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十月三十日十七時・爬虫類専門店』


「公園の話の続きです」


彼女の声には、先ほどよりも深い不安が滲んでいた。


「そこで騒いでいる人たちの中心には、四十代くらいの男性がいました」


「その人は、首から何台も携帯を下げていて――」

「画面をタップしたり、絶え間なく繰り返しているんです」


かなえさんは自分の手元をじっと見つめた。


「萌花ちゃん、ここまでのメモ取ってる?」


雪乃先輩の口調は、かなえさんの気持ちに寄り添うようだった。


わたしはメモ帳を読み上げた。


〈かなえさんの聞き取りメモ〉

・孫/受験/ピンク

・絶対に欲しい

・96(色レア)

・A3017に番号送信→未達

・A→10/10-30/17時

・103017


「この数字列は、たしかに暗号めいていますね」


かなえさんはうなずいた。


「内容はその通りです。みんな、とても熱心で」


「どのくらいの時間ですか?」


「男性は、二時間くらい居ました」

「他の、大半は大体十五分くらいです」

「どこかに電話をかけてから立ち去っていきました」


「電話の内容は聞けましたか?」


「盗み聞きのようで、良くないのは承知ですが」

「ピンク大丈夫だった。金レオがどうとか。これで喜んでもらえるとか」


「そんな事を言っていました」


「清心館の生徒はいましたか?」


雪乃先輩の問いで、部屋の空気がまた僅かに変化した。


「いませんでした」


かなえさんはショックを受けたように、青ざめながら答える。


「『十月三十日の十七時』という言葉がどうしても気になって、その場で自分でも調べてみました」

「近くの10丁目30番地に『レプタイル・ワールド』という店がありました」


かなえさんは、まっすぐな目で言った。


「もしかしたら――十月三十日の十七時に、10丁目30番地のその店へ行けば、何かがある。そう思いました」


「だから、行って確かめることにしました」


「でも……」


かなえさんは少し残念そうに続けた。


「そこは小さいけれど評判のいい、普通の爬虫類専門店だったんです」


「昔懐かしい感じのWEBサイトも、雰囲気が良くて」

「お店のショーケースも、きちんと輸入許可証が展示されていました」

「“ピンクトゲトカゲ”や“ゴールドレオパードゲッコー”。そんな名前の綺麗な爬虫類が、実際に展示されていました」


「……少なくとも、私が考えていたような、犯罪の痕跡はありませんでした」


「かなえさん――行動力がありますね」


雪乃先輩は、驚いた表情でそう言った。


「でも、合法のお店ということは、その後は何もなかったんですか?」


かなえさんは首を横に振った。


「そこにはA-30-17って、数字が振られていたんです!」


「ピンクトゲトカゲに“超レア限定モルフ”そんなポップが貼られていて」

「ちょうど、引き換え券をもらっている人がいました……」


「引換券って、店のレシートみたいなやつ?」


七々瀬先輩の質問に答える形で、かなえさんは続ける。


「いえ、手書きの予約引換証でした」


生徒会の二人は熱心に何かを話し合っていた。


このときはまだ誰も、事件の行き着く先を知らなかった。閉じられたノートに残る、一行の数字の意味を。

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イラストがあるほうが想像がはかどる方はぜひ
活動報告の

『清心館の天使』日ノ宮雪乃の肖像

『わたし』如月萌花の肖像

『疑似三つ子』三人の肖像

『美術部の二つ星』二人の肖像

をご覧くださいませ。

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