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あたしは女の子にしかモテない!  作者: 美浜忠吉
第2章 困惑日和
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第5話 未知との遭遇 ― 前編

 新聞部部室を出たあたしは

クレアさん専用部屋に戻る為に部室南の歩道を歩いていたのさ。


「はーあ、今日はハガネちゃんも帰っちゃったし、

夏は部活の方に専念してるしで暇だなあ」


 ついそんな独り言を呟いちゃう。


「ん?」


 何か珍しい姿をした女の子が歩道の真ん中に立ってら。

 何が珍しいかって全身白タイツだからね。


 しかも妙に艶かしいボディラインが際立っててヤバいんですけど。


「おーい」


 ちょいと注意しようとあたしが気の抜けた返事を掛けたら、

その子はスルーして歩き始めるし。


「あっ、ちょっと!」


 思わずあたしが追い掛けると、

その子はあたしと間合いを取る様に速歩きし始めた。


「待ちなよお!」


 とにかく追い掛ける為にあたしは駆けたんだけど、

そしたらその子も駆け始めた。つうか速い!


「ええ……待ってよおー!」


 うぐ、最近あまり運動してないから足が重い。

 さっきも走ってたから疲れも溜まってるし。


 だからあたしは歩かざるを得ないわけ。


「はあ……はあ……ふう……」


 でも距離を離すつもりは無いのか、

あたしが歩くとその子も同じ速度で歩くんだよ。


 まるであたしに黙ってついて来いと言わんばかりに。


「ったく……仕方ないなあ!」


 癪だけど、とにかく黙って着いて行ってやんよ!


○


 しばらく謎の白タイツの子に着いて行くと、

職員公舎でもある中央公舎に辿り着いたわけ。


「うわっ、お前そんな格好でここに入るのかよ!」


 あたしがそう言ってもその子は無視を続ける。

 なんかちょいと怖くなってきたんですけど。


 まあいいや、着いてくか。


○


 気付けば公舎3階まで辿り着き、

そこまで来るとその子はいきなり全力で駆けて行ってしまった。


「お、おい! あーあ、見失っちゃったよ」


 とは言えこの先にあるのは学園長の部屋だけ……。

 あたしは入るかどうか迷ってしまったよ。


「うーん……困ったなあ」


 だけど白タイツの子は気になるから入らざるを得ない。


「よし、覚悟を決めれよあたし!」


 そう、入らなければあの子が気になって眠れやしないしな!


 とりあえずドアをノックしよう。


「すんませーん!」

『あらあら、珍しいお客さまですね?』

「うわっ?」


 ノックをして大声で叫ぶと、

ドアの横にあるスピーカーから学園長の声が聞こえて

かなりビックリしたぜ。


『ワタクシに何か用件がございまして?』

「えっと……さっき白タイツの子がこちらに来たかと……」

『あら、あらあら?

この子が連れてきてしまったのね?』

「はっ? えっと、まあそんな感じですかね」


 やっぱり学園長室にいるのか。

 まさか学園長のお子さんかな?


 いくら男子禁制とは言えあんな艶かしい姿をした子を

学園内に野放しするのは良くないでしょ!


