第11話 あどけない瞳
あの古い神社からあたしん家に帰る途中の帰り道。
「あっ……ちょっとちょっとお姉さま~!」
「はっ、なんだ?」
あたしの隣にいる創造神を名乗る電波っぽい女の子――イデアが、
ヨダレを垂らしながら『グランスイーツ』の店内を
卑しく眺めてやがったのさ。
「わたし、お腹空いたな~。
ほら、あの子が食べてるマロングラッセとか
超が付くほど食べた~い!」
「おい待て、今あたしは金なんか持ってないぞ?」
なんせ夏と会って話したらすぐ帰るつもりだったからな。
「あっ、それなら大丈夫!
ほらこれ、二実お姉さまのお財布だよ~」
イデアは満面の笑顔で
ジーンズジャケットの胸ポケットから
あたしの財布を出しやがったのさ。
「って、おい! なんでてめえ持ってんだよ!」
「あひゃんっ、そんな無理やりっ」
「変な声出すな、コラ!」
ただ財布を奪い返しただけだっての!
「むうっ、そんなことより食べたい食べたいマロングラッセー!」
「おいおい……こんなところで横になって暴れんなよ?
ほら、なんか通りすがりの人が見てるからさ!」
「やだやだ食べたーい!」
ああもう、何が神様だこのわがまま野郎!
「分かった、即効で食わしてやるから泣き喚くな! なっ?」
これじゃあたしが悪いみたいじゃないか!
「うんっ、二実お姉さま大好き~」
で、思い通りいけば
即座に起き上がって満面の笑顔で抱き着いてくる始末だよ。
「はあっ……たく、もう」
「えへへ、さあわたしのマロングラッセちゃん!
待っててお口に放り込んであげるから~」
ああクソ、なんでいちいちあざといんだ!
とにかくあたしはこの子に逆らえる気がせず、
仕方なしにグランスイーツへと入店したのさ。
○
「お姉さ~ん、マロングラッセ10人前お願い!」
「まてまてまて!」
「えっ、ええと……」
席に大人しく座ったかと思えば、
ウェイトレスのお姉さんがきた途端これだよ。
この無茶苦茶な注文にお姉さんも困ってるしな。
「えっ、なにか問題あった?」
「バカ、食べ過ぎだろ」
「ええ、少ないよわたしには~。
わたしの胃袋はダークマターなんだよ?」
「よく分からんが、じゃあ食べなくてもいいじゃねえか!」
「あの、お客様……本当によろしいのでしょうか?」
いやいや絶対よくない!
「あーっと。
とりあえずマロングラッセ2人前とシンプルハニーパウンド1人前、
それとホットコーヒーとストロベリーラテで」
「ううー、少ないっ!」
「はい、畏まりました」
あたしとお姉さんは最早、イデアをガン無視していた。
だってワガママが過ぎるからしゃあない。
「あ~あ、神に喧嘩売っちゃったね君~?」
「あん、なんだ何かやる気か?」
「んーん。
後で二実お姉さまの隠し事をお母さまに教えてあげるんだから」
「へっ、あたしの隠し事なんて暴くことができるのかよ。
なあイデアちゃんよお?」
残念ながら今のあたしには、
バレても痛い隠し事なんてないんだよね、これが。
「えへへ、そこはわたしがお母さまの記憶を改竄……
もとい創造すればいいんだよ。
例えば昨夜に二実お姉さまが寝てるとき、
お布団にお漏らししちゃった~っとかね?」
「おいっ、ひどいぞお前!
つうかそれが神のやることかよ!」
回りくどいが、めちゃくちゃえげつない!
「えっへっへ~、創造神は自ら力を振るわない。
それが掟の一つだもんね~」
なんか滅茶苦茶で現実的じゃないが、
こう見えて実は洗脳のプロなのかもしれない。
つまりイデアは本気かもしれないってことだ!
「わ……悪かった。
マロングラッセ2人前追加するからっ!
な? 許してくれ!」
「ん~、どうしよっかな~? あとプラス二人前は欲しいな~」
「ひどいっ!」
そんなことしたら、あたしは破産確定だあ!
