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僕とキミとの犯人探し  作者: ハルカ カズラ
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問2.見つからない宿題


 宿題が行方不明になるなんて、思い付くことも無かった。だって、普通は提出するのが当たり前だと思っていたから。それがまさか、毎日起こるだなんて誰も予想出来なかったんだ。


「おーい、駿汰しゅんた、計ドリやってきた?」


「おはよ、大地。うん、やってきたよ。僕、計算は好きだから。でも、作文は苦手だよ。長いから」


「作文はさすがに見せあいっこ出来ないもんな~長いのはやだよな~で、頼むぜ!」


「え? また忘れたの?」


「忘れたんじゃないぞ。分からなかったから書けなかっただけだ!」


「そ、そんな威張って言うことじゃないけど、いいよ。朝の会の内に写しておいてね」


「おうよ! うしっ、俺、走って行くから。駿汰は遅刻に気を付けてゆっくり歩いてていいぞ~」


「うん、じゃあ頑張ってね!」


 朝の通学路で、大地が僕に声をかけてくる時は大抵、宿題をやって来なかった時。計ドリの時はほとんど忘れて来る……正確にはやってこないで持ってくる。それが正しい日本語なのかな。


 漢ドリの時はきちんとやって来るくらい、大地は漢字が得意らしくてその時ばかりは、自慢げに先生に提出するんだけどね。作文は誰もが得意じゃないというか、長々と書くのは苦手。作文はお互いに見せられないから、ズルは出来ないのが厄介なんだ。


「おはよ、駿汰くん。ねえ、今日も誰か忘れて来るのかな?」


「ううーん……それは僕には分からないけど、提出し終わった後じゃないと分からないことだからね。それを僕らが心配してもどうしようもないって言うか……ごめんね、ちゃんと答えられなくて」


「駿汰くんが謝らなくていいよ。誰かが忘れて来るのが悪いんだし、わたしも駿汰くんも真面目に宿題を出しているじゃない。だから、本当にごめんね」


「や、僕も何だかごめん」


「あはっ、朝から謝りっ子してるね。おかしい~」


 こんな感じで音海おとみと話が始まる朝なんだよな。でも、何かすごく話しやすい。だからこそ、頼ってしまうんだけど。


 教室に入っても、音海とは席が隣だから別に誰も、僕たちがどうとかウワサすることもないし、そういう意味じゃ過ごしやすい学級かもしれない。


「駿汰、サンキュな! マジ、助かった」


「うん」


「ちょっと! 大地、またなの? 朝からズルとかしないでよ!」


「忘れて来るよりはマシじゃん? それに俺は、無理やりじゃないぜ~? な、駿汰」


「うん、嫌じゃないよ。汚して返してくるわけじゃ無いし」


「ほら見ろほら見ろ~! はっはっは~~」


「んもう! 男子って何なの? 駿汰くんも駿汰くんだよ! 駄目だよ、甘やかしたりしたら。大地のためにならないんだよ? だから、約束して? もう貸さないって!」


「えーー? んーー」


 音海の言うことはもっともなんだけど、大地も友達だし……次から気を付ければいいよね。


「わ、分かったよ。いつも貸さないようにするよ」


「うんっ! それなら許してあげる」


 音海との約束? をしていたら朝の会が始まって、先生がみんなに向かって声を上げた。


「よぉーし、今日は忘れてないよな~? 朝の会が終わってすぐにみんな、提出するように!」


 えーーー!? って声が上がるのは、まだ宿題を写し終えていない子たちが中心だったりする。だから、こういう時に大地の方を見ると、僕に向かってピースサインを見せてきたりする。


 あはは……それを見せられると、やっぱり貸してあげなくても良かったのかもしれないなぁ。


 朝の会が終わり、いつものように後ろから宿題を集められる時間がやって来た。今日に限っては、作文と計ドリと漢ドリの3つの宿題だから、集めるのも大変だった。


「よし、集まったな。じゃあ、持って行くぞ~」


 あの束を先生が職員室へ一人で持って行くのは大変そうだから、音海が手伝うのがお決まりみたいになっていた。だけど、それでも今日は多かったから何故か、僕も手伝うことになってしまった。


「あの先生、全員分集まったんですか?」


 音海が先生に聞いているけど、先生はまだ分からん。なんて返してた。それはそうだよね。先生が言ったことだから仕方ないけど、40人分の宿題が3倍だもの。


「先生、もし今日も全員分無かったらまた増やすんですか?」


 こんなの聞きたくないけど、やっぱり増やしそうなんだよね。宿題大好き先生だし。


「いや、分からん。まずは全員分出しているか確かめないと、何とも言えないな。よし、ここまででいいぞ! ふたりは教室に戻っていいぞ」


「はい、先生」

「分かりました~」


 体育の先生だからプライドがあるらしく、さすがに職員室の中まで生徒に持って来させるのは、気まずいらしい。気まずいと言うより、音海が言うには気になってる先生にいい所を見せたいみたいだった。


