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side すみれ 1


もういいかな

もういいんじゃないかな。


「すみれ、おはよう」


ああそうだ誠君がいる。


「おはよう。誠君、今日もまぶしくて良いね」


「ははっ、良かった」



◇◇◇



「すみれさ、学校着いたら英語の宿題写させて」


「良いけど珍しいね。夜何かあったの?」


「父さんの手伝い。寝みぃ」


「えー言ってくれたら私も手伝ったのに」


「すみれはちゃんと定時までバイトしたじゃん、良いんだよ。夕飯作りあったんだろ?」


「うん、ママまた出張なんだ」



私、福寺すみれ17歳は、毎朝玄関まで迎えに来てくれるお隣のお家の幼馴染、鬼屋敷誠君17歳と登校する。


私も誠君も帰宅部なので帰りも一緒、なんなら私のバイト先はお隣の鬼屋敷家の広ーい庭の一画にある誠君のお父さんのぬいぐるみ工房だ。

誠君と2人でバイトしてるのでもう夜以外一緒にいると言っても過言では無い。


「今日のランチさ、ニンニク抜きのペペロンチーノだって。私あれ好きなんだ、皆も食堂誘おうよ」


「いつも思うけどニンニク抜きじゃペペロンチーノじゃなくね?悟と隼斗なんかは来るだろうけど、宗貞ら辺の連中は外で食べたがるかもな」


「あー天気良いもんね、まぁ雨でも外行きたがるけどさ彼らは。じゃあ各々食べたいとこでいいか」



学校は幼稚園から大学までの一貫校でクラス替えも無いので、もうクラス全体が家族みたいな感じがある。

幼稚園の時は全員おなまえ名札をつけていて、下の名前で呼ぶように言われていた。

その流れで、今でも基本男女共にお互い名前で呼んでいる。


もちろん例外もある、小学生の頃百科事典を全部暗記していてクラス皆の尊敬を集めた学者キャラの夜澤勇太君は、敬意を込めて夜澤、と苗字で呼ばれている。


一貫校や付属校はひとたび仲違いが発生すると大変な思いをすると聞いた事があるけれど、私達の通う学校には本当に全く無い。

言い争いがあったら皆が公平にジャッジしてくれたり誰かが孤立したりしないようにさりげなくサポートしてくれたりする。そうやって皆が皆を大事に思いながらもう高校2年生だ。


幼稚園の時にここに入学させようと思ってくれた両親には本当に心から感謝している。この学校じゃなかったら、私みたいな薄ぼんやりした人間はついていけなかったかもしれない。


私をこの学校に通わせる為にこの土地に引っ越してきたと聞いた時は驚いたけど、なんとクラスメイトの半分以上が同じように学校の為に区内、または周辺地域に越してきたらしい。

そうなのか、これが俗に言うお受験ってあれか。


学校までは徒歩で10分。

幼稚園の頃は福寺家と鬼屋敷家双方の親と登園していたけど、小学生から高2の現在まではずーっと毎日誠君と登校している。


そう、誠君と。



鬼屋敷誠君は透明感のある薄い肌に整った顔立ち、日に透かすとキラリとするサラサラ髪を持つ男の子だ。

小さい頃は女の子に間違われる事もあったけど、今はしなやかで長い手足と中性的な美しさは残しつつ、でもどこからどう見てもカッコいい男子に成長した。

対して私は小さい頃から年中ポニーテールの特筆すべき点の無い普通女子。


どう考えても隣にいる事自体烏滸がましい感あるんだけど、誠君はもちろん、クラスメイトもそうは思わないそうだ。


「だって隣の家だぜ?普通に考えて俺とすみれで登校するのが自然じゃん」


「そうかなぁそう言ってもらえて私はありがたいんだけども。マキちゃん達も一緒に登校してこない日があったら何かあったのか心配になるから2人で来いって」


「ほらな?幼稚園から一緒に通ってんだぜ、そりゃそう思うよ。すみれ、危ない」


ガードレールすれすれに走ってきた車を見て、誠君がスッと私の方に手を伸ばし、ジッと車を凝視する。

元々誠君が車道側で、私は安全な内側を歩かせてもらっているので危ないのはむしろ誠君の方だけど、それでも誠君はちょっとでも危なそうな事があるとこうして気を配ってくれる。

