第12話 夢心地気分のような現実
時刻は午後2時頃、
洋菓子専門店グランスイーツからあたしん家までの帰り道。
あたしが背中におぶってる電波……
もとい創造神と名乗る少女イデアと出会ってから3時間は経つ。
「スー……スー……」
「あーあ、幸せそうな顔で眠っちゃってえ」
そんなイデアはあたしの背中でぐっすり眠ってたさ。
喋らなければ普通の可愛い女の子なのになあ。
「……お父さん、背中広~い……」
「おいおい、あたしは女だぞ?」
つまり、この子にも家族がいるってこった。
「はあ……まったく、しゃあないなあ」
「お母さん……遊園地……楽しかった~……」
「うんうん、楽しかったねえ」
そうだな。
今度、夏や三香なんかと一緒に
リアルの遊園地へ遊びに行かせてやるか。
「……うう、寒いよう……体が冷たい……」
「んっ、大丈夫か?」
「もうやだ……無はイヤ……暗いし友達もいないし……ヤダ!」
「お、おい?」
なんか悪夢でも見てるのか。
起こした方がいいのか?
「もう……許して……なつ……ちゃん……」
「はっ?」
今、夏の名前を呼んだか?
声がか細くて最後まで聞こえなかったが。
「スー……スー……」
「……よく分からんけど落ち着いたみたいだな」
まあそうだよな。
よくよく考えたら宇宙がどうたらとか、
人のこと宇宙のエネルギーだとか、
そんな恐ろしいことばっか考えてる子だもんな。
悪い夢にうなされても仕方ないか。
○
「ただいまあ」
「おかえりなさい二実。
あら、イデアちゃんぐっすりなのね~」
家に帰って玄関に入ると母さんが挨拶をしてくれた。
会ったことない筈のイデアを本当の妹のように思ってたしな。
「ああ、きっと喋り疲れたんだろうね」
「うふふ。
この子はよく遊んでは、よくおしゃべりする子だものね」
「うん、確かによく遊ぶし喋るね」
あまりに喋り過ぎだし、
マロングラッセ食べたさに暴れるしで大変だよ。
「そうだ、なっちゃんがあなたに用があるってことで来てるわよ~。
何故かみっちゃんとお揃いの巫女さん衣装だったけれど」
「ああー、気にしないで母さん。
ちょっと三香の相手させて先に行かせただけだから」
うん、そういうことにしとこう。
「あら、そうだったのね」
「そうそう」
「とにかく急いでね。あんまり待たせると悪いわ」
「うん、分かったわ」
ささっと廊下に来て、階段上がってと。
「みっちゃんの部屋にいるからね~」
階段の途中で母さんの声が聞こえたから
「ああ、分かったあ!」と、
あたしも負けじと大きな声で返しといた。
そのまま階段を上がって少し狭い廊下に着くと、
三香の部屋の前へ移動した。
「三香あ、部屋入るぞお」
部屋の前に着いたあたしはそう声を張り上げながら、
遠慮なしにドアを開けたのさ。
「おっす、やっと帰ったぞ」
「あっ、二実!」
「それに……神様!?」
背中で寝てるイデアを見て二人はけっこう驚いてた。
「ちょっと二実、神様はいったいどうしたの?」
「見事に寝てるね、気持ち良さそうに」
「ああ、なんか移動に伴う時差ぼけとかで疲れてるんだってさ」
イデアは確かそんな感じで言ってたが、
そんなこと聞いても意味がわからないよな。
「ああ、そういうこと」
「うん、それなら疲れても仕方ないねー」
だが、まさかのツッコミ不在であたしは困ったよ。
「二人とも疑問に思わないのか……」
「あのね二実、神様はこの宇宙の果てから来てるんだよ。
だから疲れるに決まってるじゃない」
「そうだよ、ふみちん」
「はっ? いや、宇宙の果てって……」
そういえば『向こう側』から来たってイデアは言ってたが、
宇宙の果てから来たって意味だったのかよ。
「どうも神様は人の目に触れられたくなくて、
そんな辺鄙なところに家を建てて住んでるらしいよ?」
「そんなところに家を建てられるのか……」
辺鄙とか以前に、宇宙の果てには地盤とかあるのか?
