第8.5話 今昔、秋月二実と日向夏の馴れ初め
馴れ初めはなんかおかしくない!?
というツッコみはおいといて、
今はあたし秋月二実と親友日向夏が
文字通り親友になったきっかけを聞いてほしいかな。
どうしてそんな事を言うかとゆうとね、
つい最近あたしは島百合団という
わけわからん団体に入らされてしまったわけだ。
まあ入ってみれば、これがなかなか楽しいと言うか
愉快な方達で成り立ってる組織なんだなって思ったけどもさ。
だけどそしたら夏と出会う接点が教室以外なくなっちゃってね。
つまるところ、あんまり話してないんだ。
ウチへ帰るにもクレアさんをまずは送迎しなくちゃなんないし、
夏に個人的に会いに行こうにも島百合団でやらなきゃいけない
雑務がたくさんあるわけ。
だから家に帰る頃には夕方7時を余裕で回る。
まあそれでも家庭の事は丸く収まったから
家の晩御飯を心配する必要はないんだけどさ。
まあ、これも姉さんの強行のおかげかね。
話が逸れたね、ゴメン。
まあつまりはさ、あたしも確認したいんだよね。
夏との信頼関係を過去に遡ってさ。
○
あれは時を遡ること7年前、
あたしがまだ小3――まあ初等部3年という
ロリッ子極まりない頃の4月中旬だったね。
新学期そうそうでこのクラスに馴染めなかった
あたしは、とんでもなく擦れてたよ。
「はああ、学校ってツマンない……
はやく家かえってゲームしたい」
当時あたしは算数の授業を受けながら
そんな事を言ってむくれてた。
この頃からあたしはゲーム好きでね。
こんな感じでちょいとはねっかえりのアホな子なのさ。
お嬢様ばかりの男子禁制の学園なもんだから
あたしとウマが合う女の子なんている筈もなく、
こうして擦れた感じに愚痴をこぼしてたわけなのさ。
そんでもって当時のあたしは超内向的。
もはやこんなところで友達なんか作るもんかと
思うぐらいの勢いでね。
「はやく終わらないかなあ……ん?」
そう思ってる時後ろの席にいた
女の子、つまり夏があたしの肩を突然
怒り顔でトントンしてきたわけ。
「あなた、今授業中だよ?
静かになさいよこのへちゃむくれ」
「はあ!? 誰がへちゃむくれだって、
このスカポンタン!」
その言葉にカチンとしたあたしはキレた。
だから思わず夏の頭を右手で叩こうとしたわけだね。
「あいいいいっ!?」
でももちろん、
あたしの右手は夏に当たることは無かった。
寧ろ逆に右手首を掴まれて思い切り捻られたし。
その当時の超痛かった記憶が今でも残ってるわけよ。
「バカね、そんなぬるい攻撃が
わたちに当たるわけないでしょ」
「は、離して! 痛い、痛いよおおおお!」
当時あたしは気付かなかったけどさ、
この時辺りはざわざわしてたんだって夏が言ってた。
だったらやめてくだされよホント!
そんで気の弱かった先生もあたふたしてたらしい。
「だったら今度からは授業でうるさくしない事。
約束守れる?」
「わかったあ! わかったから離してえ!」
そんで夏はパッと離してくれた。
「そう、あなたが分かってくれて良かった」
したら満面の笑顔、
それにはちょいとビックリしてたね当時のあたしは。
「あなたたちー?」
「げ、先生!?」
「あら、先生どうかし……」
「どうかしたではありません!
授業中に大声あげるなんてもっての他ですよ!
二人とも廊下に立って反省してなさーい!」
大人しめの先生は半ばヤケになってあたし達を叱ってたな。
あの時はゴメンね先生、なんか無理に怒らせちゃったりしてさ。
久しぶりに今度会いに行こっかな。
おっと話が逸れちまう。
そんであたしと夏は廊下に立たされる事に
なったわけ、今だと考えられないけどなあ。
「はああ……あんたのせいで叱られちゃったじゃん」
「夏よ、日向夏。あんたとか言わないでいらつくから」
「あっそ、そんなのどうでもいい……」
とか捻くれてたあたしが言うと、
幼くて可愛い夏の顔がどんどん怒りに満ちて
歪んでく。
だからあたしは言葉を選んだんだろうね。
もう痛い思いしたくなかったろうし。
「ごめんなさい夏さん。
この通りあたしが悪かったです」
そしたら夏は落ち着いてくれてた。
ふうう、よく考えたら昔のあたし生意気過ぎて
ヒヤヒヤするわ、真面目に。
「別に呼び捨てでいいよ」
「え、いいの?」
「わたち、名前で呼ばれる事に
意味があると思うタイプだから」
「そっか」
なんというか、
夏は昔っからものの言い方がハッキリしてたなあ。
そんでただ冷静なだけでなく情熱的だったし。
「それで、あなたのお名前は?」
なんだろう、この時から少しずつ日向夏という
存在に憧れてきてるあたしがいたよ。
「あたし……秋月二実、二実でいいよ」
だから夏の前では素直な自分を見せようと、
そう思ったわけだね。
「そう、よろしくね二実」
夏はあたしに右手を差し伸べる。
最初あたしは戸惑ってたけど
すぐにその手を掴んださ。
「ああ、よろしくね夏」
「それじゃあ仲直りのおわびに、
学校が終わったら公園で遊びましょ」
「え、でもあたし……」
「言っとくけど、ゲームばっかしてたら
ろくな大人になれませんよ?」
うるさいわい! 今でも重々承知してるわい!
