僕と姉さんと夏の水着
夏休み直前の、土曜日。
「水着を、買いに行きます!」
姉さんの宣言により僕らは電車に乗ってショッピングモールへとやってきていた。
それも結構な大人数だ。
まずは僕ら家族。
姉さん、涼莉、ましゅまろ、そして僕。
幼なじみズ。
綺月と夕陽。
そしてよくわからないけれど知り合いの人達。
シスターマリジョア。エッジ神父。吸血鬼リアさん。未来人大地。超能力者ヒカリさん。魔法少女リリカルリリス。魔王ジュス様。
……一体モールをどうするつもりなんだろうこの面子は。
というかジュス様はまたよく起きていましたね。この前の日曜日にわざわざ異世界まで来てくれたのに。と思ったら、歩きながら寝ていた。
まあジュス様はいいや。どうせ買うとしても新しいジャージしか買わないに決まっているし。
問題は。
「……あの、リアさん? それ、そろそろツッコミ入れていいんでしょうか」
「えー、何、気に入らないの?」
「気に入らないというかドン引きですよさすがにそれは」
リアさんは夏だというのにマントで体を覆っている。それはまだいい。問題は頭だ。
「なぜプロレスマスクをかぶっているんですか。しかも明らかな悪役顔」
「日光苦手なのよ」
わあ、吸血鬼っぽい。けれどもしかし。
「僕らが日の下を歩けなくなるのでやめて下さい」
「あははは、そんときは血ぃ吸ってやるから安心していいよ」
「今の会話のどこかに安心する要素が有りましたか?」
きちんと会話のキャッチボールをしましょうよなんでいきなりボレーシュートから入るんですか。
「はぁ……あー、乾いてきたな……」
「ちょっとリアさ……うわぁなんかマントの下に見える腕がカッサカッサですけど!!」
枯れ木みたい!!
モールまであと百メートル少々なのに、辿りつけるのだろうか。
ううむ、コレは背中を貸すべきかな。
と思ったところで。
「はいはい、空。病弱だかなんだか知らないけれど無理してきたほうが悪いんだから。コレに座らせなさい」
綺月が差し出したのは。
「……え、と。いいの?」
ましゅまろだった。いつもの顔の向こうから不満の気配が漂ってきている。
…………。
まあ、いいか。
モールにたどり着いたとたんジュス様がベンチで横になった。エッジ神父が動かそうとするけれどあの人が動くわけもなく、結局放置する事に。なぜ来たジュス様。何故呼んだ姉さん。
と、思ったらヒカリさんがジュス様の横にちょこんと腰を下ろした。
「わたくしが付き添いますから、みなさんで見てきてください」
「ええと、いいんですか?」
「構いません。実は明日、うちに仕立て屋が来ることになっているんです。夏の新作の為に、と」
さすがに大富豪のひとり娘は言うことが豪気だ。
というかそうか、このために姉さんはジュス様を呼んだのか。
姉さんを見ると、いい笑顔でぐっと親指を立てていた。ヒカリさんも照れてはにかんでいた。ううむ、姉さんファインプレーだ。
「……しかしヒカリさんも大変な人を好きになったね。いやこの場合はヒカリさんに目をつけられたジュス様を憐れむべきかな?」
「ジュス様にゃあ悪いが、ヒカリさんにはこのまま落ち着いて欲しいって気持ちはあるかな俺は」
「まあそうだね僕もそう思うよ。このまま、あの性格が落ち着いてくれたらね……」
夕陽の言葉に同意した。隣の綺月も同じくうんうんと頷いている。
「にゃ? ヒカリがどうかしたの?」
「いやなんていうかね、ヒカリさんはこう、ヤンデレな所があるからさ」
うにゃ? と人間形態の涼莉が首としっぽをかしげる。
「惚れ込んだ人を、離さないし逃がさないし放さないんだよ。精神的にも物理的にもさ」
自慢話のようだが。
僕も一時期、彼女に惚れられていたことがある。
そして失礼ながら僕にとってその記憶は、可能なかぎり思い出したくない類のものだ。
中学一年生の男子が涙と鼻水にまみれた顔で山道をボロボロになりながら走って逃げるという経験は、正直精神に耐え難い傷を残した。
