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一方通行の思い

 「タイプ・ピラニアのチルドレンか、ねぇ、アドバイスくらいはしても良いよね?こいつらは水中から標的に飛びかかってくるから、光の屈折による目の錯覚に気をつけてねー」


 プールの中に大量の魚影が現れた。シャルロットはその標的を知ると即座に私にアドバイスを送った。その現象は知ってる、水に浮かんでるコインがあると思ったら実は沈んでるとか言うやつだ。それを戦闘に取り入れて戦わないと行けないのか。


 ザバァッ!!


 「あぶなっ!!」


 まず一匹・・・このスピードで何匹にも襲われたらヤバいな・・・


 「だったら!!」


 ズガガガァンッッ!!!


 連射だ。水中に向けて大量に銃弾を撃ち込む。


 「あー!バカ姉!!飛沫飛びすぎて敵が見えねぇ!!ただでさえ遠距離射撃で戦えるのはあんたしかいないんだ!!確実に仕留めてくれよ!接近戦でも戦えるがかなり効率悪いんだ!!」


 三日月も戦ってくれてるけど、メインは私になるのか・・・そりゃプールサイドにしゃがんでサクサク刺そうって戦い方しか出来ないもんな。他に遠距離戦が出来るのいないの?


 どうしよ・・・相手はすばしっこいし・・・


 「ならさー、三日月の姉ちゃん、昼間やってたアレやればー?」


 霧矢君よ、アレとは?アレ・・・もしかして、アレか?


 「分かった!!やってみる!けどアレ!割と言葉選びとかに結構頭使うから三日月ちょっとコイツ使って!!準備出来たら返して!!」


 私は三日月に銃を渡した。


 「あぁ!!師匠!霧矢!!あんたらもぼーっとしてないで手伝ってくれよ!バカ姉を援護しろ!」


 「あいわかったー!」

 「了解だ」


 そして三日月は剣を分離させて2人に渡す。


 「何をする気?」

  

 軽音母は少し戸惑った様子だ。


 「私にも分からないね・・・この短期間で何か学んだの?」

  

 シャルロットも分からない様子。そりゃ今日の昼間土壇場で使ったやつだからな、今もぶっつけ本番だ。


 「うぉらぁっ!!」

 「とりゃー!」

 「うぉぁっ!!!」


 それぞれが飛び出す魚のバケモノ共を打ちのめしていく。さて、私は集中して・・・状況を見定めて、私のすべき事、したい事を言葉に・・・それって言い換えるとさ、アレになるんじゃないか?


 「決まった!!三日月!!」


 「あいよ!!」


 三日月から銃が戻ってきた。


 「っしゃ!!行くよ!『荒れ狂う塩素の水面!牙持つ魚影!血肉喰らいし異形の怪物よ!我が手に来たれ!その身を捧げ!その命果てる!!』」


 「何言ってるのこの子・・・頭おかしくなっちゃった?」


 「いや、そんな筈ないでしょ。けど・・・意味が全く分からないねぇ・・・」


 見ていた軽音母とシャルロットは、互いに私を少し痛い奴を見る目つきになった。けど、私はお構いなしだ。だって行けそうだもん。ここまで来たらやりきってやる。


 「『打ち上げよ!激突せよ!荒れ狂う大波の乱波の先に待つは、静かなる水面なれ!!』」

 

 私は全力で水面に向かって引き金を引いた。




 ドォォォォォォッッッ!!!!!!


 


 「なっ!?」


 次の瞬間、プールの水が大爆発したように巨大な水柱になって打ち上がった。その衝撃で水中にいたあのバケモノたちを空中へと吹っ飛ばした。


 「これなら!!一気に片付けられる!!」

 

 ズガガガァンッ!!ズガガガガッッッ!!!


