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side すみれ 2

「おはようすみれ」


 玄関のドアを開けると、誠君が光っていた。


ああ、良かった。


「おはよう誠君。今日もまぶしいね」

「ははは光ってる?」

「光ってる光ってる」


 誠君がニカっと笑っておはようと言ってくれると、ああ大丈夫だと思う。

もういいかなと思わなくなる。


◇◇◇


「すみれ、結局体育祭の種目何になるって?」


 誠君がガードレール側を歩きながら聞いてくる。


「あのね!学年種目の玉入れだけで良いって。障害物競争出ろって言われたらどうしようかと思ってたから本当良かったよ〜。障害物はマキちゃんが出てくれるって。誠君は?」

「俺学年種目と100メートルと障害物と棒引きと選抜リレー」

「出過ぎじゃない??いくら自由出場だからってさ、あ、でもその制度のおかげで私が玉入れだけにしてもらえたんだけどさ、大丈夫?」

「全然へーき。もうすぐパルコンだし足りないくらい。体育祭も格闘系あればいーのに」

「誠君超人過ぎる。ケガだけはね、しないように気をつけてね」


 そう心配していると、誠君がポヤ〜と光り始めた。

今日は朝からよく光るなぁまぶしいなぁ。


 誠君は光り出した自分に気付くと私の方を見て、そして格好良く笑った。



◇◇◇



 体育祭が凄過ぎる。

毎年思うけど凄過ぎてる。


 今年も体育祭当日は見渡す限りの青空で気持ちが良い。

なんだけど凄過ぎて天気を楽しむ暇がない。


 まず学年種目の玉入れは、どのクラスも落ちている玉の方が少ない。皆脅威のコントロールでほぼカゴの中に入れている。

 少数の落ちてる玉を生産してるのが私だ。やばい、申し訳ない。

 これは逆に私はあんまり投げない方がいいなと思って皆が5個投げてる間に1個投げるか投げないかでいたらマキちゃんが投げながら、


「あいつらがバケモン過ぎるだけだから。私達が普通なんだから気にする事ないよ」


と言ってくれた。

 優しい、ありがとうマキちゃん。でもマキちゃんも多分入れてる方が多い。


 そうこうしているうちに落ちている玉が全クラス無くなって驚愕していたら、“映像判定に入ります、1番早く全部の玉をかごに入れたクラスを1位とします、成績発表までお待ちください”とアナウンスが流れた。玉入れってどこの学校もこれが普通なんだろうか。