「音海はどう思う?」


「宿題忘れのこと?」


「うん。今日は大丈夫だよね? だって3つも出したんだよ? それが毎日増えて行ったら先生も大変だと思うんだ」


「んー、そうだね。さすがにこれ以上増やすと、苦情が行っちゃうし3つが限界だと思うよ。計算ドリルだけなら5つでも出来そうだけどね」


「出来るけど嫌だなぁ」


「それじゃあ、祈ろうよ。誰も忘れて来ていないって」


「うん、そうだね」


帰りの会になると、昨日の宿題を返すとかで先生が、一人ずつ名前を呼びだした。昨日と言うと、一人だけ忘れて来て、出さなかった日だ。だから呼ばれなければ、その人が忘れて来たって事が分かってしまうんだけど。


 僕の隣にいる音海が珍しく、僕に声をかけてきた。もちろん、小声だけど。


「駿汰くん、昨日の宿題忘れって誰だと思う?」


「うう~~ん……大地じゃないことは確かなんだけどなぁ。大地だったら忘れて来ても、はいはい~! って、むしろ自分で名乗りを上げるし。他にやってきてなさそうなのは……ん~~分かんないよ」


「ねえねえ、もしさ、今日出した宿題も出してない人がいたらさ、わたしたちで見つけない?」


「ええ?」


「しっ……!」


「犯人探しをするの。誰かが本当に忘れてきたら先生だって、さすがに注意すると思うの。でも、よく分かんないけど、誰なのか名前も言わないでしょ? 実は先生が見落としていただけかもしれないし、数え間違いかもしれないじゃない。宿題が見つからないなんておかしいもの。きっと、誰かが隠してるんだよ」


「犯人って、悪い事した人のことだよね。音海、もしかして昨日……探偵ドラマでも見たの?」


「そ、そんなことないけど、と、とにかく決まり! わたしと駿汰くんなら宿題の行方を探せるよ」


 ドラマを見て影響を受けたんだね。分かりやすいし、それに音海がこんな乗り気でゲームみたいなことを言い出すなんて、初めてかもしれない。それはともかく、音海と話をしてたら先生から呼ばれていた。


「駿汰、音海、先生はどうすればいいんだ?」


「へ? ど、どうしたんですか?」

「先生、何があったんです?」


「昨日な、宿題出さなかった奴を呼び出して聞いてみたんだ。そしたら、出したって言うんだ。その宿題はじゃあ、どこに行ったって言うんだろうな? トホホ……」


「まるでナゾナゾみたいです」

「ほら、駿汰くん。やっぱりだよ」


 教壇で先生と話をしていた僕と音海。そしたら、早く帰りたいから宿題を返して欲しい! そんな声がみんなから上がってしまった。その中でも一番びっくりしたのが、大人しくて声なんか上げない久住くずみくんと沼澤ぬまざわさんが明らかにイライラしてて、声を張り上げたのが意外過ぎて驚いてしまった。


「俺はみんなにノートを見られたくない!」

「わたし、これから劇を観に行くんです。だから、帰りますっ!!」


 そのまま先生の元から宿題ノートを探して、教室からふたりとも出て行ったことに、みんな開いた口が塞がらない状態だった。


「そ、そうだな。みんな、机から自分の名前のノートを持って、そのまま帰っちゃっていいぞ~」


 先生の合図と共に、みんな一斉に自分のノートを探して、見つけた人から先生に挨拶をして教室から出て行く。何だかスゴイ光景かも。って思ってたら、大地が騒ぎだしてた。


「先生! オレ、オレのノートが見つからない! 珍しく真面目に答えを書き写したのに!」


「大地、お前……」


「げっ!? し、しまった。と、とりあえずさよなら、先生~~オレ、今日は帰る~~」


「ったく、あいつは困った奴だな」


「あの、先生?」


「ん? どうした、駿汰」


「朝に出した宿題は全員分あったんですか? それと、大地のノートはもしかしたら、久住くんか沼澤さんが間違って持って帰ったんじゃ?」


「あったはずだが、どうだったかな。それに大地のノートを間違えて持って行ったんなら、明日返すだろ」


「んん~~? 全員出してるはずなのに先生の元にたどり着く前にどこかへ行ってしまってるってことかぁ。音海、分かる?」


「ふふふ……これはもう、事件よ! きっと、誰かが宿題嫌だ! やりたくない。だから消しちゃった……とか?」


「何だよ~音海も分からないんじゃないか。犯人探すってハリキっていたのに。どうすんの~?」


「さ、探すもん! 駿汰君とふたりで!」


「えええ? 僕、分からないよ。こんな謎解きみたいなの……」


 僕も同じ事をずっと考えてるから、犯人の気持ちが分かるなぁ。毎日の宿題なんて地獄でしかないし、それだったらノートは……うーーん? どこに行ってるんだろう。


「期待出来ないが、委員長と駿汰で何とかしてくれ……先生は慌て疲れた。とにかく、明日は今日の分のノートを返す。そんでまた宿題を出す。そういうことだから、ふたりともよろしくな!」


「えええ? せ、先生……僕たちにどうしろと」


「いいじゃない、期待されてるんだよ? 犯人探そうよ」


 宿題のノートが単にどこかに行っちゃっただけなんじゃないかなぁ。


「と、とにかく、明日大地のノートを持ってきてくれることを祈ろうよ。久住くんか、沼澤さんのどっちかだと思うし」


「うん、それしかないよね。じゃあ、音海また明日~」


「またね、駿汰くん」


 ホントに、宿題ノート、どこに行っちゃったんだろ。

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