優しいなぁ。


「ありがとう。考えてみたら学校までの歩道って全部ガードレールあるよね。やっぱり幼稚園児から大学生まで毎日いっぱい通るからかな、ありがたいよねぇ」


「まぁ税金高いししっかり守り堅めて貰わないとね」


「そうだねぇ私も将来税金いっぱい払えるように頑張るよ」


そう答えながら、税金いっぱい払うって事は長く生きるって事か、等々考えた。



◇◇◇



「時々さ、誠君が光ってまぶしく見えるんだけど皆はどう?」


休み時間、マキちゃんと瞳ちゃんと陽菜ちゃんにそう話すと、「あーね」と陽菜ちゃんが答えた。


「そりゃあれだけずっと一緒にいるんだもん。好きにならない方がおかしいしょ」


「え?」


「は?」


突然なんの話かと思って聞き返すと、陽菜ちゃんだけでなく3人とも変な顔をしている。


「好きとかは分かんないけど、実際にまぶしいんだよ、ボワーていうかピカーていうか光って見えるの」


「分かんないのかい」


「そんな事ある?うちらもう17よ?」


「え陽菜もマキも待って。すみれさ、誠が物理的に光ってるって言ってない???」


うーん、と唸ってからマキちゃんが言う。


「まあ無くはないのかも」


「ほら!」


「えーーー」


「神職の娘が言うと説得力出ちゃうじゃん」


だよねマキちゃん。だって本当にそうなんだから。



誠君は時々光る。それはもう文字通り光っている。

光量強めの朧月夜みたいな見え方で、誠君を中心にパァ〜とまぶしいのだ。


結構な眩しさで、初めて光って見えたのは中学生の時だったと思う。

朝迎えに来た誠君がピカーと光っていて、思わず「わ、誠君眩しい」と言うと、誠君はビックリした顔をして、「すみれ、俺が眩しく見えるの?」と聞いてきた。うん、と答えると、


「俺が光ってるのが見えるって事?」


「うんそう、凄いねそれ。誠君カッコ良すぎるからとうとう光るようになっちゃった?」


そう聞くと誠君は目を丸くして、そしてフハッと吹き出した。


「はははっそうかもしんない」


「すごいねぇさすが誠君」


「ははは」



それから今日に至るまで、誠君は時々まぶしい。

朝迎えに来てくれる時がまぶしい率が1番高くて、学校や放課後にもまぶしい時がある。

どのタイミングで何故光るのか分からないしまぁいいかと私も誠君もすっかり慣れて、誠君が時々まぶしいのは当たり前になっている。


長年の観察により、どうやら大体の人には誠君がまぶしいのが見えないらしい。

でも登校中ギョッとしたような顔で見てくる人もたま〜にいるから人によるんだろう。マキちゃんは見えるみたいだ。



◇◇◇



「誠君モモシュバーガー寄って帰ろうよ。今日バイト無いしさ、どうしても炭酸と一緒に揚げたてのポテトが食べたいんだよね。今日は私が奢るので!」


「寄ってくのは良いけど俺が出すよ」


「ダメだよ〜前もそう言って出して貰っちゃってるしさ。バイト代入ったばっかりだし」


「それなら俺も入ったばっかだって。すみれはバイト代何か好きなモン買いなよ。俺パルコンの賞金も唸るほどあるしさ」


誠君がにやっと笑ってふふんとドヤる。


「中学生の時から毎年優勝してるんだもんね、すごい事だよほんと。でもそれこそ誠君の頑張りで得た賞金だからさ、投資でも貯金でも自分の為に使って欲しいよ」


「ははは投資」


「夜澤くん、お父さん指導の元やってるって言ってたよ投資」


「やば。俺身体動かしてる方が良いわ。じゃあ今回は自分のは自分で買う方式で」


「おごりたいのに〜、じゃあ次こそ私出すからね」


「うーん考えとく」



誠君のやっているスポーツ、パルコンは「parkour combat:パルクール コンバット」の略で、パルクール:身体一つで建物や壁を乗り越えたり素早く移動するスポーツ、と、コンバット:戦闘、を組み合わせた新しい競技の事だ。


