神なのにプロポーズされる
Diosマートの2階が俺の自宅で居間とキッチンと書斎兼趣味部屋、そして和室が一つがある。まぁ結婚できて子供ができたらと思って一部屋多く作って、結局そのあてもなさそうだから和室にしたんだけど。誰も使ってない。たまに友人と宅飲みするときに泊まらせるのに使うぐらいだ。両親は店の裏の昔の神崎商店だったころの建物に二人で住んでいる。
帰りの車の中も雪ちゃんと俺は無言だった。
街から田舎へ帰る道の両側はもう稲刈りが終わって寂しげな田んぼが広がっていて、いつもの景色より色がないような感じに思えてしまった。
家について、雪ちゃんを居間にソファーに座らせて、俺は冷蔵庫からパックのココアを取り出すと鍋に移してガスコンロで温め始めた。ココアが焦げないようにかき混ぜながら温めていると。
雪「ありがとう...」
雪「さっき助けてくれたんだよね」
俺「うん、まぁ...」
俺「何があったか、そして俺が何をしたか大事だよね。今話すからちょっとまってね」
俺は無理に明るく笑顔をつくった。
最初、全てを話す気はなかった。
街であった事件は聖獣が起こしたものである、外見上はまだ少し人の要素を残したものではあったけど、精神は完全に聖獣にのまれていて、しかもあの刹那、俺には何もしてやることはできなかったと。あのまま放っておいたらさらに多くの犠牲が出た。だから警官の発砲した弾の威力を上げる魔法で聖獣を殺したのだと。
雪ちゃんは黙って聞いていた。
雪「ありがとう」
雪「私もああなっていたんだよね。もう少し遅れていたら。お父さんお母さんも街で倒れてた人達みたく。」
俺「正直に言うと、そうだったかもしれないし、そうでなかったかもしれない。聖獣について詳しく説明してなかったね。とても大事なことだけど、人に知られてはいけない、人が自ら気づかないといけない問題なんだけど、雪ちゃんはもうコントロールできているから教えるね。」
聖獣とは人間が高みに至るための必要なパーツのひとつ。そもそも、人間に限らず、動物もほとんどの生き物が、知性となる知覚的情報とその操作である思考を持っている。そして欲も高度な生き物であればあるほど複雑で大きなものを持っているし、絶対必要なものだ。ただ、必要であると同時に生命体が高度であればあるほど、知性とそれによる思考の中で欲という部分は思考を濁らしてしまう存在でもある。でも、欲自体は思考の発現理由にもなるし、なければそもそも考えようとする原動力にもならない。欲は必要なものだけど、それにより思考や力に濁りが出ては高みに至ることはできない。そこで、人を超える高度な存在になるためには欲を顕現し見える形にして、不純なもの、思考や精神を濁らす余分な欲をそぎ落とし磨くものとして聖獣というもう一つの自分を作り出す。つまり、欲を含む精神をいくら磨いても濁りをとることはできないけど、精神から欲を分離して、欲だけを磨いて正しい欲と精神を同期させて強力な力をふるうのが人の高みととして望まれる姿なんだ。だから聖獣化して、精神とともに磨く、つまりコントロールできる力を得ないと、濁った聖獣、良くない欲を内包する生き物になってしまうんだ。でも、外見上が変わってしまうだけで、本当は今までの自分と何も変わらないのだけど、外見が変わることでの不安や、周りから疎外されたり、攻撃されたり、そんなことが、より悪い欲を増幅させてしまって...それが今回のような事件の起こるきっかけだったんだと思う。だから雪ちゃんも、聖獣化したからといって、すぐにお父さんお母さんに危害を加えたわけじゃないし、その後も普通に暮らせたかもしれないし、それは本当にわからないことなんだ。ただ、出歩くこともできないし、心が、精神がどんどん濁っていくことにはなったと思う。
嘘は言わなかった。でも、俺の存在、そして人の高みが神であることも言わなかった。
雪「ありがとう。翔君がいなかったら、さっきも死んでいたと思うし、さっきだけじゃなく、こっちに戻ってきて毎日泣いてたから、きっとその先も普通ではいられなかったと思うから」
雪「でも、ほんとありがとう。」
今度は笑顔で言ってくれた。その笑顔に俺はなんか救われた気がした。
雪「ところで...さっきの説明だと、聖獣化すると自分自身の欲が客観的にわかりやすくなるってこと?自分でこれはダメそうな欲とか、前の進むのに必要な欲だとか」
俺「そう。だからコントロールできない状態で聖獣化すると欲にのまれるし、僕が最初にやったり、さっきやったように強制的に魔法で人化させたり固定化すると、必要な欲も抑制されて、やがて何もできなくなるんだ。食事ももちろん思考もすべて止まってしまう。短い時間なら欲の余韻が精神に残っていて大丈夫なんだけど」