 まあ不良的なあたしが言えた義理じゃないけどな。


『とにかくお入りなさいな。

この子もあなたとお話ししたいみたいよ』

「あ、それじゃあ失礼しまっす」


 さっきまであんなに無視してたのになあ。

 とにかく中に入ろう。


○


 中に入ってみれば相変わらずのくそ広い学園長室。

 その中央壁際の大きな机に学園長が座り、

そのすぐ隣にさっきの子がつぶらな瞳で

こちらをジーッと見ながら立っていた。

 そんでその後ろにはいつもの古風なメイドさんがいる。


「よく来てくださいましたね」

「いえ、まあちょっとですねえ」

「立ち話もなんですし、そちらのソファにお掛けなさいな」

「あっ、それでは失礼しまっす」


 遠慮なんてせずに右壁際にある柔らかいソファに腰掛けると、

あたしの側に白タイツの子が近付いてくる。


「ううん?」


 というかあたしの膝にちょこんと乗っかってきた。

 よく分からんけど可愛らしい子だね。


 いや、そうじゃなくてさ。


「えっと……これはどういう?」

「あらあら、どうやらあなたの事が

気に入ってしまったみたいでございますねぇ」


 学園長は楽しそうに言うけれど、

こちらとしてはちょいと困るんですけど。


「頭……撫でて?」

「えっ?」


 ええっと、本人が言うならとにかく撫でてあげよう。


「これでいいのか?」

「うに……嬉しい」


 あっ、ヤバいぞこの子本当に可愛いな。

 だが確実にあたしよりもお胸が成長しているから、

それを上から眺めると悲しくなってしまうぞ。

 膝に乗っかるお尻の感触もやたらと柔らかいし。


 いや、でもスゴく和むから楽しくて仕方ないがな。


「あはははっ!」

「お姉ちゃん……名前……教えて?」

「えっ、そうだね。

あたしは二実。秋月二実って言うの」

「いい名前……」

「ありがと。君の名前は?」

「ユリリウム……」


 ユリリウムと呼ぶ女の子があたしを見上げる度に、

青白い髪のツインテールがフワッと揺れる。


「そっかあ、見たところ外人さんだもんねえ」


 つまり学園長は外国の方と付き合っているのかね?


「ううん……天界から来た」

「えっ?」


 どう言う事だろう。さっぱり分からない。


「あの、学園長?」

「はい、何でございましょうか?」

「いえ、天界って何の事かなあって……」


 あたしの質問に学園長は優しく微笑む。


「うふふ、まず秋月さんはこの子を見てどう思いますか?」

「そうですねえ……」


 改めてユリリウムの体全体を眺めて見ると、

こりゃ人間では無い気がしてくる。


 だって、あまりにも整った幼い顔付きと

背は低いけども魅惑のボディが引き立つんだもん。


 ここまで完成されたフォームを見た事は無いんだよなあ。


 いや、一人規格外の完ペキ美人があたしの側にいつもいたけど。

 だけど今はその話は自重しよ。


「なんて言うんですかね。人間じゃ無い気がします?」


 まあそんな事はあり得ないんだけど。


「ええ、その通りですよ」

「えっ?」

「その子に天界の事を尋ねてみたらいかがかしら。

とても話したがっておりますよ?」


 学園長の言う通り、ユリリウムは無垢な眼差しをあたしに向けてた。


 なんかこの子の表情は基本的に無気力に見えるけど、

それでも無垢な眼差しを向けられては堪ったものではない。


 もうガンガン話を聞いちゃう!


「うぇっへへへ……!」


 ちょいとゲスい笑い声をあげてしまったけど

ユリリウムは全く動揺せず首を可愛く傾げるの。


 なんか無垢すぎて色々な意味で心配だわ。


「ユリリウム、天界の事を話してくれえ」

「うに……天界……すごく大きくて……キラキラ……綺麗……!」


 うむ、何言ってるか分からないけど可愛いからよし!


「そっかあ、頭撫でてあげるぞお」

「うに……! それと……アズタロサ様……いる。

ユリリウムを産んだ……神様……!」

「ほうほう、なるほどねえ」


 一体この子はどんな絵本を読んでるのかなあ。


「いやあ、学園長のお子さんはとっても可愛いですねえ」


 そう言うと後ろに待機してたメイドさんが思い切りふき出す。


「あーっはっはっはっはあっ! この子面白過ぎやろー!」


 それには学園長が恥ずかしがりながらも怒り気味だった。


「コ、コラ礼(れい)……あなたはこの場では

素を出さないって約束したでしょう?」

「うっひっひっひっひっ!

