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歌声戦隊セイレンジャー  作者: 沙φ亜竜
第6話 すべては輝ける未来のために
33/36

-3-

 歌声が広がっていく状況の中でも、容赦なくレーザーは飛び交っていた。

 少し離れた場所からは、燃え盛る木々の火の粉や熱気が風に乗って運ばれてさえくる。


 あたしたち、元セイレンジャーの五人は一列に立ち並び、手や足を使って軽くリズムを刻みながらではあるものの、基本的には直立不動で歌っているという状態だ。

 格好の標的と言えるだろう。


 もちろん白亜さんや三畳さんの放つレーザーは、目標もなく、どこに向かうかもわからないままに空気を切り裂き、木々を焼き払い続けているわけだけど。

 そのすべてがあたしたちを避けていく、なんてことが、ありえるはずもなかった。

 実際には何度も、その直撃を受けそうになっていたのだ。


 とはいえ、そのたびに目の前でレーザーは一瞬にして霧散し、跡形もなく消え去っていた。

 あたしたちの周囲には、あたかも歌声のバリアがあるようにすら思えた。

 いや、宇宙人から授かった歌声の力によって、実際にバリアのような効果のある空気の層が、あたしたちの周りには形成されていたのだろう。

 それがレーザーの攻撃をも、たやすく弾き返していた。


 そうだ、正義の味方として戦っていたあの頃も、まったく同じだった。

 あたしたちはただ歌うことしかできなかった。


 歌の力で宇宙人を吹っ飛ばしたりしていたのは確かだ。

 だけど、宇宙人が突撃してきて、あたしたち個人を直接攻撃してくることもあった。

 そんなとき、歌うことしかできないあたしたちには成すすべもない。


 体力的にも身体能力的にも、ひとりの学生でしかなかったあたしたち。それは変身したあとも同じだ。

 知能が優れている代わりに体力的には劣っているという部長さんほどではなかったものの、直接格闘して太刀打ちできるわけではなかった。


 それでも、宇宙人に組みつかれ、体を引き裂かれそうになったとしても、それは確実に直前で失敗する。

 あたしたちの体に触れようとした瞬間、宇宙人のほうが吹き飛ばされるのだ。

 これも、歌の力による効果。強力なバリアが、あたしたちを包み込んでいることの証だった。


 それは変身したあと、こうして歌っているときだけだと考えていたのだけど。

 もしかしたら、完全なパワーまではなくとも、常時その力は作用していたのかもしれない。

 今になって、そう思う。


 ここ最近、何度かあたしを襲った、不可解な出来事。

 本来なら痛みやケガを伴うような事故になってもおかしくはない数々の危険な出来事のたびに、あたしは衝撃に耐えようと目を閉じていた。

 結局衝撃は訪れず、間一髪助かったと思っていたけど……。

 実際には、迫り来る看板やら車やらは、あたしの体にぶつかる直前でバリアに弾き返され、結果、あたしは無傷だったのではないだろうか?


 あたしたちは歌い続けた。

 ふと気づけば、レーザーが飛び交う頻度は明らかに減ってきていた。

 白亜さんと三畳さんに目を向けてみると、徐々に落ち着きを取り戻しているようではあった。

 それでもなお、力を暴走させているふたりは、完全に正気を取り戻すまでには至らなかった。



『でも五人の力だけでは 勝てないピンチのときもある

 そんなときはキミたちも さあ大声でこの歌を歌うんだ』



 歌はちょうど、あたしたちがピンチに陥り、子供たちに応援を呼びかける、そんなイメージで綴られた歌詞の部分へと差しかかっていた。

 今、あたしたちの近くに子供たちはいない。

 でも、応援してくれる仲間はいる。


「ジュラ! 頼むぞ!」

「了解ですわ!」


 歌の途中であるにもかかわらず、素早く叫んだ大樹くんに、ジュラさんが答える。

 次の瞬間、ジュラさんは紙袋から、なにか黒くて丸い物体を取り出した。

 そして――。

 なにを思ったのか蘭ちゃんの両脇から腕を回して羽交い絞めにすると、その取り出した物体を蘭ちゃんの口の中に押し込んだ!


「い……嫌です~~~~むぐっ!」


 蘭ちゃんが悲鳴を上げて拒絶しようとするのも構わず、黒くて丸い物体を完全に口の中に押し込み、さらにはアゴを押さえつけて何度も無理矢理噛ませ始めた。


 な……なにをやってるの!?

 あたしはさすがに蘭ちゃんがかわいそうで、制止の声をかけようとしたのだけど。

 大樹くんがすぐに細めの腕を伸ばして、それを止めた。


 そうか、歌うのを途中でやめてしまったら、効果もなくなってしまんだっけ。

 今はレーザーをどうにかするほうが先決だから、ここは我慢しよう、ということね。

 あたしはそう考えたのだけど。実際には違っていた。


 ともかく、あたしたちは歌い続ける。



『セイレーン・ダンス 正義の想いを歌声に乗せて

 セイレーン・ダンス 舞い踊れ ほらアンドゥートロワ

 みんなの力が今ここで ひとつになる』



 サビに突入したあたしたちの歌は、それまでとは比べものにならないほどのパワーを持っているように感じられた。

 歌い終えた途端、まるで台風のような突風が吹き荒れた。


「きゃっ!?」


 あたしは思わず、スカートを押さえる。


 吹きすさぶ風の渦によって、周囲の木々が大きくさざめく。

 すべてを吹き飛ばす凄まじい気流が、音さえも飲み込む。

 激しい風は徐々にその勢いの範囲を狭める。


 半径を狭め、それに呼応するかのように高さを増す風の渦が、天に昇る龍のように舞い踊る。

 竜巻のごとき突風の中心は、白亜さんと三畳さん。

 空気を切り裂く轟音が、雷鳴のように響く。


 やがて突風は収まり、周囲は普段どおり静けさを取り戻した。

 白亜さんと三畳さんがその場に倒れ込む。


 突風の渦によって、ふたりの体が吹き飛ばされることはなかった。

 ただ、ふたりに湧き上がってきていた禍々しい力のほうは、完全に吹き飛ばされたのだろう。

 目を閉じて地面に横たわった白亜さんと三畳さんからは、すでにさっきまでの強大な力は感じられなくなっていた。


 レーザーの放出は、完全に止まったのだ。


 呆然と立ち尽くしている白衣の人たち。

 彼らにもわかったのだろう、事態は収拾したと。

 しばらくすると、彼らもそれぞれに安堵の息をつき、まだ困惑は残っているものの、微笑みを交わし合っているようだった。


「う~、美味しいですけど、口の中が大変なことになってます……」


 そうつぶやきを漏らす蘭ちゃんの唇からは、真っ黒に染められた歯がのぞいていた。


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