「んふふ……えへへへへっ! ウソだって二実お姉さま~」
「はっ?」
「大丈夫、わたしは怒ってなんかないって~。
それに女子高生のお小遣いを無下に減らすのは
流石のわたしでも気が引けるよ」
あっ、そうか。
つまりさっきまでのはこの野郎の笑えない冗談だったわけか。
「はあ……本当疲れるわ」
「まあまあ、お姉さま。
奢ってくれたお詫びにいいこと教えるから元気出して?
それともわたしの熱~い抱擁で元気出したい?」
ニヤニヤと笑いながら両腕拡げて構えるとは
大したエロ根性だよこの女の子は。
「そんなに言うなら逆に熱く抱擁してやるぞ」
「おおっ?
果たして二実お姉さまはこんなところで
わたしを抱く勇気があるのかな~?」
バカめ、この恥知らず女の子キラーの二実さまを舐めるなよ。
「もちろん抱けるに決まってるだろお!」
だからあたしはテーブル越しに、
体を縮めたイデアを抱き締めてやった。
「や~ん、二実お姉さまのエッチ~!」
「へっへっへ、柔らかい体してんねえ。
触り心地は最高だぞお」
つうか本当に柔らかい。
しかも頬っぺスベスベだからヤバい。
なんかあたしの中で火が点いてきたぞ。
「わ~、お姉さまに犯される~」
「へへへ、怖かったらもっと抵抗してみろお」
「や~ん、誰か助けて~」
「ふひっ、こりゃヤバいなあ。癖になる抱き心地じゃわい」
ヤバいな、冗談のつもりがちょっとだけ……ね?
「さて、じゃあ死のうか……二実?」
「ひょっ?」
あっ、これってさ。
「あらら夏さんだ。おつかれさま~」
「ええ、ご機嫌麗しゅうございます神様。
では、今すぐこの不埒ものを排除しますので」
ほら、首根っこをガチの力で握られた。
わかるでしょう、この後何が起こるかさ?
「やべっ……待て夏、話せばわかる!」
「おろろ、お姉さまをどうするの~?」
おそらくこれから夏が何をするか知ってる癖に、
イデアのやつはあくまでトボけてやがった。
「ふあっ!?」
「ぐおふっ!」
だけどイデアがあたしをお姉さまと呼んだのが原因なのか、
死ぬほど驚いた夏があたしの首根っこを掴む力を弱めたんだ。
その後の重力落下で
あたしは尻から硬い床にべチッと落ちてしまい、
結局痛い思いをしちゃったけどさ。
「痛てて――尻ぃっ!」
「ちょっ、神様!
いま二実をお姉さん呼ばわりしませんでしたか!?」
「そうだよ。
だって今日からわたしは二実お姉さまの第二の妹だもの」
「ほ、本気ですか?」
「本気だよ、だってこっちのが動き易いもの~」
「……そうですか。
まあ神様がそうしたいのなら御勝手にどうぞとしか
私は言えません」
んっ、何故か夏は機嫌が悪そうだな。
「おやおや夏さん?
わたしにお姉さまを取られると思って妬いてな~い?」
「なっ――そんなことありませんから!」
「そう?
じゃあわたしがお姉さまの唇奪ってもいいかな?」
「うぎっ!」
言いながらイデアはあたしの両頬を片手で掴むと、
どんどんと自分の顔に近づけてゆく。
マジとんでもない怪力でさ。
「ちょっ、ちょっと神様――本気なのですか?」
「んっ、まあ二実お姉さまは見た目クールでカッコいいしね~」
「もごごっ、やめでええ!」
「ほ、ほら、二実も嫌がってるし……」
「じゃあ改竄してあげる。わたしを好きになるように」
や、やめてくれえええ!!
「ほらっ、もう少しでゲッチュー……」
しかもロマン要素が一切ない!
「……いいかげんにしてください!
いくら神様でも本気で怒りますよ!」
「じゃあどうなの? 好きなの?
嫌いなの? どっちなの?」
「そ、それ……は……」
「わたしはハッキリしない子は嫌いだな~」
「……っ!」
あっ、夏が握った拳を上に振り上げたぞ。
こりゃイデアを全力でぶん殴るパターンかもしれん。
やめさせないと!