「とにかく休ませてあげてよ、お姉ちゃん。
是非ともわたしのベッドに寝かせてあげてー」
「うん、それなら遠慮なく借りるわ」
おんぶしっぱなしだから辛くなってきたところだ。
とにかくイデアを三香のベッドに優しく降ろし、
掛け布団を掛けて寝かせてあげたのさ。
「ふう、じゃあ落ち着いた所で
ひとつだけ聞いていいかい二人とも?」
「何よ、二実?」
「どうかしたの?」
二人の問いがハモってて少し面白かった。
「いや、なんで二人とも巫女服着たまま家に来たのかなって?」
あたしの素朴な疑問に夏は大きな溜息を吐く。
「はあ……仕方ないじゃない。
神様とあなたを気遣うために、
あの場でゆっくり着替える暇が無かったの」
「うんうん」
「ああ、それなら納得だわ。
なんか急かしたみたいで悪かったな」
イデアも着替える時間ぐらいあげても良かったのにな。
「ううん、そこまで気にしてないから別にいいよ」
「わたしもこの格好好きだから気にしなーい。
それになっちゃんとお揃いだしー!」
「ふふ、そうだねみっちゃん。
……でもこの格好のままじゃ、流石に家へは帰れないな」
「どうしてだ?」
「だってあの神社への立入りは、
年に一度の清掃以外は先祖代々禁止されているんだもの」
うわっ、そんなの全然知らなかったぞ。
「それってヤバくないか? よく入る気になったな?」
「それでも神様を呼ぶには、
あの神社で祈祷しなければいけなかったし……」
「これもお姉ちゃんのためだよー。
かなり感謝しろよー、ふみちん」
「えっ、あたしのため?」
それはどういうことだろう。
「ちょっとみっちゃん、それは教えないでって言ったのに……」
「だけど教えないと鈍感なふみちんが気付かないもん」
「いやいや。つうかあたしとイデアに何が関係あるってんだ?」
「ちょっと二実、イデアって神様の名前?」
そっか、二人とも知らないもんな。
「ああ、そうだよ。そんなことより早く関係性を教えてくれ」
「そうね……言うしかないよね」
「うん、神様はふみちんに全てを託すって決めてるみたいだし」
「あたしに……全てを託すだと?」
それはつまり、あたしに神になれと言うことなのか?
「バカやろ……あたしはそんなのイヤだって言ったじゃねえか」
「そう……。
でもあなたが神にならなかったらこの世界は確実に消滅するわ。
何せアズタロサを納得できる資格が他に誰もいないんだもの」
そんな資格なんていらないだろ!
「あのなあ……だからそんなの信じられないんだって!
何が神だ……何が来年には地球が消滅するだ!
そんなの全部デタラメに決まってんだろ!」
あまりにイライラしてるせいでつい叫んでしまった。
だがもう知らん。
例え夏や三香に軽蔑されようともな。
「……分かった。
そこまで信用しないのならもう二実には頼まない。
とにかく一度神社に戻ろう、みっちゃん?」
「うん……お姉ちゃんなんてもう知らない」
「ふん、勝手にしてくれ。
あたしは現実的な事以外は何も信じないからな?」
「うん、そんな二実の事は親友の私がよく知ってる。それじゃあね」
「お姉ちゃんの頑固一徹っ、ベーッだ!」
二人は冷めた視線を一度あたしに向け、
三香な部屋から出て行ってしまった。
残ったのは意地になってるあたしと、
グッスリ寝てるイデアだけだ。
たがグッスリ寝てるイデアの顔を眺めていると、
あたしは意地を張ってた事に後悔してしまう。
「……はーあ、あたしは何を意地になってんだ」
考え直せば直すほど、
確かにイデアは普通の子じゃないよな。
そんな事はとっくに理解してるんだが、
どうも脳が受け付けてくれない。
なんでだろうね。
「なんか暗示にでも掛かってんのかな、あたし」
「……そうだよ、よく気付いたね二実お姉さま?」
おっ、どうやらイデアが目を覚ましたみたいだ。
「なんだよイデア、もう眠気は大丈夫なのか?」
「うん、この通り快眠!」
「いや、そんな事より暗示ってなんの事?」
「それはね?
どうしてもあなたが神になって欲しくない人の仕業なの」
「えっ、誰だそれは?」
「それは……ぐぅっ!」
「お、おい、どうした?」
さっきまで元気だった筈のイデアが、
突然胸を抑えて苦しそうに悶えていた。
「まずいっ……ごめんね、お姉さま……」
「何がだよ、大丈夫なのか!?」
「お姉さま……わたしが消える前に……頼みがあるの……」
「なんだよ、消えるなんて言うなよ!」
あたしは自分自身の不安な気持ちを抑えるため、
イデアの手を強く握ってしまった。
「お願い……手遅れになったらもう……
取り返しが付かないから……」
「わ、分かった! どうすればいい?」
「色情のサブラージ……以外の12体の化身と出会って……」
「ああ、さっき店で話した天使達の事だな!
だが、どうやって会えばいいんだ!?」
「お姉さまの机の中……そこに化身を見つける……
ための道具が入ってるから……」
ウソだろ、イデアの体がどんどん透けてきてやがる!
「ああっ、わかったから消えないでくれ!」
「あーあ……お姉さまと一緒に……
楽しい学園生活……送りたかったのに……な」
「そんなのいつでもできるだろ!」
「でも……人間を宇宙の糧としか考えない愚か者に……
幸せに過ごす価値なんて……無い……よね」
ダメだ、もう体が見えない。
握っている手の感覚もほとんどない!