 「俺らも!!」

 「あいさー!」

 「ちっ、ミツキ!!いくらなんでも恥ずかし過ぎる!!」


 「やれたからいいじゃん!!」


 霧島に文句は言われたけど、作戦は大成功。私たちは落ちてくるバケモノを全て仕留めた。


 「10分・・・かからなかったよ」


 「・・・・・」


 軽音母はしばらく固まっていた。けど、ちょっとしたら口を開いた。


 「まさか、既に完了してる?」


 「何の話です?」


 「そうだ・・・そうに違いないわ。因果律支配は既に完成している・・・うふふ、素晴らしい成果よミツキちゃん。流れるような連携の数々、とても美しい動きだった。まさかあんな不思議な方法で終わらせるとは思わなかったわ。あの魔法、誰が教えたの?」


 教えられた・・・誰にだ?


 「さぁ・・・気がついたらなんか、やれました」


 「成る程、それが因果の力ね・・・理解したわ。あなたのその能力は因果律支配の賜物のようね」


 「因果律支配?」


 小難しい単語来ちゃった。言うて私国語もそんなに成績良くないし。さっきの呪文も思いっきり漫画の影響で咄嗟に思いついた詠唱だし。


 「永零の持つファースタビリティ、世界支配の能力。あの人はその中でも到達点の力を持つのは知ってるわね?そして三上君は特異点。その2つの力と同等の力を持つセカンダビリティ、それが因果律支配。この能力はより明確にこの世界の罪と罰を分ける事が出来るようになるわ。


 自身の行いが正しければ幸福の道は開かれ、逆に悪い行いをやれば不運の道を進む。過去の因果が必ず結果へと結び付く事が出来る能力。ミツキちゃん、あなたはこの数ヶ月とても美しい行いをして来た、その結果が今のここよ。友達が増えて、私の娘とも仲良く出来ている・・・けど、あなたのその幸運は因果律支配によるもの。あなただけの努力じゃないわ」


 「そ、そりゃ私は努力するにはしたけど・・・大分幸運に恵まれた部分が多い」


 「そう、けどそれは偶然ではなくて能力によるものなのよ」


 「能力って、そんな能力誰が持ってんだ?麗沢って奴は確か幸運を司るとか言って無かったか?」


 あのデブか・・・確かそんな事言ってたな。


 「彼は言わばプロトタイプよ、彼の幸運は因果律によるものではなく、偶然の幸運を呼び寄せる能力よ。因果律支配を持つ者は別にいる、そしてその能力はここでの戦いで完成している事を突き止めた。後は、その能力を引き継げば全てが完了する・・・」


 「引き継ぐ?結局、一体誰がその能力を持ってるの?」


 分かってはいたけど、この人がそう簡単に負けを認めるなんて思えない。何をする気なんだ?


 「すぐ分かるわ」


 ふっ・・・


 世界が元に戻った。その瞬間にはもう軽音母は何処にもいなくなっていた。


 「なんなんだぁ?今の・・・」


 「分からない・・・分かるのは軽音母はここで何かを確認する為に私たちに勝負を挑んだって事。それを確かめ終わった・・・」


 「っ!?おい、霧矢は何処だ!?親父は!?」


 霧島の言葉で状況を把握出来た。霧矢君がいない・・・そして教頭もいなくなってる・・・このやり方、長野の時と同じ!!


 「連れ去られた!!霧矢君だ!能力を持ってたのは霧矢君だよ!!」


 「なっ!?あいつはお前のトンチンカンとは関係ねーだろ!?なんであいつが!!それに親父はどうなんだ!?」


 「多分、ずっと前から仕込まれてたんだろうね・・・ちょっと気がかりだったんだ、私がここに来た理由もそこ」


 シャルロットが落ち着いたトーンで語った。


 「仕込まれてただ!?お前!何を知ってる!!」


 「みかみんの依頼で私はずっとあの天正市を調べてたの。その中であの『国境なきお掃除屋さん』の話も見つけた。そこで気になったのは京也君の産まれた時期と霧矢くんの産まれた時期なのよ。京也君が産まれたのはまだ環境活動を行っていた時期。霧矢君が産まれたのは一連の騒動の後・・・そして丁度その時期に荻山 響煌は当時の夫と離婚してる。


 普通に考えたらスルーするとこだけど、私疑り深いからね。もうちょっと調べたらビンゴ、霧矢君の産まれる一年程前に響煌さんと連也さんはアウロと接触してたみたい。こっから先は私の憶測だし、ちょっと刺激強めな考察になるけど、霧島 霧矢の母親は・・・多分荻山 響煌」


 「・・・・・」


 ドッロドロ昼ドラ展開来たぁっっ!!!!