「ひゃ、ひゃめろなふー……」
だが両頬をガッチリ掴まれてたから上手く喋れなかった。
「あははっ、お姉さまくすぐったい~」
しかも何を笑ってやがるこの性悪!
ていうかお前の為だぞ、この野郎!
「……ひぐっ、えぐっ……!
う――うあああーんっ! 神様のイジワルー!」
「ふぁい?」
何故か夏は握った拳を降ろし、
店の中にも関わらずそのまま大泣きしてしまったのさ。
「ああ、やっぱり泣いちゃうか」
「えっ、あれ、どういうことなの?」
あの精神強いはずの夏がなんでこんなに泣く?
これは夢なのか?
「夏さん、今はわたしの胸で思いきり泣いて落ち着きなさいな」
で、イデアは両腕を拡げて待機してたし。
だがその時の表情は可愛い子を愛でる母親の様だったが。
そんなイデアの胸に夏は顔を寄せると、
全力で抱き着き全力で泣いていた。
「うう……神様のバカバカ!
そんなこと……答えられるわけないよ!」
「どうして? 素直にならないと一生伝わらないのに?」
「でも……二実との関係が壊れちゃうかもしれないから!」
なんだ、あたしと何の関係が壊れると言うのだ?
「想いを伝えた程度で壊れる関係なら、
その関係は豆腐の様に脆かったまでのこと。
そう思えばぶつかれるじゃない?」
「でも、でも……っ!」
「まあ、そこまで夏さんが気にするのなら黙っていればいいよ。
でもそれは一生の苦しみでもあるし、
『あの子』にとっても悪影響でしかない」
「はい……それでも私は……」
「仕方ない子だね、でもそんな夏さんが可愛くて好きだよ?」
「ありがとうございます……神様」
夏がイデアにお礼を言った途端、
夏の体は元々そこには無かったかの様に消え去ってしまった。
というかあたし自身も元の席に座っていたし、
イデアも自分の席で
マロングラッセをモシャモシャと食べていたのさ。
「……あれ、さっき夏がいなかった?」
「もぐもぐ――えっ、何を言ってるのお姉さま?
さっきからわたし達しかいないよ~?」
「そうか……?」
何かが抜けてるっつうか、夢心地な気分なんだよな。
「そんな事よりお姉さまもパウンドケーキ食べなよ。
ハチミツの美味しそうな匂いが堪らないんだから~」
「あ、ああ、そうだな」
というかなんだ。
イデアのあどけない瞳を見てると
なんか全てがどうでもよくなる気がする。
それもあたしの気のせいなのか、
はたまたこいつのせいなのか。
まあ考えるだけ無駄だし、
冷めないうちにシンプルハニーパウンドケーキ食べるか。
「もぐもぐ――うん、やっぱ美味いな!」
「えへへ、わたしにも分けてよお姉さま~!」
「やらないよ、つうかさっきからなんでお姉さまなんだよ?」
「そのヒントはお姉さまの通っている学園にあり!」
んっ、そう言えばうちはお嬢様学校だっけか。
しかも規模が現実離れしてるね。
「ふーん、つまりイデアはお嬢様に憧れてるってわけか」
「正解だよ、お姉さま賢~い!」
「へっへっへ。
そりゃあんな可愛い子ばっかの学園ならなあ……って、
おい待てよ!」
「あれれ、お姉さまどうしたの?」
「いや、まさかあの学園って
イデアが創ったんじゃないだろうな?」
驚いてるあたしとは違って、
イデアは首をふんふんと横に振ってた。
「ううん、それは違うよ~。
あくまでもわたしは学園を創設する様に
世界を構成しただけなんだから」
「いやいや、それって自分で創ったようなもんじゃん」
「ううん。
あそこまで大規模かつ都合の良い空間を創るには、
そこに関わる人々の壮大なドラマや
因果関係を重ねる事が絶対に必要なの。
結局わたしが創造する神だろうとこの世界を構築してくのは、
そんな意識の高い人達なんだからね~」
まあイデアの言いたい事は分かる。
結局、文明や歴史は人が作るものだもんな。
「ふうん、そっかあ。
なんだい人類のこと考えてるじゃんイデア」
「そりゃそうだよ。
人類が文明を築く過程で
大量の宇宙エネルギーが得られるもの」
「へえー」
その『エネルギー増えるよ理論』が
相変わらず分からんのだけど。
しかも好きな事喋りつつも休憩を挟んでは
美味しそうにストロベリーラテを飲み、
マロングラッセを頬張ってるから威厳なんて地の底なんだよなあ。
「うんっ。
それにしてもお姉さまが頼んだこのラテ、
甘酸っぱくてとっても美味しい~!」
「だろう?