「やだ……消えないでくれ!」
「じゃあ……後はよろしく……しばらくねむ――」
「あっ……」
消えてしまった、元からそこに何もいなかった様に跡形もなく。
「イデア……ちくしょう」
まだ会ったばかりなのに。
まだ一緒に遊んですらいないのに。
「あんたの……過去話も聞いていないんだぞ!」
だが不思議と涙は出なかった。
何故ならそれは夢のような気分だったから。
「……とにかく、あたしの部屋に戻ろう」
戻って机の中を調べてみなければ。
そうする事で、
今の空っぽな気持ちを満たしてくれる気がするから。
○
「な、なんだこれは!」
自分の部屋に戻ってイデアに言われた通りに
机の引出しを開けてみたら、
まるでスマートフォンの様な白い謎の機器が入ってるじゃないか。
その隣には二つ折りされた紙がある。
それを開くと可愛らしいと言うか、
人間味のある文字でメモ書きされていた。
「ええと……なんだって?」
そこにはこう書いてある。
――二実さんがこの手紙を読んでるってことは、
わたしが深い眠りについたってことだね。
これから二実さんにはこの機器を使って化身達を探し出し、
説得してお友達になって欲しいんだ。
とにかく12体の化身を説得すれば再びわたしと出会えるし、
この宇宙を消滅させなくても済むかもしれない。
だけど12体をひとりで説得するのは大変だから、
サキュバスとお友達の夏さんや、
アリギエルに見初められた三香ちゃんにも手伝ってもらってね。
それでも辛いと感じるときは、いっそ諦めて楽になるといいよ、
そのことで誰も君を責めたりはしないから。
それでは最後に改めまして、
この一年間後悔の無いように毎日を楽しんでください。
名も無き創造の神より。
「……なんだよ、それ!」
手紙を読み終えたあと、
あたしはなんだか無性に腹が立ってきた。
だってイデアとまた出会えるかもしれないのというのに、
あいつはいかにも今生の別れみたいな言い方してたからな。
「本当にタチ悪いぜ、あのタヌキ娘め!」
ちくしょう、今度は嬉しくて目頭が熱くなってきやがった。
それと誰が諦めてやるもんか。
「いや、そんなことより早くあの二人に謝らないと!」
あたしは謎の機器をズボンのポケットにねじ込み、
母さんに「ちょっと外行ってくる!」って一言言ってから
外に出て、
急いでさっきの神社目指して駆け出したのさ。
それから5分も走れば神社に向かう途中の歩道で、
なんとか夏達に追いつく事ができた。
「おーい、待ってくれよ二人とも!」
あたしの大声に二人は驚いた顔で振り向き、
足を止めてくれたよ。
「二実?」
「お姉ちゃん?」
「ふう……ごめん、さっきは意地張って悪かった!」
あたしは誠意を込めて、力一杯頭を下げた。
「ええと、別にそこまで本気で謝らなくても……。
別に私は気にしていないし」
「夏……」
「そうだねー。
わたしもお姉ちゃんのこと好き勝手言ってたら、
そのうちどうでも良くなっちゃったもん」
「三香!」
そっか、そこまで二人は気にしてないのか。
本当に良かった。
「まっ、ふみちんが意地っ張りなのはいつもの事だしねー」
「うふふ、そうだねみっちゃん!」
「ああ、本当にあたしはいつも意地張ってばかりだ。
そんなんじゃ先に進めないのにな?」
あたしが素直なことが変なのか、二人はさっきより驚いてた。
「二実、あなたでも反省するのね?」
「これには正直驚いたなー」
「そう、あたしだって素直に反省するさ。
だからそんな驚かないでくれよな」
あたしは早速、
ポケットにねじ込んだ謎の機器を取り出して二人に見せる。
「そんなことよりこれを見てくれ」
「えっ、それは何?」
「お姉ちゃん、いつの間にスマホなんて買ったの?」
「いやいや、確かにそっくりだけどそうじゃないんだ。
ちょっと起動するぞ」
操作はなんとなく分かるぞ。
上側面の右にある小さなボタンを押せばいいんだ。
そのボタンを押せばディスプレイに、
可愛いカラードット絵の女の子と、
その下に吹き出しが表示されたぞ。
「なになに……
『初めまして主さま、私は菜陽と申します』だって?」
「うーん……なんだかちょっとレトロな感じだね」
「そうだねー。
なんでこんなおもちゃを、ふみちんは?」
「まあ待て、まだ続きの文があるぞ。
『私のことは、気軽にナビちゃんとお呼びください』
だってさ」
確かにこりゃあ一昔前の遺産というか、
スマートフォンのパチモンを思い出すな。
「おっ、画面を押すと先に進むのか」
ポチッとな。
「ええと、
『それとお隣のお嬢さま、
この神器『IncarnationFerret(IF)』を
レトロ呼ばわりとは何事ですか!