 そして何と言っても1番盛り上がるのは選抜リレーだ。

各クラスから選ばれた人達が出るクラス対抗のリレーだけど

ひとクラス40人位いて選抜リレーはその中で30人出る。 

 もはや逆選抜なのか何なのか分からないけど超人揃いのクラスメイト達に迷惑を掛けたくないので、クラスリレーが全員参加じゃなくて本当に良かった。


 小学校まではクラス全員参加の対抗リレーで選抜リレーは中学から、毎年手に汗握る凄いリレーなのだ。

 皆足が速いのは勿論、とにかくバトンパスが秀逸。実は何処かで集団訓練受けてるんですと言われても、ですよねと信じてしまいそうな位どのクラスも統率がとれている。


「こりゃ今年もうちのクラスが優勝だね」

「お、誠がレーン入ったよ、もうアンカーか」


 クラス席で一緒に見ていたマキちゃんと瞳ちゃんが楽しそうに手を叩く。誠君はコーナーを抜けた前走者の栞ちゃんを見ながらトーントーンと小さくジャンプしている。


「バトンパスうま」

「それ」


 私はもう目が離せなくて声が出せない。

バトンを受け取った誠君はカモシカのように駆けていく。


 右足が地面に着いたと思ったら次の瞬間には左足が着いて次の瞬間には右足で、これはもう肉眼では追えないのではと思う程軽やかに伸びやかに足が回転していく。

 元々あったリードを見る間に増やしてあっという間にゴールしてしまった。



 良かった、皆凄かった、私は見ていただけだけど感動した。スポーツ推進特区の学校に通っていて本当に幸運だった。

 あまりに皆が凄くて素敵で、もしかしたら今日は皆も誠君みたいにピカーっと光り始めるんじゃないかと思ったけどそんな事はなかった。残念。




◇◇◇


「ちょっと!転校生来るってよ!!」

「マジで?」

「中途で入れんの?無理だろ」


 体育祭、うちのクラスは見事学年優勝を収め、次の月には皆でパルコンの応援に行った。

 誠君は誰よりも強くて当たり前のように優勝し、他にもクラスメイトが入賞して私達は大盛り上がりだった。新しく発表される世界ランキングは誠君は1位確定として、知っている人があと何人ランクインしてくるか皆ワクワクしていた。

 そんな中、突然転校生というビックリ情報が流れてきた。


「しかも2人らしいよ、双子だって」

「えーほんとに?」

「お父さんが海外の役人さんで、そのあれこれでうちの学校が選ばれたって。教頭先生ドア開けっぱなしで電話してるから丸聞こえ」

「あーなんか国際関係的な。それでもこんな学期途中は初めてだよね」


 私達の学校は高校・大学入学時以外は新しく生徒を募集しない。高校入学時の募集も数人だけで、1人も入ってこない年もあるらしい。

 私達の学年の時は隣のクラスの美女・照谷さんと男子2人の計3人だった。


 内部生と途中入学組の対立、なんていうことも全くなく、どの学年もあっという間に馴染んでいくのが我が校の良いところのひとつだ。


 噂に聞くに募集人数が少ないせいか毎年物凄い倍率だそうで、高校から入ってくる人達は皆本当にビックリする程頭がいい。

 なので大体どの学年も成績学年順位は高校から入ってきた人達がトップになる。


 でも、私達の学年は違う。

成績1位は誠君で、2、3、4位が途中入学の3人だ。


 一体どういう事でバイトもしてパルコンもしていつ勉強してるんだと誠君に聞くと、「風呂入った後だよ、アイス食べて頭冷やしながらやると効率いいよ」とケロっと言っていた。

 隣のクラスの美女・照谷さんもだけど、何というか運動神経が良くていつも動いてるような人は総じて頭の出来も良いんだろうか。


「まあ負けるの嫌いだからさ、意地になってやってる部分もあるよ。すみれは無理すんな、勉強なんて程々で良いんだよ」


 ニカっと笑って誠君はそう言ったけど、学年1位の人に程々で良いなんて言われても虚無の顔になってしまう。


◇◇◇


「アベル・京極です。よろしくおねがいします」

「テレル・京極です〜、よろしく〜」


 本当に転校生がきた。

プラチナっぽい薄い色の金髪が目立つモデルのような男の子の双子さんだった。しかも2人共うちのクラスにきた。

まあ高校で入ってきた3人は他のクラスに入ったので妥当なのかもしれない。


「京極達はお父さんは日本の方だが生まれた時からずっと海外生活だそうだ。ご両親の仕事の関係でしばらく日本で生活する」


 担任の忍成先生が皆に紹介していく。しばらくって事はずっとは日本にいないのかな?


「じゃあ福寺すみれ、2人のサポート係頼む」


「…えっっ!?」


突然の指名で肩が飛び上がる。何で私??


「このクラスで1番面倒見がいいのお前だろう。幼稚園の頃は誰かが泣いたら慰めに行って、風邪で鼻水垂らしてたらティッシュ渡しに行って、帰りはそいつのお母さんに病院すすめてたって長老先生から聞いたぞ」

「確かに!俺ティッシュ貰った記憶あるわ、ウケる」

「すみれはさ〜自分も目に涙溜めながらそーっと手を握ってくれるんだよね。優しくて余計泣いちゃったの覚えてる〜」

「なつかし〜」


 皆すっかり思い出モードになってクラスの歴史を懐かしんでいる。


「それにお前保健委員だろ、日本に入ってきた人達が国に提出する健康観察シート、定期的に保健の先生の所に書きに行かないとだからそれも手伝ってやってくれるか?日常会話は問題無いそうだが書類関係は難しいだろ。鬼屋敷も保健委員だよな?よし手伝え」

