デート
今日は今月の第2火曜日Diosマートの定休日。Diosマートは毎月第2、第3火曜日が定休です。
今日は近所の雪ちゃんとデートです。
と言い切りたいところですが、彼女が実家に戻って俺との治療、力についての教室を始めて1か月。今では人化もスムーズにできるようになったし、外出の練習です。
人ごみでも、精神が乱されず力のコントロールができるようにしなきゃいけないですからね。
さて、とはいっても用もなく街に繰り出してもムダに一日を終えてしまうので、デートのようにいろいろ予定を詰め込んでみました。
もちろん食事もちょっと奮発。
で、午前中は映画。
内容はホラー。
別に見たいというものではなかったけど、恐怖とか驚きに対して力のバランスが崩れることがあるので、このジャンルにすることにした。本人も了承済み。
ガチで怖かった。
エクソシスト(退魔師)が呪文や儀式で悪霊を追い払うような内容だったけど、とにかく、ビクッとなるような演出ばかり。雪ちゃんも最初のターゲットが悪霊にがばっと襲われる瞬間に頭に耳出てきたし。とっさに俺のほうに引き寄せて、後ろから耳のシルエット見えないようにしたけど、結局最後まで彼女は俺の胸に抱かれるようにしていた。時々柔らかな耳を撫でて。
お昼はちょっと高めの洋食屋。まぁあまり気張らないぐらい、だけどおしゃれで雰囲気のある、地元の名店。ゆっくりランチをいただいて、少し話をして、それから大通りの商店街でお買い物。
と、大通りのど真ん中辺りに人だかり。
パトカーと救急車が来ているようだ。
何か事件があったようだけど、救急車がサイレンを鳴らしながら移動し始めると、前のほうの見物人が帰り始めた。何人かのグループで話をしているのをきくと、暴徒が奇声をあげながら買い物客を襲ったらしい。
まぁ事件もパトカーが何台か来ているし、俺らには関係ないだろうとその場を立ち去ろうとすると、大声と同時に急に前のほうから人々が一斉に動き出した。
振り返ると逃げ惑う人々の中心、僅かの時間、僅かの人の隙間から真っ黒な人ともつかないモノが見えた。見えた瞬間、俺の右側の人々が静止した。
俺は瞬時に雪ちゃんに人化の固定化魔法、力の抑制魔法をかけて抱きしめた。
黒い人影から発して伸びたであろう真空の刃は突然右側から襲ってきた。それは俺の体に触れると一瞬で俺の体より外側では消失した。俺よりも左側の後方の人たちは難を逃れることができたが、俺より右側と左であっても前のほうにいた人々は同じく一瞬静止した。真空の刃が一回転したのち、俺の右側から順に人々が血を吹き出しながら倒れ始めた。
俺も安全のために雪ちゃんを抱きしめたまま倒れこんだ。
一瞬で全知覚探査の魔法を使った。あまり気持ちいい魔法ではないが、すでに倒れた人や遠巻きにいて助かった人などの視覚を含めて全ての近くにある感覚器官の情報を全共有する魔法。範囲によっては完全解析できる賢者の力がないと脳が破壊されるほどの情報量を瞬時に解析する。死んでいても目の機能が失われておらず見開いたままであれば、その視覚すらも共有できる魔法。魔法というよりここまでくるとガチで神の力だ。
俺の倒れこんだ場所も血の海になっている。
その中心に佇んでいるのは、真っ黒な聖獣だった。まだ少し人型を保っているようだけど、精神は完全に人ではなくなっている。そのものの知覚も探知したが、知覚情報からも、彼が見ているものは同胞の人ではなくて、怨嗟の対象、狩るものと狩られるものとの鬩ぎあう知覚だった。
パトカーの陰に生き残った警官が3人ばかりいて拳銃を構えているけど、拳銃ごときじゃ彼を止めることができないだろう。
どうしたものかな?
警官は黒い彼におとなしく抵抗をやめて武器を捨てて投降するよういっているけど、そもそも黒い彼は手には武器を持っていない。というよりも聖獣である彼の体自体が武器でもあるんだけどな。まぁお約束だからしょうがないのか。こういうところからも人類は緩やかな時間で変わっていくのだろうな。そんなことを思いながらも、今は抱きしめている雪ちゃんを守らないとと思った。
黒い彼は茫然と立ち尽くしているが、僅かに動いた瞬間。警官は意を決したのか、彼の足元を撃った。弾は彼の脹脛の部分に当たったが、彼はそのまま警官のほうに向かって歩き始めた。警官は相も変わらず足を狙っているようだが、心臓を狙っても、おそらくどの部分を狙っても彼を倒すことはできないだろう。
俺は警官の知覚も探査、共有したが、一人の警官がようやく頭を狙った一瞬を見逃さなかった。
パッーン
一発の銃声が鳴り響くと同時に、黒い彼の首が吹き飛んで胴体と頭が離れた。黒い彼の眼は驚きで大きく見開いた。俺にもその知覚情報が流れてきた。
これと比べたらホラー映画など子供だましだな。
俺は少し魔法で精神操作して人々が少しでもけが人を助け出そうと近づいてくるように仕向けた。周りに人が集まり始めた瞬間に知覚除去のフィルター魔法を広範囲にかけて、ゆっくりと立ち上がり、彼女も立たせて、服にべっとりしみ込んだ血を魔法できれいに除去すると人ごみにまみれて現場を立ち去った。
俺ははじめて聖獣、しかも、もとは人間を殺す手助けをしてしまった。
件の警官が発砲して弾が黒い彼に到達する瞬間に弾が爆発するように物質転換をした。聖獣相手では、一瞬で心臓を再生不可能な状態まで爆破、蒸発させるか、首と胴を切り離すかのどちらかしない。弾が首を貫通しても、かりに大きな血管を破断させようとも、脊椎を損傷させてもその程度では殺せない。聖獣はすぐに再生できる。それだけ頑丈にできている。故に聖獣であり、本来は人としてその力をコントロールしていかなければならないのだけど...
雪「翔君、何があったの?」
正直に告げるべきかな。
俺「ここでは教えることができないから。」
俺「これからうちに来る?」