……ごめん取り乱しちゃった。
とまあ当時からこんな感じで説教ばっかり
垂れる女の子でさ。
どうなのよこんな小3はよ!
そんで当然の如く、あたしは不満な顔をしてたね。
「あたし、坊さんと説教が大嫌いなんだけど!」
いや、今は坊さん嫌いじゃないけど
昔は大嫌いだった。
だって長い間お寺の仏壇で正座させられて
どうでもいい説法を聞かせてくんだもん。
そりゃあ我慢できない性格だった小3のあたしなら
間違いなく嫌いになんだろね。
「そう、二実は本当に仕方のない子なんだね」
「う、うるさい!」
あかん、こりゃまたヒートアップしそうだな当時のあたし。
「まあでも二実がゲームに夢中になるのは
分かるかもしれない」
そんで夏は昔っから突如としてモードを切り替えては
あたしに同調してたなあ。
「な、何さいきなり……」
「だって現実はこんなにもつまらないもの。
そうでしょ?」
「そうだよ、本当にツマらないよ!
ゲームしてれば友達なんていなくていいし……」
そこで当時の夏の顔がニヤリと小悪魔っぽい笑顔を
してたから、あたしは気付いた。
あたしの本音を吐かせると言う夏の思惑にさ。
「そうだね。友達を作るのって大変だもんねえ」
「べ、別に……あたしだってがんばれば
いくらでも作れるし……」
「二実、わたちはたくさんの友達を
簡単に作るいい方法を知ってるよ?」
でも夏はすぐに真面目な顔に戻ってあたしに
そう言ってた。
思い返す程に、なんかすごい小学生だな
って感じるよホント。
「な、何さそれは……」
「人の優れた部分を褒めてあげるの。
それからどんどんその子の悩みなんかを
聞いたりして打ち解けていけば、
きっとその子は友達になってくれるわ」
でもあたしはその意見に反発してたな。
だって照れくさかったし。
「で、でもあたし……
そんな気立てのいい方じゃないし……」
「ううん、そんなことはないよ二実。
わたちは二実のいいところ、
一目見て分かったから二実は大丈夫だよ」
「そ、そうなのかな……」
「そうだよ、だから相手をホメるところから
はじめましょ?」
「う、うん……でも誰かをホメるのって……
恥ずかしいよ……」
この時恥ずかしがるあたしに、夏は健やかな笑顔を
あたしに向けてくれてたな。
「じゃあね、まずはわたちのいいところを
褒めてみて?」
「そ、そうだね……夏は笑顔がとってもカワイイよ……」
恐る恐るそう言ったら、夏は頬を少し赤らめながらも
パアーッと明るい太陽の様な笑顔を
あたしに向けてくれてた。
「うん、ありがと!」
その笑顔は今でもあたしの心の奥底に焼き付いてる。
まるでカメラフィルムの様にね。
そんで、あたしも顔が火照る感じを今でも憶えてるよ。
「あはは……やっぱ恥ずかしいな」
「最初はそんなものだよ。
これからもどんどん誰かのいいところを褒めて、
いっぱいお友達を作ろうね!」
「あ、うん……ありがと……夏……っ」
そんであたしはあまりの嬉しさに泣いてたね。
だってさ、擦れて凍り付いたあたしの心を
燃える太陽で溶かしてくれたのは
夏が初めてだったから。
そんなあたしの頭を、夏は優しく撫でてくれてたし。
「えへへ、気にしないで二実。
誰だって最初は恥ずかしいという
感情から始まるんですからっ!」
「うん……本当に……ありがとう……」
この時夏は、あたしが大人しくなるまでずっと
頭を撫でてくれていた。
そっか、よく考えたらあたしはこの時から女の子の
いい所を褒め始めたのかもしれないな。
そんで褒めたのはいいものの、あたしのルックスが
イケメンのそれに近かったもんだから女の子は
勘違いしてあたしを好きになるわけか……。
ちょっとあたしイメチェンしたい気分すわ、マジで。
だがあたしは天然パーマだから、
夏の様なすらっとした髪にはならないしなあ。
伸ばしたら伸ばしたでボサボサして
とんでもないことになるし。
だから苦肉の策でナチュラルショートヘアに
小さな尻尾の様な髪をうなじに垂らしてんだけどさ。
○
そうだった。夏と初めて会ったときはいわゆる
第一印象最悪って奴だったけど、
話してみればこんなにもいい奴だったって
気付けたわけなんだし。
だから今あたしが夏とあんまし会話できなくて
気まずい関係でも、きっと夏は分かってくれてる筈。
だってそれが親友ってものじゃないかな。
でもそれを思い直せたのも、過去の事をアナタが
ちゃんと聞いてくれたから思い出せたんだ。
だからさ、ありがとな本当に。
いつもタメ口ばっかりなあたしだけど、
これからも聞いてほしいなあ。
ほら、あたしってこの通りナイーブな性格だしさ!
え……もうシャクが無いって?
し、失礼しましたー!
と、その前に次回は前回から続くんで気にせず見てねえ。
じゃあ今度こそ、ばーいびー!
○