「うす」


 すみれに任せれば安心だよ〜と瞳ちゃんがアベル君とテレル君に言って、皆もうんうんと頷きながら俺らもサポートするから心配すんなーと伝えている。

 誠君が「俺も手伝うよ」と言ってくれたので、じゃあまあいいか。

アベル君テレル君を見て、


「福寺すみれだよ、分からない事あったら手助けするね」


と伝えると、多分アベル君は無表情で頷き、多分テレル君が「ありがと〜よろしく〜」と言った。



◇◇◇



 双子のアベル君テレル君は1週間後にはクラスに馴染んでいた。


 全部日本語で授業だから大丈夫かなと最初は心配しけれど無用だった。さすが異例の途中転入を認められただけある優秀さで、科学・生物・数学に至っては教科書を見て「これはもう全部知ってる。分かる。」と言っていた。羨ましい。


 体育も超人揃いのクラスメイト達と同じレベルで走ったり跳んだりしている。すごく羨ましい。



「すみれ〜お昼何食べる〜?」

「今日のランチはさ、さんまの蒲焼き定食があるんだよ」

「あー小学生の給食でも出たよね〜甘くてサクっとしたとこあってめっちゃ美味しいの。私もそれにしよ」


 瞳ちゃんやマキちゃん陽菜ちゃん達と渡り廊下を歩く。その後ろにアベル君テレル君、誠君達が続いて、その後ろには珍しく貞宗君達もいる。

 私達の前に隼斗君や夢乃ちゃん達も向かったので、今日は食堂でお昼を食べるクラスメイトが多くてなんか嬉しい。


 と思ったら貞宗君が「やば今日めっちゃ快適じゃん。やっぱ外で食べるわ!購買行ってくる」と数人引き連れて行ってしまった。やっぱり普段外で食べてるグループは渡り廊下で中庭や校庭見ちゃうと我慢出来なくなるのか。




 この日、私達が呑気にさんま蒲焼き定食を食べている時に学校の近くで爆発騒ぎと火事があり、午後の授業は無くなって一斉下校になった。

個人宅で卓上コンロのボンベが爆発したそうだ。


 誰も怪我人はいなかったらしいけど本当に学校の直ぐ近くだったから、中庭か校庭でお昼を食べたであろう貞宗君達に破片が飛んできたりしなくて本当に良かった。


◇◇◇


「おはようすみれ、誠」「おはよ〜すみれ誠〜」

「おはようアベル君テレル君」

「おはよう」


 アベル君テレル君のマンションから学校までのルートは私と誠君の徒歩ルートともかぶっているようで、最近は高確率で途中から4人で登校している。


 私が2人のサポート係になった事により教室の席は彼らが前後に並んで私の隣の席になり、そうなると掃除班や科学の実験グループなんかも一緒で、帰りも一緒になったり誠君に次いで一緒にいる率が非常に高い。


