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『星降る夜――ゴッホ』


美術室の隅に、嵐の後の空を映したような絵が置かれていた。


慌ただしく現れた天目先輩に促され、わたしたちは百瀬先輩の絵が変わり果てた姿を目にした。筆致だけは元の神経質な雰囲気で、それがなければ同じ絵だと分からなかっただろう。


不思議とわたしはその絵に目を奪われた。


色がやわらかく溶けあった、繊細ながらも力強い作品だった。


憔悴(しょうすい)した様子ながら、いつもの態度を崩さない百瀬先輩。


「千里から日ノ宮さんを呼んできてほしいって、強く言われて……」


天目先輩は百瀬先輩の手を握りながら言った。


「私に、犯人を見つけて欲しいということですか?」


真剣に絵を眺めながら、雪乃先輩は問いかける。

百瀬先輩は弱々しく(うなず)いた。


「犯人探しね」


(ささや)いたその声は、あまりにもさりげない言い方だった。


その声は逆光の光の粒と共に、室内に不思議な響きと緊張感を生んだ。


「この絵を見つけたのは?」


雪乃先輩は、細く長く息を吐くと聞き取りにかかった。


「後輩の子。うちの部は普段、朝活はしないんだけど。その子は完成がちょっと危なくて」

「それで、今週から朝も描こうと部室に来たみたいで……」


百瀬先輩は弱々しくそう言った。


「ちょっといい?」


そう言うと天目先輩は手招きをした。


わたしと同学年の一年生は、雪乃先輩の前で直立不動で話し始めた。いつもとは逆に、影のように黙りこんでいる、百瀬先輩。


「昨日までのことは覚えていますか?」


雪乃先輩が確認するように一つずつ聞いてゆく。


「昨日までは大丈夫……だったと思います」

「千里さん――副部長は、途中経過を部長にしか見せませんから。でも、そもそも毎日描いてるから、先輩たちが気づくと思いますし……」


不安げな様子に、天目先輩は大丈夫と頷いて先を促した。


「昨日窓を閉め忘れたみたいで、布がめくれたんだと思います。かけ直そうと思ったら、こんなふうになっていて……」


急な事情聴取の緊張に不安そうな声が震えている。


先輩は他の部員たちにも、同じ話を辛抱強く済ませていく。有力な情報はなく、先輩は髪を撫でながら黙り込んでいた。


部員への聞き取りをまとめるとこういう事だった。


・朝見つけた部員はすぐに部長に伝えに走ったこと。

・美術室は施錠なし。入室は誰でも可。

・非常階段側の鍵なら、誤魔化せる可能性がある。

・百瀬先輩は製作過程は人に見せない。


それにしても、百瀬先輩と同じレベルで、あれだけの加筆を一晩で出来るのだろうか?


もし可能だとしたら、いったい誰が?



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イラストがあるほうが想像がはかどる方はぜひ
活動報告の

『清心館の天使』日ノ宮雪乃の肖像

『わたし』如月萌花の肖像

『疑似三つ子』三人の肖像

『美術部の二つ星』二人の肖像

をご覧くださいませ。

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