10話 旅路(かぜ)
そして、俺たちは先生に言われて、一緒にギルドに向かった。
人が混み合うギルドの中ではマスターがアルバイトのゴブリン達と一緒に忙しく走り回っていた。
「あぁ、モルガーナ」
「マスター君、こんにちは。
さっそくあの依頼をお願い」
「依頼ってなんですか?」
そう言うと、マスターが近くにあった空いていたテーブルに俺たちを座らせ、話しを始めた。
「ちょっと強敵なんだけどボルグ草原地帯にイギョウエビが現れてね」
「イギョウエビ?」
するとマーニさんは知っているのか、ギルドに置かれていたモンスター図鑑を持ってきて広げた。
「イギョウエビは、討伐クラスは魔獣よりかは下だけど7でエビなのに水陸どこでも歩くことができて、すべての足が大木を切るハサミになっており、別名、歩く刃物とも言われているモンスターのことだね」
そんなモンスターもいるんだ、やっぱり前いた世界の生き物に似ているけど少し違うものもいるんだ。
まだまだこの世界にも面白い生物がいるんだろう。
そんなことを考えていると、マーニさんが頭から電球が着いたような顔をして言った。
「そうだエビだったら、倒した後マコトが美味しい料理作れるんじゃない。
料理だったら、エビの発酵牛乳焼きとかも作れますね」
「普通にエビグラタンって言えばいいじゃないか」
「えぇアスラにはこのネーミングセンスが分からないの?
私はいいと思うけどね、マコト」
えっ俺ですか、エビグラタンのことをエビの発酵牛乳焼きですよね……
「いやぁちょっと俺もよく分からないな」
そう言うと、彼女は少しションボリとした顔になった。
まずいこと言っちゃったかな。
「それで会話の途中ですまないが、目撃者によるとイギョウエビが普段と様子がおかしいようだから、十分警戒して戦ってくれ」
バンッ
「ヒヤッ」
マスターが話していると、モルガーナ先生がいきなり、気合いを入れる為なのかはわからないけどテーブルを叩きつけた。
ビックリして変な声がでちゃったよ、恥ずかしいな。
気になって隣にいた二人を見ると、マーニさんは少し微笑んでいて、アスラさんは表情ひとつも変えずに先生のほうを見ていた。
は、は、恥ずかしい……
「とりあえず、三人とも頑張っていきなさい、アナタ達は強くなったから。
後はお互いを信じれば、どんな敵にも負けないわよ、何たってこの都市ティルウィング最強のパーティー、魔王軍三勇者なんだから」
「はいっ!!!」
マスターは、苦笑いしながら俺たちを見ていた。
✳︎✳︎✳︎
そして、二人に見送られながらギルドを後にして俺たちは街の近郊にある草原地帯を草原をかき分けながら歩いていた。
すると、金属が擦れる音と蒸気が吹き出した音が聞こえた。
カッ、カッ、カッ、カッ
プシュー
「あれがイギョウエビですか、あんな鉄の甲殻に覆われているんですか、マーニさん」
そう聞くと、彼女は頭を少しひねりながらそのモンスターを見ていた。
「違うわね、姿は一緒なんだけど、何だろうあのモンスターは」
すると、そのモンスターは鉄の甲殻を擦り合わせながら、エビ特有のトゲトゲしい顔をこちらに向けて、口にあたる部分から何やら光る小さな球を作り出していた。
ガチャッ キィーン
バババァァン
いきなり、こちらにその光る球体を発射してきた。
「嘘だ、イギョウエビは視力は良くないはずなのに。
もう、気づいちゃったの?」
「マコト、マーニ、避けろ」
バァァン!!!
アスラさんの言葉で間一髪のところで避けた俺たちの目に映ったものは、先ほどまでいた場所が地面をえぐられクレーターみたいになっていたものだった。
「なんなの、イギョウエビはこんな魔力攻撃なんかしないわよ」
あのモンスター、今まで戦った手負いの魔獣以上の強さがあるんじゃないのか、本気を出して戦わないとこっちがやられる。
そして、槍を構え前に進もうとするとアスラさんに肩を掴まれた。
「待て、あれはイギョウエビじゃない。
恐らく帝国四英雄、王兵英雄ラウのマギアで作られた対魔獣兵器だ」
帝国四英雄って、確かマスターが言っていた俺以外の転生者達じゃないのか?