まったくもって恐ろしい。自分の意志とは関係なく、彼女のことしか考えられなくなっていくのは。姉さんの事を考える時間がどんどん減っていくのだ。いやまったく恐ろしい体験だ。
とはいえ。
そんな彼女をしても、あのジュス様相手ではまっとうに勝負をせざるを得ないだろう。
「麻雀だろうがなんだろうが、本気になった翼ねーさんとまっとうに戦える人だものね。小細工なんてなぎ倒されるに決まっているわ」
綺月の言葉のとおり、小細工も力技も通用しない圧倒的な存在なのだ。
つまるところ、あの人は高校二年生になってようやく、ちゃんと初恋ができる様になったのだと思う。
姉さんは幼なじみとして、なによりも親友として、彼女のそんなところを心苦しく思っていたらしい。だからこれは姉さんにとっても嬉しい兆候ということなのだろう。よかったね、姉さん。
とまあ、ヒカリさんについてはこのくらいにしておこう。いずれ、彼女のことを語る機会もあるはずだ。
残った面子はまっすぐに目的の水着売り場へ向か――わずに、先に早めの昼食をとることにしてファミレスに入った。
早めとはいっても人の多い土曜日のショッピングモールこれだけの人数がまとめて座れるファミレスを探すのも一苦労だ。
ようやく見つけたファミレスは、その名のとおり家族連れが多く見受けられた。メニューはイタリアンが中心のようで、店内にはトマトやチーズの香りがほのかに感じられる。
六人がけのテーブル二つを占拠して、僕ら家族と幼なじみズ。知り合い組にわかれて席をとった。のは、いいんだけれど。
「「「「「……………………」」」」」
「想像以上に気まずいですねそっちのテーブル!」
こちらは慣れ親しんだ顔ぶれのこちらに対して、あちらは基本的に初対面だしね!
「姉さん、ちょっと節操なしに呼び過ぎたんじゃ……?」
「そうかな? 大丈夫だよ空、ほら、よく言うじゃない。人類皆兄弟って」
数名人類以外が混ざってるんだけど。
「空殿、さすがにこの場は拙者耐え難いで御座る……!!」
そんなとなりのテーブルから必至の形相で助けを求めてきたのは未来人大地。
過去の日本が好き過ぎてかぶれて親と喧嘩して家出。勢いでタイムリープしたもののちょっと間違って百年程移動する時間を間違えた色々とアレなクラスメイトだ。自称、過去に生きる未来人。
服装は普通の恰好なのだが、アクセサリーやボタン、シャツの柄など随所に和の心意気を感じさせる。
肝心なところでとんでもない失敗をしでかす以外は基本的にイイヤツだ。ただ本当に失敗したときのダメージがでかいので扱いには注意が必要。僕と夕陽は我慢のきかないダイナマイトと呼んでいる。
「そうは言ってもほら、こっちのテーブるはもういっぱいなんだ」
「いやいや、ひとり分開いているではないで御座るか」
「ひとり分? ああ……」
視線を追った先には白いクッションもといましゅまろが鎮座していた。
……一般人には見えないこれを椅子に乗せる意味はあるのか疑問は尽きないけれど、姉さんが指定したので僕が口をはさむのは野暮というものだろう。
「大地、君には見えないかも知れないけど、ここにはきちんといるんだよ」
「……拙者たまに空殿が何を言っているのかわからないで御座る」
まあ大地の反応が普通だよなあ。
というか。
冷静に考えて大地を除く全員がましゅまろを認識できているこの状態が異常なのである。
その証拠に、僕の言葉にみなうんうんと頷いている。大地もそれに気づいて周りを見回してもう一度席を凝視。しかし見えない。しかし周りは見えている。
ニヤニヤ、キョドキョド、ニヤニヤ、キョドキョド。
「い、一体その席には何があるというので御座るか!」
「とりあえず白いかな」「あと丸い」「キュートね」「甘いの」「よく跳ねるんだよ」「ちょっと邪悪な気配を感じますね―」「まあ扱いに気をつければ死にはしないでしょう」「……面白い」
「貴殿らのそのヒントはむしろ拙者を混乱させるだけで御座るよ?!」
そうは言うけれど誰ひとりとして嘘は言っていない。
ん?