いいえ、確かにこれはプロトタイプですから
表示も多少古いですけど……』
って、なんか怒ったり悲しんだりしてんぞこのナビ」
「ええと……ごめんなさい」
さらにポチッと。
「ほうほう、
『あ、いえ、理解して頂けましたら問題ありません。
こちらこそ熱くなって申し訳ありません』
だってさ」
なんか感情豊かなナビゲーターだなあ。
「怒ってなくて良かったね、なっちゃん」
「ええ、本当にね」
「んじゃ、話を進めてくれよナビちゃん」
それからあたしはどんどん画面をタッチしまくったよ。
ナビちゃんの長ーい挨拶の言葉が表示されていたが、
それをまとめると
『分かりました、それでは説明させて頂きます。
私は創造主様にとある命令を下されました。
それはアズタロサの化身を探索する機器である
このIFの持ち主――秋月二実さまを
全面的にサポートすることです』
という事らしい。
続きはIFの重要な使い方の説明で、
『私の挨拶が終わりましたら
ディスプレイに沢山のアプリケーション起動用アイコンが
表示されますので、
一番使う重要なアプリケーションをお教えします。
一つ目は、
『菜陽の顔アイコン』をタップすれば菜陽を画面に呼び出し、
化身探索や簡単なこと等なんでもお教えします。
次に『地球のアイコン』をタップすれば
宇宙消滅までの残日数を表示します。
最後に『天使のアイコン』をタップすれば、
化身の詳細情報を表示します』
なんだとさ。
「そっか、一通り分かった」
あたしが言ってからタップすると、
『以上で簡単な説明は終わりますが他に何か質問はありますか?』
と表示された。
「あたしは無いなあ。夏はなんかあるか?」
「そうだね、私も無いよ」
「あっ、わたし聞きたい事あるー!」
三香が目をキラキラと輝かせて聞きたがってたんで、
とにかく話を聞いてやろうか。
「何が聞きたいんだ、三香?」
「あのね、ナビちゃんは人工知能なの?
それともアリギエルみたいな天使なの?」
「ああ、そういう事か。
ええとな……
『いいえ、
私は人工知能でもなければ化身でもありません。
菜陽はナビゲーターです』
だってさ」
「ええーっ、それじゃ答えになってない!」
「まあ待て、まだ続きがあるぞ……
『あなたに答える必要はありません』だとさ」
うむ、こりゃあ面白いわあ。
「ぶうー……!」
「うんうん、
『それでは健闘をお祈りします』
だってさ。
どうやらこれで終わりみたいだ。
さっき説明されたアイコンがいっぱい表示されてら」
とにかく気になるんで、
宇宙消滅の日が分かるアイコンをタップしてみるか。
「ええと……
『宇宙消滅の日、2014年11月30日。残り364日』かあ」
これを見て不思議と怒りはわかないが、
妙な理不尽さだけは残る。
今あたしはそんな顔になってただろうね。
「まあ、まだ始まったばかりだし大丈夫じゃない?」
「そうだね、なんとかなるよー」
意外と二人は楽観的なのか緊張感が無かった。
まあ、あたしもそんな感じなんだけど。
「ああうん、そうだといいなあ」
「それじゃ私とみっちゃんは神社行ってくるから」
「お、そうだったな」
うん、イデアが消えた件は今は黙っとこう。
無駄に心配させるのもアレだもんな。
「じゃあな」
あたしは二人の背中に向かって手を振りながら見送った。
その後、ナビちゃんのナビゲートを起動したのさ。
「さて、ナビちゃん教えてくれ。
まずはどの天使から探せばいいんだ?」
あたしの声を聞いて吹き出しに、
『まず最初に説得するべき化身は
第九の化身――熱情のパッショーネです』
と表示された。
「そうか、例の情熱的なヤツか。
因みにパッショーネはどこにいるんだ?」
問いの答えは、
『現在は豊穣女学園の新聞部にいる
若狭ありすに憑依しておられます』
だった。
「なんだと!?」
若狭ありすと言えば中2にも関わらず、
新聞部部長の代わりに新聞部を支えつつ、
生徒会で放送委員長を熟している優秀な女の子だ。
いっつも何考えてるか分からん顔してるけどな。
「あんな無表情な子が情熱的……だと?」
とは言え仕事や活動に対しては熱心なところがあるから
それは本当の事なのだろう。
「まあいいや、だったら着替えてから学園に行くかね」
細かい事は気にせず、
あたしは一度家へ帰るとすぐさま制服に着替え、
豊穣女学園内にある新聞部部室へと向かったのさ。




