第35話 幸せな2人
夏とさいひーが仲直りしてから1週間後の
11月を迎えたその日の朝。
あたしはいつもの様に夏と一緒になって
豊穣女学園に登校してたのさ。
「ねえ夏?」
「ん、どうかしたの二実?」
「いやさあ、そう言えば
白瀬家と日向家の仕来りって、
なんの事だったのか結局分からなくてさあ」
というか1週間ずーっと考えてたんだけど、
結局夏が養女になる理由が分からなかったもんよ。
「そうね、かなり昔から白瀬の子孫を何人か、
日向に譲る事になってるのよ」
「えっ、どうしてそんな事を?」
「それは今から300年以上も前の話になるわ」
「はい!?」
そんな大昔……江戸時代からかよ!?
まるで意味が分からんぞ!
「どうも日向は江戸時代から
子宝に恵まれなかったり、
産まれたとしても早死にしてしまう
運命にあるらしくてね」
「ええ……?
でも、じいちゃんやばあちゃんは……?」
「うん、じっちゃんとばっちゃんは
その運命とは外れてるらしいの。
きっと運がいいんだろうね」
「はええ……たまげたなあ」
そんな家柄の事情、
ちょっとありえないんですけど。
「まあ、戦後からはその不幸ごとも無くなって
仕来り事態も廃れてたんだけど、
今回はじっちゃんとばっちゃんの
一人娘だった時子さんと、時子さんの旦那さんが
一挙に亡くなってしまってから15年後だったかな。
次女の私が産まれて7歳を迎えた頃に、
仕来りを行ったわけだね」
たしか、夏のおじいちゃんとおばあちゃんは
現在62歳だったから、
15年前だとすると……47歳の頃に
一人娘と旦那さんを亡くした事になる。
そりゃあ、
辛いなんてレベルを超えてるだろうね。
「うーん、だけどさあ。
それでも廃れた仕来りを
実行する意味なんて……」
「でも、それも仕方が無かったの。
悲しみに明け暮れるばっちゃんを
どうしても元気付けたかったじっちゃんが、
無理を承知で父さんに頭を下げながら
仕来りを頼んでいたらしいから」
「そっか……それなら仕方ないな」
姉妹の絆を引き裂く恐れを持つような仕来りだけど、
それでも自分の娘夫婦を亡くしたおばあちゃんが
夏を養女に貰って元気を取り戻したんだもんな。
それをあたしみたいな外野が
とやかく言う事はできないってもんさ。
「それにこの仕来りのおかげで
二実とも出会えたんだし
今更何も気にしてないわ」
「うん、それならいいんだよ」
ううむ、思ったよりも悲しい話だったから
場がしんみりしちゃったじゃん。
よし、ここはいつも通り
適当な話で場を盛り上げましょうぞ!
「はーあ、それにしても彼氏欲しいなあ?」
「何よいきなり。
というか、またそれ……?
二実ったらどれだけ飢えてるのよ」
うむ、流れも少しずつ
明るい方向に戻ってるぞ。
あたし、感激い!
「だってさあ、
16歳の可憐な女の子であるあたしが
彼氏の1人もできてないんだぜ。
それってなんかおかしくないか?
なあ、夏もそう思うよなあ?」
あたしが自分を可憐と言ったからかな。
何故か夏は蔑んだ目線をあたしに送ってたよ。
うぐ、なんか傷付くぜえ。
「別に、それに彼氏なんていらないよ」
「うーん、勿体無いなあ。
夏の場合は可愛いから
すぐに彼氏とかできそうなんだけどなあ」
夏は慌てふためきながら
あたしの顔を見てた。
「そ、そもそも私はまだ未成年だから
そういうのは早いと思ってるの!」
ううむ、なんとお堅い言葉でしょうなあ。
んまあ、こういう生真面目な夏だからこそ、
からかいがいがあるってもんだ!
どれ、久しぶりに夏の感触を
直で味わおうかなあ。
「へっへーん……それっ!」
「きゃあっ!?」
だから夏の体に抱き付いてやった。
もちろん反省はしてない。
「だったらさあ、
いっそあたしと付き合わないかーい?」
もちろん冗談だけどな!
「あ……あのね二実!
私達はその……女の子同士であってね……」
うーん、頬を真っ赤に染めて
なんて初々しい反応なんざましょ!
マジで堪らんですぜ!
「そんな事言わないでさあ、
いっぺん恋人らしい事しようよお~」
「こ……恋人らしい事って……?」
「んんっと……キスとか?」
「キッ――!!!???
おふ…………」
「あ、あれ……おーい、夏さあん?」
あ、まずい。
なんかからかいすぎて
気絶しちゃったみたいだぞ。
ん……でもまあ息はしてるみたいだな。
それに寝息を立ててるみたいだし
眠ってるっぽいのかな。
「ほっ……!