「あれ、ましゅまろって邪悪なんですか?」
「あららー、空くん気づいていなかったんですかー?」
「ははははは、まあ、ね。大丈夫ですよ、ええ。ほら、家に対戦車地雷が埋まっていると思っていれば」
我が家がいつのまにか紛争地域になっていた。
せいぜいスケバンくらいの脅威だと思っていたのに。
「そんなに不安なら、今度対戦車地雷の対処法を教えましょうか?」
なぜそんなことを知っているんだろう、この神父さまは。
「あんたはそれよりもっと広げることがあるでしょうに」
教義とかさ。仕事しましょうよ神父さん。ほら不用意なことを言うから隣の席のシスターから真っ黒い波動が出てますよ。いやその人黒以外の波動出さないタイプの人ですけど。
「まあそちらの方よりもこちらの方が、より邪悪? な気配はしていますけれどもね」
そんなシスターの照準はリアさんに向いた。ちなみにリアさんはモールに入るなり五百ミリリットルのペットボトルの水を十三本程補給して復活していた。吸血鬼最大の弱点も結構あっさり克服できるらしい。
リアさんはシスターの視線を苦笑で出迎えた。
「はぁん、まあ確かにあんたらからしちゃああたしは邪悪扱いだろうねえ。あたしからすればあんたらふたりの方がやたら暴力的だけどね」
「あらあらあらー、どうして私たちがそんな評価を受けるんでしょうか、ねえ、神父様?」
「そうですねえ。なぜわたしまで入っているのか、それはたしかに疑問でごふぅ」
どこからともなく飛び出したバールのようなものがエッジ神父のこめかみを襲う!
笑顔のまま倒れる神父! 慌てる大地! 苦笑したままのリアさん! ほっこり何食わぬ顔でハニートーストをかじるシスター! 本を読み続けるリリス! ましゅまろで遊ぶので忙しい姉さんと涼莉! 抗議の視線をなぜか僕に向けるましゅまろ! 不用意なことを言って綺月のアイアンクローを受ける夕陽! それでいて笑顔でジュースを楽しむ綺月!
…………誰か助けて!!
当然助けなんか入るわけもなく。それでもいつもどおり――そう、いつもどおりに、昼食をたべた僕らは、こんどこそ水着売り場へ来ていた。
「はあ…………」
ため息をつく僕をリリスが怪訝な表情で見ていた。
いや、うん、大丈夫。店内での騒ぎをちょっと思い出して憂鬱になっただけだから。
これが一日続くとなると、僕の体力は底をつくのではなかろうか。
そして恐ろしいのは、僕の体力の有無に関係なくこの集団に付き合わないという選択肢はあり得ないということだ。
第一、姉さんを放っておけるわけもない。
「とはいえ」
「それじゃあ、一旦ここでわかれようか」
姉さんがくるりと回って高らかに宣言する。
ふわりと浮き上がるスカートが健康的な太ももを外気に晒す。
「おお――うぐぉぁあああっ! 目が、目がああああっ!!」
「夕陽殿っ? い、いきなり目を押さえてどうしたので御座るか?!」
「目にゴミでも入ったんじゃないかな。大きく見開いたりなんかするから」
「それどころではないリアクションで御座るよ?!」
不届き者を成敗した僕ら男性陣は男性向け水着売り場へ。
女性は女性で固まって女性向け水着売り場へ。
当然の流れである。
「…………なっとくいかねえ」
「夕陽、露骨にガッカリしないのみっともない」
「えー、だって楽しみじゃん。なあ大地」
「楽しみは楽しみで御座るがいざ本番で見たいという気持ちもまた持っているで御座る」
「へえ、大地にしては落ち着いた意見だね」
「まあぶっちゃけ拙者一度全員の水着姿見てるで御座るからな」
おい。
「…………またタイムリープしてきたわけ? 一体何で?」