三香のヤツが好きだったからイデアの口にも合うと思ってさ」
なんかこの子、お子様舌っぽいもん。
「えへへへっ!
それにこのマロングラッセ……
何口食べても頬っぺたが落ちるくらい美味し~い!」
「はは、美味しいからってあんまりはしゃぎすぎるなよお。
子供みたいに思われるぞ」
「うん、だってわたしは子供だも~ん」
おいおい、そこで開き直るのかよ。
「ああそうかい」
「ふう……この美味しさを味わえるのも
ひとえにパティシエさんの腕の賜物だね。
やっぱり人間は奥が深いや。
どんな色にも染まるんだから~」
「そうだな、そこはあたしも同意しとく。
人間って捨てたもんじゃないだろ?」
「うんっ!
でも宇宙の意思に逆らえないことだけは理解してほしいな」
「はいはい、宇宙さまさまだねえ」
実は未だにイデアが神だとあたしは信じきってないぜ。
ただの電波少女だと思ってる。
「ふう……ごちそうさまでした」
「おう、ごちそうさん」
だって神様が普通、
こんな礼儀正しく手を合わせてごちそうさまなんてするかよ。
しかも可愛いらしい女の子なのにさ。
「じゃあお姉さま?」
「ん、なんだ?」
「スイーツの御礼として、
これからお姉さまにアズタロサの化身に関して
大切な話をするね」
「ああ、そうだったな」
正直イデアの可愛らしい食事姿を見れたから、
あたしとしてはそれで満足だったんだけどな。
「それでね、約束事としてこのことは誰にも話しちゃダメ。
もちろん夏さんにもだよ?」
「あん、どうしてだ?」
「まだ夏さんが知るべきではないから。
それとこの情報が不用意に漏れた場合、
最悪地球は即座に消滅させられちゃうの。
アズタロサの『愛』によってね?」
この時のイデアの表情は真剣そのもの。
だから電波が過ぎるとはいっても、
あたしは思わず怖じ気付いてしまったのさ。
「あ、ああ……」
「まあ仮に消滅したとしてもわたしは気にしないけどね。
また創り直せばいいわけだし~」
「い、いや笑えねえし……」
「それとお姉さま?」
「な、なんだ?」
なんで疑り深い笑顔であたしの目を覗くかなあ。
「わたしのこと、ただの電波女だと思ってるでしょう?」
ギクッ!
「な、そそそそんなわけ、ななないだろう?」
「ああ~、お姉さまったら声が震えてる~。
やっぱり思ってるし~」
「なっ、なわけないじゃん!」
「えへへ、お姉さまがどう思おうと問題ないよ?
結局、真実は変わらないんだも~ん」
で、ヘラヘラと笑い続ける所がまた怖いんだよ。
「そ、それより早く教えてくれよ!
