されたりした結果かなー」
「あら、そうだったんだ。因みにどんな悪夢?」
「……ミラージュ先輩の連れ|(?)を先頭に、
沢山の女の子から執拗にキスを迫られて追い掛けられる夢だよ!」
「ああ、それは災難だったね……」
「ぶるぶる……ホンットさ、なんなのあの変態はさあっ!」
くそー、あの蛇眼を思い出しただけでも寒気がするうー!
「その人の事なんだけどね、私の方でもちょっと調べてみたの」
「おっ、どんな感じだい?」
「うん、その先輩の名前は錦蛇目と言ってね。
高等部の間ではちょっとした有名人なの」
「うむ、間違いなく悪い意味でだろ?」
「うん。その通りだけどこれがなかなか厄介な人でね。
どうもキスをした事のない
可愛い乙女の唇を奪うのが趣味らしいの」
それは本当に気持ちの悪い奴だな、ビックリするわ!
しかしあたしはカワイイのか……そうなのかぁ。
「どうして鼻の下伸ばしてるの?」
まず、無意識に顔をデレデレさせてた。
ちゃんと引き締めろよ、あたし!
「な、んでもない。 しっかし……ひどい奴だなぁ」
「そうよね。しかもね、どうも錦先輩はキスをした事が
有るか無いかを瞬時に見分けられる能力を持ってるんですって」
「そんな気持ち悪い能力捨ててしまえ!
っていうか、あたしが男の子と
キスした事無いのもバレてるのかよおっ!」
ひどい、酷すぎる!
「そうだね、バレてるみたいだね」
なんか嬉しそうに微笑んでいる夏を見て、
あたしはイライラしてしまう。
「なんか、嬉しそうじゃん夏ぅ?」
「う、ううん! そんな事ないよっ!?」
「ホントにぃ?」
焦り出す夏の様子が、
またまたあたしの心を疑り深くさせるんだよなあ。
「ほ、本当ですー!」
「……いや、やっぱりあたしが
未だにキスした事ないのをバカにしてるっ!」
「被害妄想が過ぎるって!」
「もういいもんっ、夏のクチビルをあたしが奪えば
クチビル処女じゃなくなるから、
夏のクチビル奪ってやるわーっ!」
もちろん、冗談なんだけどね!
「えっ! そ、それはちょっと……。
は、早いっていうか……」
唐突に夏の顔が赤くなっていく事に、
あたしはなんとも言えない快感を味わう事になってまう。
「へっへ、照れる夏はカワイイのう……
これはホントに奪うしかないねっ!」
ちょっと夏が小声で何言ってるのか聞き取れなかったけど
きっと恥ずかしいんだろうね、可愛いヤツだねホント。
とにかくあたしは、
冗談混じりで夏の顔に自分の顔を近付けたのさ。
「ちょっ、そんないきなり顔を近付けないでっ!
まだ……心の準備が……」
どんどん夏の顔が真っ赤に染ってゆく。
へっへ、楽しすぎるぜ。
「ほれほれ、もうすぐあたしのクチビルが
夏のクチビルを奪ってしまうぞ~」
ホントに奪う気はないんだけど、
これはこれでドキドキするもんだなあ。
「ダメ……だよ……」
そう言うが夏は嫌がらない。
と言うかちょっと目が艶かしくなってきてる?
「な、なんでそんな艶かしい目をしてんの夏?」
「あ……な、何でもない!」
「ホントか? あたしも冗談が過ぎたかなあ」
あたしがそう言ったら、
夏の艶かしい目が怒りに満ちた目に変わり始めたのさ。
「えっ、も、もしかして怒ってらっしゃる夏さん?」
「知らないよ!」
とか言って夏はブチ切れてあたしを睨み付けてた。
目と鼻の先でさ。
「ていうか……あんたがキス魔になってどうするのよ!」
「んぎゃっ!」
真っ赤な顔した夏の容赦ないビンタ|(寧ろ張り手!)が
あたしの頬を襲う。
それであたしは後方5メートルくらい
吹っ飛んでしまったのさ。
「もう二実の事なんてしらない!
勝手に錦先輩にでも唇奪われてしまえばいいんだわ!」
「あっ、ちょっと夏っ……痛たたーっ」
ああ、夏があたしを放っぽって先に学校へ行ってしまうぅ……
「じょ、冗談だったのに。
それにしても頬っぺマジで痛いじゃないか……」
とにかくあたしは起き上がり、
後で夏に謝るかと反省しながら歩き始める。
「はああ、災難は続くねえ……」
まあこればかりは自分のせいなんだけどさあ。
◯
自分の教室に辿り着いたあたしは、
機嫌悪そうに机に座っている夏の前へと移動した。
「あのさあ」
「……」
あたしの問いかけに、
夏は窓の外をジーッと眺めながら無視を続ける。
こりゃさっきの事、相当根に持ってらっしゃるね。
「えっとー、今朝はゴメンな?