「夏休み開けたら空殿が写真だけ見せてきたからで御座るよ! なぜ声もかけなかったのに写真だけ見せるので御座るか思いつく限り最大限の嫌がらせで御座るよアレ!!」
「いやマジ泣きで迫らないでよ……大体、未来の僕の考えなんて今の僕にわかる訳ないじゃない……」
「まったく今回は事前にこうして根回ししたから付いて来られたようなものの……」
……なんでこんなに必死なんだろう。大地は。
ああ水着姿がみたいだけか。なんか未来は色々規制が大変らしいし。やれやれ……。
「そんな理由で貴重なタイムリープを使っていいの?」
「今使わずにいつ使うで御座るか!!」
こいつ江戸時代にいかなくて本当によかったな。岡っ引きにしょっぴかれて酌量の余地なく打首だ。
まあ。
青少年らしく煩悩を行動に移せないあたり大地らしいといえば大地らしいけれども。
そう。
「どこへ行くつもりですかこの神父さま」
「え、あは、いやあちょっと、お手洗いにでも、と」
「トイレはすぐそっちにありますよほら、行って来い」
こいつに比べたらはるかに健全だよね。
背後でこそこそしていた神父に対して正しい道を示してあげる。
「ほらさっさと行ったらどうです? 別に止はしないどころか歓迎して送り出しますよ。ほら、血が出るまで出してきたらどうですか」
「いつも思うのですが空くんはわたしに対して少々辛辣ではありませんか?」
「出会いがわるかったんじゃないですかね」
むう、と押し黙る神父さま。この人との出会いはゴタゴタしていたのであまりいい印象を持っていない。それにこの人、姉さんの胸触ったし。無論姉さんが許したことで僕が何時までも責めたてるのは間違いなので僕もそれはすでに気にしていない。だからこの人につい辛辣になってしまう原因はそれとは全く別のところにあるのだと思う。そして思い至った結論が今言った言葉だ。
それ以上も以下もあるわけがない。
「ほ、ほらどんどん眼つきが恐ろしいことに! 一応聞いておきたいのですがわたしに対して明確な殺意を持っていたり、しませんよね?」
「特にありませんし殺しても死なない人に対して殺意を持っても仕方ないじゃないですか」
あはは、と笑う神父さま。
この人はゾンビなのでなにをどうしても復活するのだ。
黒くて生命力が高いとかゴキブリだなまるで。
「いやあほら、なんといいますか。そう! サンドバッグだっていくら殴っても変わらないのに殴る人はいるでしょう、ストレス解消に」
「それは刻んでいいってことですか?」
「土下座をしたら許してもらえますか?」
「え? 許すも何も悪いことを何もしていないのに土下座をしたって何も解決しないじゃないですか。僕が刻みたいと思うのはなんというか、生理的なものなので」
「もしかしてわたしは今ものすごいことをいわれているのでしょうか」
ええまあ。
しかし相変わらずの困ったような半笑い。半笑いというあたりがまた微妙に神経を逆なでするなこの人。
「空殿がそれほど攻撃性をむき出しにするのは珍しいで御座るな」
「まあこれもひとつの信頼の形だよ。な、空」
「うん。そうだね。信頼してますよ神父さま。だから余計なことしないでくださいね? あまりはしゃぐと十字架に貼り付けますからね?」
「あまりにも禍々しい信頼の形に拙者言葉もないで御座るよ……」
さて。
馬鹿な事をしていないで水着を選ばないとね。
「っていっても、水着にこだわりとか、みんな、ある?」
「ねえなー」
「ふんどしで来ると思うから、という理由で未来ではハブられたで御座るからな。普通の水着であればなんでもいいで御座る」
