sins of the gods その1
フランス モンサンミッシェル。
「よもやこのわたくしが、庶民と同じ場所に立つだなんて・・・もうなんですの!?この人混み!!全く前が見えませんわ!!」
「ですね。ここは我が国屈指の観光地ですから」
キャロラインはミカエルを探すのにあまり目立った事は出来ない為、一般客を装ってモンサンミッシェルに入った。
「それにしても三上様、行けばおのずと分かるような事おっしゃってましたが、こんな人混みの中からミカエルを探せと申しますの?骨が折れますわね・・・一番あり得そうな場所はやはり、聖堂でしょうか」
「ですね、なんてったって聖堂ですから」
そして聖堂へと入る。しかし中も団体の観光客でひしめき合い、聖堂の厳かな雰囲気とは到底思えない空間だった。
「皆様ここではもっと厳粛になさいな、やかましい事この上ないですわ」
「ですね、観光目的の人ばかりですからね」
「ダカールあなた、相槌ばっかり打ってないで自身でも何かしたらどうですの?」
ずっと相槌しか打たないダカールにそろそろキャロラインの嫌気が差す。
「随分と不機嫌そうだな、ガイアのお嬢さん」
「っ!?え、あなたは・・・桜蘭さん?いえ、違いますわ。ミカエル・・・」
「なに!?」
キャロラインの後ろから1人の男がやってきた。服装は比較的ラフな格好だが、そのくるんとした天然パーマ気味の金髪と真っ青な空のような瞳は周囲の人たちを釘付けにするには十分だ。その姿は少し、桜蘭に似ていた。
「ご名答、俺がミカエルだガイアのお嬢さん」
「キャロライン ガイアですわ」
「よろしくな。で、なんとなく話は察している、ここ最近になってルシフェルの奴を感じる事が多くなった、戦争を始める気満々ってとこだろ?それで、俺の力が必要だと」
「話が早いですわね」
「だろ?だが問題がある。俺は力を失ってはいないがその力を発揮できるのはこの山の中のみに限定されている。かつてルシフェルと戦った際に課せられた制約だ。俺の力は強すぎるってな・・・全く、いざとなった時にそれはどうなんだと神に言っておいたんだがな。ま、それよりもだ。俺のその力、外に出すにはどうすればいいのか、君は知ってるな?」
ミカエルはキャロラインに質問する。
「・・・えぇ、方法は2つ。1つはあなたを倒してその力を得る。もう1つは・・・」
キャロラインは口ごもった。
「あぁ、恥ずかしいなら言わなくていい。つまりはそう言う事だ。しかし、君も呪いは外された存在だが、未だ神の制約を受けている身だろ?俺の力は与えられない。必要なのは耐えうる器を持つ者だ・・・しかも、生半可な奴では体がもたない」
ミカエルとキャロラインはダカールをチラッと見る。
「はい?」
「誰かいらっしゃったかしら・・・あ、そうですわ!神破聖拳の使い手ならば!!」
「いんや、神和住よりもその力、俺の方が上手く使ってやれるけどなぁ?な?兄弟」
それは突然だった。どこからともなく右頬に三本の傷がある男が現れた。
「レイノルド・・・いや、ルシフェル!」
「や、キャロラインちゃん。相変わらず高飛車そうでなによりだ」
「なぁんですってぇ!?きーっ!!」
キャロラインは軽く煽られ、すぐキレた。
「そんな事よりも元気かい?兄弟」
ルシフェルはそんなキャロラインをスルーして、ミカエルに話を振る。
「その姿は相変わらずか、左頬に傷が出来てるくらいか・・・」
「どうかな?だいぶ変わったと思うけどな?」
「で、どうやってここに来た。お前はこの地に足を踏み入れる事は不可能な筈だ」
「俺が許可したからだ」
そしてもう1人・・・
「お前は・・・この感覚、命を支配する者」
「坂上 桜蘭だ、ミカエル」
ミカエルとよく似た髪色の金髪をなびかせた男が歩いてくる。
「桜蘭まで・・・一体、何のようですの?」
キャロラインは感情を押し殺して質問する。答えるのはルシフェルだった。
「仲直りだよ、喧嘩の最後は仲直りしようって前にある人に口酸っぱく言われてな。昔、俺とあんたは戦った。お前は神の軍を率いて、俺は悪魔の軍を率いてな。その戦いで俺は敗北した・・・けどな兄弟、その結果どうなった?この愚かな人間を守る価値はあったか?」
ルシフェルはミカエルに歩み寄った。
「無かったな。故に俺はここにいる。ただ見守る存在となった」
「だったら話は早いだろ?俺がここに来たのは勧誘だ。ミカエル、俺はかつての俺じゃねぇ、俺はこの世界で生きてようやく愛を知った。誰か特別な1人を愛する事をな。正直俺自身も驚いてる。あそこまで人間を嫌った俺が、人間を愛する事になるなんてな・・・」
「お前が人間を?」
ミカエルはかなり驚いた顔で聞き返した。
「あぁ、しかもそいつは俺が憎みに憎んだ神の転生者だ。けどあいつはその事実を受け入れながらも己自身を貫いた。ニヒルちゃんは、俺がこれまで出会ったどんな奴よりも強かったんだ・・・ミカエル、この世界にはいる。守るべき価値のある人間はいるんだよ。お前だってそれを信じてたんだろ?だからあの世界を作った・・・意志が力となるあの世界をな・・・」
「あの世界?まさか、異世界を作ったのは!?」