あたし調子にのりすぎちゃってさあ」
「……ねえ二実?」
「ん?」
「校庭にいるあの人って錦先輩よね」
夏がこう反応をするという事は、
元々夏はあたしを無視してたんじゃ無くて
ただそっちの方に気を取られてたのかなって、
あたしはそう勝手に都合良く解釈した。
「えっ?」
あたしも夏に釣られて窓から校庭を見ると、
確かにそこにはあのキス魔がいた。
しかも、この前部活で練習試合をした
中等部テニス部の隼アイラちゃんと一緒にだ。
「これってさ、
あの子の唇が危ない状況なんじゃないのかな?」
「くそっ、あのやろ!」
「あっ、二実!?」
あたしは堪らず教室から廊下へと駆け出し、
すぐさま校庭へと向かった。
あの変態、まさかあたしだけでなく
アイラちゃんにまで手を出すつもりなんじゃ無いだろうな。
あたしの中にそんな不安と苛立ちが募り始めてしまう。
「そんなに焦らないでよ二実、私も一緒に行くから!」
後ろには夏も走ってついて来てた。
「悪い、急いでるからなんとか着いて来てくれ!」
そう、アイラちゃんの貞操の為にも
ゆっくりしてる暇は無いんだ。許してくれよ夏。
「わかった、あなたに着いて行くから!」
とか言いながらも夏は、
いつの間にかあたしの隣を並走しているわけなんだが。
「は、速いな夏!」
「当たり前です、毎日鍛えてるもん」
「あたしも毎日とは言わないけど、
スタミナ鍛えるために走ってるんだけどなあ」
「まだまだ鍛錬が足りないね」
「うう……」
「ほらっ、もっと飛ばして二実!」
そんで、
もはや主導権は完全に夏に握られていたのさ。
「わ、分かってる!」
あたしはさっき以上に力を振り絞り、
なんとか夏の後ろを着いてった。
めちゃくちゃ息が荒くなってるのを我慢しながらね!
◯
というわけで、
あっという間にアイラちゃんと変態のいる場所に、
あたしと夏は辿り着けたのさ。
「ぜえ……はあ……きつ……」
あたしは立ち止まった瞬間、何度もハアハアしてしまう。
そんなあたしを目の当たりにして、
アイラちゃんはビックリしてた。
「せ、先輩っ!?」
「なんだ、また君か」
この蛇眼の変態こと錦は、
あたしをジッと睨んだと思うとニヤリと舌舐めずりする。
それを見たあたしの背中に悪寒が走った。
「ひっ……!?」
「ちょっと二実っ!?」
だからあたしは思わず夏の背中に隠れてしまったのさ。
「後輩を助けたいんでしょ? 少しはしっかりなさい!」
「で、でもあの眼……怖いよ!」
「せ、先輩……」
思わず夏の背中から恐る恐る顔だけ出して
アイラちゃんの顔を見るあたし。
確かに夏の言う通り、
アイラちゃんの顔はあたしを可哀想なものでも
見るようなを目をしてた。
「ほら、あなたの後輩も情けない二実の姿を見て
ガッカリしてるよ?」
そ、そんなこと言われても困るよ夏……。
怖いもんは怖いんだからさ……。
「カ、カワイイ……!」
しかしアイラちゃんは瞳をキラキラ輝かせながら
そう言い放った。
そんで夏もズコーッと体を斜めってしまうが、
何事もなかったかのようにすぐ体勢を立て直してたよ。
「コホンッ! いきなり現れて一体どうしたんだい、
君達はさ?」
錦先輩|(と呼びたくないけど)は軽く咳払いをしてから、
あたし達の姿をざっと眺める。
そんで、冷静になったあたしはよくよく考えると
後輩の前でカッコ悪い姿を見せている事に気付いたんで、
すぐさま汚名返上するために、
カッコ良く夏の背中から姿をあらわしたのさ。
「へっ、へっへっ!
アイラちゃんから離れてくだされよ、この変態め!」
そして光魔法カッコいいポーズ! あたし決まった!