ああ、それは僕も全力でハブるかな。
ちょっと精神的に、そういうのを連れていくのはキッツい。
……ていうかふんどしならこだわるの、大地? まずい、ちょっと興味が出てきてしまった。
「それで神父さまは……もうその格好でいいんじゃないですか山も海も川もプールも」
「せめてもう一滴だけでよいので、わたしにも優しさというものを向けていただけませんかっ!!」
さすがにそれは辛いらしい。
はあ。
「仕方ないですね。じゃあ普通のなら許可しますから、選んでいいですよ」
「ありがとうございますっ! ……おや? なぜ当たり前のことなのに感謝しているんでしょう、わたしは?」
なにかブツブツつぶやいていた神父さまを残して、僕らはさっさと水着の選定に入った。
四人でふざけたりはしたものの、形のバリエーションが豊富なわけでもなく、結局のところ気に入った柄を選ぶくらい。
なのでものの三十分程度で僕らの水着選びは終わった。の、だけれども。
「……遅いねえ」
「だな。ま、予想できたことではあるけどよ」
「拙者はこうして女性用水着コーナーを見ているだけで想像力フルパワー活動中に御座るが」
「わたしは水着も好きですけれどやはりその下の方が――いえ、なんでもありません」
未来人と神父さまは本当、もう……はあ。
僕らは女性水着売り場の近くのベンチに並んで座って自動販売機で買ったジュースを飲んでいた。たまにちらちらと、ならんだ水着の無効に女性陣の姿が見える。
あっちへ行ったりこっちへ行ったり。なかなかに忙しそうだ。
という、か、ですね。
「……水着をきたまま更衣室の外まで出てくるのは、どうなの」
ああ、恥ずかしさで顔が熱を持っているのがわかる。
「にゃあああああっ!!」
たぶん涼莉を着せ替えていて、それに嫌気がさしたんだろう。更衣室から飛び出した涼莉が、水着姿のまま売り場を逃げ出したのだ。
涼莉のがいま着ている水着はオーソドックスなセパレートタイプ。オレンジベースの鮮やかな花柄で可愛らしいフリルが映える。子どもっぽい、と本人に言ったら引っかかれるだろうけれど、見た目としては本人にマッチしていた。
「うむ。ロリカワイイは正義で御座るなあああああああああああああっ!!」
目にサイダーを流しこんでふしだらな思考を死滅する。
のたうちまわる未来人。夕陽も神父さまもノーリアクション。
大分息があってきたなこの面子。
「あーあ……って姉さんまで水着で走りまわるのはやめて!!」
逃げる涼莉を追いかけるために姉さんが全力疾走。しかも水着。
姉さんの水着はビキニタイプ。白を基調として羽の柄があしらってある。名前とかけたのだろう。似合っているのはいいのだけれど紐をきちんと止めてるんだろうね。僕の心臓がヤバい速度で鼓動を打ってるんだけど、走って大丈夫なんだよね、姉さん!!
「う、うおおおお翼さあああああああああああああああああああああっ!!」
学習しない男の鼻にタブクリアをなみなみと注いで煩悩退散。
神父さまはもうむしろ穏やかに笑っていた。相変わらず半笑いだけど。
「はあ、心臓に悪い」
「……とか言いながら止めにはいかないのね」
「そりゃあね……ってリリス、君まで……」
なぜに水着姿。
「……せっかくだから」
「はあ、そう。せっかくだから、ね」
魔法少女マジカルリリス。
この街で話題の正義の味方。正義をなすためなら多少の犠牲は厭わない苛烈な活動から、警察とかそのへんからは結構な勢いで嫌われている。と同時に鉢合わせする機会も多く、ファンの割合も高いとか何とか。
