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夢みる星のレネウス  ~光の神官様の恋が迷子のようです~  作者: ふじえだ とうじ


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12/12

黒塗りの馬車

 昼を告げるチャイムが鳴る。生徒たちお待ちかねの昼食タイムだ。生徒たちは、わらわらと食堂のある校舎へ向かい始めた。

 エルトダリスも仲の良いジョイスとアマルダの3人で一緒に食堂に向かった。いつもと同じくランチをトレーに乗せ終えると、並んでテーブル席に着いた。

 すると、待っていたかのように彼らの側に、ルクレシアが近づいてきた。しかもルクレシアも生徒と同じ質素なランチをトレーに乗せている。

「やぁ、君たち。ご一緒しても宜しいかな?」

 突然の事で、エルトダリスは目を白黒させた。まさか、隣国の皇太子が学食を共にするとは、思いも寄らない。あり得ない出来事に驚くのは無理もなかった。

「ど、どうぞ…」

 ジョイスが遠慮がちに答えると、ルクレシアはエルトダリスの正面の席に腰を下ろした。

「3人は仲良しさんなのかい?」

 ルクレシアは話しかける。

「はい」

 エルトダリスは短く返事を返す。が、隣りのアマルダは警戒するような眼差しでルクレシアを見ていた。彼女はアクトス帝国に心を許していないらしい。それは彼女の生家が聖騎士を輩出している名門の家柄だからかもしれない。

「まずは食事を頂こうか」

 ルクレシアは固まる3人に、微笑んで食事を勧めた。3人は祈りを捧げてから、カトラリーを手にする。

 食事をしながら、ルクレシアが彼らに問いかけた。

「名前を聞いても良いかな?改めて、私はアクトス帝国皇太子で親善大使として来たルクレシアです」

 丁寧に挨拶されては、答えない訳にはいかないだろう。エルトダリスが口を開いた。

「私はエルトダリス。エルトとお呼びください。隣りの彼はジョイス、彼女はアマルダです」

 ジョイスとアマルダはそれぞれ軽く会釈すると、ルクレシアも答えるように頷(うなず)き返す。

「神官見習いの最初の学年から見学させてもらってるけど、君たちはどんな神官を目指してるのですか?」

 と、ルクレシアが質問した。

 神官とひと口に言っても、目指すものがそれぞれ違っていてもおかしくはない。

 主に神託を受ける重要な職の神官もいれば、トラスのように教官を目指す者、あるいは各教会を巡回する神官、いろいろある。

 3人は互いに顔を見合わせた。何故かエルトダリスは首を左右に振る。と、ジョイスがルクレシアに答えた。

「僕は出来れば高位の神官になりたいけど、家の都合もあるから配属は教会にお任せです」

「失礼だが、君のご実家は?」

「父は役人で、母は商家の出なので時々そちらの手伝いもしています」

「なるほど…」

 ジョイスが父を役人と一言で片づけて述べたのだが、実は立派な高官のひとりだ。ジョイスは嫡男ではないため、憧れの神官の道を選んだのだ。

「お食事中失礼します、エルトさん」

 そこへユギが現れた。珍しい事では無いが、いつもと雰囲気が違う。エルトダリスの前ではいつも穏やかな彼が、珍しく緊張した空気を纏っていたのだ。

 エルトダリスは席を立つと、ユギの側へ素早く歩み寄る。ユギが身をかがめると、エルトダリスにそっと耳打ちした。

 エルトダリスは怪訝そうにユギを見上げた。

「…いきなりすぎない?」

「…ですが…」

 ユギは困ったような表情を浮かべる。

「了解したよ。先生達には?」

「既に通達があり、私に知らせるようにと…」

 エルトダリスは深いため息を吐いた。

「…なんだかなぁ…」

 気乗りがしないのか、重い足取りで再びテーブル席に戻るエルトダリス。

 ユギは居合せていたルクレシアたちに会釈だけして、その場から黙って去っていった。

「どうしたの、エルト?」

 アマルダが戻ったエルトダリスに話しかける。エルトダリスは渋面しながら答えた。

「今日は午後の授業を切り上げて、母上が戻ってこいと…」

「えっ…」

 ジョイスとアマルダは顔を見合わせた。寮生活のエルトダリスが王家に呼び戻されるのは珍しい。

 神官の修行中の身とはいえ、まだ王家の籍から外されいてないうちは、王子としての責務が優先されてしまうのだ。

 エルトダリスは駆け込むようにランチを平らげると、ジョイスたちに話しかけた。

「緊急みたいだから、私は先に失礼するね」

「うん、気をつけて」

 エルトダリスが空になったトレーを持ってテーブルから離れていくのを、ジョイスとアマルダは片手を小さく振って見送った。

「エルトダリス君は家に帰ったのかい?」

 ルクレシアは食べ終えて、残されたジョイスとアマルダに話しかける。二人はルクレシアに顔を向けると苦笑を浮かべた。

「何があったか分からないけど、帰ったようです」

 ジョイスは気を取り直して、コップの水を飲み干した。

「エルトも私と同じで家が厳しいから…」

 アマルダは呟く。エルトダリスは残念だが王位継承権のない王子だ。従って王家は、価値の薄い存在として見ているに違いない。王家に近い貴族故に、アマルダにはそう思えてならなかった。

「アマルダ嬢のご実家は?」

 ルクレシアが再び尋ねる。するとアマルダは途端に渋面を浮かべる。いかにもアマルダが答えるのを嫌がっていると感じたジョイスは、彼女に代わって口を開いた。

「アマルダは聖騎士ガストン卿の二女です」

「聖騎士の?素晴らしいですね!」

 屈託のない笑みを浮かべるルクレシア。父を褒められたような気がしてアマルダは誇らしい気持ちになると、自然と表情が柔らかくなった。彼女は父を心から尊敬しているのだ。

 ジョイスは内心、胸を撫で下ろして微苦笑したのだった。


 一方、エルトダリスは職員室に向かう途中で、聖騎士のひとりに呼び止められた。

「エルトダリス殿下、既に王家の使いが待機しています。どうぞこのまま、付いて来て下さい」

 聖騎士の案内で、校舎の裏手にある馬車の待機場所まで歩いていく。

 光沢のある黒塗りの小型の馬車が、扉を開いた状態で待機している。扉の側には、初老の男が立っていた。

「お待ちしておりました」

「ネイアス、出迎えご苦労」

 小さいながらも、エルトダリスは王子の顔つきに代わる。迎えに来た侍従長の手を借りながら、馬車に乗り込んだ。

 侍従長は素早く馬車の扉を閉じると、御者台に上がり手綱を振るった。馬車は緩やかに進み始める。

 案内した聖騎士が頭(こうべ)を垂れて、馬車が去るのを見送ったのだった。



次回は11月8日予定です。お楽しみに。


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