とかアホな事やってたら、
夏があたしの肩にポンと手を載せてきたのさ。
「二実ー、顔が引きつってるよ?」
「だ、だって怖いもん……」
夏に小声で痛いところを指摘されたあたしは、同
じく小声でそう言い返すしかできなかった。
だって夏の言葉は正論なわけだし。
「へえ、いきなり現れて人を変態呼ばわりするなんて
随分と失礼な後輩だねえ」
「そ、そりゃそうだよっ! だって唐突にあたしの……
ふぁ、ファースト……キッスをさ……
奪おうと……したんだし……」
ああ……自分からこんな事口にするとかマジ恥ずかしい!
おかげで顔が火照って仕方ないんだけど!
「えっ! それは本当ですか錦先輩!?」
あたしのクチビルが危ない話を聞いて、
アイラちゃんはまたまたビックリしてた。
「ん、まあそうだねえ」
「ず、ズルいです先輩……っ!」
真面目にそう叫ぶアイラちゃんを前にして
あたしはズッコケた。
ズルいってどういう事よ、アイラちゃんっ!
「だってねえ、秋月君の唇……スゴく柔らかそう
だったんだもの。
そして確実に柔らかいと確信できるっ!」
「うぼぁ!?」
や、やめてくれ!
それ以上あたしの唇で勝手な妄想しないでくれえっ!
「た、確かに二実先輩の唇は……その……
美味しそうですけど……」
「さ、さっきから顔を赤らめながら
サラッと大胆な事言わないでよアイラちゃんっ!」
「あっ、ご、ゴメンなさい……先輩……。
わたしったらっなんて失礼な事を……」
「いや、まあいいんだけど……」
「って、よくないでしょうが二実っ!」
「あだっ!」
夏のゲンコツによる激しいツッコミが、
あたしの額をゴチッと鳴らす。
「何かこの二人の様子に違和感を感じないの?」
「えっ、ええっと……」
そういえばなんかヤケに仲がいいというか、
あの気弱そうなアイラちゃんが妙に積極的だよなあ。
「いや、ただの先輩と後輩ってだけじゃないの?」
なんか、タイプは全く違うけど似たような波長を感じるし。
「全くもう……二実は相変わらず自分の事となると鈍いよね」
「ええ、そんな事はな……」
「あるよ、ありありだよ」
なんかヤケに棘があるよ。今日の夏はね。
「うう……」
「二実、そんな事今はどうでもいいからよく聞いて?」
「あ、うん」
突然夏が真剣な表情をあたしに向ける。
だもんだから、あたしも真剣にならざるを得なかったよ。
「錦先輩が島百合団ミラージュの派閥に
属してるのは覚えてるよね?」
「ああ覚えてるとも」
相変わらず派閥とか意味が分からないけども。
「それじゃあ、その錦先輩と仲良くと言うか……
いかにも知り合いというあなたの後輩がいるわけです、
あまり接点はなさそうなのにね」
「そ、それってつまり……」
あたしの額に、嫌な汗が吹き出してくる。
「つまりあなたのテニス部の後輩、ええと……」
「隼アイラちゃんね」
「そう。隼アイラさんもまた、
島百合団の一員と言う事になる……と思うな」
「マジかよ……」
その話を聞いたあたしは目眩がした。
だってさ、あの気弱で優しそうな子が
まさか島百合団なんかに所属してるなんて
思ってもなかったからさ。
「そうでしょう、隼さん?」
「はい、その通りです」
アイラちゃんは夏の問いかけに対して、
特にためらう事なく
自分が島百合団の一員である事を認めてた。
「えっ、ホントにそうなんだ!?」
「は、はい! その通りです先輩っ!」
「どうしてまた、島百合団に入ったの?」
「その、ミラージュ先輩がわたしを……
救ってくれましたから……」
「えっ、ミラージュ先輩が?」
あのプライド高そうな先輩から、
アイラちゃんはいったい
何を助けられたというのだろうか。
「はい。その……わたし元々前の学校からこの学園へ
中等部1年の2学期始めに転校してきたんですけど、
その時ミラージュ先輩から
テニスを1から100まで教わったんです」
「えっ、アイラちゃんは中1からテニス部入ってたの?
……ゴメン、あたし全然知らなかった」
2年前って言ったらあたしも中2。
そん時はテニス部に入ったばかりだし、
まだまだペーペーで必死に練習してたっけなあ。
それでも後輩はちゃんと面倒見てた筈だから、
アイラちゃんを昨日初めて見たと言う事が
何か噛み合わないんだよね。
「と言うか、
ミラージュ先輩はテニス部にいなかったよ?」
「あっ、ごめんなさい秋月先輩!