時間が勿体無いじゃねえか!」
「うん、そうだね。
じゃあまずはアズタロサが
地上に化身を産み落とした理由からだね?」
「お、おう……」
やっとユリリウムやアリギエルの正体が分かるのか。
その二人のことは少しだけでも知っときたかったんだよな。
「アズタロサがこの地球全体を監視するため、
豊穣女学園を最終拠点として、
13体の化身を創造したんだ」
「監視って、何を監視するんだ?」
「実際には細かい事とかたくさんあるんだけど、
一番重要な項目は3項目かな」
「三項目?」
「うん。
1つ目は人類が順調に宇宙エネルギーを産み出しているか、
2つ目は人類が進化しすぎていないか、
そして3つ目は世界中で生きている
およそ七割の動植物が負の感情に覆われていないか、
といったところだよ~」
随分具体的に言うけど、
どれも現実離れしててよく分からんというのが
今のあたしの心境である。
「うーん……まあ1つ目は辛うじて理解できなくもないけどさ、
2つ目と3つ目は理由が理解できないぞ」
「そうだね~。
2つ目の項目だけど、
人類は進化し過ぎると『他の宇宙』に侵入しちゃう危険性があるんだ」
「へえー」
他の宇宙とか、どういうことなの。
「そうなると宇宙同士の衝突が不可避となって、
まだまだエネルギーの足りない『この宇宙』が
『他の宇宙』に乗っ取られて、はい終了~。
するとわたしは創造力を失い、
二度とこの世界を創れなくなっちゃうの」
「うっ、それはヤバいな……」
「うん、だから2つ目は丹念に監視してるんだ~。
それと最後の項目だけど、
これはわたしよりもアズタロサの希望だね」
地球を消滅しようとしてる癖に、
そんな優しいなんて意味が分からない。
「意味が分からない……どうしてだ?」
「アズタロサは人間だった頃の残留思念が強いからだと思うな」
「はっ?」
まるで神は、元は人間だったみたいな言い回しだぞ。
「このわたしの姿を見ても分かる通り、
元々はお姉さまと同じ人の子なの。
わたし達神と呼ばれる存在はね?」
「えーっと……やっぱり電波なのか?」
「そっか~、お姉さまは経験しないと信じないタイプなんだね」
あまりにも意味不明だから、つい本音が出ちゃったぞ。
「おっと悪いな、どうしても精神的に受け付けなくてね」
「でもそれこそが人間の証明だから、わたしはそれでいいよ~」
「そう? なんか悪いなあ」
「信じるも自由、信じないのも自由。
だけど時の流れがいつも変わらないことだけは
忘れないでほしいな」
「ああ、肝に命じておく」
「それでね。
わたし達神と呼ばれる存在は
基本的には他人事に介入しないのが理なんだ」
「今イデアがあたしに関わってるのは?」
「それは例外。
もしもあの二人がわたしを呼ばなかったら、
わたしはいつもみたいに宇宙再創造の時が来るのを
待っているだけだったよ~」
あの二人ってのは、夏と三香の事だろうな。
「そうか」
「まあその話は置いとくとして、
だからアズタロサは代理である化身達を地上に送ったの」
「ああ、まあそこまでは分かった。
じゃあイデアはどうやってこの世界の情報を集めてんだ?」
「わたしの場合は地球そのものが受信機みたいなものだし、
さっきも言ったけれど他人事に介入する気はないの。
だから化身を創る必要なんてなかったんだ~」
とりあえず口直しにパウンドケーキを一口食べるか。
うん、うまいぞ。
「そっかあ、
ところで13体の化身ってどんな可愛い子がいるんだ?」
実のところ一番聞きたかったのはそれ。
見た目だけでも可愛い子ばかりなんだろうなあ。
「うん、そうだね~。
じゃあ産まれた順番から紹介してあげるね?」
「おう、よろしく頼む!」
「まず初めに言っとくとね。
アズタロサの化身は、
アズタロサの人間らしい感情から適当に想像し、
わたしが創りあげたんだ~」
「ふーん……っておい!
じゃあアリギエルの事とか普通に知ってたのかよ!」
つまりあの時全く知らなそうにしてたのは、
とぼけてたってことかい。
「うん、だから久しぶりに真近で見ると
愛くるしくて仕方なかったな~。
もうあの意地らしさが堪らないんだ!」
「まあそこは分かるけどさあ……。
つまりアリギエルの産みの親はイデアって事だろ。
アリギエルはそのこと知ってんのか?」
「もちろん知る由も無いよ。
だってアズタロサを本当の親だと思わせるように
創ってるんだもん」
つまりアリギエルは本当の親を知らないってことなのか。
それどころかユリリウムだって知らないことになる。
「なんかそれってさ、辛くないか?」
「大丈夫。
あの子たちが不自由しないようにわたしの力を分け与えてるから」
「そうじゃなくてイデアのほうだよ」
「えっ、わたし?」
珍しくイデアの顔がポカーンとしていたから
よほど驚いたのだろう。
「そうイデア、あんただよ。
だって産みの親の筈なのに
子供達からはそういう認識すらされないんだろ?