「えっ、なんで魔獣用の兵器がこちらを攻撃してくるの?」
確かにマーニさんの言う通り、帝国四英雄は魔獣は倒すけど、俺らを攻撃するのは訳がわからなかった。
「もしかしたら僕らが魔獣を倒したから帝国が不審に思って偵察のために魔獣兵器を動かしたかもしれない」
確かにアスラさんの言う通り、魔獣は普通の人間やエルフや吸血鬼などでも倒せることはできない、マスターから聞いたけど倒せるのは転生者か大規模な軍隊ぐらいだから。
それを倒せたとなると不審に思われても仕方のないことだ。
「そしたら、逃げたほうがいいじゃないのかな」
「いいや、あれには逃げれない。
ラウのマギアが尽きない限りどこまでも追いかけてくる、下手に逃げて街にでも入ったらあの兵器は僕ら以外は恐らく攻撃はしないけど、皆んなパニックになるからここで倒した方がいいかもしれない」
すると、マーニさんは腰にかけた刀剣を構えた。
「まぁ、そうね、そしたらさっそくこの魔王軍三勇者である私の魔剣ティルウィングで一気に決めようかしらね。
二人とも援護をお願い」
あっ、やっぱりマーニさん、魔王軍三勇者を気に入ったんだ。
ビュン
ボコッ
一瞬のうちにマーニさんは間合いを詰めて、頭部に魔獣の硬い頭骨にもヒビを入れた重い一撃を叩き込んだ。
凄い、初めて会った時よりも何倍も素早く動いて、刀剣をぶつけた音で心臓が震えるような感じがした。
キィェェェェン
ガシャガシャガシャ
ガチャ、ガチャ
ヒュー、ヒュー
彼女の先制攻撃で驚いた魔獣兵器は、全身についているハサミをカチカチと鳴らしながら、背中に恐らく装備されていたミサイル状の魔力弾を頭を打ち付けたマーニさんに向けて発射させた。
「危ない、マーニさん」
俺がモルガーナ先生から教えてもらった自身の魔力を溜め込んで弾状にして放つ魔術を使ってマーニさんに向かって来る魔力弾を相殺しようと手を広げ向けると。
ぐぅいん
バババッ
シュー!!!
グシャ
バババァーン!!!
突然、マーニさんを包むように透明な防護壁のようなものが現れて、彼女を攻撃から守った。
「痛いけどどこも怪我していない、えっ?」
「さすがだねマコト。
アナタの強者のマギアは自身の身を守るのではなく、そのマギアを相手に付与させることもできるんですよ」
「強者のマギアも別の使い方もあったんですか、なんでそこまでマギアのことを知っているんですか」
「それはマコトを……
いいや、それよりもその相手に付与させると自身を守っているマギアは失われるから使いどころには気をつけろよ」
そう言うとアスラさんはモンスターのところに行った。
そうか、これが俺がパーティとしての役割なんだ、まさかモルガーナ先生それも知っててそれを教えたのかな。
じゃあ、頑張らないと。
俺は前にいるアスラさんを呼び止めた。
「アスラさん、俺、盾になります。
その間にマーニさんの援護をしてください」
「分かった」
すると魔獣兵器は向かってくる俺に向かって背中からゲームとかで見る機関銃みたいなものを三基ほど出して、彼に向かって一斉射撃した。
ガチャ
バババババッ
「機関銃も出せるんですか」
さすがにこの魔獣兵器も学習したのか、俺が間合いを詰めてきた途端、更に数基の機関銃を頭上から出して、発射してきた。
でもこれで良い。
ザッザザー
何とか強者のマギアによって防いだ、痛みは変わらないが我慢さえすればなんとか前には進めた。
「まだまだ」
すると、更に前足であるハサミのところからも機関銃を発射してきた。
さすがにこれはマズイ、数が多くて耐えられないかも。
ガチャ
バババババッ
ザッ
カンッカンッカンッ、キィーン
だが、その弾丸の激流を、マーニさんは俺の前に背中を向け立ち塞がり、襲いかかる弾丸全てを剣で切り落とした。
「さっきはありがとうね、それで大丈夫マコト」