少しわたしの言葉が足りなかったです……」
アイラちゃんはあたしに
ペコペコ頭を下げるもんだから、
なんかすごく申し訳なかった。
「いやいや、まあいいけど……つまりどう言う事?」
アイラちゃんは一回深呼吸すると、
落ち着いた顔をあたしに向けた。
「ふう……実はですね。わたしは昔からテニスが好きで、
それでミラージュ先輩と意気投合したんです」
「えっ! つまりミラージュ先輩もテニスやってるって事?」
そんな気配全然しなかったのに!
「あっ、はい! ですがテニス部には入らず、
自宅のコートで練習しておられてますが」
ちょっ、確かコートって設置するのに
1億ぐらい必要じゃ無かったか!?
しかも敷地だって相当いるだろ!
だからあたしは呆気に取られてしまったのさ。
「か、金持ちだなあ」
「ミラージュ先輩はとある有名な財閥のお嬢様ですから……」
なんでかアイラちゃんが申し訳なさそうな顔する。
「いやいや、アイラちゃんがそんな顔しなくてもいいのに」
「あっ、ごめんなさい先輩!」
ああ、こりゃ何度でも謝りそうだなあ。
ちょっと気を使わせない様に気を付けよ。
「と、とにかくアイラちゃんは今の今まで
テニス部には入らずに、ミラージュ先輩と一緒に
そこでテニスしてたって事でいいんだね?」
「その通りです、先輩」
「はえー……いいなあ。
あたしもその貸切コートでテニスしたいなあ」
先輩様達にも茶々入れられないでのびのびできるとか、
マジ羨ましいってば!
「もしよろしければ、
今度ミラージュ先輩に相談して見ましょうか?」
「えっ、マジで!? じゃあちょっとお願ぁ痛い!」
あたしが喋ってたら突然夏に頭を叩かれた。
割と思い切りに!
だから思わず夏に顔を向けたんだけど、
ヤバいちょっとどころかかなり怒ってらっしゃるぅ?
「な、なんだよ夏ぅ……」
「ちょっと二実ったらかなり話がズレてる!」
そんな怖い顔で睨まないでくれい……。
「そうだぞアイラ。
それにまだ秋月君は島百合団の
一員ですら無いんだしね」
「あ、失礼しました錦先輩……」
なんか錦先輩もアイラちゃんを諭してるし。
と言うかさっきからあたしを君付けすんな変態!
「そ、それでアイラちゃん?」
とにかくあたしはアイラちゃんから、
島百合団に入った経緯を再び聞き直すことにしたのさ。
「あっ、はい何でしょうか!」
「ミラージュ先輩とはどうやって出会ったの?」
突然アイラちゃんの顔が少し落ち込んでしまう。
よく分からないなあ。
「ええとですね。転校してきた時はわたし、
クラスのみんなと全然馴染めなかったんです……」
ああそっか、
アイラちゃんは控えめな子だからなあ。
それに基本お嬢様ばかりの学園だし、
たまたま盛り上げ役みたいな子が
クラスにいなかっただけかもしれない。
「そっか、転校生ってのも大変なんだね」
あたしゃ転校した事ないから
何とも言えないけども。
「はい……ですがわたしもその時少し頑張ろうと思って、
中等部テニス部の部室前まで足を運んだんです」
「うんうん、いいよねテニスは」
「その通りですよね、先輩!」
「おほっ、テンション高いねえ」
心底テニスが好きなんだなあ……素晴らしい!