そんなの辛いに決まってるじゃん」
「ああ~……まあいいんじゃないかな。
可愛い子には旅をさせよって言うことわざがあって――」
「そうじゃなくてイデアが辛いかどうかが問題なんだ。
確かに天使達にとっては親がアズタロサだって
完全に思い込んでるから平気だろうけど、
イデアはそうじゃないだろう?」
「うーん……そんなこと考えた事もなかったな~。
言われてみると少し寂しく感じるね」
一応悲しむって感情はあるんだな。
なんか安心した。
「やっぱそうだろ」
「でもいいんだ。
今わたしは二実お姉さまの妹なんだもん!」
「ああ、そうだなあ」
なんか間違ってる気はするけど、
可哀想だから認めてやるしかない。
「だから寂しくなんてないよ~」
「へへ、仕方ないからあたしが慰めてやるよ。幾らでもな」
「えへへっ、ありがとうお姉さま!
話を戻すけど、
13体の化身はアズタロサの
『怒り』や『寂しさ』などの感情を
表に出しやすいように創ってるの」
「らしいね、よく分からんけど」
「大丈夫、実際あの子達に会えばイヤでも理解できるよ~」
「おう」
実際、理解したいかと言えば微妙だけどな。
「まず第一に産み出した化身が『愛しみのユリリウム』だね」
「えっ、いとしみ?」
「愛しみというのは強い愛情でかわいがるって意味でね。
あの子は化身達の代表的存在だから、
全化身からの世界に関する情報をまとめては
アズタロサに報告する役割を与えてるの」
「そ、そうなのか……。
一番ゆったりしてそうなのにな」
ホンワカとしてるところとかマジで可愛いしな。
「うん、確かにそうだね。
でも魔力を一番授かってるから、
完全覚醒すれば地球に大穴ぐらい開けられるんじゃないかな」
「あっ、そうだった……。
そういや学園長がユリリウムに何か施した時、
ホンワカした雰囲気が一転してカリスマ的になってたな。
しかも白いエネルギー弾みたいなので
あたしを守ってくれた幸子さんを攻撃してたし」
「わあ~、それは珍しいもの見れたね~!」
なぜ嬉しそうに微笑むんだ。
「こっちは笑えねえよ。
気を失って倒れてた子もいたんだぞ!」
「ま~そうだね。
もしもサキュバスがユリリウムの白気弾を弾いてたたら、
あの学園長室は崩れ落ちてただろ~ね」
つうかホワイトレクイエムなんて厳つい名前なのか。
あの白いエネルギー弾は。
「うう……とにかく怖いぜ、やっぱ」
「いっそもっと怖い思いして体に現実だと理解させてみる?」
「勘弁してくれ、マジで」
「えへへっ。
次は第二の化身『好奇心のグレム』の紹介だね」
「おう」
「グレムは園児みたいにとっても背が低い可愛らしい化身でね。
その感情の通り好奇心が相当強く、
人間の行うこと全てに興味津々なんだ~」
「へえー」
想像したら、なんかたまらないなあ。
「だからあの子には人間達の観察を任せてるの。
もちろんその後はユリリウムに報告させてね」
「なるほど、理解した」
「次に第三の化身『妬みのメギラス』だね」
「妬みかあ……」
妬みとかどうして化身にしたんだろ、怖いなあ。
「メギラスはとにかく嫉妬深くも美しいお姉さん系でね。
あの子には『冷静の化身クーラン』や
『怠けの化身メドベージ』と一緒に
嫉妬、憎悪、罪悪感を増幅しまくっている人間達の
素行調査を任せてるんだ」
「うっ、一気に増えたな……」
「大丈夫、後でその子達の紹介もするから~」
「おう、マジで頼むわ」
正直13体の名前を覚えるだけでも辛いぜ。
「次は第四の化身『冷静のクーラン』ね~。
あの子もお姉さん系だけど、
メギラスと違ってクールビューティなの。
とにかく冷静沈着で世話好きっ子だから、
メギラスとメドベージのお世話係りを任せたんだ」
「おう、なんとなく分かった」
なんかそいつからは苦労人の香りがする。
「次は第五の化身『怠けのメドベージ』だね。
あの子はやる時はすごくやるんだけど、
とにかく働くのが嫌いでね。
だからクーランに働くよう促せてるの」
「あのさあ、ちょっとクーランって天使が可哀想じゃないか?