雪「じゃ、ちょっと確認したいことがあるから聖獣化するね」
俺「完全?」
雪「完全」
俺「じゃ、そっちの和室使っていいよ」
雪「ここでもいいよ」
俺「服脱がなきゃ服破れちゃうだろ(^^;」
雪「あ、そういうこと。」
雪ちゃんはなんか首をひねりながら隣の和室に入っていった。
自分の家の和室で雪ちゃんはもふもふになっていると思うと(^^;
魔法で薄い障子を透過して見ることはたやすいこと。が、自分の中の聖獣の力をみると、これはやはり濁った欲である!!いや実際は見てないけどそうに違いない。神の聖獣が欲に濁るなど絶対にあってはならないと思っているのであえて確認はしない。そして、そんな覗きのようなことは絶対しない。
なんて、神の記憶の力を使わずまったり考えていると、いきなり和室の障子紙がベリっ、バキバキ。
雪「ごめんなさい」
あぁーあ。完全聖獣化だから障子開けられずに破いちゃったよ。
俺「こういう場合は移動魔法で障子を動かすといいんだよ。ここには僕以外だれもいないし」
そういって俺が移動魔法で障子を動かそうとした瞬間、破けた障子から聖獣化した狐の雪ちゃんが顔を出した。
雪「痛っい!!」
俺「うわぁっ!!」
障子は移動魔法で勢いよく開いた瞬間に破れた穴から顔を出したもんだから、隣り合う障子との間に挟まれた。
あわてて駆け寄る。
和室で横たわる大きなふわふわの狐の首に手をまわし優しくなでる。
俺「ごめんよ。顔出すと思わなかったから」
雪ちゃんは無言で撫でられている。
あぁ、すんごくふわふわ柔らかで温かくていいなぁー。
ずっとこうしていたいなー。
しばらくそのままでいると。
雪「ねぇ翔君は結婚とか考えないの?」
俺「...」
俺「まぁコンビニ風とはいえしがない田舎の商店主、ブラック企業顔負けの自営業、ここにきてくれる人なんていないよ(^^;」
雪「私じゃダメ?」
俺「...」
正直、商店主のほうの仕事はどうにかなる。神の力を使えばそこそこの暮らしを誰にも邪魔されずに続けることもできるかもしれない。でも、むしろその神の力があってなお彼女とずっと一緒にいられるのかな?神の力、神とともにいるってことは、事実上同じ神なるということ。永遠の時をともにいるということ、無限という制約、さらにそれ以上の様々な制約もある。
雪「私が聖獣化して確認したかったのは翔君への思い。私が確認した翔君とずっと一緒にいたいっていう欲は磨けば光るほうの欲だと思う。」
正直、めちゃくちゃ嬉しい。つい膝の上に載せて撫でていたけど、彼女の柔らかな首筋に顔を埋めてしまった。
俺「俺も聖獣化して確認したほうがいいかな」
神の記憶の力は暴走気味。ここはおとなしく聖獣化して欲のほうの自分を見つめ直そう。
俺「ちょっとまってて」
隣の居間に戻るとソファーに上着とズボンを脱いで真っ裸になると俺はすぐに聖獣化した。
俺は神の聖獣の力を持っているから、形質は問わないけど、彼女にあわせて狐に聖獣化している。ただ、神の聖獣だから全身の毛色はかなり特殊だ。毛は銀色一色だ。爪も銀色、尻尾の先も普通狐はちょっとアクセントに白っぽいけどそこも銀色。違うのは目の色が蒼いのぐらいかな。もちろん、変えようと思えば色も変えられるけど意識しないで聖獣化するとこの色になるみたいだ。
俺は和室に戻ろうとしたけど、さっき雪ちゃんが開けた障子の穴からこっちは丸見え、しかもしっかり凝視されてたことがわかってちょっとへこんだ。
俺「お互い完全聖獣化して会うってなかったね」
雪「かっこいいねー。うん絶対ステキだ。ますます欲が強くなる気がするね」
俺「きっとそれダメなほうの欲だと思うぞ」
雪「うん、これはダメだね。もふもふしたくなっちゃうね。でも、害意はないからダメな欲とも言い切れない気がするけどね~」
俺「俺も同じ欲抱えてるねー。よくわかる(笑)」
お互いクルクルまわりながら話をしたけど、俺が横になったとたん、彼女は俺の腹に背中がかかるように丸くなって横になった。
彼女が本当に俺と一緒にいたいと思ってくれるなら、話してみようかな神のこと。
俺「たぶん、薄々わかってると思うけど、商店主の苦労なんて言い訳でしかなくて、もっととてつもなく重いことがあるんだけけど、しかも聞いてしまってからは引き返せないんだけど...それでも一緒にいたいと断言できる?」
雪「だって分離した欲である聖獣で確認したんだもん。断言以上でしょ。翔君の言う通りなら」
なるほど、そりゃその通りだ。
それでは覚悟を決めますか。