「えへへ! ですがその……部室の前に来たのはいいんですけど
ドアをノックする勇気が無くて、
そこでしばらく立ち尽くしてしまったんです……」
うむ、アイラちゃんは本当に控えめな子なんだなあ。
思わず頭を撫で撫でしたくなるわあ。
だが、何度も言うがあたしはノーマルだからな。
「それで結局わたしは何もしないまま、
その場から立ち去ってしまいました……」
「そっか」
「えへへ……わたしったら引っ込み思案で
ダメな子ですよね?」
「ううん、そこまで行く事はできたんだから
あたしは充分胸を張れると思うよ」
「秋月先輩ありがとうございます」
「気にしない、気にしなーい」
あたしが軽くそう言うと
アイラちゃんはクスリと笑った。
だがあたしの隣からは夏の殺気っぽい
何かが流れてた気がしたけどな。
「それから自分の教室に戻ろうとしている廊下の途中、
肩を優しく叩かれて呼び止められたんです」
「ミラージュ先輩にかい?」
「その通りです!」
アイラちゃんはホント嬉しそうに笑ってたから、
ホントに助けられたんだろうね。
「そして先輩はわたしにこう言ってくれました」
「なんて?」
「“あなたは私に似ていますわ。どうか島百合団に入って
一緒に道を進みませんこと?”と一言だけ」
「ほえー……でもアイラちゃんとミラージュ先輩が似てるとは、
あたしは到底思えないけどなあ。
アイラちゃんは優しいけど、
ミラージュ先輩は冷たい感じだよ?」
「いいえそんな、確かにミラージュ先輩の瞳は
人を見下すかのように冷めてますけど、
根は優しくていい方なのですから」
「そっか」
まあ、アイラちゃんが言うのならそうなんだろね。
「それにですね、ミラージュ先輩は
“テニス部に入り辛いのでしたら
私と共にうちでテニスをしませんこと”と
言って誘ってくれたんです」
「そっか……よし分かった。あたしももっと
アイラちゃんとテニス話を続けたいけど、
今日はこれで失礼させてもらおうかな」
今、あたしの隣からの殺気が
更に上がってるんでヤバいんだってば!
「あっ、長々と失礼しましたお二人とも!」
そんでアイラちゃんは申し訳なさそうに、
あたしと夏に頭を下げてくれた。
なんかこっちが申し訳ないよ。
「まま、気にせずに……」
「それよりも錦先輩とアイラさん、
二人はいったい何を話していたんです?」
気を使うあたしを遮って
夏が不機嫌そうな顔で二人に迫った。
ちょっと恐ろしい形相で。
「ちょ、ちょっと夏さんそんなメンチきらないであげて。
アイラちゃんなんか特に怯えて震えてるから」
それと喧嘩腰は勘弁してほしいですたい、マジで。
「あ、ごめんなさい。私ったらつい……」
「つ、ついって何さ……まあそれは置いといて、
あたしもちょいとその話が気になるかな」
「えと……その」
アイラちゃんは夏の機嫌をうかがうように、
夏の顔をチラチラ伺ってた。
メンチきられて全く可哀相にね。
「日向よ、別に取って食べたりしないから
そんなに怖がらないでね?」
「あっ、すいません日向先輩……。
えと……錦先輩、この事話しても大丈夫ですか?」
「んっ、別にいいよ。
なにも悪いを企んでるワケじゃないしね」
本当に錦はなにも気にすることなく
アイラちゃんの話を呑み込んでいたのさ。
それはちょっとあたしにも意外だったね。
「それではお話ししますね」
「お願い」
アイラちゃんは落ち着く為にまた呼吸を整えてから、
ゆっくりと口を開き始める。
「ほっ……明日はミラージュ先輩のお誕生日ですから、
何をプレゼントするかとか、
どんなサプライズをしてあげようとか、
わたし達二人で話しあってたんです……」
「えっ、それだけ?」
なんてことは無い普通の事を聞いたもんだから、
あたしは唖然としてしまったよ。
「はい、それだけです」
「そう、それなら私達が気にする事なんて何もないね。
それじゃあ行きましょうか、二実」
「えっ、でもさあ」
ちょっと夏のやつ冷た過ぎないかなあ。
「ほらっ、もうすぐホームルームが始まるし
これ以上は特に問題ないでしょう」
「まあそうだけど……」
「さあ、行くよ二実」
そう言って夏はあたしの腕を強めに引っ張り、
教室のある方にそそくさと歩き始めた。
「わあ! そんな引っ張んなー!」
あたしがそう必死に訴えても、
夏は腕を離してはくれなかったよ。
「ったく……じゃあねアイラちゃんっ!
ミラージュ先輩によろしくなー!」
だから仕方なく腕を引っ張られたまま、
別れの挨拶をするしかなかったんだ。
「あ、はい! 秋月先輩のお話し、
他にも聞かせてくださいね!」
「おうよーっ!」
そんでアイラちゃんが大きく手を振ってくれたもんだから、
あたしも掴まれてない手の方で大きく手を振りかえしたよ。
するとアイラちゃんの顔に
満面の笑顔が咲き乱れてたさ。
本当に和むわあ。
「ほらっ、二実も早く教室に向かって歩くの!」
「わかってるってば!」
なんだか、今日の夏はやたらと機嫌が悪いように思えた。
よっぽど朝からかわれたのが気に入らなかったんだなあ。
とにかく機嫌の悪い夏をこれ以上刺激するのも後が恐いから、
あたしと夏は教室に戻る事にしたのさ。




