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あたしの足は、なんとなく公園へと向かっていた。
病院に寄ったあと、普段からよく行っていたのだから、それは自然な流れではあったのかもしれない。
ただ、こんなに寒くてコートを着ていても震えてしまう中、公園に向かう気になったのは珍しいことだった。
寄り道せずにマンションに戻って、林檎たちとお喋りでもしていたほうが、温かく過ごせてよかっただろうに。
この公園からは、大学時代に頻繁に行っていたあの丘がよく見える。
だからあたしは公園のベンチに座り、セイレンジャーだった当時を懐かしむ。
そうやって時間を過ごすことが、最近は多くなっていたのも事実だ。
これまではあの丘を眺めていると、懐かしいあの頃を思い出して、自然と涙が頬を伝っていた。
だけど林檎や海斗くんと再会した今なら、また違った感情であの丘を眺められるはず。
そんな思いもあったのかもしれない。
――今日は寒いし、なにか温かいものでも買ってから行こうかな。
そう思いついたあたしの目に、中華まんを売る屋台の赤い看板が飛び込んできた。
遠目から見た限り、真新しくて、綺麗な雰囲気の屋台だった。
「屋台で売ったりもしてるんだ。珍しいわね」
この辺りではあまり見かけない光景ではあったものの、物珍しさに惹かれるように、あたしは自然とその屋台を目指していた。
☆☆☆☆☆
屋台の中には、気のよさそうなおじさんがひとりいるだけだった。
並べられたメニューの札には、数々の中華まんの名前が書かれ、おじさんの背後にあるケース内で蒸されている中華まんからは、もくもくといい匂いのする湯気が立ち昇っている。
屋台とかって、この匂いのする湯気や煙なんかによっても、お客さんを立ち止まらせる効果があるのよね。
あたしはそんなことを考えながら、メニューの札を眺めてみた。
屋台だし、あんまんと肉まんくらいしかないのかも、と思っていたのだけど。
ピザまんやカレーまんといった比較的ポピュラーなものから、チーズまんとか海鮮まんとかイカ墨まんとか、果ては豚角煮まんだやらフカヒレまんといったものまで、ありとあらゆる種類が用意されていた。
……つまり、コンビニと同じってわけね。
後ろで蒸したりはしているけど、もともと用意してあるものを温めているだけのようだ。
とはいえ、手軽にいろいろな種類の中華まんを楽しめるし、もちろん許可は取らないといけないだろうけど、屋台だから場所を変えたりもできるはずだ。
そう考えると、結構便利なのかもしれない。
今日みたいな寒い日には、かなりの需要がありそうだ。
……そのわりに、あたし以外のお客さんの姿はないみたいだけど。
人はよさそうだけど、運には見放されてるのかもしれないな、このおじさん。
ふと失礼な考えを思い浮かべてしまっていたあたしに、
「お嬢ちゃん、なにか買ってくかい? どれもふっくら柔らかで温かいから、最高だよ!」
そのおじさんは明るく声をかけてくれた。
あたしが失礼なことを考えていたなんて、気づかれているはずもないけど。
それでも、ついつい焦った受け答えをしてしまう。
「あはは、うん、そ、そうですね! とても美味しそうです! 種類も豊富で、迷っちゃう~!」
柄にもなくブリっ子な言葉遣いになってしまったのは、ご愛嬌ってことで。
「ゆっくり選んでくれていいよ」
「あっ、はい」
あたしはそう答えながらも、急いでメニューを確認し始めた。
そのとき、視線をずらそうとしたあたしの視界の端に、さっきまではなかったはずの影が映り込む。
「あれ?」
驚いて振り向くと、あたしのすぐ右手に並ぶようにして、小さな女の子が屋台の中華まんを見つめていた。
こんな近くにいたというのに、今の今まで、全然気がつかなかったなんて。
……あたしってやっぱり、鈍感なのかしら。
その女の子は、見たところ十歳くらいだろうか。
黒髪のおかっぱ頭がよく似合っていて、とっても可愛らしいのだけど……。
残念なことに、物欲しそうな顔で口をだらしなく開けながら、ガラスケースの中に並べられている中華まんを凝視していた。
思いっきり、よだれも垂らしている。
……うわ~……。可愛い子だけど、しつけがなってないな~。
まったく、今どきの子は……。
そんな、おばさん染みた感想を抱きつつ、あたしはメニューの札に視線を戻す。
と、その女の子が突然、声をかけてきた。
「ピザまんが食べたいです! お姉ちゃん!」
「……え?」
驚きの声を上げるあたしに、屋台のおじさんも話しかけてくる。
「妹さんが食べたいってさ。買ってやらないのかい?」
温かい笑顔でそんなふうに言われてしまったあたし。
姉妹じゃないです! と反論したいところではあったけど。
あたしはハッと視線を感じて右手に顔を向ける。
そこには、うるうるとした目であたしを見上げる、さっきの女の子の姿が……。
ああ、もう……! この可愛さ、反則的だわ……!
それに、十歳くらいのこの子の姉に見られたんだから、屋台のおじさんは、あたしを十代後半くらいに見てくれたということになるはず!
う……嬉しいかも!
……そりゃあ、歳の離れた姉、と思われただけかもしれないけど。
とはいえ、気分のよくなっているあたしには、そんなことまで考えられるわけがなかった。
「もう、しょうがないわね~。ピザまん、ひとつでいい?」
「三つ!」
「……はいはい、ピザまん三つね。あとは、肉まんひとつと、それからカレーまんもひとつ、もらおうかしら」
「毎度あり~!」
それらの中華まんを買い、紙袋に詰めてもらったあたしは、女の子の手を引いて屋台をあとにした。
ほかほかの中華まんと同じくらい、温かい気持ちに包まれながら。
……我ながら、単純だなぁ。