 「ちょっ!!お前っ!それってつまり・・・ふ、ふり」


 三日月が顔真っ赤にしてシャルロットに詰め寄った。


 「不倫だね。ただ厄介なのがそれをした理由。響煌さんがなんでそんな行為をしたのか、そして霧島連也がそれを受け入れた理由・・・さ!そこで問題!その理由は一体なんなんでしょうか!?妄想力豊かなミツキちゃん!どうぞ!!」


 「うぇぅっ!?ちょっ!!急に振らないでよ!!」


 シャルロットが急に私に指差し指名してきた。いや分かる、何となく察したけど・・・


 「おい、ミツキてめー何か知ってんのか!?」


 「バカ姉!何黙ってんだよ!?」


 ちょい!!近づかないで!!


 「い、いや・・・私の妄想が正しいのなら、どろどろのすれ違い関係のせいって事?」


 「だーいせーいかーい!!流石はミツキちゃん!冴えてるぅ!!つまり、昔響煌ちゃんが惚れ込んでいたのは!!紛れもない!輝夜 新月!!あなただって事!!」


 シャルロットは両手の人差し指で父を指差した。


 「・・・あっしっすかぁ!?」


 簡単に説明しよう、


 『霧島蓮也→荻山響煌→輝夜新月→輝夜カマール』


 つまりはこう言う事である。好意の一方通行がこの事態を招いたと言っても過言じゃない。そりゃあんな態度にもなりますよ。好きだった人が自分の命を狙ったテロリストと結婚したなんて聞いたらそりゃ差別的になっても仕方がないよ。とは言っても、私はとんだとばっちりだと思うけど・・・


 「なっかなかドロドロの関係になってたみたいだねぇ。そんでもって彼女はクラークたちと会って、その中で因果律支配の事を知った。それで、その力を持つ者を産むってなった時に不倫しちゃった訳だ。彼女は多分、その力を手にしてもう一度やり直したいんじゃないかな?モテる男は辛いねぇ」


 「なんか・・・なんつーか、どろどろしか言葉が出ねぇな」


 三日月がほぼ白目になってる。


 「響煌がねぇ・・・全然気付かなかったなぁ、カマール。知ってた?」


 「彼女があなたを見る目は他と違うのは一目瞭然だったけど、それが恋愛感情だってのは私も・・・」


 父と母も妙な空気だ。


 「それよりもだあんた、霧矢の場所は分かってるのか?」


 「既に追跡チームは編成して動かしてるからすぐ分かるよ。まぁ落ち着いて、そんな生命に関わる事にはならないからさ」


 「・・・・・いや待って、シャルロットさん。けっこうヤバくないですか?確かに生命の心配はないかもしれないですけど、あの人は霧矢君のセカンダビリティを手に入れるのが目的なんでしょ?セカンダビリティの譲渡ってその、アレじゃないですか、つまり、そもそもが未成年だし・・・その、近親相姦的な、それに彼、彼女いますし・・・なんか、色々とアウトな要素が多いと思いますけど・・・」


 「・・・・・・あっ」


 あってお前・・・


 「なんだよミツキ、何かやべーのか?キンシンソウカンってなんの事だ?」

  

 霧島が私に質問してきた。


 「いや、霧矢君の本当の母があの人って事だよ?」


 「あぁ、つまりは腹違いってやつだろ?で、その呪文みたいのは一体なんなんだって聞いてんだよ、またあんたのトンチンカンか?」


 ・・・・・・ん゛ーっ!!!!こいつ!!なんでピュアなんだよ!!こういうところ!!!近親相姦知らんのかい!!最近ど変態で有名な新庄と一緒にいてそれかよ!!


