表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/68

『本当の三つ子のように』


数日後、下校時刻に三人を偶然見かけた。


休憩中のようで、タオルで汗を拭っている。

遠目で、何を言っているのかも断片的にしか聞こえない。文句を言いながら、何だかんだ仲良くしているようだった。


詩さんは響に、もっと自分のパフォーマンスに集中しろと言い続けている。

響は詩さんに、自分を信じて、伸びやかにと言い返す。

奏さんは、詩さんと腕を組んでいる。

詩さんは奏さんからの封筒への扱いを思わせる、柔らかな気遣いを見せていた。



喧嘩しながらも、元の三人より仲良しに見えた。


詩さんは、今は二人に似せようとしていない。

けれど、それが逆に本当の姉妹のようだった。

三つ子の一番上の姉のような。


響も気取らずに、サンドイッチを頬張っている。その姿は『学院一カワイイおんなのこ』にふさわしく思えた。次からは響さんと呼んであげたくなるくらいには。

奏さんがわたしたちに気づき頭を下げた。


わたしは、なんでもないですよ。という意味を込めて頬をそっと撫でた。


「あの三人は、なんとなく大丈夫な気がする」


雪乃先輩は笑いながらそう言った。


「奏さんは気持ちを出し切って、明るくなった気がするよね。詩さんとお付き合いを始めたとしても、不思議には思わないけれど」


あの日以来、どことなく先輩と距離を感じる。

図らずも、先輩の告白を聞いてしまったからだろうか。そんなわたしの思いを、知ってか知らずか


「きっと、今のあの人なら、どっちにしてもいい人が見つかるわ」


そんな事を言う雪乃先輩の言葉には、いつも通りの温かさがあった。そして、少しの寂しさも。


それでも、わたしもそうなるといいな、心からそう思うのだった。


三人の姿を見かけたからか、先輩はあの日の事を思い出したようだった。


「傷はもう大丈夫?あの時はごめんね。私、怖くて動けなくて」


「……絶対に嘘ですよね。結構、恨んでます」


「ごめんね……」


泣きそうな顔で言う雪乃先輩を見ると、一瞬で許してしまう。


「本当は、古流柔術を使えるの。探偵のたしなみだから」


わたしが許したことを察したのか、先輩は謎の構えを取った。あまりにも弱そうで、思わず笑いそうになった。


「嘘……ですよね?」


「萌花ちゃんが本当に危ない時は、助けてあげる。これも約束」


どこまでが本気で、どこまでが冗談かわからないことを言う先輩。



わたしの知っている雪乃先輩の噂話。

『推理好き』以外のほとんどが嘘なんじゃないか、そんな気がしてくる。


本当は、運動神経抜群で、成績優秀で、絵も描けて、歌もうまくて、わたしのことが――

思いつく限りの、最強女子高生を想像してみた。

それは、わたしの自慢の……わたしだけの先輩。


勝手な願望。先輩を『天使』と呼んだ子たちと同じ、決めつけの願望。

そんな思いを頭の中から追い出そうとしているうちに、本当に聞きたいことを聞くタイミングを逃してしまった。


先輩がそっと聞いてくる。


「そういえば、もかちゃんは、経験ある?誰かの代わりみたいな」


思ってもみない言葉に、わたしは先輩をじっと見つめた。


「あのですね。一度はっきり言っておきますけど……」

「わたし、告白とか、された事ないですからね」


「えっ、そうなの?」


「なんですか?その反応。わたしそんなモテるように見えます?」


わたしが少し不機嫌になったことで、逆にこれまでの距離が縮まったように思えた。


「そうなんだ、ふーん。そうなんだぁ」


雪乃先輩はなんだか感じ入ったように繰り返している。


「もかちゃんが、初めてされる告白……いつか、それが素敵なものになるといいね」


その言葉は祝福のように胸に染みわたって、わたしは小さく頷いた。

そんな日がわたしに来るのだろうか?その心の痛みは見ないことにしながら。


今日の先輩は、何か嬉しいことでもあったのか、歌でも歌い出しそうだ。


「先輩は数え切れないくらい……されてますよね……そういうの」


わたしは胸がちくりと痛み、しょんぼりした気持ちでそう聞いた。


「みんな私を特別扱いするのよね」

「箱にしまって大切にする。アンティークのお人形みたいに」


先輩は無表情のまま、水溜まりをわざと避けずに靴を濡らした。

そうして生まれた波紋を見つめながら、続けて呟いた。


「これやるとね、お家ですごく怒られるんだ」


特別扱いされる人。されない人、ただ一つの宝石として扱われる人。

そのスペアのような人。わたしはいろいろなことを考える。


「もかちゃんってば、考え事?」


いつもの分かれ道の少し前、雪乃先輩が急に切り出してきた。


「なんでもないんです。なんでも」

「なんでもはあるでしょ?あるっちゃあるけど、ってやつかな?」


「もう!茶化さないでください。怒りますよ」


「ほら、なんでも聞いて?お友達でしょ」

「なら、友達として聞きます……」


あの三人を見かけた今日聞かないと、一生聞けない気がしてしまったから。

そして、友達といいながら、やはり敬語で話してしまう。


十年後――があるのか分からないけれど、その先もずっと敬語で話していそうだ。

わたしはまた指先でロザリオをなぞった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イラストがあるほうが想像がはかどる方はぜひ
活動報告の

『清心館の天使』日ノ宮雪乃の肖像

『わたし』如月萌花の肖像

『疑似三つ子』三人の肖像

『美術部の二つ星』二人の肖像

をご覧くださいませ。

ブクマ・ポイント評価お願いしまします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