せやかて姉ちゃん、この子の行動奇想天外過ぎやし~。

前ん時も笑い堪えるの必死やったんやで!」

「まあ、そうなのだけど」


 というかあれ……?

 この人は気品ある古風のメイドさん……なんだよなあ?


 あれ、あれれ?


「えっとお……学園長?」

「あっ、はい。何でございしょうか?」

「このべっぴんで明るいメイドさんは一体?」

「ええ、この子は……」

「そんなべっぴんやなんて照れるな~!

ウチは礼って言うんや!

かわええ姉ちゃんの血の繋がらん妹なんやで!」


 おおう、あの学園長を無視して喋るとは末恐ろしい方だね。


「だから勝手にベラベラ喋らないでと……」

「まあまあ姉ちゃん、いいやないか!

いつもここで黙っとくとか普通に考えんでもキツいんやから!」

「ああもう……」


 うむ、学園長がタジタジで面白い。


「あははっ、まあとにかくよろしくっす礼さん!」

「おう、よろしくな!」


 言いながらグッと親指を上に立ててくれるノリの良さとか流石っすね。


「コホン!」


 怒り気味な顔した学園長の咳払いを聞いて

礼さんは若干額に汗を浮かべ焦ってた。


「ああ……ゴメンな二実ちゃん。

これ以上喋ると後が怖いんでウチは黙っとくわ~」

「あ、はい。まあそれなら仕方ないっすね」


 そんで元の位置へ緩やかに戻ってく。


「はあ……全く礼ときたら……」

「まあまあ学園長、元気な妹さんでよろしいじゃないですかあ」


 言いながら礼さんに親指を立ててみる。

 そしたらノリノリに立て返してくれたさ。


 本当に愉快な人だね!


「元気なのはよろしいのだけど、少し口が過ぎるところがダメなのよ」

「あはは、まあそこは否定できないっすけど……」


 あたしがそう言うと、「否定せんのかーい!」って大声が

学園長の背中から聞こえきて吹き出しそうになっちゃったじゃんか。


 まあ学園長はスルーしてたけどさ。


「それにしても学園長?」

「はい、何かしら?」

「聞きたいんですけど、

ユリリウムはやっぱり学園長のお子さんなんですよね!?」


 あたしの無遠慮な質問に礼さんは再びふき出し、

学園長は慌てふためいてしまったよ。


「だ、だから違うのよっ」

「本当にですか?」

「本当です! そもそもその子は人間ではありませんから!」

「うーん、それがよく分かんないんすよね。

だってあたしの膝にこうして座ってて温もりを感じれるワケだし」


 言いながらユリリウムの頭をナデナデしてあげると、

「うに……」とクソ愛らしい声を上げてくれるからもう堪らないぜ!


「疲れるのであまりしたくは無かったのだけど証明してあげますわ。

その子の真の姿をね」

「えっ?」


 学園長が指をパチンと鳴らすと、

なんかユリリウムの様子がおかしくなってくる。というか熱い!


「あちちち!」


 退こうにも動き辛いし。


「お主……我の頭に気安く触れるでない!」

「痛ってえ!?」


 あんなに甘えてた子が頬を引っ叩いてくれたぞ。しかも宙に浮いてるし。


 まあおかげで身動きは取れるようになったけど。


「というか背中に生えてる白鳥みたいなデカい羽……なんなの!?」

「ふう……驚きましたか?

