~転生~
~転生~
目を開けた。
白い天井だった。
異世界かと思った。いや、もうやめてくれ。白い天井スタートはだいたい何かが起きる。女神か。病室か。実験施設か。もう勘弁してくれ。
機械の音がする。
消毒液の匂いがする。
体が重い。
喉が動かない。
俺は、病院のベッドに寝ていた。
「…… ぁ」
声が出ない。
視界の端で、誰かが動いた。
母さんだった。
現世の母さん。
少し痩せていた。髪も、記憶より白いものが混じっていた。目の下には濃い隈がある。俺の知っている母さんより、何年も年を取っていた。
母さんは、俺を見ていた。
最初は、信じていないような顔だった。
それから、目を大きく開いた。
「…… 起きたの?」
俺は、口を動かした。
声にならない。
母さんは震える手でナースコールを押そうとして、でもその前に俺の手を握った。
「ああ…… ああ…… 」
母さんは泣き崩れた。
俺の手を両手で包み、額に当てた。
「よかった…… よかった…… 」
その声を聞いた瞬間、俺の中で何かがほどけた。
俺は泣いた。
なぜ泣いているのか分からなかった。
長い夢を見ていた気がする。
誰かに抱きしめられていた気がする。
紫色のスープを飲んだ気がする。
赤い髪の誰かが泣いていた気がする。
真顔の誰かに怒られた気がする。
誰かが、俺をジャンと呼んでいた気がする。
でも、思い出せない。
思い出せないのに、胸が暖かかった。
母さんが俺を抱きしめた。
寝たきりの体は痛かった。苦しかった。何年も動いていなかった体は、まるで自分のものではないみたいだった。
それでも、その抱擁は妙に暖かかった。
不思議だった。
母さんの腕は、こんなに暖かかっただろうか。
いや、きっと昔から暖かかったのだ。
俺が、知らなかっただけで。
母さんは何度も俺の名前を呼んだ。
俺は声にならない声で、返事をしようとした。
その時、なぜか分からないけれど、こう思った。
もう、転生ものを読むためだけに生きるのはやめよう。
俺は、俺の人生を生きよう。
誰かに認められるためではなく、誰かを見返すためでもなく、ただ、今ここにいる母さんの手を握り返
すために。
指先に、少しだけ力が入った。
母さんがまた泣いた。
その暖かさを、俺は不思議に思いながら、けれど手放したくないと思った。
物語は、そこで終わった。
いや。
たぶん、始まったのだ。
その時、目の前のベッドで寝ている少年が目に入った。
その少年は静かにこう言った。
「おかえり。おにぃちゃん」
ハーフなのかな。緑色の綺麗な瞳だ。
異世界ミステリー第一作としてここに残します。チョンに捧ぐ、安らかに。