キャロラインは何かを察してミカエルに尋ねる。
「俺だキャロライン・・・こことは異なる場所、黙示録の先、選ばれし者たちの楽園、それを作った。しかし、あの時は誰1人として向かう事は許されなかった。理由は単純、人間があまりにも身勝手だったからだ。それで世界は作ったものの、管理する者がいない。だから俺は四精霊と四神をあの世界に送り込み管理させたんだ」
「兄弟。あんたのお陰で今あの世界に耐えられる存在はかなり増えた、人間は成長したんだ。指宿 永零を皮切りにな・・・なあ、今度こそ真の平和の世界を作ろうぜ?俺の息子と共によ。今ならそれが出来る。今なら、天使と悪魔両方が手を取り合える未来に辿り着ける。それこそ、神の奴が目指したどこにも無い答えってやつだと思わないか?」
ルシフェルはミカエルに手を差し出した。
「そうか・・・俺の知らぬ間に、色々と変わったのだな。いや、変える存在がやっと現れたと言うべきか・・・俺があの世界を作ったのも無駄じゃなかった訳だな」
「あぁ、永零の奴はあの世界の秘密を解き明かし、力の使い方を学んだ。あいつは遂に、神を超えやがったんだ。お前は神の軍の天使長だ。仕えるべき主は誰か分かるだろ?」
「・・・ミカエル、あなたは・・・」
キャロラインが心配そうに見つめた。
「・・・ふっ、ほんとに変わったなお前。お前が誰かに仕えるとはな・・・流石に胡散臭いぞ兄弟?言っておくが俺も変わった。今の俺はかつての俺じゃない。軍はもうない、俺たちはお前に勝つには勝ったが、神は勝手にお前に殺される結末を迎えた。今の俺は神の使いではない。ただの力だけやたら持ってるだけで、人間と大差は無い。そして人間の感覚として俺の心はお前を警戒している、特にお前をな・・・坂上 桜蘭」
ミカエルは桜蘭をじっと睨んだ。
「・・・」
桜蘭は少し目を瞑る。
「そしてもう一つ感じた事。それはキャロラインは凄まじく純粋だと言うことだ。彼女は助けを求めた目をしていた。かといって怯えではない。敵はお前と知りながらも清く、正しく、美しくある彼女の強い目に俺は惹かれた。これほどまでに強い心を持ったガイアを見たのは初めてだ。その時点でお前とは相容れない事は決定している」
「この・・・話もよく知らない癖によ、そんな単純な理由で己の立場を決めるのか?ミカエルともあろう奴が!!」
ルシフェルは声を荒げた。
「言っただろ、俺もかつての俺ではない・・・それより、ここで戦いを始める気か?この大勢の中、そして神聖なるこの場所で俺に挑もうと?」
「やってやってもいいぜ?やっぱりお前嫌いだミカエルよぉ・・・やっぱり仲直り出来ねーなお前とは!!」
パチンッ!!
ミカエルは指を突然鳴らす。かなり甲高い音が鳴り響いた瞬間、周囲の雑音は消え、指の音だけがこの聖堂にこだまする。
「これは!!あの異空間!?」
「いや、あんな場所と一緒にするなキャロライン。悪魔どもがひしめくあの空間とは真逆だ。外を見てみろ」
キャロラインは言われるがまま聖堂の天井から覗く空を眺めた。
「う、美しい・・・なんて心落ち着く空の色ですこと?」
キャロラインは差し込む空の光に見惚れた。
「ここは聖域、悪魔の力はここに及ぶ事はない。今こそ完全に滅ぼしてやろう、我が弟ルシフェル」
ミカエルはその右手に剣を構えた。
「ケリを付けてやるぜ?兄弟よぉ!」
ルシフェルは自身の槍を向けた。互いに睨み合い、一触即発だ。
「おい父さん、ここでやり合うつもりか?」
桜蘭はルシフェルを止めようとする。
「止めるな桜蘭、あんたは知らねーだろうがこいつとはすげー長ーい因縁があんのよ」
「はぁ、好きにしてくれ。一応決戦は年末だとだけ言っておく」
そして桜蘭は半ば諦めた表情で2人を見過ごした。
「さぁ、来い。ルシフェル・・・」
「だ、ダメですわこの2人・・・ダカール!!2人を止めなさい!!」
キャロラインはダカールに指示を出す。
「不可能です!」
「役立たず!!」
ダメだった。キャロラインはなんとか2人を止める手段を考えたが何も思いつかない。
バキッ!!
「「っ!?」」
その時だ、ミカエルのこの異空間に亀裂が入った。ミカエルとルシフェルはその異常さを察知して一気に意識をそっちへ向けた。
「馬鹿な・・・赤き悪魔の空なら分かるが、この聖域の中の聖域へ入る事が出来る者など・・・ルシフェル貴様、何を隠してる?」
「いんや俺でも無理。あんたを倒す自身はあったけど、ここに亀裂入れるだ?まさか、礼?」
(三上様?まさか、そんなはずありませんわ。しかし、あの2人の言い方から察するにここはあのいつもの赤い空とは訳が違うようですわね。でしたらここに到達出来る者は、かなり限られますわ)
バキバキッ!!
「・・・こぉらぁーっ!!!!」
バギィィィン!!!!
「はい!?」
「は?」
亀裂を打ち破ったのは、叱責の一声だった。しかも可愛らしい女の子の声が、この空間を打ち破ってきた。あまりの拍子抜けっぷりにルシフェルもミカエルも目を丸くして固まった。
「サラ?」
そして真っ先にその存在を認知したのは桜蘭だ。
「やっと見つけたよ、パパ!!」