その天使の翼こそユリリウムが人智を越えし者、

即ち天使である証明なのでございますよ」


 白い翼を華麗にバタつかせて宙に浮かぶ

ユリリウムの姿は確かに天使みたいだ。


 でも、そんなものが現実に存在するなんてあり得ないよ。


「やっぱりわけが分からないんですが……」

「あら、まだ信じられないかしら?」

「ええ、もしかしたらトリックか何かかもしれないですし」

「困りましたね。あまりしたくは無かったのですけど、

あなたに現実を分からせてあげませんと」


 何を思ったのか学園長はあたしの胸元に手を押し当ててきた。


「ちょっ、何を!?」

「あなたの中に隠れ潜んでいる『悪魔』を目覚めさせてあげますわ!」

「うっ……!」


 何かあたしの胸が異常に熱い。

 それに意識も朦朧としてきてかなり辛いぞ。


「く……苦しい……っ!」

「うふふ、まさかこんなにも早くあなたの悪魔を拝見できるなんて

思いもよらなかったわ……」


 よくわからないけど学園長は静かだけど楽しそうにしてる。

 一応生徒であるあたしが苦しんでいるのにさ。


「ヤバい……本当に苦しいから……」

「大丈夫、すぐに終わります」

「ちょっと……マジ尋常じゃないんですけど……

礼さんもなんとか言って……」


 だけど礼さんは学園長室にいない。

 いついなくなったんだろ。


 というか体が熱すぎてそれどころじゃないよ。


「う……クッソ……!」

「抵抗してはいけません。逆に辛くなりますから」

「そんな事……言われてもさ……」

「あと少しの辛抱です。心を落ち着けなさいな」


 そこまで言われてはもうあたしには何も抵抗できない。

 とにかく心を無理やり落ち着かせるだけだ。


「ふう……ふう……」

「そう、それでいいのです」


 するとどうだろう。本当に数秒で体の疲れは消え去ったぞ。

 胸の方はまだ苦しいが。


「はあ……とにかく良かったあ」

「お疲れ様でした。

あなたの隣で可愛いらしい悪魔がグッスリと眠っているわ?」

「うん……?」


 学園長はあたしの隣のソファに目をやったもんだから、

あたしも即座にそちらに目をやったのさ。


 するとそこには見た事もない子が寝てるんだよ。


「あの……この小さくて可愛い男の子はどなたです?」


 しかも、黒い角やコウモリみたいな翼まで背中に生やしてるし、

あげく先端が尖った黒い尻尾まで生やしてさ。


「ふふ、それがあなたの中に潜んでいた悪魔よ?」

「えっーと……悪魔って?」

「悪魔は悪魔でございますよ。

まあこの子は少し特別なのですけど……」

「はっ……それってどういう?

いやいや、それよりあたしの体の中にそんな……さあ?」

「あら、ですけど先程までいなかったその子が

間違いなくそこにいるではありませんか。

しかも人間とは思えない姿をしておりますでしょう?」


 まあここまでされてトリックもクソもないし信じるしかないのかね。


 なんか癪だけどさ。


「それよりも秋月さん?」

「えっ、何でしょうか」


 なんか学園長があたしの体を眺めてるんだけど。


「あなた、お胸の方は苦しくないのかしら?」

「あっ、はい。実はさっきから苦しく……?」


 ふと自分の胸に目を見やると、

風船みたいに膨らんでいる事に気付いた。


 驚いたあたしは「はえっ!?」と情けない叫び声を上げつつ、

両手で掴んでその感触を確かめていたのさ。


「や、柔らかい……っ! つうかデカい!」


 スポブラ越しに揉んだそれは異様にふんわりしてたのさ。


 というかなんだこれホンモノかよ……マジ嬉しい!


「うふふ、どうやら悪魔を体から離してしまった事で

女性らしい姿を取り戻した様ですね?」

「えっ、それってマジすか!?」

「ええ、本当よ?

因みにその子は世の女性を欲情させる力を持つ悪魔……

インキュバスでございましょう」


 インキュバスって言ったらそりゃまあ、

色気盛んな悪魔なんだろね。


 いや、今そんな事はどうでもいい!


「つ、つまりあたしが無駄にモテてる理由って……」

「そうね、おそらくその子が原因だと思いますわ」

「うそーん」

「おまけに男性らしい姿をしていたのも、

その子の持つ魔力のせいになりますわね」

「そですか……」


 うむ、いろいろと納得が行くようなそうでもないような?