「すいません、マーニさん。
あの銃から発射される弾丸が多くて近づけないです」
「そしたら、私が活路を開く。
ついて来なさい」
マーニさんはそう言って、そのイギョウエビに向かって行った。
「ちょっと待ってください」
「早くついてきなさい。
二人で一気に決めるわよ」
彼女も走り出し、それに俺も続く。
ダダダッ
ブンッ
キンッキンッ、キィーンッ
飛び交う魔弾の数もスピードも更に増していたが、彼女は全てを刀剣一つで叩き落とした。
「すごいな、マーニさんでも」
俺が先程使った強者のマギアをマーニさんに再び使おうと、手のひらを彼女に向けると、優しく掴んで手を降ろされた。
「別に私にアナタの強者のマギアを付けなくても良いわ、だって私、君の先輩なんだから。
先輩である私を思う存分カッコつけさせてね」
「ご、ご、ごめんなさい。
いらない気遣いでしたよね」
「もう、すぐに謝らない。
人を気遣うのもいいけど、気遣い過ぎると自分の良いところも潰しちゃうぞ」
ほっぺをツンと人差し指でつつかれて、そんな話しをしながら、俺たちは魔弾を避け、叩き落としながら少しずつ前に進んだ。
すると、急に冷気が足元から襲ってきた。
その寒さを感じると、少し安心感を覚えた。
ガチャ
ヒュー
ガキィン
「二人ともイギョウエビの足元も凍らせて動きを止めた、後は二人に任せる」
それは、アスラさんの氷魔術で魔獣兵器は全身氷漬けになっていた。
「ありがとう、アスラさん」
「行くわよ、マコト!!!」
「はいっ!!!」
ダッ
俺たちが走り出すと、氷漬けになったモンスターは氷を壊して、口から先ほどの光の球体よりも比にならないぐらいの自身の体長を軽く超える、巨大な魔力の塊を生成していた。
カァァァァ
「マコト、私は耐えれるから強者のマギアを発動させなさい」
嘘だ、あんな攻撃見ただけでも誰も耐えられない。
そしたら。
バッ
「何っ?」
俺自身が盾になればいいんだ、マルスさんから託された強者のマギア、そんな簡単には壊れない。
カッ
バババッ
俺が前に立つと紫の光線に飲まれたが、まだ諦めない、今やれる最善のことをすれば良い。
焼けつくように痛いけど、我慢すればいいんだ。
誰かが傷つくのなら、俺がその盾になればいいんだ。
やっぱり、目の前に困っている人がいたらほっとけない。
そして、持っている槍を思いっきりモンスターの口に突き刺した。
「いっけぇぇぇぇ!!!」
ドスッ
ガァァァァァ
ドロッ
自身の放出している魔力が暴走したのか、イギョウエビは爆発する前に体が溶けきり、徐々に炎を巻き上げながら液体状になった。
それを見ながら、俺は一息ついてガッツポーズを決めながら言った。
「勝ったよ、二人とも!!!」
ガシッ
マーニさんが嬉し涙を流しながら走ってきた。
「マコトーーー、無理しすぎでもありがとうね」
その後ろに申し訳なさそうに下を見ているアスラさんも歩いてきた。
「ーー、その……」
バンッ
すると、そんな落ち込んでいる彼を励ますようにマーニさんが背中を叩いていた。
「早く言いなさいよ、アスラ」
「ごめんマコト、次はこんなことは二度としないから」
するとアスラさんは一礼した後、くるりと背中を向けて街の方で歩いて行った。
「あちゃー、もう少し素直に喜べばいいのに。
不思議ちゃんすぎるぞ。
そうだ、どっちが街に早く着くか競争しよう」
そう言って、走っていた彼女の背中は輝いていた。
そうだ、こんな魔獣とかいる恐ろしい世界だけど、このマーニさんとアスラさんと一緒にいる幸せと喜びの日々の思い出は守っていきたいな。
そう心に俺は決めながら、俺は二人を追いかけてモルガーナ先生やマスターがいる日が沈んでいく都市ティルウィングに戻っていた。
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