リリスは僕よりひとつ年上で姉さんの後輩にあたる。高校でも姉さんと同じ部に入っているらしい。何部かは聞いても教えてくれないけれど。
その名のとおり日本人ではないため、肌の色は白く鼻も高い。くりっとした藍色の瞳はどこか眠たげに見える。本人のテンションもローギアだ。ちょっと癖のある金髪は腰に届くほど長い。
そんな彼女はピンク色のセパレートタイプの水着姿。下はスカートのようになっている。可愛らしい水着なのだけれど、彼女が着ると可愛いというよりも綺麗という印象になる。
「……なに、あれ」
「ああ……煩悩が溢れ出していたから中につめ戻したところ」
「……?」
ぴくんぴくんと床で痙攣する夕陽をつん、つん、と指でつつくリリス。
「うぅ……はっ、お、俺は一体?!」
「……はろー」
「おう、リリスさん。あれ? 水着? ここは海か? プールか?」
「……水着売り場」
「ですよねえ……あ、水着にあってますね」
「……………………。……」
耳まで赤く染まったリリスさん。ううむ、さすが夕陽、やることは基本的にイケメンだ。
「……はっ! そ、そんなことより翼さん、翼さんは一体どこ……ぎゃあああああっ!!」
「……っ! ……っ!! ……っ!!!」
リリス怒りのツボマッサージ。
夕陽、君は姉さんのことを考え出すと途端にダメ人間になるな。
やれやれ。
僕が床に向かってため息をこぼすと、ふ、と足元に人の影が現れた。
うん、まあ、ね。この流れで出てこない訳は無いと思っていたけど。
「……綺月」
「う、うん」
顔を赤く染めた綺月がそこに立っていた。
恥ずかしいのなら無理して出てこなくてもいいのに。思わず苦笑してしまう。
「う……似合ってない?」
「あ、違う違う。別に似合ってなくて笑ったわけじゃないから」
綺月の水着は赤いアクセントが映える白いワンピースタイプで腰にパレオを巻いている。
彼女の白い肌と黒い艶のある髪と相まって、とても絵になるし見ていて落ち着く組み合わせだ。
「うん、とても似合ってるよ。むしろはまりすぎってくらいだ」
「そ、そうかな。うん、ありがとう」
水着を褒められて照れる綺月。まあ、普段はあまり露出のない服装を好むから、余計に恥ずかしいのだと思う。このタイプの水着を選んだのもきっとそういう部分があるからだろうし。
「はっはっは。ま、当然だよねえ。それで可愛くない、なんて言うやつは目が腐ってんのさ」
「リアさん」
リアさんはスポーツタイプの水着を着ていた。引き締まった体に赤いスポーツ水着は納得なんだけれど。ええと。
「……リアさん、泳げるんですか?」
「? 当然だろう?」
「……ビーチとかプールとか、平気なんですか?」
「ああ。嫌いじゃないね」
…………さっき入り口で死にかけていた吸血鬼がなんか変なこと言ってる気がするんだけど。
「ああ、今日は先日ちょっと体力使ったからきつかっただけで、普段は平気なんだよ。何しろ、焼けるよりも先に再生するからね」
「ゴリ押しですか」
「世の中力の強いヤツが無理を通すもんだろう」
無理通し過ぎだろうに。
それじゃあ吸血鬼という設定のいいところだけをとっているようなものじゃないか……。
「気にしなさんな。悩みすぎるとハゲるよ?」
「悩みの原因が至る所にありすぎて、その点については諦めてますよ」
はあ。
というか、周囲の視線が痛いのでそろそろ着替えませんか、みなさん。
と口にだそうとした瞬間。
「あららー、みなさん、元気ですねえ」
それが、襲来した。
圧倒的質量! 圧倒的物量!!
揺れ動く巨大な二つの山を搭載して、黒いシスターがやってきた!!
黒船じゃあ! 黒船の襲来じゃあ!!