 そんな風にあたしが驚いてると突然大きなドアがバアンと勢い良く開き、

気絶した女の子を肩に担いだ礼さんが入ってきたのさ。


 というかその子は……!


「いや~、驚いたわ。

まさかこないなカワイ子ちゃんが

ドアの隙間から覗いとるなんて思いもせんかったで?」

「ハガネちゃん!?」

「なんや、二実ちゃんの友達なんか?」

「そうっすよ! 降ろしてあげてくださいよ!」

「あはは、まあ待って~や二実ちゃん。

ちょいと姉ちゃんに断らなあかんねんて」

「どういうこと?」

「そういうわけですので、

少しだけ大人しくしてくださいませ」


 そう言った学園長と目を合わすと、

あたしの体が動かなくなってしまう。


「なっ……動かない……?」


 しかも喋りにくくなってるし。


「うふふ、まさか口を動かせるなんて物凄い抵抗力でございますね」

「な……何をしたのさ……」

「さあ礼、いけない生徒をその机へ」


 学園長の奴め、あたしを無視して続けるか。


「あいよ姉ちゃん!」


 それから礼さんは学園長の大きなデスクの上に

気絶したハガネちゃんを優しく乗せた。


 そんで学園長もデスクに移動する。

 その上をユリリウムが同行しているしさ。


 ハガネちゃんの元に移動した学園長は、

微笑みながらもハガネちゃんの額に手を当てる。


「うふふ、さて……この子には申し訳ないのですけど

本日の記憶を消させてもらいますわ」

「姉ちゃん、やり過ぎて記憶喪失にせんといてよ?」

「バカを言わないで。

このワタクシがそんな失敗をするワケがないでしょう?」

「あはは、勘弁してや姉ちゃん!

ただの冗談やからそんなに怒らんといて~な!」

「全く……あなたは本当に口が軽いのですから」


 あの二人の会話から察するに、ハガネちゃんの記憶を消すつもりなのか。


 クソ、そんな事させて溜まるものか!


「く……うう……っ」


 動けよあたしの体。

 そうじゃないとハガネちゃんが危ないんだぞ!


 だけど、どう足掻いたってあたしの体は動かない。


 誰か……誰かあたしの代わりにハガネちゃんを助けて!


