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歌声戦隊セイレンジャー  作者: 沙φ亜竜
第1話 歌声は地球を救う
4/36

-4-

 合唱サークルでの平穏な日々は、そう長くは続かなかった。

 平和はこの人のひと言によって、もろくも崩れ去ることになる。


「さて、そろそろ本題に入りましょう」

「ほぇっ?」


 いつものように、大学の裏にある丘で青空に向かって歌い終わり、清々しい気分に浸っていたあたしは、唐突な部長さんの発言に思わずわけのわからない声を返してしまう。


「どういうことですか……?」


 一番冷静なのは、さくらちゃんだったようだ。

 いつもどおり、高校が終わってから合流していた彼女が、控えめな声で部長さんに質問する。

 それに対する答えは……。


「うん、あのね。あなたたち五人に、正義の味方になってもらおうと思うの」


 ………………。


 部長さんの目の前に並んでいたあたしを含む五人は、全員もれなく、目を点にして呆然とした表情を浮かべていた。

 ひゅ~~~……と乾いた風が通り抜けていったような気がした。


 部長さんはいったい、なにが言いたいのだろう?

 でも、疑問符が浮かんでいたのは、あたしとさくらちゃんのふたりだけだった。


「正義の味方か……。カッコいいじゃないか!」

「うん、そうね! 海斗のカッコいいとこ、見てみたいわ!」

「あはは、誰もが一度は憧れる道だよね!」


 海斗くん、林檎、大樹くんの三人は、どうやら正常な思考回路を持ち合わせてはいなかったようだ。


「で……でも、正義の味方なんて、どうやってなるんですか……?」


 周りのおかしな人たちのせいで頭を抱えている様子だったものの、どうにか気を取り直したのか、さくらちゃんが再び部長さんに質問をぶつける。

 その質問自体も、ちょっと周りのおかしな空気に毒され始めていたと言えるのかもしれないけど。

 さくらちゃんの質問に、部長さんはニッコリと笑った。


「こうするの、よ!」


 と言ったかと思うと、部長さんは手近にいたあたしの右腕をつかみ、自分の顔の前まで引っ張ると――。


 ガブッ!


「うきゃっ!?」


 思いっきり噛みついてきた。

 あまりのことに、あたしは思わずおかしな叫び声をあげながら、腕を引き抜く。

 だけど……。


 あれ? ……痛く、なかった……?


 不思議な感覚に包まれていたあたし。

 そのあいだにも、部長さんは次々とサークルメンバーの腕をつかみ、林檎、海斗くん、大樹くん、さくらちゃんという順で、噛みついていった。


「な……なにをするんです……か……!?」


 気づいたときには、部長さんに腕を噛まれた五人は、「変身」していた。



 ☆☆☆☆☆



「きゃあ~っ! なによ、これ!?」


 あたしは、パニックになっていた。

 自分の姿は、正直よく見えない。

 顔が、マスクのようなもので、すっぽりと覆われていたからだ。


 ともあれ、視線を落とせば、腕やおなかや足は見える。

 そこには鮮やかな黄色がまぶしい、ピッタリとフィットした全身タイツのようなものに身を包んでいる自分の体の一部が、確かに存在しているようだった。

 ……ようだった、という曖昧な表現をしているのは、このときのあたしが微妙に現実逃避気味だったからだ。


 ぼやけた頭ながらも、周りを見回してみると……。


 おそらく林檎だと思われる、真っ赤なマスクと全身タイツのようなスーツに身を包む、細身の人、

 海斗くんらしき、澄んだ海を思わせるような青いマスクと全身タイツに身を包む、がっしりとした体格の人、

 きっと大樹くんだろう、目に優しそうな緑色のマスクと全身タイツに身を包む、ちょっと小柄な人、

 そして、さくらちゃんっぽい、女の子らしいピンク色のマスクと全身タイツに身を包む、細くて背の低い人、


 以上四名の姿が、いやおうなく、あたしの目に映り込んできた。


「……ってことで、頑張ってね!」

「な……なにをだ~~~~!?」


 全員で声を揃えて部長さんにツッコミを入れたのは、きっと正常な反応だったと、あたしは今でも信じている。



 ☆☆☆☆☆



「落ち着いて、話を聞きなさいな」

「はぁ……」


 とりあえず、どうにか落ち着いたあたしたち五人は、部長さんの前に体育座りしている。

 もちろん、マスクと全身タイツに身を包んだまま。


「今まで黙っていたけど、部長こと、このボクは、遥か空の彼方からやってきた宇宙人なんだ」


 いきなり最初の話からして、あたしの理解力の許容量を超えていたのだけど。

 そんなことはお構いなしに、部長さんは語り続ける。


 どうやら部長さんは本当に宇宙人で、地球を狙う悪い宇宙人から地球を守るためにやってきたらしい。

 悪い宇宙人たちは数多くいて、地球にしかない貴重な資源を狙い、侵略の準備を進めているのだという。

 部長さんたちは、そういった宇宙人たちの侵略を阻止する役目を担っている宇宙パトロール隊なのだそうな。


 部長さんたち宇宙人は、地球人と比べて体力的に劣っているのだけど、その分頭脳には自信があるとのこと。

 実際、侵略に来た宇宙人たちに直接立ち向かったとしても、体力的に負けてしまうことは目に見えていた。

 宇宙人同士の戦いでも、やはり体力は重要になってくるようだ。


 そこで部長さんたちは、地球人に合わせた特殊な力を発揮するスーツを五人分作り出した。

 それは、着ている人の潜在能力を極限まで引き出すことができるスーツになっているそうだ。

 そのスーツを着て、地球人自らの力で宇宙人たちの侵略を止めてもらおう。そう考えて、あたしたちに接触してきたのだとか。


 以上が、部長さんの語った内容だった。

 ……こう説明を並べてみても、どう考えても信じられないことばかりだと思うのだけど。


 それらは紛れもない事実だった。


 しかもその日のうちに、部長さんの言ったとおり本当に悪い宇宙人がやってきて、地球を侵略すべく攻撃を開始した。

 さすがに戸惑いながらも、あたしたち五人はスーツの力を使い、どうにか宇宙人たちを蹴散らしたのである。


 ちなみに、どうやって戦ったのかといえば……。


「みんな! 歌うのよ! そのための合唱サークルなんだから!」


 部長さんの叫び声。

 あたしたちは、歌った。そして、敵を吹っ飛ばした。

 ふふふ、これが、潜在能力というものよ。(現実逃避)


 ともかく、こうしてあたしたちは、正義の味方となったのだ。


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