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『放課後、秋のひだまり――Ocre doré(黄金色の黄土)』


黄金色のひだまりが、どうしてこんなに切ないんだろう。胸の奥に重たい影が落ちていた。


食堂はやわらかく包み込むように暖かい。


先輩のために頑張って確保したソファ席には、わたしの望んでいた二人きりの時間は訪れなかった。


わたしの気持ちを察してか、雪乃先輩は、左手でごめんなさいのポーズを取った。


天目先輩は、ようやく落ち着ける場所に安心したのか、安心した表情を浮かべていた。


メモ帳を取り出すと、何かを真剣に書き始めた。

色の名前だろうか?文化祭用の資料かもしれない。


未開封の花柄シールが、ページの端から顔を出す。

それを見ながら、またメモ帳へと向かう。

雪乃先輩と百瀬先輩は、りんご談義に花を咲かせている。


「今度は演劇部の助っ人?」


雪乃先輩は急に話を切り出した。


「あら、雪乃、相変わらず勘がいい子ね」


髪を掻き上げながら、余裕のある微笑を浮かべて百瀬先輩はそう言った。一瞬、(いぶか)しむような表情が浮かんだ。


「白雪姫から着想を得た、創作演劇なんてやるらしくて、ね。人が足りないから、お声がけいただいたのさ」

「もう日もないのに、急に言われて、困ってしまったよ」


白雪姫の翻案……気になるけれど、会話には相変わらず混ざれない。


「でも、頼まれたからには、ちょっとでも役に入っておきたくて。うるさくしてすまなかった」


百瀬先輩は謝った。


「あなたは普段から芝居がかった人だけれど――ごめんなさい、悪口じゃないのよ」


「いつもより、さらにそう見えたものだから、なんとなくね。舞台にでも出るのかなって思っただけ」


雪乃先輩は親しそうな口ぶりで続けた。


「考えてみたら、文化祭があなたを放っておくはずがないわね。千里さん、あなたが出るなら見応えがありそう」


赤いりんごを見つめながら話す雪乃先輩の方が、白雪姫のようだった。言葉を紡ぐ薄紅色の唇は、桜の花びらのように艶やかだった。

けれど、その表情はどこか物思いに耽っていた。


そうすると、百瀬先輩はさしずめ、王妃様だろうか?

天目先輩の心を覗くような視線に気づいて、わたしは慌てて会釈を返した。


雪乃先輩は百瀬先輩に負けず劣らずの女優ぶりで顎に手を当て、流れるように話を続ける。


「千里さんと椿姫さんは今、大作に取り掛かってるんでしょ?油絵?」


「P100だいたい160×130cmくらいだよ」


「力を入れて描きたくって」


「文化祭も難儀なものだね、毎年あちこちから声がかかるから。でも、椿姫(つばき)と一緒に競い合えるからね」


「わ、私も同じサイズで描いてます……」


天目先輩が、座ってから初めて口を開いた。

その言葉は意外にも、百瀬先輩に対抗するものだった。自己主張が強いタイプには見えないけれど、美術に関しては負けない。そんな自負があるのだろうか。


見た目ほど、気弱ではないのかもしれない。


「そう、椿姫は部長だし、部で一番大きいサイズ、僕と同じでね。なのに進行も一番いいんだよ」

「あ、そういう意味じゃないけど……」

「一番好きなサイズなの、描写がちょうど良くなるっていうか」


「製作中の作品って……見てもいいものなのかしら?私、すごく興味があって」


そう言いながら、雪乃先輩は頭の中で絵のサイズを考えているのか、百瀬先輩越しに、食堂の柱の一角をじっと見つめていた。


「普段、椿姫以外の部員には見せないんだけれどね、雪乃なら歓迎だよ」


「僕のはまだこれから、ってとこだから、ちょっと恥ずかしいけれどね。せっかく来てくれるなら、モデルになって欲しいくらいさ」


千里先輩の言葉は、秋風が運ぶ秘密の手紙のようだった。


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イラストがあるほうが想像がはかどる方はぜひ
活動報告の

『清心館の天使』日ノ宮雪乃の肖像

『わたし』如月萌花の肖像

『疑似三つ子』三人の肖像

『美術部の二つ星』二人の肖像

をご覧くださいませ。

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