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歌声戦隊セイレンジャー  作者: 沙φ亜竜
第4話 冬の陽だまり、一輪の花
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-2-

 あたしの足は、なんとなく公園へと向かっていた。


 病院に寄ったあと、普段からよく行っていたのだから、それは自然な流れではあったのかもしれない。

 ただ、こんなに寒くてコートを着ていても震えてしまう中、公園に向かう気になったのは珍しいことだった。

 寄り道せずにマンションに戻って、林檎たちとお喋りでもしていたほうが、温かく過ごせてよかっただろうに。


 この公園からは、大学時代に頻繁に行っていたあの丘がよく見える。

 だからあたしは公園のベンチに座り、セイレンジャーだった当時を懐かしむ。

 そうやって時間を過ごすことが、最近は多くなっていたのも事実だ。


 これまではあの丘を眺めていると、懐かしいあの頃を思い出して、自然と涙が頬を伝っていた。

 だけど林檎や海斗くんと再会した今なら、また違った感情であの丘を眺められるはず。

 そんな思いもあったのかもしれない。


 ――今日は寒いし、なにか温かいものでも買ってから行こうかな。


 そう思いついたあたしの目に、中華まんを売る屋台の赤い看板が飛び込んできた。

 遠目から見た限り、真新しくて、綺麗な雰囲気の屋台だった。


「屋台で売ったりもしてるんだ。珍しいわね」


 この辺りではあまり見かけない光景ではあったものの、物珍しさに惹かれるように、あたしは自然とその屋台を目指していた。



 ☆☆☆☆☆



 屋台の中には、気のよさそうなおじさんがひとりいるだけだった。

 並べられたメニューの札には、数々の中華まんの名前が書かれ、おじさんの背後にあるケース内で蒸されている中華まんからは、もくもくといい匂いのする湯気が立ち昇っている。


 屋台とかって、この匂いのする湯気や煙なんかによっても、お客さんを立ち止まらせる効果があるのよね。

 あたしはそんなことを考えながら、メニューの札を眺めてみた。


 屋台だし、あんまんと肉まんくらいしかないのかも、と思っていたのだけど。

 ピザまんやカレーまんといった比較的ポピュラーなものから、チーズまんとか海鮮まんとかイカ墨まんとか、果ては豚角煮まんだやらフカヒレまんといったものまで、ありとあらゆる種類が用意されていた。


 ……つまり、コンビニと同じってわけね。


 後ろで蒸したりはしているけど、もともと用意してあるものを温めているだけのようだ。

 とはいえ、手軽にいろいろな種類の中華まんを楽しめるし、もちろん許可は取らないといけないだろうけど、屋台だから場所を変えたりもできるはずだ。


 そう考えると、結構便利なのかもしれない。

 今日みたいな寒い日には、かなりの需要がありそうだ。


 ……そのわりに、あたし以外のお客さんの姿はないみたいだけど。


 人はよさそうだけど、運には見放されてるのかもしれないな、このおじさん。

 ふと失礼な考えを思い浮かべてしまっていたあたしに、


「お嬢ちゃん、なにか買ってくかい? どれもふっくら柔らかで温かいから、最高だよ!」


 そのおじさんは明るく声をかけてくれた。

 あたしが失礼なことを考えていたなんて、気づかれているはずもないけど。

 それでも、ついつい焦った受け答えをしてしまう。


「あはは、うん、そ、そうですね! とても美味しそうです! 種類も豊富で、迷っちゃう~!」


 柄にもなくブリっ子な言葉遣いになってしまったのは、ご愛嬌ってことで。


「ゆっくり選んでくれていいよ」

「あっ、はい」


 あたしはそう答えながらも、急いでメニューを確認し始めた。

 そのとき、視線をずらそうとしたあたしの視界の端に、さっきまではなかったはずの影が映り込む。


「あれ?」


 驚いて振り向くと、あたしのすぐ右手に並ぶようにして、小さな女の子が屋台の中華まんを見つめていた。

 こんな近くにいたというのに、今の今まで、全然気がつかなかったなんて。


 ……あたしってやっぱり、鈍感なのかしら。


 その女の子は、見たところ十歳くらいだろうか。

 黒髪のおかっぱ頭がよく似合っていて、とっても可愛らしいのだけど……。

 残念なことに、物欲しそうな顔で口をだらしなく開けながら、ガラスケースの中に並べられている中華まんを凝視していた。

 思いっきり、よだれも垂らしている。


 ……うわ~……。可愛い子だけど、しつけがなってないな~。

 まったく、今どきの子は……。


 そんな、おばさん染みた感想を抱きつつ、あたしはメニューの札に視線を戻す。

 と、その女の子が突然、声をかけてきた。


「ピザまんが食べたいです! お姉ちゃん!」

「……え?」


 驚きの声を上げるあたしに、屋台のおじさんも話しかけてくる。


「妹さんが食べたいってさ。買ってやらないのかい?」


 温かい笑顔でそんなふうに言われてしまったあたし。

 姉妹じゃないです! と反論したいところではあったけど。

 あたしはハッと視線を感じて右手に顔を向ける。


 そこには、うるうるとした目であたしを見上げる、さっきの女の子の姿が……。

 ああ、もう……! この可愛さ、反則的だわ……!

 それに、十歳くらいのこの子の姉に見られたんだから、屋台のおじさんは、あたしを十代後半くらいに見てくれたということになるはず!


 う……嬉しいかも!

 ……そりゃあ、歳の離れた姉、と思われただけかもしれないけど。


 とはいえ、気分のよくなっているあたしには、そんなことまで考えられるわけがなかった。


「もう、しょうがないわね~。ピザまん、ひとつでいい?」

「三つ!」

「……はいはい、ピザまん三つね。あとは、肉まんひとつと、それからカレーまんもひとつ、もらおうかしら」

「毎度あり~!」


 それらの中華まんを買い、紙袋に詰めてもらったあたしは、女の子の手を引いて屋台をあとにした。

 ほかほかの中華まんと同じくらい、温かい気持ちに包まれながら。


 ……我ながら、単純だなぁ。


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