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「ひまわりさん、大丈夫?」
なんとなく、聞いているだけで安らかな気分になるような、そんな優しさすらも感じる声。
気づくとあたしの目の前には、男性の顔があった。
とても懐かしく、温かな笑顔の彼――。
「大樹……くん……?」
あたしのつぶやきに、彼は肯定の意思を示すように目を細める。
そこで、今の自分の状態が、ようやく理解できた。
あたしは大樹くんに、「お姫様抱っこ」で抱えられている!
「~~~~~っ!」
声にならない叫びをあげながら、あたしの顔はみるみるうちに真っ赤になる。
恥ずかしいけど、嬉しくて、どうしていいやら。
でも、懐かしい温もりと懐かしい匂い……。
本当に大樹くんなんだ。
ぎゅっ。
思わずあたしは、大樹くんの首筋に腕を回し、強くしがみついていた。
と。
「――コホン!」
わざとらしい咳払いの音が聞こえた。
ハッとなって、あたしは視線を音のほうへ向ける。
そこにいたのは、ひとりの女性。それは、ジュラさんだった。
いつもと同じコート姿ではあるけど、帽子やマフラーは外していた。
ジュラさんは、抱えていた蘭ちゃんを優しく地面に下ろしているところだった。
おそらく蘭ちゃんをレーザーから守ってくれたのだろう。
そしてあたしは、大樹くんによって守ってもらった。
目の前の大樹くんの顔を、熱い瞳で見つめる。
ニコッ。
大樹くんは笑顔を返してくれた。
「コホン! 今はそれどころじゃないでしょう? 早く離れなさいな」
再びの咳払いを受け、あたしは真っ赤になったまま、素早く大樹くんの腕の中から身を下ろす。
自分の足で立とうとして、ちょっとバランスを崩すと、大樹くんが優しく手を差し伸べてくれた。
ああ、本当に大樹くんだ……。
涙が出そうになった。
だけど……いったいどういうことなのだろう?
あたしはその疑問を口にした。
「ずっと見守ってたんだよ。本当はあのマンションから連れ出したかったけど、拒否されちゃったし……」
温かな声で、大樹くんは答えてくれた。
「いつの間にか、他の人と一緒に住んでたし。それもまさか林檎さんと海斗くんだったとはね。さっき聞いてびっくりしたよ」
そう言いながら再び笑顔を向けてくれる。
――さっき聞いて……?
ということは……。
「あっ、さっきジュラさんの隣にいたのって、大樹くんだったの!?」
坂道での一件があったあと、ジュラさんが現れたとき、隣にはひとりの男性がいた。
それが、大樹くんだったというの?
「うん、そうだよ」
あたしの悲鳴だか歓声だかわからないような声に、大樹くんは頷きを返してくれた。
そうだったんだ……。
「無事だったんだね。よかった……」
生死を問わず、という条件つきで政府から追いかけられているはずの大樹くん。
ジュラさんの組織とやらも怪しいと思っていたし、彼女が大樹くんのバッヂを身に着けているのも見てしまった。
だからあたしはてっきり、もう大樹くんは捕まって、大変なことになっていると思い込んでいた。
「でも、どうして大樹くんがジュラさんと一緒にいるの? それに、どうしてジュラさんが大樹くんのバッヂを着けてたの?」
次々と浮かんでくる疑問の波を、あたしは止めることができなかった。
そんな疑問にも、大樹くんはちゃんと答えてくれた。
「バッヂ? ああ、そうか。あれはね、僕がジュラに渡しておいたんだ。お守り代わりにね。ジュラは、僕のいとこなんだ」
……え? いとこ?
「はい、そうなんですのよ」
ジュラさんが言葉を挟んでくる。
「大樹のことを最初から話そうとも思ったのですが……」
「ひまわりさんを驚かせようと思ってね、僕がいることは黙っててもらったんだ。でもそれが余計な混乱を招く結果につながってしまったんだよね。ごめん」
大樹くんが、あたしに向かって頭を下げる。
「ううん、そんなこと……! 確かにちょっと、というかすごく混乱してるかもだけど、でも、大樹くんが無事でいてくれて、ほんと嬉しいよ!」
そう言いながら大樹くんの肩にそっと手を触れると、彼は顔を上げ、またもや温かな笑顔を返してくれた。
大樹くんの笑顔を見つめるたびに、胸がきゅんと熱くなる。
ああ……。あたしは本当に大樹くんと再会できたんだ……。
あたしはとても安らかな気持ちに包まれていた。




