表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【10,000PV突破感謝】清心館女学院の探偵事情~銀髪の天使『日ノ宮雪乃』謎は解けても恋は解けない~  作者: 水星 透
赤りんご青りんご事件~名前のない色

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/107

『美術部への嫌がらせ――Dove Gray(鳩の羽のような)』


「こんなところにいらしたんですね。大変なんです」


事件はいつも静かに訪れる。鳩の羽のようにひそやかな影を落として。


美術部員が飛び込んできて、室内の空気が張り詰めた。近くの生徒が振り返る。


「学食なんだから、ちょっと声を下げようか」


百瀬先輩は穏やかに嗜めた。


「え、えっとですね絵の具のラベルが……」


美術部員は周囲を気にして声をひそめて伝えた。


「また嫌がらせかい?」


その言葉に雪乃先輩の目が、一瞬光った気がした。


「そうなんです」


話しながら頷きを繰り返す。


「わかったよ、すぐ戻る」

「は、はい、お願いします……」


鷹揚な態度の百瀬先輩に部員は肩を落とし、何度も振り返り学食を後にした。


「失礼したね。何の話だったかな?ああそうか、部への訪問か。雪乃、必ず来てくれ」


「約束だよ」


一拍置いてから


「もちろん君も。一緒にね」


百瀬先輩は、わたしの方を見ると、お付きの従者に申し付けるように告げた。


「ぜひ二人で伺いますね」


雪乃先輩がそう応えてくれた。


「美術室なら椿姫もたくさん話ができるからね」


天目先輩は部室での事件が気がかりなようで、不安げに何度も百瀬先輩の袖を引いた。百瀬先輩は、からかうように、黒髪をひと撫ですると、にこりと笑った。


「さて、僕たちも早く戻らないとな」

「部室に来てくれた時、雪乃に相談したい事もあるんだ。まあ、君ならもう察しているかな」


「椿姫、先に戻っていてくれるかい?君がまず確認しておいてくれよ」


部外の人間への口の軽さに、不満そうな天目先輩。それでも、部が気になるようで足早に去っていた。


ひらひらと手を振りながら、ファンサービスをかかさずに食堂を後にする。


(かご)に積まれた赤と青のりんごが、二人の余韻のように残っていた。


「青りんごって、どう考えても緑ですよね」


頭の中の余計な考えが、つい口をついてしまう。


「ほら、何してるの?今日は事件のまとめをするって話でしょう?」「せっかく学食まで来たんだから、早く早く」


あきれた様子の先輩。


「先輩がさっきまで、おしゃべりに夢中だったんじゃないですか」


まとめの時間が減ったのは先輩なのに、そんな思いが口をついた。


「バレちゃった?」

「ごめんなさい。ここからは二人だけの時間だから」


先輩はわたしだけに届けるように囁いた。わたしは照れ隠しに、先輩に答えた。


「今の季節は、学食のこの席がいいんです。西陽がポカポカで。世界が全部……赤に染まって綺麗で」


「お茶がティーバッグなのはちょっとって、思いますけど」


司書室の、香り豊かな紅茶を思い出す。

わたしは、鞄からノートと資料を取り出した。

どの話からまとめましょうか。


「三つの手紙からにしますか、それとも桃の種六つ?」


「湖上の花棺も軽くなら出せますよ」

お気に入りのペンを握り直し、先輩に日が当たるように移動する。

雪乃先輩は、体が触れ合う距離に身を寄せて、横から覗き込んでくれた。

どの事件から読むか考えているようだった。

午後の光を浴びた髪が、わたしの頬にかすかに触れた。その輝きが目に飛び込んでくる。


少しの眩しさと、その微かな温度でわたしの心は満たされていくのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イラストがあるほうが想像がはかどる方はぜひ
活動報告の

『清心館の天使』日ノ宮雪乃の肖像

『わたし』如月萌花の肖像

『疑似三つ子』三人の肖像

『美術部の二つ星』二人の肖像

をご覧くださいませ。

ブクマ・ポイント評価お願いしまします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