一人に面倒かけ過ぎだろ」
「大丈夫、あの子はお世話するのが本当に大好きだから」
「それってマジ?」
「本当だよ?
実際に本人も二人のお世話を心から喜んでたし」
「それならいいか……別に」
てっきり無理やり面倒事を押し付けられてるのかと思ったぜ。
「じゃあ次は第六の化身『憎しみのネーナビスチ』か~。
あの子は控えめな性格だけどとにかく人間が大嫌いだから、
敢えて人間の愛情について学ばせてるんだ」
「また恐ろしい感情を天使にしやがったな。
人を襲ったりしないのか?」
「そこは大丈夫。
なかなか恐怖心が強くて臆病だから人間を襲ったりしないよ。
それに可愛い子だし~」
「そうかい」
なんつうか、
イデアが一番怖い存在だってのは今更ながら理解できた。
なんせニコニコと笑いながら怖いこと考えてんだもん。
「次は第七の化身『快楽のヘードネ』ね。
あの子は子供みたいに楽しい事が大好きでね、
たくさんの人間と遊ばせて情報を集めてるの」
「それって……エロいことじゃないよな?」
「もちろん違うよ~。
肉体的よりも精神的に快楽を求めるタイプだからね。
とにかく遊ばせては泳がせ、
世間の波と言う名の世界情勢を調査してもらってるんだ~」
「そう……」
まあエロいことしてないなら別にいいや。
「次は第八の化身『怒りのフレイメア』だね。
あの子はいっつも怒ってるせっかちさん。
でも人間に対して怒ってるわけじゃないから安心して~」
「そ、そうか」
「それであの子には、
人間がどれだけ重い罪を犯しているかの調査をさせてるの。
『熱情のパッショーネ』と一緒にね~」
やっとあたしにも理解しやすい感情の天使が出てきた気がするぜ。
「いいねえ熱情、なんか気が合いそうだぜ」
「そうだね~、お姉さまとはきっと合うと思うな」
「ああ、早く会ってみたいぜ」
「えへへっ。
それで第九の化身は『熱情のパッショーネ』!
あの子は何に対しても熱が入るお姉さん系でね。
たまに熱くるしすぎてびっくりする事もあるの」
「そっかそっかあ」
そういうプラスの感情の天使ばかり創ってくれよなあ。
「さあ、次は第十の化身『苦しみのアゴーニア』ちゃん。
あの子はいっつもこの世界の些事に悩んでは
一人で苦しんでるマゾっ子なんだ~」
「おい、なんか可哀想じゃねえか!」
「確かにずっと苦悩してるんだから可哀想だよね」
「だったらそんな感情で創るなよな!」
イデアが何考えてるか分からんから、
マジで頭おかしくなりそうだぜ。
「でもあの子は人の苦しみを深く理解できる子だから
どうしても必要なの。
この理不尽すぎる世界を人が生きるには、
あの子のような理解者が絶対に必要だもの」
「そっか……そういう見方もあるんだな」
思わず怒鳴ってしまったことが申し訳ないぜ。
「この世は細かい事を除いて
何億にも次元が折り重なって存在するからね。
正しいものの見方なんて存在しないよ~」
「そうだな、次元がどうとか意味分からないけど」
「えへへっ。
次は第十一の化身『羞恥のスキャンド』ね。
あの子はかなり恥ずかしがり屋な見た目幼い子でね。
反応が可愛いから会うといつも抱きしめちゃうの!」
「ああ、なんかわかるぜその気持ち」
想像するとあかんね、気分が昂ぶるわ。
「そんなスキャンドには、
恥ずかしがり屋さんの人達の行いをメインに調査させてるんだ~」
「ほうほう、いいねえ」
その調査には是非とも、あたしも混ざりたいもんだ。
「さて第十二の化身は、
お姉さまお待ちかねの『寂しさのアリギエル』だよっ!」
「ああ、あいつの事は是非とも知っておきたかったからな」
「うん、そうだね!」
イデアがアリギエルの話をしている時、
なんだか一番幸せそうな気がする。
なんせ今が一番いい笑顔だもん。
「それでね。
アリギエルはとても寂しがりさんだけど、
とても意地っ張りだから素直じゃないんだよね~」
「そうだな、なんか言う度いっつも殴ってくるもん」
「えへへ、それはお姉さまがあの子に気に入られてる証拠~」
「マジかよ?」
あんなにツンケンしてるのに信じられんぜ。
「本当だよ?