仕方ないなあ、
とにかくこのまま学園まで運んでやるか」
んまあ、あたしがからかいすぎたのが
悪いわけだし。
と言うわけで、
あたしは夏をお姫様抱っこしてから
学園に向かってるわけさ。
そんで歩道は地味に人がいるから
少し照れ臭い。
でも夏の事を放ってはおけないから
今は何も気にしないよ。
「うーん……二実ったらそんな……
いじっちゃダメだよ……」
うん、なんかとんでもない
寝言言ってる気がするけど、
それも気にしてあげないでおこう。
「それにしても夏の寝顔……
まったくもって幸せそうだなあ」
なんか見てるこっちも
幸せな気分になっちゃうよ。
「二実……大好きだよ……」
ううむ、寝言とはいえ照れ臭いなあ。
「うん、あたしも夏のことが大好きだぜ」
なんせ、あたしの大事な親友だからな。
だから夏がグッスリと寝てる間だけでも
真面目に大好きって言い返しちゃったよ。
もちろん、素面じゃ
そんな恥ずかしい言葉を吐けないけどね!
「ふう……それにしても
空が青くて綺麗だなあ」
こういう日はきっといい事があるんだよ。
それがどういう事かは分からないけどね。
あ、もうすぐ南門入り口だね。
「ううむ、
お姫様抱っこした状態で学園内に入るのは
流石のあたしでも恥ずかしすぎるぜ」
というわけで少しかわいそうだけど
起こそうかな。
「おーい夏う、もう学園前だぞお」
あたしは優しく揺さ振りながら
夏を起こそうとした。
「うーん……」
「ありゃりゃ、なかなか起きないねえ」
まったく寝ぼすけさんめ。
しかし……柔らかそうな唇してるなあ。
うぐ、あまり見すぎると
変な気分になるから気を付けよう。
いや、でもまずは起こすために
ビックリさせないとだな!
「おーい、起きないと
夏の初キッス奪っちゃうよお?」
うむ、反応なしかい。
こりゃあマジで寝てるなあ。
よし、こうなりゃ最後の手段だ。
その前に歩道には誰も……
よし、いないな!
とにかく顔を接近させてやるぜ。
「ほらほらあ、
あと20センチで夏の初めてが失くなるぞお」
あっはっは、こりゃあ勢いでいきそ……。
「うん……死んでいいよ?」
「むがっ!?」
次の瞬間、あたしの唇に何かがぶつかった。
「いったああああああい!!!」
いや、その何かってのが夏のおデコなわけで。
そう、つまりあたしは夏に思いきり
頭突きをされたわけだ。
しかも夏はお姫様抱っこされてる状態から
体勢を立て直して
うまく地面に着地していたしな。
それにしたって
この痛さやとんでもないものでさ。
その場であたしはゴロゴロと転げるのみさ。
「全く……人の寝込みに
唇を奪おうなんて人間の屑ね」
「ま、待ってよ誤解だよ夏う!
あ、あたしはただ夏を起こそうと
驚かして……」
「そんなに欲しいのなら
もっと気を使いなさいよね!」
あたしの言葉を無視して、
夏はよく分からない一言を大声で叫んでから
1人で南門に向かって走ってっちゃったよ。
「あうう……一体どういうことなの?」
あたしは歩道で仰向けになったまま
少し考えてみた。
それでとある結論を出したよ。
こりゃあ、あたしが夏をからかい過ぎたのが
悪いっていう事だね!
「あはははは!」
とにかくあたしは笑うしかなかったぜ。
あたしったら相変わらずバカだねえ。
反省はできないけどな!
「ふう……。
それにしても、
夏とこうしてふざけあえるなんて
あたしは幸せ者だなあ!」
「……二実!
あなたったら、
いつまで汚い地べたで寝てるつもり?」
あら、夏ったら戻ってきたみたいだ。
こういう時はいつも置いてく癖に珍しいなあ。
「というか、
なんでニヤニヤと気持ち悪い顔をしてるの?」
「えっへっへ……だって楽しいんだもんよお!」
「全く……あなたったら、とことんバカなのね?」
うむ、夏も呆れて笑うしかできないみたいだ。
まあ、
それでも右手を差し伸べてくれてるけどもね。
「仕方ないよ、バカやってた方が楽しいしな」
「うん……ちょっとニュアンスは違うけど
それには私も同意するね。
だから、とりあえず立ちなよ?」
そんであたしは夏の手を握って
立ち上がったのさ。
それから自分の制服についた砂埃を
軽く払ったよ。
「サンキューっ!」
「さあ行きましょう」
「おうともよ!」
そして今日も、平凡だけどもあたしにとっては
幸せな日常生活が始まる。
あたしの隣にいる大親友の夏と共にさ。
神様、できればこの幸せが
いつまでも続くように
あたし達を見守っててくれよな。