 ただとても優秀な2人なのでサポートする事はほぼ無い。

それでも普段あまり使わない準備室や教材室を案内したり、2人が食べた事の無い食堂メニューがどんな味でおススメかどうかアドバイスしたり細々と出来る事をやっている。


 そういえばこの2人は誠君がまぶしいの見えるタイプかなと楽しみにしていたのに、最近の誠君は朝光らないのだった。


 一時期は頻繁に眩しかったのにな。何となく2人は見えるんじゃないかと思っていたので結果分からず少し残念。



◇◇◇



 今日の家庭科は調理実習でカレーを作る。


「では班ごとに事前資料見ながら安全にね、ジャガイモと人参かたいからね。刃物と火は特に注意するように」


 家庭科の桃草先生に従って各班作業を進める。

私達の班はアベル君テレル君、それに栞ちゃん瞳ちゃん誠君、私の6人だ。


「ジャガイモ剥く係誰やる?すみれ?」


誠君が野菜を洗いながら聞いてくる。


「オッケーいいよ」

「私もジャガイモやる〜。栞人参お願い、男子は玉ねぎね、なるべく私達から離れてやって」

「人参了解」

「玉ねぎ…」

「炒めるからさ、玉ねぎ急務ね。3人でやれば直ぐでしょ」

「誠君達さ、玉ねぎ切る時は鼻にティッシュ詰めると涙出ないらしいよ。やってみる?」


 瞳ちゃんがテキパキ指示して皆で作業を分担する。

遠足のバーベキューも好きだけど調理実習も好きだ、楽しい。


 ワイワイ言いながら各班ケガも無く無事カレーが出来上がった。


「僕達の住んでた所はカレールー使うカレーって出会ったことないかも〜」

「家ではあまり作らない。スパイスカリーは食べに行く料理」


 アデル君テレル君が珍しい物を見るようにカレーの入った鍋を覗き込む。


「あールー使うカレーは日本だけって言うよね」

「サラサラのカレーもいいよね。でもこれも美味しいよ、アベルテレル味見してみ」


瞳ちゃんが小皿にカレーをよそって2人に渡す。


「ありがとう」

「ありがと〜いただきまーす」


 口元にカレーを運んだ2人が一瞬だけ真顔になった気がした。え、失敗!?って焦ったけどすぐにテレル君が


「美味し〜日本のカレーって感じする」


とにっこり笑った。


 アベル君と目があったので美味しい?と聞くと頷いた。良かった。



◇◇◇



「今日のカレー美味しかったね」

「ねー」

「すみれ達の班のカレー辛口で美味しかった!うちの班のも良かったけどちょっと甘口過ぎたな〜」

「班毎に持ち寄ったルーの違い出ててウケる」


 放課後、職員室に日誌を届けに行った誠君をマキちゃん達とお喋りしながら待つ。1人で大丈夫と言ったのに、皆一緒に待っててくれて優しい。


「そういえばすみれさ、最近誠はどうなの?光ってんの?」


 瞳ちゃんに聞かれる。

陽菜ちゃんは「人が発光するとか私はまだちょっと何言ってるか分かんないですケド」と笑っている。



「それがさ、ここ最近は眩しい日無いんだよね」

「やばくない?これ誠かわいそうな感じ?」

「え、なんでかわいそうなの?」

「は?」

「すみれ気にしなくてへーき。陽菜は恋愛脳だからさ」


 陽菜ちゃんが私はそんなんじゃない!と笑っている。皆も笑っている。

ああいいな。こういう皆で楽しい毎日が嬉しいな。


「すみれ、お待たせ」


振り向くと教室の入り口に誠君が立っている。


「あ誠君、日直ご苦労様。マキちゃん瞳ちゃん陽菜ちゃん、一緒に待っててくれてありがとう。また明日」

「誠お疲れ〜、すみれバイバイ、また明日ね〜」

「また明日」

「おつ〜」


教室の皆に手を振って、歩き出す誠君の隣に並ぶ。



「忍成先生いた?」

「いなかったから長老先生に渡してきた。すげー美味そうなチョコ食っててムカついた」

「ふふ、長老先生チョコ食べながら甘いココア飲むんだよ。脳みそが欲してるらしい」

「長老先生人間じゃないからさ、血糖値とか関係ねぇんだろうな」

「あはは!確かに私達が幼稚園の頃から変わらないよね。ずっと元気でいて欲しいな」


 下駄箱で2人、靴を履き替えて笑いながら正門を出る。


 恋愛とかはあんまり分からないけど、明日も今日と同じだと良いな。


 世界が平和で皆が穏やかに暮らせて、クラスの皆が楽しそうに笑っている毎日がずっと続きますように。

誠君が運動で怪我もなく幸せだったらそれで良い。

どうか誠君が幸せでありますように。


そう思っていたら誠君が久々にピカーと光り出した。


「うお、久々に眩しいね誠君」


「お、まじだ。ははは」


自分が光り出した事に気付いた誠君が私を見る。


「帰ろう、すみれ」


「うん」


それはもう眩しい笑顔で、誠君が私に笑いかけた。




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