「お願い……だから……っ」

『ああもう、さっきからうるさいわね!』


 あたしが強く願った瞬間、甲高い声が聞こえてきたのさ。

 そんであたしの上空に色っぽい女性の姿がひょいっと現れる。


「えっ……?」


 その人の姿は隣でスヤスヤしてる悪魔――インキュバスと

似た様な姿をしていた。


「あんたがワタシを呼び出してくれたんでしょ?」

「だ、誰だよお前……あたし……呼んだ覚えなんか……」

「ふーん、シラを切るんだ。まあいいけど別に。

それで何さ、あの子を助ければいいの?」

「あ……うん」

「じゃあチャッチャと終わらせたげるわ。

ワタシも久しぶりに暴れたかったし!」

「ちょっ……どうする気だ?」

「こうするのよ」


 色っぽい女性がウインクしながら

学園長に向かって手の平をかざした瞬間、

赤くキラキラと輝くハートの形をした物体が

学園長目掛けて物凄い早さで射たれる。


 だがそのハートは宙に浮いているユリリウムの翼に

いとも容易く弾かれて消滅してしまった。


 それでユリリウムは怒り顔を色っぽい女性に向けるし。


「下賤な輩め……慧の邪魔をするでない」

「へえ、ワタシの魔術をそんな簡単に弾くなんてね。ちょっと意外だわ」

「サキュバス……」

「うーん、正解だけどその呼び方はあまり好きでは無いの。

なんか可愛くないし」

「黙れ、この下卑た悪魔めが。

お主がこの場にしゃしゃり出てくるとは用件が違うではないか」


 次にユリリウムは手のひらをサキュバスと呼ばれた

色っぽい女性に向ける。

 するとその手のひらに白く輝く球体が集まり始めた。


「ああ、まあそれは仕方ないわね。

なんせ『我が主さま』が

この子の悲しむ姿を見たくないってうるさくってねえ」


 サキュバスはあたしを横目で見ながら愉快にほほ笑む。


「ふん……たかが人間に使役されるとは堕ちたものだ」


 その白い球体がどんどんデカくなってるし。


「うふふふふ、それはお互いさまでしょうに」

「お主と一緒にするな。

我はアズタロサ様に使役され、慧に力を預けているだけだ」

「ふーん、物は言いようよね?」

「黙れ!」


 次の瞬間、バスケのボール並みにデカくなった白い球体が

サキュバス目掛けて撃ち放たれた。


 というかあたしも巻き込まれそうなんだけど!


「ヤバ……っ!」

「うふふ、ワタシがいれば大丈夫。怖がらないで?」

「あ……うん」


 だけどもサキュバスは、意地悪だけども優しげな笑顔を

あたしに向けてくれたもんだからどことなくホッとしてしまう。


 そんでユリリウムの方に向き直ると両手を前に突き出し、

その白い球体を辛そうに受けとめていたのさ。


「く……っ!」


 白い球体はサキュバスの両手の中でキュルキュルと空転し、

白い輝きも徐々に失われてゆく。

 後には何も無かったかの様に消え去ってしまったのさ。


 だけどサキュバスの両手はすっかりと赤く染まっていたから、

実際には無傷では無いんだと思う。


「ふう……ちょっとヤバかったけど何とか受け止められたわ」

「あんた……その手の傷は大丈夫なのか?」

「ええ、問題無いわよ。こんな傷すぐに治るわ」


 そう言いながらガッツポーズをしてくれる辺り、

いいやつには違いないんだね。


 痛そうな傷だから、我慢してるのは見え見えなんだけど。


「お主……天井にでも弾けばいいものを。

わざわざ受け止めるとはバカの極みなのか?」

「ええ、バカには違いないね。

でもね、それで仮に天井が崩れて

この子とイっちゃんを傷付けるよりは全然マシだし」


 イっちゃんとはまさか、この男の子の事かな。


「呆れたものだな……。

昔のお主はもっと好き勝手に暴れておったろうに」

「人間に限らず誰しもオトナになるって事よ。

まあその事を教えてくれたのは『我が主様』なんだけど……ねっ!」


 サキュバスは軽い言葉を交わしながらも

ユリリウムとの間合いを即座に詰めた。


「なぬっ!?」

「バカね、近接格闘ならワタシの方が上よ!」


 そう言いながらもユリリウムの腕を掴み、

そのまま背負い投げしてしまったのさ。


「きゃあっ!」


 思いきり床に叩き付けられたユリリウムは

その場に伏せて動けなくなる。


「くっ……体が動かぬではないか……」

「緊縛の魔術(ホールド)を仕込んでおいたからね。

しばらくは動けないわよ」

「我の負け、か……」

「ワタシの運が良かっただけよ」


 次にサキュバスは学園長の元へと一直線に駆けるが、

途中で礼さんが立ちはだかる。


「礼、後数分で終わるからその悪戯っ子を止めなさい?」

「へいへい、全く無茶言うてくれるな~姉ちゃんはさ」

「無駄口叩かないの。相手は腐っても悪魔なのよ?」

「んな事分かっとるって~!」


 何がなんだかよく分からない展開のまま、

礼さんはドヤ顔でメイド服のポケットから

黄色いお札の様なモノを数枚取り出し、

両手に握って構える。


「しゃあない、久しぶりに陰陽師としてのウチの力……見せたるわ!」


 そんな礼さんの姿を目の当たりにしたサキュバスの顔は

明らかに焦っていたようだけれども。

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