パルコンというスポーツが出てきてまだ10年も経っていないけれど、世界で爆発的に流行した事で年に1回大規模な世界大会がある。

誰もが知っている世界的企業がこぞって協賛スポンサーに名乗りを上げるので賞金額も大変な事になっているらしい。


そのパルコンで4大会連続優勝しているとんでもない超人が誠君なのだ。


「最初期からやってるから経験値でだいぶ有利なんだよね」と誠君は言う。

なんでも誠君のお父さんの会社員時代の同僚がパルコンをスポーツとして作ったそうで、声掛けしてもらえたお陰で世に出る前から練習出来ていたらしい。


まだ子供だった誠君だけどパルコンの才能があったらしくメキメキと頭角を現し、同僚さんも喜んでビシバシ指導してくれたそうだ。はじめの頃はさすがに大人には勝てなかったけれど、小学校を卒業する頃には大体の大会で優勝するようになり、そして現在に至る。


「パルコンは体育祭の前だっけ後だっけ」


「後だね、再来月の最初の日曜」


「そっか。連覇も大事だけどさ、怪我しないようにね、応援に行くね」


「おうありがと」


パルコンは前回大会優勝者の国で開催される。なので誠君の超人連覇のおかげでもう最近はずっと日本開催だ。

パルコン世界大会の時期は世界中から参加者と観戦者が集まって、世界同時中継もされてお祭りみたいになる。



凄い事はもうひとつあって、世界ランキング30位までに私達の一貫校の生徒が誠君以外に3人、要するに4人ランクインしている。


なんならその4人のうち3人が同じ学年で、

その同じ学年の3人のうち、1人は隣のクラスの美女・照谷さんで、残る2人が誠君と宗貞くん、なんとクラスメイトなのだ。


さらに私達の住んでる区内で言うなら全部で7人入っている。


ちょっと異常じゃないかと思うけど、私達の区は17年前から運動スポーツ推進特区に指定されていて、大規模な競技施設や最新ジムが整えられてる。区の施設なので利用料も安い。

スポーツする人曰くここは楽園かと思うレベルで施設が素晴らしく、優秀な指導者・スポーツドクターも常駐しているそうだ。


なのでそれ目当てで日本中、時には海外からも運動好きな人達が転入してきた結果、運動神経抜群人間の住まう街になってしまっているらしい。それで結果的にパルコン世界ランキング上位者が多く住む街にもなってしまっているのだ。すごい。


確かに駅前のマンションはプロスポーツ選手が何人も住んでいるそうだし、TVでやっている超難度アスレチックみたいなスポーツバラエティ番組の最終ステージ常連の人もよく見る。


それに区内の公園はランニングやトレーニングしている人で平日も夜もいつでも賑わっている。

だから暗くなってからの公園は危ない所ではなく、照明も明るいしむしろ筋肉人間だらけの安全な場所なのでワンちゃんのお散歩コースとしても大人気だ。



改めて、良い街に住んでるなぁ。

ここに住んで学校に通って、誠君がいて良かったなぁ。


「じゃあまた明日ね」


「おう、また明日。早くドア閉めて鍵かけちゃいな」


「はーい」




そう思うのに。



学校に行ってバイトして、帰ってきてお風呂入ってご飯を食べて勉強して、家族とTV見ながら笑ったりして、

平和な1日なのに、良い1日だったのに、


ふと、


もういいかなと思ってしまう。


もう、生きるの終わりでもいいかなって。


どうしてかな。



中学生位からだろうか。

なんだか、生きてるのってこわい。


何故こんな風に思うようになったのか思い出せない。

中学生になって戦争や紛争を深く勉強するようになったからだろうか。

私達が生まれてから世界で戦争も紛争も起きていないけど、いつかまた起きるかもしれない。


そう思うと怖い。


大切な人が傷つくかもしれない事が怖い。

私が知らない所で知らない人が、恐ろしい思いをしているかも知れない事が怖い。


争いで浮き出る人の悪意が怖い、異常事態下でエスカレートしてしまう人の残酷さが怖い。


そう思うと、逃げでしかないのだけど何も怖い事が起きないうちに、大丈夫なうちにもういいかなってしたくなってしまう。


でも

そんな事は出来ないから、私は小さい頃からの習慣になっているお祈りをして何とか心を落ち着ける。

毎晩寝る前に神様にお願いしてから寝るのだ。


怖い事が起こりませんように

世界が穏やかでありますように

誠君が幸せでありますように


考え出すと怖くて眠れなくて、怪我しませんように、誰も事故に遭いませんように、火事になりませんようにとか何個も何個も5分くらい神様にお願いしながら寝ていたけど、最近はこの3個だ。

簡潔にまとめた方が神様も分かりやすいだろうと思って。



だから今日も、神様にお願いして眠る。



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