素直じゃないのに寂しがりさんだから、
もしかしたら近くでお姉さまを見ているかもしれないよ?」
「あはは、怖い冗談はよしてくれよ」
なんか背中が気になってくるじゃんか。
「それであの子には特別に、
この世界がどれだけ秩序を保ててるかの調査をさせてるの。
この調査は少し面倒だからあの子の裁量に任せながらね?」
「そっか、あいつもこの世界で頑張ってるって事なんだな」
「うん、そうだよ~。
アリギエルに限らず、
もしも化身達がいなかったら
宇宙エネルギーを効率よく集めるのは不可能だも~ん。
まあわたしが本気だせばあの子たちの力すらいらないけどね!」
「ああ、そうかい」
結局はそこに落ち着くんだな、この電波娘め。
しかも自信満々にしてらっしゃることで可愛らしいねえ。
「さて、次で最後の第十三の化身『色情のサブラージ』だよ~ん」
「色情って事は、やっぱエロい天使なのか……」
「うん、エロエロだね間違いない!」
ああ、頭痛いし疲れるヤツだわ、きっと。
「あのさあ……そんなの創ったら倫理的にまずいだろ!」
「いいのいいの~っ。
創造神なんだし好き勝手創ればね~」
「はあ……まあいいや。そいつには何をさせてんだい?」
「うん。
あの子は男女問わず
性欲に直接語りかける魅惑の力を持ってるバイだから、
その力を利用してこの世界での重要人物から情報収集してるの。
つまりハニートラップだねっ!」
「ヒューっ、えげつないな。悪魔のような天使だぜ」
んっ、何か覚えがある気がするが……まあいいか。
「まっ、それもだ~いぶ昔の話だけどね~!」
「マジか。
つうことは今、そんなエロい事はさせてないんだな?」
「そうだよ。
むしろ今は……ううん、なんでもないや」
あれ、今露骨に会話を逸らさなかったかこの子。
「おい、なんか隠してないか?」
「ううん、何も隠してな~い」
うっ、顔色一つ変えないから本当に隠してはいないのか?
「本当かよ?」
「本当だよ~!
そんなことよりちょっと話も長くなったし
そろそろ帰ろうお姉さま~。
今日はお姉さまのベッドでグッスリ寝たいよ!」
「って、まだ昼過ぎだぞ! 今から寝るのかよ!」
「ふわあ……ねみゅい」
うん、眠たそうな顔で大きな欠伸したと思ったら
机に両腕を枕にして突っ伏しやがったよ。
つうか可愛い寝ぼけ顔だな、この野郎。
「おいおい、しっかりしろよ?」
「んん……時差ぼけ~……。
『向こう側』からこっち来るのに……
半日掛かってるし~……」
「って、ウソだろう?」
夏と三香が呼んで10分も経ってないだろうがよ。
「お姉さま……わたしをお家まで……
おんぶして運んで~……。
スー……スー……」
うわっ、マジでそのまま寝やがった。
「ああバカ、店の中で寝んなよな!」
両肩を揺さぶって起こそうとするが全く無意味だ。
可愛らしく微笑みながらムニャムニャ呟いてただけだ。
「ああクソ、仕方ねえヤツだなマジで……」
とにかくここでイライラしてても仕方ない。
会計を速攻で済ませてからグッスリ寝てるイデアをおんぶし、
恥ずかしながらも店を出て、
あたしは自分の家を目指してゆっくり移動したのさ。
それにしてもおぶっているイデアの体は
普通の女の子みたいにまあ軽い。
だからこの子が神だなんて
今のあたしには正直理解できなかったよ。