 「その、近親相姦は家族でホニャホニャする行為で・・・つまり」


 「家族間でセックスすること!!」

  

 そうそう、代弁ありがとうシャルロットさんって・・・あ、


 「な、ななななな!!!」


 ど直球に言ったら言ったで、霧島はパンクしてしまった。ここまで酷い顔した霧島は初めてだぞ。


 「ってな訳だから!至急捜索お願・・・っ!?」


 「残念だが、お前たちに霧矢君を追う事の許可は出来ないな・・・」


 シャルロットが何か通信をしようとした時、それは止められた。


 「クラーク!?また出た!!」


 クラーク、プールサイドには似合わないスーツ姿で現れた。


 「シャルロット、お前は予測通り詰めが甘い。我々への警戒を強くしすぎて肝心な部分を疎かにしたな」


 「確かに、私の予測としてはあくまで霧矢君は通過点、手に入れる事には違いないけどそこに危険性はあまりない。けど、その裏で何かやらかそうとしてるって踏んでたよ。そこは予測通りだったね。で、ここで一体何をやらかそうっていうのかな?」


 シャルロットはニコニコしているが、ひしひしと殺気が伝わってくる。

 

 「以前の天正市への侵攻、チャールズやメガリスの行いは世界に緊張感をもたらすと踏んでいたんだが・・・見ろ、世界はまだ何も危機感を抱いていない。お前たちによるメディア操作もあるが、政府自体も我々の行動を恐れ、問題を先延ばしにしている体たらくだ。


 確かに、我々の度重なる敗北が世界をまだこの現状へと押し留めているのだろうが、そろそろ世界は今置かれている状況を理解すべきだ、永零様は結果を望んでいる。俺は結果を献上する為にここに来た。まずは、ここのホテルの全員の抹殺だ」


 「成る程、なるほど・・・つまりは、私たちとガチでやり合う気になったって事で良いんだね?」


 「そうだ。だが、お前たちで俺が倒せるか?お前たちは俺の力を知っている筈だ。何百年とお前たちは俺に無力だった。それを忘れた訳ではないだろ?」


 「確かに、十本目のクラーケンは多分、みかみんでもどうしようもないってのは分かってるよ。けど、今あなたは私の前に人間の姿で現れた。そこが弱点になるって思わなかった?」


 シャルロットはゆっくりとクラークに向かって歩き始めた。


 「なに?」


 「クラーケンはあまりにも巨大な姿を持つけど、本体は脳も心臓も人間サイズ。悪いけど、私も既に対策はしてあるんだよね」


 「戯言を・・・お前たちを屠るには三本目で丁度良い。十本目で一気に壊滅させるのは簡単だ。しかし、永零様から仰せつかっているのは、全ての人間が死の恐怖を味わう事。集団心理で恐怖が和らぐ事はあってはならないのだ。1人1人、確実に恐怖と死を迎える。三本目、トライ・ポッド・・・っ!?」


 クラークが動こうとしたその瞬間、クラークは時止めを喰らったように動きが止まった。


 「戦いの火蓋を切ったつもりかもしれないけど、それなら私がもう切ったよ。私は既に君に攻撃して、なんなら止めも刺してるんだから・・・」


 「貴様、何をした!?」


 「私の魔法は爆破、土の魔法の応用魔法。この世界には発火性の物質が数えきれない程あるんだよ?中には匂いも感じなければ、重さすらない物もある。けど、それだと分かりづらいから特別に教えてあげる。ほら、あまーい匂いしてこない?」


 「匂いだと?まさかっ!?」


 クラークは咄嗟に口元を覆った。


 「今更そんなのは無駄。超細かい発火性の物質は呼吸で君の体内に入り込み、肺に、血液に、脳に、心臓に満遍なく侵食していく。もう私でもどうする事も出来ない。クラーク、君はこれから音もなく誰の目にも触れないまま、身体の内側から爆破されて、この世にほんの一欠片も残さずに消し飛ぶ。じゃあね、ハート・ブレイク・ボム」


 「ぐっ!!」


 次の瞬間、クラークの身体が突然膨らみ、その身体は弾け、まるで黒板消しを叩いたような煙が巻き起こってクラークは完全に消滅した。

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