「ご、ごふぅっ!!」
ようやくサイダーの衝撃から復活してきていた大地が鼻から血を吹いて倒れた。エロい割に耐性は低い。耐性が低い故にエロいというべきか。哀れな。
しかし、なんとまあ。
「…………空?」
「はっ! いや、な、何かな綺月!」
「むぅ」
「あはははっ! しゃーないしゃーないって綺月。ありゃあ男どころか、女のアタシでさえつい目がいっちまうからね」
リアさんがそう言って綺月を抱き寄せるが。
「背中に当たる感触が、柔らかい……っ!!」
胸を抑えつけるはずの水着を来ているのにその感触が伝わってきているのだろう。どことなく悔しそうだった。
「で、シスター」
「ふふふ、顔が赤いですよぅ、空くん?」
「さすがに、シゲキが強すぎますってば、それは」
シスターの水着は、布面積の小さい黒い水着で。
それだけでもなかなかに刺激が強いというのに、シスターのあまりにも女性を強調した肉体と組み合わせることで破壊力がとんでもないことになっている。
うわあ。なんていうか、うわぁ。
直視できなくて思わず視線を横に逸らした。そのさきには不満いっぱいの綺月がいてなんとなく気まずくてさらに視線をそらす。
と、そこにはフツーにシスターを見ている夕陽がいた。
「夕陽、平気なの?」
「ああ? 何がだよ」
フツーに返された。ああそうか、コイツ姉さん以外は特に反応しないのか。それはそれでどうなんだと微妙にフクザツな気分。
ていうかリリスはいつまで夕陽をつんつんしているんだろう。そして夕陽もいつまで床に転がっているんだろう。
「ふふふ、予想通りの反応、ありがとうございます」
「はあ、どういたしまして」
「くすくす、かわいいですねぇ。ほら、どうですか、神父さま」
未だに言葉を発さない神父さまに問いかけるシスター。神父さまは、いつもどおりの半笑いで。
「ええまあ。その。
――――歳、考えませんか?」
その日。
ひとりの修羅が生まれた。
出入口の傍のベンチ。
ヒカリさんとジュス様が並んで座ってジェラートを食べていた。
て。
「ジュス様、起きていたんですか」
「ああ……いくらなんでも女の膝を枕にしたまま寝てられっかよ」
「わたくしは、気にしないんですけれどね」
薄く頬を染めて笑うヒカリさんは、残念そうだけれど同時に幸せそうでもあった。
「ところで……神父さんは、どうされたのですか?」
「ああ、気にしなくていいですよ。どうせいつものことですから」
ボロ雑巾のようにくしゃくしゃになった黒い物体をみて、きょとん、と首をかしげた。
オマケというか今回の結末。
「で、結局今日僕らが見た水着になったの、みんな?」
「そんなわけないじゃない」
夕食時の質問。姉さんはあっさりと答えを返してきた。
「……違うの?」
「そりゃそうよ。もう見られちゃったら、本番の時のお楽しみがなくなっちゃうでしょう」
「…………そういうものかな?」
「そういうものよ」
涼莉の方を見る。
ぷい、と視線を逸らされた。
うむぅ。
「念のために聞くけれど、涼莉の水着、さすがにスク水じゃないよね」
「……………………え?」
何その反応。
「いや、さすがに海に行くのにスク水はないでしょう」
「でも似合ってるよ?」
いや似合ってるけども。
「でも可愛いよ」
可愛いけどそれは別の水着でも問題ないと思う。
「……せっかく今度は白を用意したのに」
「すでに用意済みだと……」
言ってよかった。この人は本気で実行する。
大体。
見た目で目立ってしまえばそれだけ面倒な輩に目をつけられる可能性があるということで。僕としては、人なれしていない涼莉がそういう悪い輩の毒牙にかかるのは芽の部分で処理したいのだ。
ふぅ。
ていうか僕としては。
「あれが一番、気になるんだけれど」
「いいじゃない。面白くて」
………………いや、どっちかというとシュールの部類じゃないかなあ。
ましゅまろが水着を着ていた。着ているというか巻いているというか。ううむ。
なんかもう表現しがたい気持ちと一緒に、僕は味噌汁を飲み込んだ。
さあ。
もうすぐ、夏休みだ。
水着の通販サイトを見てあーでもないこーでもない、と女性ものの水着を選ぶ男って……。
というわけで(エセ)水着回でしたが、最後のオチのせいでそれぞれ別の水着を選ばないといけなくなりました。何してるんでしょう馬鹿なんでしょうか。
大体メンバー出揃ったので、そのうちキャラクター紹介とかも載せたほうがいいのかなーとか考え中。
問題は設定イラストまでのせるかどうかですかねー。どうしたもんか。
次回より、夏休み突入です。結局学校での話を書けなかった!




